133話 AWO配信!_仲良く彫金
「おじいちゃん、美味しい?」
「うん、神の味がするよ」
「もー、大袈裟なんだから」
「ははは」
オクトおじいちゃんが涙を流しながら喜んでいる。
ちょっと大袈裟すぎるとお姉ちゃんは言うが、私はその感動を知っているので深くは突っ込まない。
離れて暮らすと疎遠になった娘や孫との距離が遠く離れてしまう感覚に陥るものなのだ。
いつでもゲーム内で会えると言っても、心の距離は遠いまま。
おじいちゃんが私をアイドルとしてプロデュースしたいと言う申し出は、そんなつながりを持つことでいつでも出資をしてあげるよと言うものだったんじゃないと理解はしていた。
理解はするが、まぁまぁ鬱陶しく感じたのは事実。
今は自由にやらせてくれ。
頼る時は頼るから、と自由にやらせてもらって。
その見返りに今現在おじいちゃん孝行をしている。
お姉ちゃんにはわからない感情だけども。私だけが把握していればいいことだ。
「でも、こうしておじいちゃんに喜んでもらえるのは、嬉しいね。少しでもお返ししたかったからさ」
「あれは投資だから気にしなくてもいいのに」
とは言うけど、結構な金額を動かしたから、クラメンからの視線が痛いんじゃないの?
「ハヤテ」
「うん、何?」
「君がきてくれたからこそ、僕はこのゲームを続行することを決意したんだ。実は引退を少しだけ考えていてね」
「え?」
:えっ
精錬の騎士クラメン:え?
パープル:え?
:え?
:えっ?
リーガル:本気か?
「ははは、皆さんにはまだ発表してなかったね。正直、日常で体がほとんど動かなくなってきている。お義父さんに続いて、いよいよ僕たちの番が来たかと観念していたんだ。ゲームの中では日常と同じように動けはするけど、だからこそ、その差を現実で如実に実感してしまう」
「……おじいちゃん」
「ははは、心配させてしまったかな? でもね、僕がいなくたってうちのクラメンは優秀だから精錬の騎士は運営できるんだ。実際に僕があんな借金をしたって業績は落ちない。僕は偉大なる先代、アキカゼ・ハヤテの意思を継ぐ男だから。これまで多くの事業に投資し続けた。おかげで不労所得でもクラン運営は賄えるほどでね。そこで不意に、もういいかな。僕の役割は終わったかなって、考えてしまったんだ。娘も大きくなったし、孫の顔も見れた。これ以上の幸せはないってね」
「ダメだよ、まだあたしがもらった恩を返しきれてないもん!」
お姉ちゃんが飛びついた。
あーあー、当時のお母さんを思い出す。
リアルの肉体で、あのタックルを受けるのは相当に厳しい。
けどおじいちゃんはしっかりと受け止め、背中をポンポンと叩く。
「ははは、これでは引退できなくなってしまうな。ハヤテも、同じ気持ちということでいいかな?」
「うん。まだ何もお返しできてないからね」
「このオムライスだけで十分満足しちゃってるんだけどね」
「まだまだだよ、まだまだ、私は成長するからね!」
「では僕も、頑張って生きてみようかな」
精錬の騎士クラメン:そうですよ、仕事は溜まってるんですから
「そこは君たちで頑張りなさいよ。いつまでも僕に頼ってないで」
精錬の騎士クラメン:錬金熟練度500超えてる人はそうそういないんですよ
:ファ!?
:さすが錬金一筋
:錬金界隈の大ボスだしな
「そんな大したものじゃないさ。仲間に恵まれて、今の僕がある。お父さんに託された素材も、いつか絶対ものにするってあの時誓ったから。それを攻略していくうちに上がっただけさ」
あんな無茶振りで丸投げした素材。
全部解明してアイテム化しちゃったんだ。
中には鍛治素材もあったのに。
そっか、全部解析したのか。
それはそれは……
負けてられないな。
「おじいちゃん、私たちも鍛治を齧ってるから。おじいちゃんには敵わないけど、その成長を見守ってほしいの」
「ははは、僕なんかでよければ」
「あたしも! おじいちゃんのために頑張るね!」
:おじいちゃん泣いてる
:こういうの、嬉しいもんな
:俺が同じことされたらきっと咽び泣く
:孫いるの?
:結婚もしてないが?
:はい、解散
「私はデザインを書いてみるよ。二人のは少し無骨すぎる」
「…………」
「えっ」
:この二人、自覚なしである
:トキちゃん、固まっちゃった
:これは自覚あった顔
:実際、銀細工って難しいの?
