150話 定められた終わり
「じゃあ私はこれで。お姉ちゃんと話を詰めてきます。また明日、リノちゃんがくるまでに呼びますので、そこで打ち合わせしましょう」
<ハヤテさんがログアウトしました>
「なんか、自分勝手なこと言って出て行きましたよ、あの人」
「いつものことじゃないの」
ニヤニヤと、サーラは苦笑しながらモミジに告げる。
「それではボクは。少しこいつの出来を向上させる旅に出ます」
よっこいせと掛け声をあげて腰を上げる。
モミジは最近学んだ木工細工で、重箱の完成度を高める暇つぶしを始めた。
「なら僕は何をすべきか」
一人になってしまったことを寂しく思いつつも。
しかしここでの暇つぶしは無限にできる。
願えばなんでも形になる『幻想装備』
これの有無で無限と思えた時間は消化できた。
サーラがしばらく執筆に熱を上げていると、馴染みのプレイヤーがログインする。
<レイさんがログインしました>
おや珍しい。
サーラはログインスポットに足を向ける。
そこには真っ赤に伸ばした髪の毛をワカメで編み込んだ褐色の少女が誰かを探していた。
「やぁ。君のご主人様ならちょうどすれ違いで出て行ったよ」
「|◉〻◉)あぁ、そうだったんですね。僕もついさっき頼まれてた用事が終わって」
「頼まれた?」
誰に?
サーラは上位NPCが神格以外に頼み事をされる状況を伺い知らない。
ハヤテの魔導書はネクロノミコンだと聞く。
決まった神格はおらず、どちっらかと言えば禁術の類か、封印を目的とした秘術が多い。
「|ー〻ー)あ、はい。知り合いなんですけどね。実は世界を渡る計画がりまして。その先遣隊に」
「世界を渡るなんて、また大掛かりだね」
暇なので話に乗ってやる。
ついでだからハヤテに自慢してやろうとお得意の『聞き上手』でレイを丸裸にしてやれとほくそ笑んだ。
「|◉〻◉)ワンダーブリンクオンラインとは無事繋がったんだけどね。上司はもう一つゲームとの距離を縮めたいって無理を言ってきて。ようやく繋がったんでお暇をもらったんです」
妙にきな臭くなってくる。
繋いだゲームは全く関係ない人気作。
プレイヤー人口は多いが、AWOとは異なりホラー要素は皆無だ。上司というのが誰をさすのかはわからないが。
まず神格の誰かだろう。
この魚面。
前世ならクトゥルフを結びつけられたが、今世の拠り所はネクロノミコン。
崇拝する神格は?
何もわからない。
神格を持っていない可能性すらある。
けどここまで非常識な命令権を持つ相手は、心当たりがあった。
「ナイアルラトテップは相変わらず人使いが悪いか」
「|ー〻ー)そうなんですよー」
やはりか。
しかし直接命令を受けるほど、この魚頭は角が低かっただろうか?
それともまた別の切り口からの介入か。
「|◉〻◉)あれ、僕の上司があの人だって言いましたっけ?」
「風の噂でね。色々と情報網は広いよ?」
「|ー〻ー)なるほどー。今はお役御免ですけど、また次いつ声がかかるかビクビクしてますよ。僕だって頁を人質に取られてなければ突っぱねるんですが」
「頁を人質?」
まるで生きてる人間みたいに言うね。
いや、魔導書や聖典にとっては能力の権限。
半身もいいところか。
じゃあ人になるのかな?
よくわからないけど、頷いておく。
「その様子だと君の他にも駆り出された魔導書の幻影も少なくなさそうだね」
「|◉〻◉)わかります? でも出張先には聖典の幻影も見かけたんですよね。もしかしなくても聖典のお偉いさんも動いてるのかも」
きな臭さが確信に変わる。
聖天が動く?
なんのために?
魔導書が仕掛けた侵攻を未然のうちに防ぐのが狙いか?
