120話 思い出の共有
「メガロドン一丁上がりー」
「|◉〻◉)おかわり持ってきますねー」
「はーい」
街の外で食材確保。
街に帰っても調理台はないが、モミジちゃんがいれば問題ない。
レイちゃんもいるけど、今のレイちゃんがどこまでこっちの言うことを聞いてくれるかが謎なんだよね。
100年後のレイちゃんをログアウトさせてから、以前にも増して自由意志が芽生えたように思う。
ひより:メガロドンてこんな大きかったの?
:丼に乗ってる姿しか知らなかったわー
ハヤテ:深海魚は地上に出ると萎んじゃうんだー
レイ :|ー〻ー)それ以前にそのままの味付けだと塩辛いので
ハヤテ:すんごい薄めたのをさらに野菜で漬け込んで
:塩気を抜く工程を入れるんだよ
ひより:料理も奥深いわけねー
ハヤテ:やりがいがあります
モミジ:わたくしだったら、手も足も出ないでしょう
ハヤテ:獣人じゃ海中戦は難しいよねー
レイ :|◉〻◉)僕たちは地上でも水中でもお手のものですけどねー
ハヤテ:地下は?
レイ :|ー〻ー)地下なんて知らないもん
不貞腐れちゃった。
あんまり虐めても仕方ないし、討伐を終えたら街に帰還。
ダゴンとかも襲ってきたけど、まだたこ焼き機は購入できて……いや、そうだな。
ハヤテ:レイちゃん
レイ :|◉〻◉)なんですか?
ハヤテ:幻想装備でたこ焼き機とか作れる?
レイ :|ー〻ー)ものを知らないんですよね
ハヤテ:じゃあ私が作るのでテーブルセットお願い
レイ :|◉〻◉)はーい
こう言う時、幻想装備は役に立たない。
一度作るところを見せ、どのように扱うかを理解しないと形になってくれない面倒臭さがある。
お値段が高くてなかなか手が出せない!
ぐらいになってようやく進化が発揮するのだ。
ダゴンは3匹捕まえた。
ストレージに入れる前に、味付けしてから水圧調理。
下味をつけるのはこれぐらいでいいだろうか。
私たちごとパッキングして、そこに生産台を設置。
調理の間、他のみんなはテーブルセットでくつろいでもらった。
パッキングされた空間の中ならお話も自在なんだよね。
「ねぇ、さっきからあたし随分と不思議体験してるんだけど」
「わたくしもです」
ひよりさんの言葉に続くモミジちゃん。
「|◉〻◉)だらしないですね」
レイちゃんに至っては勝手知ったる他人の庭みたいにくつろいでる。
なんだったらその場に寝転がって、下からみんなを見上げていた。お行儀悪ーい。
誰に似たのかな?
「まずはダゴンのたこ焼きだよー。モミジちゃんは食べたことないかな?」
「あたしも初めてだー」
「いやいや、ひよりさんはあるでしょ?」
「ふふふ、実はないのー」
うっそだーと思いながらも、爪楊枝の扱い方を躊躇しているので本当に食べたことがないのかもしれない。
「レイちゃん、見本見せてあげて」
「|◉〻◉)ノはーい。いいですか、これはこうやって爪楊枝で刺して、一気に口の中の放る!」
「へー」
「|◎〻◎)はふっはふっはふっはふっ、ちょっとマスター、これ熱すぎませんか? 僕、口の中やけどしそ……ぎゃああああああ!」
あ、レイちゃんが泡を吐いて倒れちゃった!
お魚に熱々のたこ焼きは致命傷だったか。
考えなくてもわかるって?
ノリノリで味見に乗り出した彼女も悪いと思うんだけどなー。
「これ、本当に真似して食べないとダメなの?」
「熱々で食べるのが美味しいけど、魚人には刺激が強すぎたみたい」
「そういえばこの子魚人だったね。人型だからすっかり忘れてた」
「ちなみに私も魚人だから熱々は苦手」
「じゃあなんであの子に味見させたの?」
ひよりさんの疑いの視線が痛い。
こうなったら、奥の手だ!
