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Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『トップ4』<12日目・昼>

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101話 足りないメンバー

「トキー、そろそろご飯食べちゃいなさい」


「はーい」


「ブログ見たわよぉ? 相変わらず濃厚な1日を送ってるみたいね」


「まぁね。でもここから数日、そこまで濃厚な日々は送れないと思うなー」



 サラダをパクつき、離脱したメンバーのことを考える。

 今日のお昼は冷やし中華。

 私向けの酸味を抑えたタレが満遍なく麺に絡む。

 んまい。


 食レポをしながらも考えることは遊ぶメンツの脱退表明のことについてだった。



「あら、そうなの?」


「そうなのー」


「普段ならハヤテちゃんがいてくれて、そこで情報を交換できるんだけど、不在中はそこがわからなくてつらいわね」



 お? 告げ口かな。



「お母さんもハヤテ頼りなところあったんだ?」


「だってあなた、あんまり遊んだゲームのこと話してくれないじゃない。ワンダーなんとかってゲームのこと、お母さん聞いたことないわよ?」


「いや、だって私たちがどんなことをして遊んでるかなんて興味ないと思って」


「そんなことないわよー。私だって子供の頃からゲーム一辺倒で遊び倒してきてるんだから。娘がどんなゲームを学んでいるのか興味あるわよ?」


「そうなんだ?」


「実際、AWOについては子供ウケしないって確証を持っていえるから話したことなんてなかったけど」


「お母さんだって私に隠し事してるじゃん!」


「まさかトキに適性があったとはねー」


「ハヤテが導いてくれたんだよ。だから私はあそこでの楽しみ方を知った。知るまではどこに面白要素があるのって疑問ふを並べてばかりだったのは事実だね」


 ずずー、ちゅるん。

 最後の麺を啜り、皿の端に寄せられた細く切ったきゅうりやハム、錦糸卵などを咀嚼していく。

 一緒に食べないのかって?

 麺は麺のまま楽しむタイプだっているのだよ。


「それで、お昼の予定は?」


「美流っちが他のことに急遽取り組むことになったから、ハヤテ呼んで何かする予定ではいるよ?」


「お、召喚システムで遊ぶのね?」


「もうすでにハヤテを含めて遊んでるけどね」


「ハヤテちゃんは中身入ってるから、あれを基準にするのは違うんじゃないかしら? プレイヤーは日に三回までしか呼べないから配分を考えなさい?」


「あ、そうだった。じゃあハヤテ呼んじゃうと、残りは自ずと一枠になるわけだ?」


「そうねー。他の子が代わりに呼んでくれたらわからないけど」


「その手があった!」


「アキルちゃんとは今日遊ぶ約束をしてるのかしら?」


「あ、してない……」



 そうじゃん、お昼は普通に美流っちと遊ぶから誰とも約束取り付けてないじゃん!

 完全に失念してた!



「昨日はゴタゴタしてたものね。わかったわ、お母さんから今日のご予定があるか聞いてみるわね?」


「おねがーい」


「全然いいわよー。アキルちゃんと遊んでくれるように頼んだのはお母さんの方だから。今日はバトルメンバーがいないから、生産一辺倒になっちゃうかしら?」


「多分ね」


 アキルちゃんと遊んだ時の記憶を思い返す。

 あれ、結局バトルしたんだよね?

 レイちゃんが参加して、なんだかんだ手の形をしたモンスターを討伐して。

 確かスキルパーツを手に入れて……


 そういえばあれって誰かに渡してたっけ?

 莉乃っちに渡すとは聞いていたけど。

 ここ数日のゴタゴタで忘れてそう。

 私も記憶の遥か向こうに追いやってたし、無理もないか。


 そしてログイン。

 いつもなら待ってれば誰か来るけど、今日は誰も来ないことが決定している。

 

 見慣れたファストリアの街も、今日はどこか雰囲気が違うような気がした。

 以前までならハヤテが居て、あれこれ指示出ししてくれたけど。今はひとりぼっち。



「お姉さん、一人?」


「人待ち中だよ」


「じゃあ、それまでお話ししようよ。そこの喫茶店で」



 軽薄そうな男が話しかけて、嫌そうな態度をするもまるで引いてくれない。

 ハヤテが居た時はこんな風に話しかけてくるプレイヤーもいなかった。いや、あれはレイちゃんが居たからかな?

