124話 二人より三人で
私の草案は単純だ。
それを述べた後の家族の反応はまちまちだった。
「え、配信活動をするの? 今から?」
お姉ちゃんは正気か? と私を見る。
私はスズキさんボディを揺らしながら肯定した。
「|◉〻◉)うん。というか、活動をするなら明確な意思表示が必要だよね。それでいきなりEPOを議題に上げるのは少し風体が悪い」
「うーん、言わんとしてることはわかるけど。メインはEPOのいいところ探しなんだよね?」
「|◉〻◉)うん、だから私がログインできるAWOを舞台に一回目の配信をするの。お姉ちゃんは普段WBOをメインにしてて、AWOではあまり遊んでいないと言う体で参加してね。スキル骨子紹介で、あまり戦闘が得意じゃないかどうかは割れるから」
「あー、了解」
お姉ちゃんはようやくこっちの言いたいことを理解したらしい。
正直、いきなり一つ目の議題でEPOを挙げたらそれこそ晒しあげになっちゃう。
それじゃあ紅葉ちゃんを救えないどころか、悪評を集めすぎて想定よりも早く会社が倒産しかねない。
だから先にWBOほど人気はなく、あまり第四世代で遊ばれていないAWOを議題に上げたわけだ。
今回お姉ちゃんに演じてもらうのは実際どこまで遊べるの? と言うさわりの部分。
私も配信に参加するけど、WBOのことは全然知らないのであまり引き合いに出さないでほしいかなーって。
なのでAWOの配信は私がメインで、WBOの配信はお姉ちゃんがメインになってもらう。
それぞれフレンド召喚で呼んでもらう感じで、その日のスケジュールはお母さんに根回ししてもらう予定でいる。
お父さんには、アーカイブ化する際の編集と宣伝を任せた。
私とお姉ちゃんの晴れ舞台だ。
下手なことはしないだろうと思う。
「それでハヤテ、今回は本当におじいちゃんとおばあちゃんは呼ばないでいいの?」
オクトおじいちゃんにパープルおばあちゃんは世間体的な評価こそ寺井グループには負けるが、情報媒体という枠組みで見れば、お母さんをプロデュースした腕前は評価されている。
実質的にプロデュースしてもらえれば、確かに評価は上がるけど。
こんな場当たり的なプロデュースに呼ぶのは失礼というか、私もそこまで配信業に身を入れるつもりはないのである。
あくまで今回は紅葉ちゃんを取り戻すまで期間限定だった。
「|◉〻◉)それに頼っちゃったら、今後も頼ることになっちゃうから。それに、AWOでこれでもかってくらい頼った後だし。今回は純粋にファンとして応援してほしいんだ」
「そう言うこと」
それじゃあ、みんなで配信がんばろー!
と言うことになった。
翌日から早速配信を回す。
ミルちゃんはEPOにかかりきりなので、連絡を入れるのはリノちゃんとアキルちゃんくらいだ。
「そっか、みんなは新参のモミジちゃんを大切にするんだね」
「リノちゃん的には微妙?」
「うーん、なんていうか。助けてあげたい気持ちはあるけど、お互いにまだ何も知らない同士で、どうしてハヤちゃんはそこまでするのかなって」
疑いの視線。
確かに言われてみたらおかしなことばかり。
それはミルちゃんを奪われたばかりだから尚更に感じるのだろう。
「そうだね、ずっとは隠して置けないから言うね」
「……うん」
リノちゃんはどんな話を聞かせてくれるのかって、顔。
でも私が語るのは。
「次も遊ぼうって約束したでしょ? それが果たせないのは悔しいなって。お母さんから聞いたんだ。モミジちゃんのお家、家庭崩壊の危機だって」
「それは、可哀想だとは思うけど」
自分たちが関わったところで何も解決しないんじゃないか? と言う疑問。
「リノちゃんの気持ちは痛いほどわかるよ。私だって、これをやったところでモミジちゃんが絶対助けられるって確証はない」
「だったら!」
やるだけ無駄じゃないのか?