「レイちゃん、起きろー。新しい塩水よー」
「|◉〻◉)僕は正気に戻った!」
「復活した!」
「お帰りなさい」
「|◉〻◉)ノただいまー」
「ふふふ」
レイちゃんの騒がしすぎる奇行を前に、モミジちゃんも笑顔が絶えない。
苦笑でも失笑でもなく、その前向きすぎる明るさに元気をもらっているみたいだ。
「そもそも、熱々の料理が向かないのなら冷製の食事をしたらいいんじゃないの?」
「うん、そうなんだけどねー。それだと大味すぎるというか、私たち向けの味は塩辛すぎるの。だからこれはひよりさんたち向けなんだけど……」
「初めて食べるもので手間取らせてごめんなさいね? レイちゃんの犠牲は無駄にしないわ」
「|◉〻◉)あの、僕死んでな……」
「はふっはふっ」
「少し暑いけど、確かに外はカリッとしてるのに、中はトロッとして美味しいです。ソースをこのようにしていただくのは初めてですが」
「美味しいけど、ずっとハフハフしてしまうわね」
「はい」
「喜んでもらえてよかったー」
「|◉〻◉)ですねー」
それからたこ焼きを食べ終え、次はタコの刺身を作る。
こちらはそのまま切ったのと、昆布で締めて塩を抜いたもので分ける。
「塩辛っ」
「そっちはレイちゃん向けだねー。こっちのお食事は下処理しないとこう言う味なんだー」
「じゃあ、こっちのお皿ね。うん、こっちは食べられそうよ。塩辛さは感じないけど、それ以外の風味を感じる。これは何かしら?」
「昆布で締めた後、ほうじ茶と一緒に茹でたんですよ」
昆布で締めることなど普通はしない。
今回昆布で締めたのは、塩気をとる以外ない。
「茹でた? 確かにさっきのお刺身と違って弾力がないと思ったけど、茹でたとは思えなかったわ」
「美味しいです」
さっきのたこ焼きと比べ、粗熱をとってあるので食の進みが早い。
「本当ね。お刺身としてパクパク食べれちゃうわ。フェアリー種って結構好き嫌いあるのに、不思議ー」
「獣人でも食べられるのは、素晴らしいです」
「フェアリーといえど、食の好みはプレイヤー基準。問題はそのグロテスクな見た目をいかに整えられるかですね」
「なるほどー」
「勉強になりますわ」
「|◉〻◉)くっちゃ、くっちゃ」
「レイちゃん、そんなくちゃくちゃしないで、きちんと噛み切れるでしょ?」
「|◉〻◉)ムシャァア!」
やっぱりわざとだったよこの子。
タコ刺しを食べ終えたら、メガロドンの天ぷらを作る。
解体するのに他の空間をパッキングし、私は作業に取り掛かる。
「お待たせ、仕上げしちゃうねー」
「|◉〻◉)僕も何かお手伝いしますよ」
「じゃあ、味見お願い」
「|◎〻◎)任されました!」
すぐ横で反復横跳びして存在感を示すレイちゃんを締め出し、揚げて随分と縮んだメガロドンの天ぷらを休ませてさらに小皿に盛り付ける。
「多分塩気が強いから塩はいらないかな。下味でカレー風味にしてあるので、冷たい飲み物と一緒にお楽しみください」
「なんだか風情あるお皿ねー」
「料亭のお食事を彷彿とさせます」
「|◎〻◎)バリムシャァア! あっぢぃいいいいい」
レイちゃんは早速一口食べて、その場で転げ回った。
その様子はしっかり撮影カメラに納めさせてもらった。
撮れ高をバッチリ抑えてる難い演出だ。
さっき熱いのはやめとこうと話をしたばかりなのにね。
「レイちゃん用はこっち」
「|///〻///)うんまー」
こっちは内側まで熱を入れずに、衣だけをパリッとあげた品である。レイちゃんたち魚人は調理するより生で食うタイプだからね。
衣が熱いのではふはふしてるけど、それも愛嬌だ。
ただ野菜を作るだけではなく、そこから料理をして。
味わうのもゲームの醍醐味だ。
ちょっと斜め上の体験だって思い出の一つ。
モミジちゃんは終始おかしそうに笑っていた。
本来ならばそれが許されてもおかしくないはずなのに。
リアルでは窮屈な思いをしている。
AIにいくら体験をさせたところで、本人が体験をしなければ意味はないと思いつつも。
それでもなんとかしてやりたいと言う思いがある。
今回の撮影は、モミジちゃんが戻ってきた時のための共有なのだ。今日はこんなことをした。
次はこんなことをしよう。
そう言う道筋を、ブログ以外で残してやりたいと言う試みだった。




