107話 二人組に分かれる
「へぇ、タツ君たちは結構名前が売れてるアタッカーさんたちなんだ?」
「ま、まぁな?」
「だいたいお父さんたちの恩恵、七光だったりしてね」
お姉ちゃんがヨイショして、タツ君が自惚れる。
そこにアキルちゃんがジト目で真実を見破った。
何だか楽しそうだね、君たち。
私はリノちゃんと一緒に後ろをついて回ってる。
他の男子二人は女子と一緒に行動することがそんなにないのか、少し距離を離して歩いていた。
けど、やたら視線を受けるのはきっと気のせいじゃないはずだ。
「うるせーな。そういうお前はどうなんだよ、アキル」
「そこはそれ。堅実にやらせてもらってるよ。多少おじいちゃんからの恩恵はもらいつつ、鍛治熟練度は50オーバーだもんね」
「それってどれくらいすごいんだ?」
「ミスリルに取り掛かれるくらいはすごいよ」
「え、すげーじゃん。今度俺の武器打ってよ」
「素材持ち込みなら考えられるね」
「くっそー、そううまい話はないか」
家の近しい親戚同士は随分と仲が良さそうだ。
「リョウ君とカイ君は、タツ君と組んで長いの?」
そこでお姉ちゃんは他の2人へ話をふる。
「小学の頃からの付き合いで。このゲームは他のゲームの査収に伴って流れてきたんだ。WBOにも一時期いたんだけど、課金圧強すぎて小遣いだけじゃ回らなくてさ」
「あー、わかる! あたしもWBOやってるけどレベル30から資金繰りきついよねー」
「うん。最初はガンガン強くなって面白いんだけど、いつの間にか武器精錬+10以下お断りみたいな暗黙の了解なのができてつまんなくなっちゃってさ」
「あれはまぁしょうがないところがあるよね。サーバー分けてるだけ棲み分けはできてると思うし」
「そうなんだけどー」
お姉ちゃんはWBO談義に花を咲かせていた。
お相手はカイ君。
そして1人あぶれたリョウ君は、私のことをチラチラ見ている。
何? 言いたいことがあるんだったら言いなさいよ。
そうやってじーっと見られてばかりというのもなんか、こう……対応に困るよ?
「その、ハヤテちゃんは。どうしてAWOで遊んでるのかなって」
ふむ。
必死に絞り出した質問がこれか。
これはあれかな?
もしかして私に少し気があるとかいうやつだろうか?
まいったね。
私の美貌が悩み多き少年を惑わせてしまったようだ。
何というか、こう……悪くはないものだね。
「そうだねー。本当はWBOに誘われたんだけど、私って生体認証に嫌われてるところあって」
「嫌われてるって何?」
「私、生まれた時から病弱でずっと寝たきりなの。だからか生体認証が希薄で、ほとんどのゲームに適応できなくて。でもAWOなら」
「唯一遊べたってことなんだ」
「うん。それだけだよ。本当はお姉ちゃんと一緒に遊べたらいいのにねーって。でも数日前にWBOが一時期メンテナンスに入ることがあって」
「それでこっちに流れてきたんだ?」
「そういうこと。それから普段できない買い物とか、銭湯とか、ものづくりを体験して。なんだかんだここが気に入っちゃった。でも最初に選んだスキル骨子が完全に生産特化だから、バトルが苦手なんだー。遊ぶ時に、事前に下調べしなかったもんだから」
「あ、生体認証に嫌われてるからネットも見れないんだ?」
私は頷いた。
そんなことはないけど頷いておく。
もしここにミルちゃんがいたら「ハヤっちは悪い女だよ」というに違いない。
こうして無事男女三人分かれて二人組を作った。
リノちゃん?
