102話 生産日和
お姉ちゃんに呼ばれ、一緒に冒険する。
すでに合流していたアキルちゃんとハイタッチしながら挨拶を交わす。
「そういえば、今日お母さんは?」
いつもなら呼び出す前まで一緒にいるのに。
まるでまたどこかで見守ってるかのように姿を消している。
ルリおばちゃんは別に恥ずかしがり屋というわけでもないんだけど、アキルちゃんがいる手前隠れちゃったのかな?
「さっきまで居たよ。あ、アキルちゃん。改めましてフレンド登録してください!」
「んー、どうしようかなぁ」
それはそれとして、お姉ちゃんがアキルちゃんにフレンド申請。
そういえば私しかしてなかった気がする。
アキルちゃんて気難しいもんね。
「ハヤテが復帰するまでの繋ぎだから。ね?」
「それならば仕方ないか。ハヤテちゃんが元に戻るまでね」
「そこはこれから仲良くするところじゃなーい?」
「ペース乱してくるから、そこは追々かな?」
アキルちゃんは手厳しい。
お姉ちゃんはこれから頑張ってね。
「それじゃあ、あたしがリノっち呼ぶね? アキルちゃんは……」
「私、そういえばミルモちゃんとフレンド交換してない」
「だよねー」
知ってた。
お姉ちゃんは諦めの表情で笑った。
「ごめんなさい。せっかく頼ってくれたのに」
「私が呼べたらいいんだけど」
「ハヤテは今プレイヤースキル使えないでしょ? 今回リノっちだけで我慢しよっか。ミルっちはまたの機会ってことで」
お姉ちゃんはそう言ってリノちゃんを召喚する。
私はアキルちゃんと一緒に申し訳なさそうな顔をした。
正直、今回は私を呼んでるのでこれ以上は呼べないのだ。
今日はもうこれ以上遊ばないからOK、とお姉ちゃん。
それはそれで寂しいぞ!
「どうせ今日はバトルは無理そうだし、アキルちゃんの生産意欲向上のための召喚だし」
「え、今日はバトル無理なの?」
アキルちゃんが今日もミスリルを乱獲できると思っていたのか、ガックリとしている。
まぁまぁ、今日は違う目的で遊ぼうよ。
「今日はやめとこう。その代わり、あたしたちに生産のイロハを教えて欲しいな」
「あ、私も知りたい。実は色々スキルを変更できる道具を持ってるんだけど、なかなか使う機会がなくて」
「幻想装備じゃなくて?」
「そっちじゃないやつだね。一応そっちも使えるけど、また複数人必要なやつだと大変だから、どうせなら1から置き換えようかなって。今日は音楽しないで、せいさんにする日ってことで」
「あー、スキルチェンジャー。すんごいお高いという噂の」
「値段聞いてびっくりしちゃったよね」
一億って聞いてたのに、実際のお値段は10億なんだもん。
おじいちゃん、孫の前で見え張っちゃったのかな?
まぁありがたくいただくけどねー。
「でも多分、聞いたら欲しがるのは幻想装備かなー?」
「あー、それはわかる。でも適性ないと装備そのものが見えないっぽいんだよねー」
「そうなんだ?」
「うちのお母さんとアキルちゃんのお母さんには見えなかったらしいよ」
「謎だね」
「ねー」
そんなこんなでアキルちゃんが普段お世話になっている工房に顔を出す。
リノちゃんは私たちの後についてきた。
出会ったばかりの時の寡黙なリノちゃんがそこにいる。
そっか、私以外のAIってこんな感じだったんだ。
これはせっかく呼んでも余計に寂しく感じさせちゃうね。
「ここがファストリアにある鍛治工房だよ。基本的には他のギルドと同じ感じだね。マーケットで素材を買って、生産台で仕上げる。最初手をつけるのは石材がいいよ。購入費用安いから」
それをうまいこと加工できたら青銅、黄銅、鉄とグレードを上げてくそうだ。なんでその順なのかと聞けば。
「お値段」
「切実な問題だった」
「自分で採掘しに行けばタダだけど」
「正直、合間にバトルをする手間を考えると買った方が安い?」
「だねぇ」
アキルちゃんから鍛治に必要なスキルセットを教えてもらう。
まずは【鍛治】続いて【銀細工】、可能であるなら【革細工】もあれば嬉しいと。
「【鍛治】はわかるけど【銀細工】や【革細工】はどうして?」
「純粋に武器を作る上で鉱石を叩いて伸ばすだけじゃ完成しないんだ。例えば剣。鍛治で手がける部分はどこからどこまでだと思う?」
随分前に制作したと言われる見本を一つ。
それを指差ししながらアキルちゃんが説明をしてくれる。
「んー? 刀身?」
「あ、武器の本質だもんね。でもここの柄まで含めて鍛治じゃないの?」
「だったらいいんだけど、これを制作するのに必要な鍛治熟練度は15なの」
「えっ、剣は初級じゃないんだ」
「初級は果物ナイフなんだ。そこから、包丁、解体ナイフ、弓矢、杖、棍棒と派生していって、銀細工と革細工の複合でようやく剣なんだ」
