127話 ＡＷＯ配信！＿料理披露
「それじゃあ、リノちゃんはそこで少し待っててね」
「はーい」
：リノちゃんは手伝わないんだ？
：調理台、狭いから
：そう言う問題？
：そう言う問題にしとけ
：あっ（察し）
「あ、そう言うのじゃないよ？ むしろリノちゃんはバトル頑張ってくれたから、料理を食べる資格があるのだ。それを手伝わせるのは違うよね？ だから私とお姉ちゃんで接待してるんだー」
「そう言うこと！ あたしはＢＧＭぐらいしか役に立ててないからねー」
：今もさらっと流れてるの草
：フィールドＢＧＭじゃないのか、これ
：こんな音楽知らない
：吟遊詩人ビルドもええな
：でも募集できたらキックする自信あるわ
：それなー
：でも料理できる子なら大歓迎かも
：ハヤテちゃんは将来有望だなー
「ありがとうございまーす」
：手際もいいし、将来いいお嫁さんになるかもね
「まだ先のことなので、よくわかんないですねー」
正直、アンドロイドのボディを手に入れても、私に恋愛感情が芽生えるかはわからないところだ。
油の準備をし、塩を振って休ませた鶏肉に塩胡椒を混ぜた小麦粉を塗し、高温でカリッと揚げていく。
ジュワッっといい音。
三人分の唐揚げをあげ終わったら一度休ませて、間に挟むレタスをちぎっておく。
「ハヤテー、ドレッシング混ぜ終わったよー」
「ありがとうお姉ちゃん」
：こうやって少しづつ出来上がっていくの見るのもなかなか
：めっちゃうまそうなんだよなー
：何ができるんだろう？
：唐揚げでしょ？
：でもレタスちぎってるし、ただの唐揚げか？
「ここで取り出しまするはー！ コッペパン！」
「収録前になんか買ってるかと思えば」
：あー、唐揚げサンドか！
：ホットサンドか
：片手で食べられるのは外の食事にもってこいだな
「まだパンまで着手できてないので、買ってきちゃいました！ 製パンもねー、ゆくゆくはやっていきたいんだけど」
：先立つものがないとね
：パンばかりは外じゃ難しいよな
：発酵がなー？
：このゲーム、製菓もできるの？
：作ってるプレイヤーはいるよ
：だいたい店もちだよな
：そりゃそうでしょ
：せいぜいできても、焼く、煮る、揚げるだけか
：それでもだいぶできるな？
：こうやって調理台持ってこれればな
：水洗いもできなきゃ難しいよ
：あとボールや調理器具な
：やっぱりこれ外でできるのずるくない？
「ずるくないですよー」
「ハヤテはどこでも調理できるのを売りにしてるからね」
「そう言うことです！」
お姉ちゃんのヨイショで、気を持ち直す。
そうそう、私からこの万能調理台を取ったら何も残らないから。
茹でていた卵を冷水につけ、その間に玉ねぎと塩、胡椒を混ぜていく。
ゆで卵を剥いたらマッシャーで砕き、それを作り置きのマヨネーズで合わせると。
「タルタルだー」
「はいはい、一人に一個渡るから待っててね」
：タルタルソースはずるい
：唐揚げに最高に合うやつだ
：俺は甘酢餡かけでもいいぞ
：それはもうチキン南蛮なのよ
「はい、完成！チキン南蛮ドッグですよー」
：んまほー
：めちゃくちゃお腹減る
：なんかエフェクトついてない？
「これは多分バフです。効果は、食後のＥＮ消費軽減、ＳＰ微回復、移動速度＋です。三つ付くのは珍しいんですよー」
：そうなの？
：バフ一個つくだけならそうそうないけど、欲しいバフが二個つくだけでアベレージ１０万変わってくる
：今回のは？
：スピードファイターのリノちゃんにはあればあるだけ欲しいバフだな
「でも、これくらいのバフ、いつもトキちゃんがくれるから、微妙かな」
「あちゃー」
：これで微妙とか
：待って、吟遊バフってそんなにでかいの？
：いや、俺も知らない
：近くで誰も吟遊やってないからな
それが答えだろうね。
特に仲の良いプレイヤーや、攻略を目的とした場合。
枠には制限がかかる。
大規模攻略に、全く戦えないビルドの人が来たらどう思うか？
火を見るより明らかだろう。
先ほどのコメントを見て分かる通り、吟遊ビルドは不人気と言って差し支えない。
「正直、バフを受けてる前提だと、パーティプレイよりソロの方が捗るんだ。それは私のプレイスタイルが動き回るタイプのものだからだと思う」
：ああ、もしこれが複数でバトルしたら
：全員がバラバラに動いちゃうか？
：どう言うこと？
：全員にリノちゃんと同じバフがかかればってことだよ
：タンクもマジックキャスターも、重戦士にも同時に速度バフが入るわけだ
：それは大混乱だろうね
：演奏バフの母妙なところはそこなんだよ