:難しいというか
:失敗したら鉄屑になるからメンタルとの勝負というか
:一つ作るのにめちゃくちゃ時間溶かす
:溶かすのはお金と素材もだけど
:中でも彫金は地獄やで
「私たち、まだ熟練度低いから、その。難しい【彫金】はちょっと」
銀を叩いて銀板にして、それを火で炙りながら形を整えるのだが。これがまぁ難しいのなんの。
お姉ちゃんはそれで鈴を作っていたけど、今度のは複雑な紋様が描かれたペンダント。
これを仕上げられるほどの腕前は、まだ私たちにはない。
けどリノちゃんは、やけにスパルタに私たちに強要してくる。
まるで自分の仕事はこれしかないのだと言わんばかりに。
「慣れるまで頑張って! はい! これ作ってね!」
「細かっ、えっ? これ作るの?」
「それまで他のリスナーさんが採掘を頑張ってくれるから! ですよね?」
:えっ?
:さっき見た地獄をもう一度?
:喜べお前ら、ご褒美だろ?
:精錬をハヤテちゃんがやってくれるなら
:うん、まぁそれなら
:【悲報】ハヤテちゃんも鍛治
「あ、素材が尽きたら流石に精錬もしますので、鉱石だけください。ドリンクを用意しとくので、ENとSP少なくなった人は遠慮せず飲んでってくださいねー。クッキーなんかも置いときますんで」
:優しい
:惚れちゃう
:これが無償労働ちゃんですか
オクト:これは僕も参加せざるを得ないな!
:これは心強い味方
:オクトの兄貴に続け!
:うぉおおおお!
リーガル:俺はここで高みの見物でもしてるか
「おじいちゃんは何もしないの?」
リーガル:グハッ
:リノちゃんのジト目がリーガルにダイレクトアタック!
:餓狼の咆哮とか戦闘クランだろ
:一応、生産部門はいるよ
:本人がバリバリ戦闘系だから
:もっと部下に指示するとかさ
リーガル:オクトさん、スキルチェンジャー余ってるか?
オクト:一個30億ね
:値上げしてる!
:そりゃ受注生産だから
:素材なんて時価だしな
:だからって10億も上がるってなんだよ
:元々20億でも安かったもんな
リーガル:素材持ち込みなら?
オクト:20億値下げできる
リーガル:よっしゃ! リノ、じいちゃんは少し出掛けてくる
「いってらっしゃい」
:そっけない返事である
:そりゃ、ここで何もしてない身内がいるならそういう態度にもなる
:仲間の身内はこぞって参加してるのにな
:みんな頑張ってるもんな
:しかしそんな金額になる素材ってなんだ?
:20億も値引きになるのか
オクト:素材はドリームランド関連だね
マリン:バグ=シャース素材なら大量に入荷したよ
:銀姫ちゃん!
:誰?
:オクトさんの娘さん
:長女
ハヤテP:( • ̀ω•́ )✧マリンちゃん!
:おい、追っかけwww
:娘たちの活躍の場で騒ぐな
マリン:配信してるって聞いて姪っ子の様子を見に来たの
:あぁ、叔母として気になるやつな
:把握
:今採掘してお昼休憩したところですね
マリン:助かる
ハヤテM:姉さん! お疲れー
マリン:お疲れー
お母さん、アカウント二つ操作しながら自作自演してる。
そんなに同一人物と思われたくない感じなのかな?
そんなこんなで私とお姉ちゃんの【彫金】が終わる。
設計図の原型をとどめていない、少し崩れたものだった。
うーん、こんなものかな?
ギリギリ鉄屑になってないだけのネックレスの完成である。
「この品は、リスナーさんにプレゼントしますね!」
「先着何名にする?」
「とりあえず、次に作ってからにしよっか」
「じゃあ、私は次の設計図書くね」
「「えっ」」
ノリノリのリノちゃんに、私とお姉ちゃんの声がハモる。
熟練度上げがメインで完成品を作るのがメインじゃなかったよね?
そりゃおじいちゃんのために頑張るとは言ったけど、何品も仕上げるとか、そんな話はしてないんだけど。
「だって、完成して終わりにするにはまだ時間が残りすぎてるし」
「あー」
「リスナーさんにプレゼントするにも数が少なすぎるでしょ?」
そう言われてしまったらぐうの音も出ない。
「ハヤテ……」
「お姉ちゃん、ここは乗り越えるしかないよ」
とりあえず、この崩れた造形を少しでもマシにするところから始めようか?
細かすぎる設計図を書き出したリノちゃんは、私たちに更なる試練を課すために身を乗り出す。
次に出てきた設計は、一枚目を大きく上回るものだった。
あ、お姉ちゃんが設計図見て倒れた!




