表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『トップ4』<12日目・昼>
106/172

106話 そこになければないですね

 【錬成】のコツはすっかりつかんだ。

 【採掘の心得】も今ではすっかり馴染み、クリティカルでいい感じに鉱石を稼げていた。


 が、採掘ポイントは永遠に鉱石が取れるポイントでは無かった。



「あっ」



 カツン!

 ツルハシを打ち込むと同時、何かが潰える音がした。

 シュンッ、とさっきまでそこに明滅していた光がなくなっていく。

 アキルちゃんがわかりやすいくらいに残念そうな顔をした。



「保った方だよ。むしろ採掘ポイントの維持が【採掘】では重要! ってこれを最初に教えると思ってたんだけどねー」


「なんかやっちゃったのかと思ったけど、こうなるのは普通なんだ?」


「そうねー。幸運持ちならそうそう枯渇はしないでしょうけど、普通はすぐなくなっちゃうね」


「お姉ちゃんは【幸運アップ】持ってたよね?」


「うん。まさかそれが採掘ポイントを維持してくれてるなんて思わなかったけど」


「採掘する上では重要だねー。そっちにスキル振ると、高確率で戦闘要員から外されるけど」


「むふん、むふん」


「リノちゃんがバトルは任せてって鼻息吹かしてる」


「なんだったらバトルしたいって言ってない?」



 言ってそう。

 新装備を手に入れて、試し切りしたいってその顔に書いてあるし。



「いっそ、採掘ポイント変えちゃう?」


「あたし達は構わないけど……どうする?」


「私も大丈夫。でもミスリルの採掘ポイントであれが出てきた場合は……」


「そっか、今レイっちいないんだ」



 その代わりリノちゃんがいるからね。

 でも中身入ってないからなぁ……私と同様に戦えるかだけが不安でもあった。



「リノちゃん一人で戦えるかな?」


「そこはハヤテのパッキングで」


「私は採掘したいけど、何か協力できることならするよ? この前はあまりにも自分勝手すぎたなって反省してるの。だってあの後でしょ? ハヤテちゃんいなくなったの」


 確かにそうだね。

 色々不安にさせちゃったのは間違いない。

 いまだにログアウトできてないから。



「じゃあ、守るから戦闘中に採掘してもらう感じで」


「えっと、それじゃあ普通じゃない? むしろこっちはやりたいことを優先させてもらっちゃう感じだけど?」


「お姉ちゃんの【集音】スキルはあらゆる音を集めてバフにしちゃうんだよ。私の演奏とも言い切れない楽器も、なんだかんだ曲にしちゃうから、ね?」


「そっか、今日はミルモちゃんがいないから」


「そういうこと」



 合唱によるバフは出せない。

 いなくなってからわかる、チートな存在だったんだよね、ミルちゃん。

 拡大撮影もないから、大胆な動画撮影も難しい……

 いや、バトルメインじゃないからいいのかな?



「そういえばお姉ちゃん、スクショ撮ってる?」


「え? そういうのはミルっちの仕事……」


「ミルちゃん、今日呼んでないよ? 私は呼べないし、アキルちゃんはそもそもフレンドじゃ無かったし」


「あ! そうじゃん!」


「あはは、採掘の様子とかは後でもまたチャンスあるから」


「私もスクショ協力するから」


「うー、お願い。完全にミルっち頼りだったよー」



 さっきまではどこか頼もしくあったお姉ちゃんだが、こういう微妙に抜けてるところが妙に懐かしい。

 成長してほしくもある反面、急成長されても対応に困っちゃうからね。


 これくらいでちょうどいいのだ。



「それで、どこいく? この前の穴場?」


「実はあの場所、どこからか噂が漏れて結構人が来ちゃってるんだよね」


「でもわざわざ採掘しに行く層は朝のうちにじゃない?」


「いやいや。みんながみんな鍛治命じゃないから。でもバトルの人は一攫千金になる」


「あー、戦闘ついでに一稼ぎってやつか」


「ドロップでミスリル出るって判明したらね。単価が高いうちにってやつだよ」


「なるほど。わざわざ高値で売らなくても、今の単価が高騰してるから、いいお小遣いになると」


「ミスリル枯渇だと、職人は多少高くても買っちゃうから」


「職人にとっては切実なんだ」


「君たちもいつかぶち当たる壁だよ? リノちゃんが侍をしている限り」


「それって?」


「刀に限らず、速度アップ系装備はミスリルを使った細工が好まれる。軽戦士の装備はほとんどがミスリルと言ってもいい。逆に重戦士は重さを生かした鋼、ダマスカスなんかを好むよね」


「攻撃力とかいうより、スキル構成によったビルドでお世話になる感じなんだ?」


「そういうこと。そういう意味でもミスリルはいろんなスキルビルドの支えになっているんだよね。魔力を通しやすいから、魔道具の触媒にもなったりするんだ」


「へー」


 多く持っておけば、いつか錬金でも扱いそうだね。

 そういう意味ではここで掘っておくのは無駄じゃない。


 そして採掘ポイントでは……



「おー、ここも混んでるなぁ」



 結構な人混みがあった。

 青いボールに群がる『命のかけら』改修者と同じくらいの規模が、採掘ポイントをうろうろしていた。



「意外と採掘ポイントはスルーなのが悲しいね」


「むしろ無駄に採掘ポイント減らす方がヘイト取るからね」


「バトル特化の人でも幸運アップくらいとってない?」



 何事もチャレンジは重要だよ?

