148話 連帯保証人
「そのことを踏まえて、私たちが今後やるべきことは、誠心誠意を相手に伝えることだと思うんだよ」
「藪から棒に何を言うんです?」
私の発言に難色を示したのはモミジちゃんだ。
さっきまでの感動の涙はすでに引っ込んでいる。
これはこれ、それはそれと言った感じがいかにもジキンさんを彷彿とさせる。
「これはアレだね、僕たちのプレイが周囲に及ぼす影響を批判しているんだよ」
「この人にだけは言われたくないなぁ」
然もありなん。
そう言う返しは当然予測していた。
「昔と違って、今度のメンツは精神が成熟しきっていない子供です。どこまで無茶をやれるかを推し量ることこそが間違いだと先に釘を刺しておきますね」
「それは確かに」
「ボクは別に皆が困るようなことをやってなど……」
「はい、ここに自分が間違っていないと思い込んでいる人間が一人」
サーラちゃんが、モミジちゃんの腕を掴んで引っ張り上げた。
引っ張られた本人はとても驚いている。
自覚があってやってる人と、無自覚な人。
先んじて釘を刺しておいて正解だった。
こんなの打ち合わせなしで合流させたらパーティが空中分解しちゃうよ。
午前の部は手慣れた私がキーぱリングするので問題ないが、午後からは不慣れなお姉ちゃんが牽引するのだ。
多少今のうちに躾けておかなければ。
「まず最初にマナーの押し付けは学園では目を瞑りましょう」
「そこは、まぁ。相手を思ってのことですから」
「でもゲームを遊びに来てる相手への押し付けはゲーム内のマナー違反に当たります。相手からそのマナーを教わりたいと言われない限りは越権行為であることをご理解ください」
「それは確かに、こちらの不注意ですが……」
相手は特に嫌がっていなかった、などと弁明するモミジちゃんである。
あなたの場合は肩書きも悪さしてるんですよね。
「探偵さん、これどう思います?」
「やらかしそう」
「ちょっと! 私はただ真面目に取り組んでいるだけですよ!?」
怒り心頭といった表情で私たちを詰り始める。
だがしかし、今回のリーダーは私。
私が皆を引っ張り回すのだから私には従ってもらわないと。
「はい、ストップ。あなたの言い分はわかります。私があなたを誘ったのはとある目的のため。ですが、あまりにも自分勝手だとパーティからキックしなければなりません。今のあなたは一代で大企業を育て上げた社長ではなく、没落貴族のご令嬢なのですから。決定権などは最初から持ち合わせていないことをご理解ください」
「ぐぬぬぬ」
この人は転生したって何も変わらないな。
まだ探偵さんの方が堪能してるまである。
転生後まで責任感に突き動かされなくたっていいのにさ。
「彼女のサポートは探偵さんに任せます。うまくバックアップしてあげてくださいね」
「僕に丸投げかい?」
「私はパーティリーダーとしての仕事が山のようにありますから」
「前世では放任主義だったのにね」
「企画立てたらボクたちに丸投げだったあの人が、信じられません」
「転生して色々変わったんだよ。私はもう撮影大好きなおじいちゃんじゃないのでね。君たちだって同じはずだ。もう何でもかんでも自分の言うことを聞いてくれる人はいなくなった。今は、昔を懐かしむことしかできないが、この場所を出たら日常に身を委ねていくばかり。今この時ぐらいは昔と同じ感覚でいてもいいけどさ。普段まで同じじゃ参ってしまうな」
ナイアルラトテップがまさにそうだった。
過去の私を模倣しろ、とあれこれうるさかった。
かつての栄華の焼き直しを求められても、自身がそれを望んでいないのだ。
そんな話を彼らに話す。
自分は望んでAWOに来たわけじゃないと。
「ここのGMは相変わらず頭でっかちだね」
「まだ固執しているんですか? もう20年も前のことを?」
「最近私の担当が外れたのか、ちょっかいかけてこなくなりましたが」
その影響か、レイちゃんも最近見ない。
魔道書そのものはいまだに手元にあるが、そこまでしてページをせかさなくなってきたのは、やっぱりナイアルラトテップと関係があるのだろうか?
