104話 採掘と心得
「おいしょお!」
振り上げたツルハシが鉱脈に深く刺さる。
ここはファストリアからほど近いダンジョン。
ミスリルなどは出土しないが、召喚した傭兵以外に戦力がいない現状で、熟練度を上げるならここが一番と紹介されてやってきた。
突きささったツルハシが【採掘】ポイントに当たり判定を付随する。
通常ヒットでは5発叩き込んでようやくドロップ。
クリティカルだと一発でドロップするがドロップするレアリティはノーマルを抜きん出ない。
ここは序盤もいいところなのでレアが設定されていないというのもある。
あくまでも【採掘】スキルを使いこなして【採掘の心得】を獲得するまでの長い道のりでしかないのだ。
なお、ツルハシは幻想装備で賄った。
本当にこれは手放せない装備だよ。
「おー、いい感じ。ここのあたりは青銅鉱だよ。たまに石ころも出るけど」
「石しか出なーい」
お姉ちゃんが不満を口にする。
「はいはい。あとで青銅鉱あげるから」
「どうしてハヤテばっかり出るのかなー?」
「日頃の行い?」
「ここ最近毎日宿題もやってるのにー」
それが普通なのでは? と私もアキルちゃんも思ってるがあえて口には出さなかった。
私としてはお姉ちゃんが率先的にやってるだけ偉いと思うが。
普段からズボラであることをここで打ち明ける理由もないもんね。
「はい、一旦休憩入れよっか。心得入手した人」
「はい」
「あたしもようやく」
二人して挙手。
私がビシッと手を挙げてるのに対し、お姉ちゃんは随分とくたびれている。
これが通常ヒットとクリティカルを出した者の違いだ。
「うんうん、二人とも筋がいいよ。普通は狙って出せるものじゃないんだけど。私も結構苦労したんだ。でも頑張って通しでやったらいけてね。もしかしたらこの連続でやることがスキル獲得に繋がるんじゃないかって思ってね。取得できたんなら何より」
「意外と根気のいる仕事なんだねー」
「どんな仕事もそうだけど、完成させるまでに失敗した素材を振り返ってばかりいては前には進めないものだよ」
アキルちゃんはいいことを言った風で私たちから、目を逸らしている。失った素材を思い出して気落ちしているのかもしれない。その気持ち、わかるよ。
成功するまでは失敗の連続だもんね。
「と、いうことで【採掘の心得】を入手した状態でもう一度採掘をするんだけど」
「ENないでーす」
「そうなんだよね。採掘はとにかく【ST】と【EN】をいっぱい使う。戦闘に参加してないのにこれだから、こういう場所に来る際は護衛を雇うのが基本だよ? ここはボールくらいしか出てこないから、召喚が非常に便利です。私はハヤテちゃんぐらいしか友達いないけど」
「あたしを忘れてもらっちゃ困りますよ!」
お姉ちゃんが前に出る。
「いや、トキちゃんは戦えないでしょ? 音楽によるバフがあっても、鍛治ではそこまで役に立たないし」
「そんなことないもん……ないよね?」
「音楽は受け取り手次第のところがあるからね。でもお姉ちゃんは集音得意だし、アキルちゃんにお得な音楽も作れるかもだよ?」
「さすがハヤテ! あたしを喜ばせるポイントをわかってる」
「姉妹だからね。弱点も心得てますよ?」
「そこは全て忘れ去ってねー。覚えてても対して役に立たないから」
「嫌でーす」
「あははは」
だなんて雑談を交わしつつ、幻想武器の持ち寄りで調理をする。今回必要なバフは【幸運】に【器用】。
ステータスみたいなものはないAWOだけど、それに似た効果を付与することは可能だったりする。
完成したのはたらこスパゲティ。
【錬金】の食肉加工でタラを獲得したので、お姉ちゃんからマーケットで購入してもらった食材でパパッと作っちゃう。
ドリンクは海の香りが漂うスープ。
別にサハギン化したりはしないけど、ワカメと玉ねぎの中華スープといえばしっくり来るだろう。
このチョイスにしたのは乗るバフに【ST消費軽減】と30分間【EN消費無効】がついてたから。
満腹状態が続くのが料理バフの良いところなのだよ。
でもこれ、つくのってスープ系が多いんだよね。
腹持ちのいい食事はステータス関連のバフがつくのだ。
「おいしー」
「ハヤテの料理はすごいんだよ!」
「あはは。私なんてまだまだだよ」
謙遜を挟みつつ。
満腹になったのでバフ効果が切れないうちにまたもや採掘に勤しむ。
「お、クリティカル発生!」
「おめでとう」
「幸先いいね」
取れるのは青銅鉱だけども。
石ころ脱却はお姉ちゃんにとっての嬉しいポイントでもあった。
「私も負けてられないかな?」
「ハヤテはもう少し手加減してくれると」
「えー」
「あはは」
クリティカルなんて狙って出せるものではない。
出てしまうものなんだ。
お姉ちゃんも持ったらいいじゃない『命中率アップ』。
『幸運アップ』があってレアドロップ入手率を上げても、抽選しなければ意味がないのにね。
先ほどと同じ時間で石ころを脱却したお姉ちゃんは、すっかりウハウハになっている。
うーん、ちょろい。
「じゃあ、ここらで青銅鉱をインゴット化してみよっか」
「おー、本格的な【鍛治】のお仕事だ」
「石は炉を使わないからね」
叩いて削ってそれらしい形にする。
だから出来上がるのは無骨だったり、ろくに加工もできなかったり、やたら重かったりするのだ。
けど青銅鉱からは比重が少し異なる。
それらで加工したアイテムの重さは80。
石より20も軽い。
けどリノちゃん的にはまだ重いようだ。
石の時に比べてムスッと感こそ出してない様に見えるが、不満ポイントも高い。
それがまだ加工したばかりで【細工】を施していないからだ。
リノちゃんは意外にもオシャレさんなので、無骨な指輪とか首輪はノーサンキューだった。
「リノちゃんは製品開発のいいバロメーターになるねー」
「本人は不服そうだけどね」
「その不服ポイントで、良し悪しがわかるんじゃないかー」
「あ、装備外し始めてる」
「やっぱりまだ重いんだよ」
「過剰装備も問題かもね」
「重さは何よりもバトルで影響するから」
「そんなぁ」
記念の第一号を送って気をよくしていたお姉ちゃんが咽び泣く。
だからこそここで満足してられないね?
