135話 課金圧がすごい!
「よぉ、来たか」
遠巻きから、こちらに向けて声がかかる。
どこか平凡な顔つき、そしてエルフのように尖った耳。
「モーバおじちゃん?」
「お父さん! 外の状況は?」
「AWOに少し人は流れたが、もとよりこっちのプレイヤーが多いんだろうな。結構な人数が分散して探してたぞ」
探してたって誰を?
「ハヤテ、その顔は誰が誰を探してるかわかってない顔だね」
「え、うん。まさかAWOの配信の追っかけがお昼の配信に先駆けて押しかけてるとかじゃないでしょ?」
私はのほほんと言った。
お姉ちゃんが盛大なため息をつく。
その肩をリノちゃんが叩いた。
どう言うこと?
「ハヤテ、朝の配信、お父さんから同時接続の人数聞かなかった?」
「えっと、そういえば聞いてないかも」
「ハヤちゃんはもっと自分の人気に気がついた方がいいよ、ほらこれ」
リノちゃんから手渡されたのは映像推奨というアイテムだ。
これは非売品で、プレイヤーなら、誰でも扱える品。
用は外からの通話とか、外に向けての通話。
リアルタイムでやってる配信を除くためのデバイスだ。
そこには初回配信とは思えないほどの数字が載ってた。
「えっ」
「ようやく気がついた」
「ここにいるほとんどがハヤテ目的で追っかけしてきてるっぽいんだよね」
「大袈裟じゃない?」
耳を疑う。
「実際にゲーム配信ではよくあることだぞ。特に初心者に教えたい師匠ロールをしたがる層は結構いる。WBOの新規は頻繁に入ってくるが、大体が攻略情報頼りで、人にものを教わろうという奴が少ない。お前さんは、前回の配信でじっくりと腰を据えて遊ぶタイプのプレイヤーだってその職人連中に賞賛されてな」
それがWBOで遊ぶんならぜひうちのクランに、と勧誘も兼ねているらしい。
「あの、そんなこと言われても」
「だから無視していいぞ。今はこのゲームがどういうゲームかを知らない人に教えるんだろ?」
「そうだよ。私たちがハヤテにこのゲームの魅力を教えてあげるから」
「任せて」
「うん、お願いね」
いつになく心強いお姉ちゃんとリノちゃん。
後方腕組みしているモーバおじちゃんから、このゲームで遊ぶ前のレクチャーを受ける。
「まずはそうだな。AWOとWBOでは大まかにスキルが異なる」
「スキルが?」
「あ、そうだね。こっちはスキル派生がしない代わりに、レベルがあるんだよ。レベルを上げる、またはクエストをクリアするかでスキルの元をもらうの。それを貯めて、スキル屋さんでスキルを買うんだ」
「へー」
派生はしないんだ。
じゃあ同じ系統で勝手に増えていく感じじゃないんだね?
「でもって、上位スキルを獲得するにはボスモンスターの討伐が必要不可欠」
「生産スキルでも?」
「そこは関係なく発生するね。戦闘は討伐数を、生産は参加したパーティで討伐して、確率ドロップした素材を使ってとあるアイテムを作ると、上位スキルがお店に開放される仕組み」
「どこにでも戦闘は付きまとう感じなんだ?」
「そうだねー。でもこっちはモンスターがお肉とかお野菜とか落とすから、AWOよりは楽だよ?」
アピールポイントそこでいいの?
そんなことを思いつつ、コンソールを触る。
すると取得したスキル群が、WBOの仕様に置き換えられている。
「このセットスキルというのは?」
「よくぞ気がついた」
「スキルと言っても全部セットできるわけじゃなくてね。レベルによってセットできるスキルに上限があるんだ。レベル10なら3個まで、とか」
「ほへー」
今の私は傭兵としてなのでレベルは不明。
ただし3個しかセットされてないので10とかなのかな?
「そういえば、ハヤテのスキルは何個ついてるの?」
「3個だね」
「呼び出したプレイヤーに依存しないんだ?」
そう答えるお姉ちゃんはレベルが20で5個つけられるらしい。
「そこは純粋にランクアップ試練を受けていないからだろう。あれをクリアしないと、レベルが幾つでもスキルは3つまでだぞ?」
「「あ!」」
モーバおじちゃんの言葉に、お姉ちゃんとリノちゃんが顔を見合わせた。
これは忘れてたな?