はたまた、本当に協力してことにあたっているのか。
攻撃されたなんて類の話し方ではない。
まるで当日であって、上司の愚痴を言い合いながらことにあたった和気藹々さが醸し出される。
「その話は聞いたことがないな」
「|◉〻◉)知り合いに聖典の人はいなかったですか?」
「僕の知り合いは子悪党が多くてね。ベルトが魔導書判定してしまうらしい。君のご主人様なんて最たるものだろう?」
「|◉〻◉)あー」
心当たりしかなかったらしい。
サーラの中での知り合いも、魔導書に選ばれそうなメンツしかいなかった。
そう言う付き合いを心がけてるわけではないが、やはり似た性質のものが集まる傾向にある。
「|◉〻◉)じゃあ、僕は久しぶりの休日をここで堪能して行きますね。ハヤテさんはいつ頃帰ってきますかね?」
「あの人、もうリアルの住人だから、ここにいるよりリアルに戻った方が遭遇率高いかも」
「|◉〻◉)なるほどー。でもこっちにも寄るんですよね?」
「それは確実に」
「|ー〻ー)じゃあここで待ってます」
そう言って、レイは幻想装備でビニールシートを敷き、ビーチパラソルを立ててサングラスを装備し、体を焼いていた。
褐色肌の時点でわかっていたが、日光浴が好きらしい。
「なら僕は君の寝姿を模写していようか」
幻想装備はこう言う時、取り回しが良くて助かる。
被写体が現れたので、昔とった杵柄で絵を描いて暇を潰す。
「|◉〻◉)……可愛く描いてくださいね?」
「手が滑って頭が魚になるかもね」
「|◉〻◉)ぶー」
今でこそ活発な少女だが、君の本体は魚であることはお見通しだよ?
からかいすぎたのか、レイはゴロンと背中を向けて不貞腐れてしまった。
こういうところかな?
サーラは自分のからかい癖をひどく反省し、翌日に備えた。
「|◉〻◉)あと5日」
「ん?」
「|ー〻ー)なんでもないです。僕たちの仕事が結実するのは5日後だって、上司が言ってたんですよ」
「へー。5日後には何が起こるんだろうね?」
「|◉〻◉)大型アップデートがされるって話ですよ。この前派遣されたゲーム世界のリソースを奪えるんだってウキウキしながら話してくれましたから」
「どんなゲームか気になるね」
「|ー〻ー)Earth Project Online」
「ん?」
「|◉〻◉)そのゲームのリソースを奪う手立てはできた。あとは時が来るのを待つだけって、意味深なセリを並べてたんですよね」
「そのゲームは5日後にどうなるのか知ってるの?」
「|ー〻ー)サービス終了させるらしいです。僕も詳しくは知らないんですけど。世界の終わりを見るのは、感慨深いことなのかもしれませんね」
「なるほどね」
サーラにとって、あのクソゲーが終わりを迎えるのはある意味で最高の成果だった。
家族や妹はモミジの実家に頭を下げる必要がなくなる。
またゲーム三昧の日々に逆戻りだ。
けど、それを食い止めようと動き出したものがいる。
ハヤテとその双子の姉のトキだ。
手の施しようのないほど終焉を迎えているゲーム。
テコ入れをするにしたって無理がある。
5日後にサービス終了を決定づけられたゲーム。
タイムリミットはもう一週間を切っている。
こんな泥舟、乗船するのは生き急いでるバカだけ。
まともな思考をしているのならば、拒否一択なんだけど。
ああ、ダメだな。
そこに浪漫を感じてしまう。
最高のシチュエーションだ。
転生して16年。
大人しくしているつもりだった。
けど、騒ぎの渦中には親友がいて。
その面白そうなことに誘ってくれている。
乗船拒否?
そんな面白い話、密航してでもついていくさ。
サーラは、データ生命体なのに高ぶる鼓動を止められそうもない。
そして自分に言い聞かせるようにレイに聞かせる。
「そういえば君のご主人様、面白い企画をしてるの知ってる?」
「|◉〻◉)僕に内緒で何かしてるんですか?」
「配信をね、してるんだ。偶然にも繋いだ世界の面白さの検証会。ゲームの素人が、何様なのか批評をしようとしている」
「|◉〻◉)どんなゲームなんです?」
最初は背中を向けていたレイ。
しかし振られた話題が気になるのか、体をごろんとこちら側に向けてきた。
「君も知ってるゲームだよ」
サーラは、先ほど上がったタイトルを挙げた。
レイは驚きと共に、覆らないゲームの命運を案じるのだった。