 そんなふうに語れば、アキルちゃんから切実な返答があった。



「人気があるのは【命中率アップ】とかかな? 【幸運アップ】はドロップ率的な意味合いで人気あるけど」


「なるほどー」



 こんな時バトル談義で盛り上がれるメンツがいないので、私たちは雑談を交わしながら人の居なそうな採掘ポイントに向かう。



「お、ここは空いてる」


「早速始めちゃおっか」


「おー」


「リノちゃんは人が来たら教えてね」



 こくこく。

 特に警戒するでもなく、リノちゃんが周囲をうろうろする。

 

 それを眺めながら採掘をするが。


 失敗しました。

 失敗しました。

 失敗しました。

 成功しました__銀を獲得した。


 うーん、この採掘成功率。

 成功しても銀かぁ。

 今までがやたら成功してたのもあって、完全に油断していた。



「お姉ちゃん、どう?」


「銀しか取れない。心得あるのに」


「だよね」


「あはは、ミスリルはレアドロップ系列だから。それと……これは噂なんだけど」



 アキルちゃんは周囲を伺いながら言った。

 その内容とは。



「え、鍛治の熟練度によって出現率が変わる?」


「噂ね? 実際私は50を超えてるけど、全然出ないの。だから確証はないんだけど」


「でも銀の他に稀に混ざってくる?」



 アキルちゃんは頷いた。

 なるほど、そういう理由なら私のハイクリティカルが反応しないわけである。


 要はドロップリストの中にミスリルそのものが含まれていない状態なのだ。

 そりゃ、ドロップするわけがない。

 もしこれが正気度系列だったら確定的クリティカルが出て……いや、アキルちゃんを巻き込むわけにはいかないか。



「これじゃあ採掘ポイントに手をつけないのもわかるね」


「出てこないんじゃしょうがないか」


「でも私は、その可能性に賭けてみたいな」


「じゃあ、私たちは銀の採掘しとこっか? どうせミスリルが採掘できても扱えないし」


「そだね」


「ふんす、ふんす」


「リノちゃんもやる気に満ちてるね」


 

 それからしばらくして、



「お、ようやく一つかな?」



 アキルちゃんがミスリルの採掘を終えた。

 それと同時にリノちゃんが刀に手を添える。

 そこには、態度の悪そうなプレイヤーがいた。



「君たち、採掘ポイント高そうだし。よかったら俺たちと組まない?」


 どう考えてもミスリル欲しさなのが見え透いている。

 多分、出土したミスリルは売却して歩アーティ全員で山分け、を狙ってのことだろう。


 私は身構え、そしてお姉ちゃんもツルハシを構える。

 しかしそこでアキルちゃんが、


「あれ、もしかしてあなたタツくん?」


「え? そうだけど。誰お前」


「あ、AWOじゃ初めてかな。私はアキル。お母さんはルリ。おじいちゃんはモリモリハンバーグと言って」


「あー! ルリおばちゃんとこの!」



 相手方の少年が、アキルちゃんを指差して叫んだ。

 と、いうことはモリモリハンバーグおじいちゃんの息子さんか娘さんのご子息ということか。



「久しぶりだね。一度VR井戸端会議であったよね」


「お、おう。お前がこっち来てるなんて知らなかったからよ」


「で、タツ君はここにミスリル拾い?」


「ああ、ここでゲットできるって聞いてさ。お前知ってる?」


「噂は噂でしかないけどね」


「でもお前、ゲットできたじゃん。よかったら組もうぜ。そっちの子も一緒に」


「あの、アキっち。この人ったち知り合い?」


「あ、うんそうだね。一応自己紹介しとこっか。タツ君もいい?」


「え? 俺の知ってる人?」


「じゃあ私から。私はハヤテ。お爺ちゃんは精錬の騎士のクランマスターをしてるよ」


「ゲェ!」



 あ、あからさまに喧嘩売っちゃいけない相手だって気がついオタみたいだ。

 そしておばあちゃんが姉妹であるということも理解しただろう。



「ゲェ、は失礼じゃない? 遠い親戚相手にさ」


「そうなの、ハヤテ」


「うちのおばあちゃんとアキルちゃんのおばあちゃんは姉妹なんだよ」


「そういうこと。あまり顔合わせとかしないから末端のことまでは知らなくても仕方ないけどね」


「へー」


「ってことはもう一人は?」


「あたしはトキ! ハヤテのお姉ちゃんだよ!」


「うわっ、そっちの家系かよ。ごめん、さっきの勧誘無かったことにしていい?」


「まぁ感じは悪かったよね。でもどうせならAWOのこと色々聞きたいなー。あたしたち、このゲーム始めたばかりだから」



 お姉ちゃんはむしろここで相手側に踏み入った。

 アキルちゃんも相手を特に怖がってないのを鑑みてのことだろうね。



「え、お前らいつ始めたの? 俺もまだ初めてばっかでさ」


「えっと、4日前?」


「私は11日目だね」


「ハヤテちゃんのほうが早いんだ?」


「お姉ちゃんはWBO民だったからね」


「そういえばそんなこと聞いてたね」


「まだ四日? じゃあ何も知らねーんじゃん。俺たちでよければ教えてやれるぜ? 街はどこまで行った? サードウィルくらいまでなら案内できるぜ」



 タツ君とその仲間たちは一攫千金にセカンドルナまで戻ってきたが、正直あまりにもドロップしなくてそろそろ自分たちの遊んでる場所まで引き返そうというところだった。


 ここにきて戦力の増強があり。

 リノちゃんもついてきてくれることから採掘場所をサードウィル方面に帰ることにした。


 アキルちゃんはミスリルを諦めきれない感じだったけど。

 あの場所に居続ければ辰君みたいな感じの子に勧誘され続けることは確実。

 なら知り合いの方がいくらか気の持ちようは違うということになった。


 うん、まぁ。

 私たちが一歳戦闘できないと知った時は「誘うの早まったかな」って顔されたけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