「まさか傭兵も試練を受けなきゃダメなの?」
「そのまま向こうの戦力で暴れられたらこっちの戦力バランスがおかしくなっちまうからな。逆にこっちのキャラを向こうで傭兵として呼ぶ場合、上位スキルは封印だ」
「えー、あんなに頑張って取得したのに?」
「それだけ強力だからだよ。AWOにはスキルコストがないから、セットしたい放題だ。意味はわかるな?」
お姉ちゃんがあんなに反発するなんて珍しいなと傍観してたら。どうもAWOで言うところの陣営ジョブ、または試練クリア後の称号スキルみたいな代物らしい。
その程度のもので暴れたって、あっちじゃなんともないと思うけどね。
流石に聖魔大戦の権能まで引っ張り出されたら困っちゃうけど。
もしかして、最上位スキルはそっちの系統があるのかな?
何はともあれ、ゲームバランスの崩壊はよろしくない。
遊べる範囲で遊ぶ方針で行こう。
「じゃあ、スキルは後で試練に挑むとして。次は武器だね」
「武器。包丁とか?」
「包丁にお鍋の蓋で戦っちゃう?」
「あんまり戦闘に調理器具は使いたくないなぁ」
「あ、こっちの武器の見た目は課金で変更可能だから」
「そうなの?」
「そうそう。中身ストーンハンマーだけど見た目だけ包丁とかもできるから」
「でも課金なんでしょ?」
「あ、そうか。傭兵は課金できないんだった」
私の状況を思い出し、すぐ課金に頼ろうとする二人を眺める。
「なんというか、課金てこんなに簡単に手に届いていいんですか?」
「安いから。見た目の変更は100円から可能だ」
「中には100円じゃ効かないものまであるみたいな言い方ですね?」
「エフェクトが派手だったり、音が鳴るのはガチャだな」
「狡い商売をしてますね」
「みんなこう言うのが好きなんだからいいだろ! それにガチャはハズレなしだから! エフェクトガチャはエフェクトしか出ないし、武器ガチャは武器しか入ってない!」
「でも武器の中で当たり外れもあるんですよね?」
ジッと見つめる。
特に前世ではガチャは悪い文明と叩き込まれてきてるので、疑心の瞳をしていたかもしれない。
「観念するよ。それで稼いでいたのは事実だ」
「やっぱり」
「でも娘に誓ってアコギな商売をしていたとは思わない。うちの会社はWBOをもっと楽しんでもらいたくて、稼いだ金でメジャーアップデートを繰り返した。そこで至った結論はサーバの切り替えだった」
「サーバ切り替え?」
「そうだ。思い切ってただストーリーを楽しみたい層、生産を楽しみたい層、バトルを楽しみたい層、チームプレイをしたい層ですっぱり分けた」
それがサーバ切り替えだという。
今いるサーバはプライベートサーバといい、個人が課金してサーバを貸し切るという代物だ。
どこに行っても課金という言葉がついてまわる。
もしかしなくても、このゲーム。
課金圧が強いゲームなのかもしれない。
ここのサーバを借りたのはモーバおじちゃん。
そのパーティメンバーや呼び出せた傭兵だけが自由に出入りできる。
今後配信の前準備はここでやるとのことでお世話になる場所でもあった。
「なんだかわざわざご用意してもらってすいません」
「うちの娘がやる気になってくれてんだ。親ならこれぐらい協力させてくれ」
ちなみにこのサーバ、予約制ですぐ完売するらしい。
お値段は10000円。
ぼったくりじゃないの?
と思うが、配信者にとっては夢のようなサービスらしい。
今回はまさかその配信者側の心境に立たされるとは思わなかったけどね。
そこでこのゲームのシステム周りをしっかり学習して、その後配信を始める。
戦い方はわかったけど。
まだお姉ちゃんたちがどんなことをするのか聞いてないんだよね。