お姉ちゃんを宥めつつ、私たちはファストリアの採掘ポイントを抜けてセカンドルナ付近の採掘ポイントへと赴く。
確かにミスリルならリノちゃんも気にいるだろうが、問題は私たちにそれを加工する腕がないってことなんだよね。
「ミスリル加工に必要な【鍛治】熟練度? 50からかなー?」
と、こういうことだ。
今ようやく10に至って、これから15を目指す私たちには到底手が届かない。
なので次の狙いは赤鉄鉱。要は鉄だ。
「鉄は加工しやすくていいのよー。合金に鋼もあるし」
「鋼って鉄からもできるんだ?」
「AWOでは二つの選択肢があるね。それが石炭と鉄の合金。砂鉄を溶かして形にするもの。こっちは玉鋼って呼ばれるね」
「同じ鋼だけど種類が違うんだ?」
「単純に手間の違いかな。あとは耐久が大きく変わってくる。長いこと扱いたいなら炭を使った合金でいいけど、粘り気を出したいなら玉鋼一択」
「粘り気?」
「武器に柔軟性を持たせることができるんだよ。例えばリノちゃんの扱う刀なんかは硬いだけじゃなく、しなやかさと粘り気を出して折れにくく曲げにくくするの」
「へー」
よくわからないが頷いておく。
こう言うのはダグラスさんが得意だ。
彼が近くにいたら色々教えてくれそうだな。
いや、すぐに自分の世界に入ってどこか行くな。
あの人は昔から人に合わせるのが苦手だったから。
思い出しながら苦笑する。
アキルちゃんに変な子だって思われちゃったかな?
話は続く。
なんでいったんスチールの話をしたかといえば。
今まで散々扱ってきたとのことだった。
合金の話は聞き齧った程度だけど。
要は成功率が恐ろしく低い。
とんでもない金食い虫だと言うことが発覚。
要は【錬金】から素材を1から作るようなものだ。
そのくせ、マーケットには出回っていない。
どう熟練度帯の【鍛治】餅が全部買い占めてしまうそうだ。
だからアキルちゃんは護衛を雇って何回も採掘しに行ったと泣く泣く答えてくれた。
とんでもない出費だったらしい。
予定外の出費って一番答えるよね。
「金持ちの道楽の部分があるよね、合金制作」
「そうなのー、素材が余って余って仕方がない人が挑戦する鉱石なんだけどね……なんと熟練度35~45まではそのレシピが占めてまーす」
「いずれ辿る道なんだ?」
「そうねー、それまでに稼げるフレンドなり、名前を売っておかないと全部自分で集める羽目になるね」
「成功する可能性の方が低いのに、素材の値段は一律だったり?」
「買えば高いから、今のうちに大量に掘っておくというのもありだよ。私が【冒険】を諦めて【鍛治】一本にしたのはそこ。ストレージに余計なものを入れておく余裕がないの!」
アキルちゃんの叫びは切実なものだった。
わかるよ、私もストレージには【調理】関連と【錬金】関連しかないもん。
スキルパーツはフレーバーアイテムだからストレージを圧迫しなくていいのが救いだよね。
だから今回はお試しで、そこまで本気ではやってない。
もちろん熟練度関連は本気だけど、あくまで自分達で装備を作れるノウハウを得るのがポイント。
ガチで【鍛治】にのめり込むまでは行かなかった。
お姉ちゃんは自分の楽器を自在に変えるノウハウを。
私なんかは調理器具を自分で自在に作れたらいーなーぐらいのものである。
「銅は加工しやすくていーわー」
「石に比べて柔らかいもんね」
「柔らかすぎて不安定にもなっちゃうかもだけど」
「ガラスより?」
「ガラスは【細工】関連の仕事だね。鍛治で扱うことはないよ」
同じ炉を扱う仕事でも【鍛治】は金属専門なのだそうだ。
「ドロップした素材の使い道って、どこで繋がるかわからないもんね。売っても大した価値のない素材。けどそれを活かすノウハウを得れば」
「ハズレだって嘆かなくても良い?」
「そういうこと。それにそれわ使う熟練度に至ってなくても、それまでに家事仲間を増やしておけば」
「その人を当てにできる?」
「今度から珍しい鉱石を手に入れたらアキルちゃんに頼ろっか」
「そうだね」
だなんて話で道中は盛り上がる。
さて、お次は鉄だ。
ファストリアの時とは異なり、ここからはボールの種類も変わってくる。
スワンプマンは、今日は出てこない。
色違いのボールも出なくて平和そのものだった。
やっぱりあれ、レイちゃんが関与してるよね?