：かけられる効果は一つしかないの？
「そんなことないよ。演奏と歌唱、合唱、合奏でまた変わってくる。演奏単体だと特定のプレイヤーにしかかからない。歌唱も同じく」
：あれ、じゃあ別に混乱は起きない？
「そうそう。色々勘違いされがちだけど、演奏と歌唱までなら単体バフなんだよね。でも合奏と合唱は違う」
：複数人で演奏することでバフ範囲が広がるのか
「そうだね、それこそ中数人規模で、数百人までバフが乗る。あたしは別にそこを目指してないのでしないけど」
「へー」
：ハヤテちゃん……歌唱を披露しておいて知らなかったのかよ
「ハヤテはただメロディを奏でてるだけで、別に歌唱のスキル持ってないから」
「うん。最初は恥ずかしかったけど、なんか慣れた」
：これは大物になりますね
：お前もアイドルにならないか？
ハヤテＰ：( • ̀ω•́ )✧ダメです
ハヤテＭ：ダメです
：Pはプロデューサー？
：じゃあMはなんだよ
：マネージャーかな？
「これはお父さんとお母さんですね。一応プロダクションクラスの管理運営をしてくれてます。多分プロデューサーとマネージャーで合ってるはずです」
ハヤテＰ：( • ̀ω•́ )✧どうも、ハヤテのパパです
ハヤテＭ：どうも、ハヤテのママです
：違った、パパとママの頭文字だった！
ちょっとー、せっかく口裏を合わせたのに、そう言うところでお茶目な真似しないで！
めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん、これー。
今になって両親がお茶目すぎるとこっちが赤っ恥をかくのだと知る。
ようやくリノちゃんの気恥ずかしさを理解する。
これはなかなかにキツイ！
「あたしのパパとママでもあるよ！」
ここに来て、お姉ちゃんがのけものにするなと前に出る。
その堂々とした姿勢が、逆に新鮮に映ったのだろう。
リスナーから質問責めを受けていた。
：トキちゃんはパパとママが来ても物怖じしないね？
「慣れ？」
「うちのお父さんとお母さんは元々お茶目な人たちですからね。確かＡＷＯでアイドル活動してたんだよね？」
こうなったら巻き添えにしてしまえ！
：そうなの？
：ＡＷＯはホラー全開だけど、アイドル界隈でも有名で
：一つ前の世代だったら銀姫ちゃんとか？
ハヤテM：懐かしいですねー
ハヤテＰ：( • ̀ω•́ )✧当時追っかけやってました
：ミーハーなお父さんとお母さんだった
：これは娘の応援にも駆けつけるわけだ
うまい返しだ。
それは自分たちですよ、と漏らすことなく乗り越えた。
本人的には偽ったつもりはなくても、これ以上の返はない回答。
「ちなみに、うちのお母さんもアイドルやってたって聞いてすごく驚いたのを覚えてる」
：え、誰？
：あの世代のお子さんももうこんなに大きくなってるか
：第三世代だよな？
リノＰ：その話はやめてあげなさい！
：リノちゃんパパ来た！
：まさかの黒歴史だった？
：親がアイドルだと、子供も真似したくなっちゃうのかなー？
「どうなんでしょうね？ でもこの歌唱力はお母さん譲りだとしたら嬉しいですね」
「あたしもその歌唱力ほしかったー」
「お姉ちゃんは音痴だからね」
「そうなのー」
ポロロンとハープをかき鳴らしながら本音を吐露する。
楽しい楽しい食事会は、そんな内輪ネタで盛り上がりを見せてお開きとなった。
「それでは、お腹も満たせたので採掘に参りましょうか」
「おー！ 目指せ銀！」
「鉄ばっかり落ちそう」
「ちょ、縁起の悪いこと言わないで！」
：実際ドロップテーブル的にどうなの？
：採掘場にもよるけど、レアドロップはそうそう出ないのが普通や
：ミスリルとか数時間篭って１個とかザラだもんな
：かき集めたミスリルが目の前で鉄屑になる瞬間を見守るのが鍛治の真骨頂だから
：溶ける金、失墜する信頼、満足に武器は作れず、ただ変わり映えしない熟練度を睨み続ける日々
：やめろーーーー！
：どこのゲームでもそうなのか
：ＡＷＯは特にドロップ渋いから
：ＷＢＯみたく生産サーバもないから尚更だろ
：あっちのサーバはバトルと生産でドロップテーブル違うからな
リノＰ：調整苦労したんだぜ
：おん？ どう言う意味？
「うちのお父さん、昔ＷＢＯの運営だったんだよね。今は違う会社がやってるらしいけど」
：は？
：何回クレーム入れても電話繋がらないのってそういう
：あれ、もしかしてこのメンツってとんでもない子の集まりなのでは？
気のせいじゃないかな？
多分、きっとメイビー。