そんな目線を受けて、私は首を横に振る。
「私も……みんなにいっぱい迷惑をかけちゃった。今こうやってログアウトして、またログインできるようになるまで、いっぱいの人が動いてくれたことを知っているよ」
「うん、私やトキちゃん、みんながいろんな情報を集めた。できるだけログイン時間を合わせたり、掲示板で呼びかけもした。でも、それでもハヤちゃんをログアウトさせることはできなくて、自分の無力さを知っちゃった」
「うん……」
だからこそ思うのだろう。
それをやったところで無駄骨にならないか、と。
実体験をしたからこその苦悩が見て取れる。
私は帰って来れた。
でも彼女の場合はわからない。
もし帰って来れないとしても、まだ関係が浅いうちなら割り切れるのではないかと葛藤している。
「だから、今私がこうやってゲームをできる喜びをみんなにも伝えたいんだ。そして再び四人で遊ぶためには……」
「ミルちゃんを取り戻さないといけないんだよね?」
そうだ。
私たちが『楽しい』を追求するためには、メンバーが欠けてしまうのは本末転倒。
本人は賑やかし担当というが、そのにぎやか氏がいる前提で私たちはこのゲームを楽しんでいる。
仲間はずれは嫌だよ。
それが嘘偽りない私の本心だ。
「うん。ミルちゃんには撮影係を任せたばかりだもん。それを家の都合で縛りつけられてばかりと言うのは面白くないもん。だからね」
「じゃあ、そう言うことなら私にも協力させて」
「いいの? リノちゃんの遊びたいプレイスタイルとは異なるけど?」
「ハヤちゃんだって、可能ならこんな主題は取りたくないでしょ? 一人より二人。二人より三人だよ!」
そう言われてしまったら私も頷かないわけにもいかない。
そんなわけで配信開始。
お母さんからの受け売りで、配信者ようのカメラを購入。
あとはいつもと同じようにゲームで遊ぶだけである。
「こんにちは、ハヤテです。初めての配信でドキドキしていますが、よければのんびりお付き合いいただければ幸いです」
:初見
:ゲーム配信か、なんて名前のゲーム?
:見たことない背景
:テクスチャクオリティは高いから最近の?
:いや、俺知ってる、と言うかこれやってるわ
「あ、知ってる方もいるようですね。今日はこちらのゲーム、Atlantis world onlineで遊んでいこうと言う趣旨です」
:やっぱりAWOだったか!
:え、聞かない名前
:もう20年前からあるぞ、これ
:当時のプレイヤー全員おじいちゃんじゃん
:全員じゃないだろ
:でも、親世代の可能性は捨てきれん
「そうですねー、このゲームはお母さんから教えてもらったんですよ。そして今回のゲームで遊ぶ上で紹介したいフレンドさんもいるんです。ちゃんと許可も取ってるんですよ?」
「ハヤテー!」
「ハヤちゃん!」
:お、こっちの子も可愛い
:みんな可愛いのはすごいな
:キャラクリだろ
:ハヤテちゃんて年いくつなんだろ?
:開示ない情報を聞くのはマナー違反だぞ?
その通り。
そこら辺はお母さんやお父さんにお任せしたので無問題。
:ハヤテちゃんと似た顔、もしかして双子?
:別にゲームなんだからいくらでもキャラクリできるだろ
:それは何十時間かける必要があるんだ?
:草
:実際、AWOはキャラクリにとても時間をかけられるほどにテクスチャ凝ってる
:へぇ
:俺も始めてみようかな
:やめとけ
:どうして?
「紹介します、双子の姉の」
「トキでーす! 今日は妹から誘われてこの企画に参加しましたー」
「それとお姉ちゃんのお友達の」
「リノです、今日はよろしくおねがいします」
:こっちのはおとなしめの子かな?
:序盤からこんなに装備揃えられるものなの?
「課金ですね。うちのお母さんがこのゲームやりこんでるので」
「あー、わかる。意外な共通点だよね」
「うん」
「そんなわけで、一緒にゲームを楽しみます! それではゲームスタート!」
:楽しみ
:でもさっきやめとけって話が
:このゲーム、想定外のことで即死する理不尽ゲーだから
:これをそんなかわい子ちゃん三人が遊んで無事で済むのか?
:わからん
:これの企画者、曇らせ好きとかじゃないよな?
:ないとは言えないな
何か変な勘違いされちゃってるけど、世間のAWOの認識がそう言うものなのは、ある意味でチャンスでもあった。
だってこれから救済するゲームの評価は地の底。
ここで物怖じしないプレイスタイルで人気を得て「やるなよ、やるなよ?」みたいなフリを完成させることができる。
これはとても美味しい。
そんなわけで私たちの無難で、ちょっと向こう見ずな配信が始まった。