彼女は召喚枠だから。
それを言ったら私もだけど、普通に受け答えできてるからねー。
勘違いしてしまうのも仕方ないというか。
別にフレンドとして今後もお付き合いしていくとかじゃないので、問題ないだろう。
「お前ら、こっから気ぃ引き締めろよ? セカンドルナとサードウィルの境目はモンスターの分布図が変わる。シャドウ型とボール型の亜種が出てくる。リョウは前衛でタンク。カイはいつでも魔法をブッパぱせるように準備してくれ」
「あいよっ」
「了解!」
タツ君が音頭を取り、それぞれが武器を構える。
さて、彼らのお手並み拝見といきましょうかね。
世界が凍りつき、内側から砕け散るように戦闘フィールドに突入した。
「ボール・ドローン型2、シャドウ・ウルフ型1!」
「カイ、光の巻物用意! アキルたちは下がってろ!」
「もちろん!」
アキルちゃんは言われるまでもなく後方にダッシュで逃げた。
ドワーフとは思えない身のこなしである。
そして私たちは、足をマーメイドモードにして空中に浮いた。
「ミュージック、スタート!」
「戦闘バフは任せてね!」
戦闘ミュージックを塗り替えるように、お姉ちゃんの【組曲】と【自動演奏】が流れる。それに合わせて私は少し恥ずかしいけどバラードを奏でた。
「うわ、何だこれ!」
「演奏バフ! 確かパーティ全体に効果があるやつだよね?」
「ハヤテちゃんの歌声、すごい体に染み渡る。すごいよこれ、STとSPが微回復してる!」
「非戦闘員どころじゃねーな。こりゃとんでもない後方サポートだ。気張るぜ、お前ら? 女子グループに恥ずかしい格好見せらんねーからな!」
「っしゃあ!」
「うん!」
いやはや、すごいやる気の出しよう。
最初こそはただの戦闘バフだと思っていた男子グループ。
けど、チェインを重ねた時に私たちの進化が発揮する。
「あれ、この演奏!」
「とんでもなくチェイン重ねてくる!?」
「あっという間に30チェインも?」
「もしかしてこの状態で倒したら……」
「レアドロップ引けるかもだよ」
ようやくその可能性に気がついたか。
こういうのはこちらが言ったところで取り合ってくれない可能性がある。
なまじ向こうはバトルのプロを称している。
非戦闘員であるこちらの意見はなかなか取り入れてくれないだろう。
危ないところはリノちゃんの鈴による『ヘイト誘導』で窮地を脱している。
その上で『重力コントロール』による『瞬歩』からの『抜刀』でダメージを順調に蓄積させていく。
「こっちの傭兵の子も強い! 負けらんねーぞ!」
「普段はこのバフを独り占めにしてるんだ、そりゃ強いさ」
その通り。
何なら、ここにはいないもう1人の【合唱】スキル持ちでバフの係はさらにすごいことになっている。
その上に私の料理バフが乗れば、リノちゃんの戦闘力は鰻登りだ。
シャドウ・ハウンドタイプやティンダロスの猟犬とやり合うのにはそれくらいの強さがいるってことだよね。
そしてバトルリザルト。
「おい、みろ! ドロップアイテムがこんなにゴロゴロ」
「ねぇこれ、もしかしたらミスリルもドロップするんじゃ?」
「あー、どうだろ? どうせ今行っても混んでるだろ?」
「そうだね。無理していかなくてもいっか」
「そうそう」
一瞬良からぬ考えもよぎったが、何とか軌道修正できてよかった。ここまできてサードウィル行きを諦められたら、私たちが気落ちしちゃうからね。
普段はリノちゃんとこっちまで来ないから、街と街の移動はこういう機会でもないと難しいのだ。
なるべくポータルは使いたくないんだよね、金銭的な理由で。
サードウィルはひらけた平原の中にある。
一度滅んだのはもう何十年も前。
けれどいまだに古代獣討伐イベントもあり、復興もほどほどにバトルフィールドの一面も残している。
「ようこそ、サードウィルへ」
「ここは料理の生産台あるかな?」
「確か色々置いてあったはずだよ。案内しよっか?」
「あー、じゃあここから自由時間で。時間決めてあとで集合でいいか?」
「私は別に構わないけど。ハヤテちゃんと時ちゃんはどうする? 色々回りたいなら別に辰君の提案に乗らなくてもいいし」
「ハヤテはどうする?」
「そのことなんだけど」
私はお姉ちゃんに耳打ちする形でフレンドチャットに招待してもらう。
ハヤテ:そもそも召喚された傭兵って召喚者から離れて行動できるの?
トキ :あっ
ハヤテ:どこまで効力あるか確かめてみるいい機会じゃない?
トキ :ハヤテは知らない人と一緒で平気?
ハヤテ:私は生身のない精神体だよ?
トキ :なんか変なことされそうだったらちゃんというのよ?
ハヤテ:うん
元男だからわかる。
この子はきっとそこまで変なことはしないって。
でもお姉ちゃんの心配もわかるので、ここは頷いておいた。
「ハヤテもOKだって。でも、うちの妹が大人しいからって変なことしたら許さないからね? おじいちゃんに言いつけるから」
「おじいちゃんて?」
「精錬の騎士のクラマス。お母さんはマリンていうアイドル」
「あ、これは勝ち目ない」
「絶対にしないって誓うよ」
「なら良し! ハヤテ、ここでいっぱい人生経験積んでおいで」
「何それー」
お姉ちゃんなりの励ましなんだろうね。
私は呆れながらも頷いて、リョウ君にサードウィルの案内を任せることにした。
リノちゃんは、そのままお姉ちゃんの方についてったよね。