 レイちゃんが脱皮する前は普通に距離置かれてたもんね、あたし達。



「じゃあ、いいよ。あなたの奢りなら」


「っしゃ! じゃあ早速」



 乗り気なプレイヤーには悪いけど、そこは行きつけのカフェだった。



「いらっしゃいトキちゃん」


「こんにちはシズラさん」


「お、今日は彼氏連れかな?」


「リノっちには内緒ね?」


「なんだ、シズラさんの知り合い? 人が悪いなー」



 結構この道で鳴らしているのだろう。

 随分と顔の広い男の人だなって思う。



「でもそっか、あんたは知らないのね。その子、アキカゼ・ハヤテの身内よ?」


「ゲッ!」


「ゲッって何? 流石に傷つくんだけど」


「じゃあ、手をつけちゃったら?」


「アキカゼ・ハヤテを偲ぶ会、精錬の騎士、精巧超人、漆黒の帝、餓狼の遠吠え、AWO飛行部、AWO登山部、素材調達班、乱気流、鳥類旅行記、猛獣の牙、迫真武侠があなたを必死に探すことでしょうね」


「ちょ、まwww このゲームの根幹を担うクランばっかで草も生えないんですがwww」


「それはそうでしょうよ。それよりもトキちゃん、今日他のメンバーは? リノは塾でお休みなのは知ってるけど」


「みんな他にやることができちゃってね。アキルちゃん待ち」


「そうなのね。それまでうちで何か食べてく?」


「実はこの人が奢ってくれるって……」



 振り向けばもう誰もいない。

 勝てない相手には挑まないのか、逃げ足もすごく速かった。



「すでにログアウトした後みたいね」


「なんだ、口ばっかりじゃない。今日は完全に奢ってもらうつもりだったのに」


「ナンパなんてそんなものよ。でも意外ねー、トキちゃんてそういう手合いはひどく嫌うものだと思ってたけど?」


「普段はすっごい嫌!」


「あはは」


「でも、急に周りから人がいなくなっちゃうと寂しくなっちゃってね。普段なら突き飛ばす相手にも縋りたくなっちゃったっていうか」


「ハヤテちゃんは?」


「まだ帰ってきてないの」


「そうなのね。リノからある程度聞いてるとはいえ、やるせないものね」


「召喚で呼べば来るんだけど」


「ねぇ、後出しで情報を出すのやめて。今すっごい同情してたんだけど」



 シズラさんはズルッとその場でコケかけていた。

 


「いやいや、すぐに呼ばないのは切実な問題があってですね」


「召喚権ね。確かに午前に一回使っていたら今は二回使えるけど、午後にもう一度使うときに困るってことか」


「そういうこと。夜はゲームで遊ばないっていう家庭のルールはあるんだけど、もしかしたら強制ログアウトさせられて再度ログインすることもあるかもだから」


「そうね。このゲームは死んだらログアウトだから、そこを気にして動くのはなんら間違ってないわ」


「うん、だからアキルちゃんが来てから呼ぼうかなって」


「じゃあ、そうね。ドリンク一杯だけなら奢ってあげる」


「えー、軽食もお願いします!」


「どれだけお腹空いてるのよ。ハヤテちゃん呼べばいくらでも食べ放題でしょ?」


「それはそれ、これはこれ! 現に今ハヤテはいないので、なんとかなりませんか?」


「でも、呼べば来るんでしょう?」


「呼べば来るけど今はいないですよね?」


「くっ、なんて子! やはりお姉さんというだけあってハヤテちゃんにそっくりね」


「そりゃあ、仲良し姉妹ですから!」



 そうだ、私とハヤテは姉妹なんだ。

 だからあたしのところに早く帰ってきてね。

 ずっと待ってるんだから。


 またホイホイ知らない男の人について行っちゃわないように、あたしを守ってね!



「あ、トキちゃん」


「アキルちゃん、やっほー」


「ドリンクだけで十分だったみたいね」



 待ち合わせ相手が来たことで、シズラさんが退席を促す。

 だがあたしのバトルフェーズはまだ終わってないんだなー。



「まだわかんないよ? アキルちゃんもお腹空いてるかもだし」


「この、何がなんでも食べていくつもりね?」


「ごちそうさまです。アキルちゃん、こっちこっち。シズラさんがお昼ご飯奢ってくれるって!」


「え、なんかすいません」


「言ってないんだけどなー?」



 その後しっかりパスタやオムライスなどを頼んでENを満タンにしつつ、今日の予定を決めた。

 アキルちゃんは愛も変わらずミスリル掘りに夢中のご様子。


 そこで召喚メンバーを誰に割り振るかを決めた。

 ハヤテはあたし。リノっちもあたし。

 アキルちゃんにはミルっちの召喚を促した。


 召喚キャラのAIはすでにサブキャラ以外のハヤテで確認済みだ。今回リノっちを呼んだのは、護衛の他にアキルちゃんの創作欲を促すためのモデルとしての役割も果たしてもらうためだった。



「やっほー、お姉ちゃん」


「やっほー、ハヤテ」


「ハヤテちゃんでいいの? AIとかじゃなくて」


「そうだよー。なんでかゲーム内に閉じ込められちゃってね。それで、今日は何をして遊ぶ?」



 いつもの流れで、でも主導権を握るのはあたし。

 みんなが耳を傾けて、あたしの言葉を待っていた。


 たまにはこういうのもいいね。

 いつもはハヤテに任せきりだもん。

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