「はえー、大変だ」
「ちなみにトキちゃんが使ってるハープなんかも鍛治で作れるよ」
「ほんと? 探してもここら辺じゃ全然売ってないけどまさか自作できるなんて」
「そりゃ、そんな見た目重視のロマン武器。趣味の領域に片足突っ込んでなきゃなかなか作らないよ。その代わり趣味の限りを尽くすから、お値段は製作者の言い値になっちゃうんだ。利益を出したい駆け出しはまず手をつけないよね」
「あちゃー」
そうなんだよね。
どのスキル構築でもそうだけど、熟練度を上げるのにはまず安定した収入を得なきゃ行けない。
一緒に遊んでるフレンドがそう言うのを集めてきてくれる場合はそこまで気にしなくていいかもだけど。
そうでない場合は自立する必要がある。
完全趣味で、サブキャラで遊ぶ場合はそれでいいかもだけど。
メインキャラ一本のみだと、まぁ大変だ。
遊びにかまけている暇はない、と言うのもわかる気がする。
特に【調理】は、素材まで自作するとどうしても【錬金術】が必須になるし。とんだ金食い虫だよ。
「でも自分で作れるようになったら、色々捗るなー。あたしは既存の形のしか知らないから、もっと変則的な形のも求めてみようかな」
「うん。楽器を作りには【銀細工】と【木工細工】が余計に必要だね」
「【鍛治】は?」
「鉱石をインゴットに加工するのは【鍛治】から派生する【錬成】が必須。【銀細工】単体でも【錬成】は派生するけど【鍛治】から派生するのよりやれることは少ないんだー。【錬成】とひとまとめにして言ってるけど【鍛治:錬成】は鉱石の加工。【銀細工:錬成】はインゴットの加工と工程が異なる。プレイヤーメイドのマーケットならインゴットから販売してるけど、ぶっちゃけお高い。安く買うならNPCのストアが便利。けど販売してるのは鉱石からでね」
「うわっ、それ最初に聞いてなかったら放り投げてた自信ある」
「うん。だからやりたいことを決める前にスキル情報は熟読しておく方がいいよ。WBOだったらここまで細かくしないけどね」
「そう! 【錬成】って武器の強化にしか使わないから頭がこんがらがる!」
「なんか大変そうだね」
「他人事っぽく言ってるけどハヤテも一緒にやるんだよ!」
「そうじゃん」
三人で笑いながら、前回手に入れた命のかけらをマーケットで……
「お姉ちゃん、私の代わりに命のかけら売ってくれる?」
「あー、そっか。今のハヤテはプレイヤーのシステム使えないんだった」
「なんか普通にコミュニケーション取れてるから忘れるよね」
「………」
「リノっちは出会った当初のような無口具合。昨日のムカムカリノっちの見る影もないというか」
「ムカムカ? リノちゃんはそんなに怒りん坊なの?」
「ちょっとライバル的存在の登場でね」
「あー、それは確かに気が気じゃないかもね」
「なお、お友達を別ゲーに誘いにきたので完全に敵視していた模様」
「それは切れても致し方ないよね。で、連れて行かれたのって?」
「ミルっち」
「あー、あの子かぁ。結果オーライなのでは?」
アキルちゃんはあっけらかんと言った。
正直、ミルちゃんとは相性良くなかったもんね。
でもお姉ちゃんからしたら、親友を悪く言われるのは気が引けたのだろう。
「ひどい」
「まぁ第一印象って大切だからね」
「うん。それよりも、今日は鉱石をインゴット化するんだよね? 早速やっちゃう?」
「よろしくお願いしまーす」
「お願いしまーす」
「よろしい。まずは素材の買い付けからね」
私は素材をお姉ちゃんに渡して、ストアで私の分まで素材の購入をしてもらう。
そして私は初めて調理以外の生産台を借りて鍛治に赴いた。
意外と面白い。
まるで音ゲーのようなリズムに合わせてハンマーを叩く作業。
「なんか随分形が歪んじゃった」
「上手だよ。販売はできないけど」
「うがーー」
「まぁそれは自分用の武器の練習にする感じかな?」
「お、ハヤテちゃんは失敗してもへこたれないね」
「【調理】はこの比じゃないほどの失敗を繰り返しますので」
「あ、【調理】はね。素材から手間暇かけて作るやつだし。素材購入費用も目玉が飛び出るほど高いもんね」
「そうなんですよー」
そこからは失敗談のトークで盛り上がる。
私の失敗を聞いて、自分のミスなど些細なものだとお姉ちゃんは次の錬成に挑んでいた。
最初こそ失敗ばかり。
しかし次第に形がまとまってくることで、ちょっとずつ楽しさを見出してきたようだ。
私たちは石で作ったアクセサリーを、召喚したリノちゃんに装備させた。普段が無口なのに拍車をかけて今は無口だけど、どこかしらムッとしてるのは気のせいかな?
多分気のせいだね。ヨシッ!