「その担当、今僕の方に来てるよ?」
探偵さんが挙手をする。
どうやら傭兵召喚先で、頻繁にねだられるらしい。
むしろ過去改竄するための便利なNPC扱いで苦笑していた。
「ああ、娘が言ってたね。あなたが亡くなって、過去改竄が難しくなったって」
「機関車に備え付けていたんじゃなかったでしたっけ?」
「ド・マリーニの時計はマナの木の根元にいるイ=スの民のアイテムだね。あそこは空の七の試練でレムリアと共闘ルートに入って、ようやく解放される場所でもあるから、本当に真似できるプレイヤーが現れなかったようだ」
「結構面倒くさい手順踏むんでしたっけか?」
「あの当時のパーティメンバーだった探偵さんが乗り物関連の事業を始めて、それからだったものね」
「アレの使い道を解明したのは他ならぬ君だったけどね」
ずっと使途不明だったもんね、あのアイテム。
魔道書のページに侵食度。正気度をある程度保った状態で神格と絆を結ぶと過去改竄チャレンジに挑める。
懐かしい情景が思い浮かぶ。
「多分それが今の時代の子達に模倣されたらお役御免でしょうね」
「次はレディに向くかもだ」
探偵さんは面白がって、モミジちゃんを揶揄った。
「ええ、ボクですか? 聖魔大戦で特に目立った動きなんてしてませんが」
「聖魔大戦ではね。でもドリームランドでの功績は十分にでかい。我々第一世代以外の魔道書陣営にほとんど食い込んだあなたの息子さんたち。それを統率していたのが他ならぬあなただ。GMはただのお目付役とは見ないだろうなぁ」
「ええ……」
「ナイアルラトテップは使えるものはなんでも使う主義ですからね。覚悟の準備はしておいた方がいいかもですよ」
そんな過去の話に花を咲かせながら。
今の話も詰めていく。
「そんな過去の話ができる我々ではあるが、今は花も恥じらう乙女であるとご理解いただきたい」
「君からそんな言葉が出るなんてなぁ。一瞬鼻で笑いそうになった」
「右に同じ」
失礼な。もうご飯作ってあげないからね?
「そういえばこの人、重箱を私に自慢してきたんですけど、設計図とか誰が持ってたんですか?」
「ディノR2ちゃん」
「ああ、そういえばあの人金物屋さんだった。金属加工のほかに木工細工もやってたか」
「それを私が模倣したんですよ」
「道具は?」
「彼女が持ってた刀とかナイフを使ってだね。本人は荒く使われてて泣いてたけど」
「この芸術品の礎になって感無量だったでしょうね」
「かわいそう」
私も調理器具を間違った使い方されたらキレてると思う。
だからさっさと帰ったんだな?
きっと専用の鑿道具とかトンカチとか作ってくれとか言われたに違いない。
モミジちゃん、お金を積めばなんとかおなると思ってるところあるから。
または友情割引で、とかなんとか言ってきそう。
そう言うのをやめて欲しいんだけど、本人がまるで何も感じてないのがやばい。
「それ、ある程度気心知れた相手以外にやったらドン引かれますからね、特にリノちゃんやお姉ちゃんは普通の子供。孫と同じです。同年代の私たちが上から、または人生の先輩として発言するのは絶対にやめること。いいですね?」
「なんでボクはこの人にそこまで疑われてるんだろう?」
「やばいよレディ、彼女には自覚がまるでないみたいだ」
「頼みましたよ、世話係」
「これ、この人のミスまで僕が背負い込むの?」
「一蓮托生というやつです」
「連帯保証人の間違いじゃないかなぁ?」
そうとも言う。