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超越の恋呼  作者: 葵尉
9/14

手話と筆談

8話 手話と筆談


「こんちわノリ先生」

「こんにちは。今日は君が一番ですね」


 本当はお前より早く来たかったんだよ。せっかく早く給食をごちそうさま出来たのに。でも、こいつと2人きりになれたのはちょうど良かった。


「ノリ先生は相沢って知ってる?」

「あいざわ・・・あいざわくん? 君と同じ4組の?」

「そうそう。相沢大翔」

「最近は図書室へ来ませんが、低学年の時はよく来ましたよ。それこそ今の遥と君のように」

「遥と仲良かったの?」

「いえ。彼も彼で引っ込み思案なタイプでしたから。ただ、時々2人が一緒にいるのを見ましたね」

「やっぱあいつもいじめられてたのかな」

「・・・それは分かりませんが」そう言いながら廊下の方を気にしだしたノリ先生。誰かが来るのを察知していた。俺にも誰が来るかは分かる。もちろん遥だ。


「こんに ち わ!」

「元気だな遥」

「遥は毎日ここで君と会うのを、楽しみにしているんですよ」喜ぶ遥を見て、自分のことのように幸せそうな顔をするノリ先生。挨拶を交わした2人は例のように手話を始めた。2人の間に入れない俺は本棚の方へ向か──「拓馬くん。さっきまで私と何を話していたか、遥が教えて欲しいそうですよ」


 やっぱり遥も気になるんだ。俺も手話で2人が何を話しているか知りたいもん。でも、相沢の話は正直には言えないな。


「ノリ先生にオススメの本を聞いてたって言って」と、言ったがその通りにあの人が伝えてくれているのかは、手話が分からない俺には確かめようがない。ただこの大人は、さらっと嘘をつけるように見えないんだよな。頭は良さそうだけど。


手話を終えた2人。すると遥がとある本棚を目指して走る。棚から1冊の小さな本を取ると、犬のようにこちらへそれを持ってきた。空色の頭を撫でてから本を受け取る。その本のタイトルは『星の王子様』。月らしき天体の上に、浮遊する男の子の絵が描かれている。とても可愛い絵柄。まるで絵本の表紙。


「これは?」

「それが私のオススメの本ですよ」


 ・・・さらっと嘘つけるんだなあんた。ほんのちょっとショックだわ。そんな人がおすすめする本がこれか。


「星の王子様。なんとなく、ノリ先生らしいよ」その1冊の本を俺と遥は一緒に読──

「私も混ぜてください」

「いや、冗談だろ」

「なら遥に聞きま──」手話が分からない俺でも遥がNOと言っているのがわかった。だって腕でバッテン印を作っているからだ。


「しょぼん」ノリ先生は両肩を落として子供のように落ち込む。

「だからそれやめろって」

「にじゅ う はち」

「ほら~。遥に歳言われてんぞ」


 嘘はつくけどそれも含めて、こういうところは良い先生だと思う。教員免許を持っているのか知らないけど、免許なんてもの以上に、教師に必要な物を持って────どうしてこの人は司書なんだろう。本当に教師を目指せば良いのに。でも、そういう質問をするのはそう、怖い。返ってくる答えが必ずしも、俺が思っているような物とは限らないから。 


 

 今週も学校が終わって、楽しみな土曜日がやってきた。先週の約束通り、赤葉センター図書館へ俺と遥はやってきた。まだ2回目だけどもう慣れた気分。駅から図書館への道も、遥の後ろではなく、横に立って歩いた。もうガイドがいなくても歩ける。


 今日もいい天気だ。雲なく、カラッと晴れている。外で動きたくなるけど、図書館の中は人でいっぱい。それでも静かなのがここの魅力。


 遥が借りていた本の返却を終えると、今回もまずは本棚巡りの始まり。図書館と言うとほとんど、難しそうな本ばかりのイメージだった。だけど雑誌とかもたくさんある。懐かしい絵本だったり、聞いたことある漫画だったりもある。読んでみようかと思ったけど、今それらを読むのは少し照れくさい。素直な遥は自分が気になった本を片っ端から取っていく。

 

 俺はいつの間にか遥が読む本を持つ係になっていた。小説、絵本、漫画・・・小説、小説、小説と色々持たされて、もはや本の重さじゃない。けれど、次はどんな本を取るんだろうって俺は気になっている。これで最後と遥がとったのは厚い本。辞書かと思ったそれは動物図鑑だった。寄りにもよって本の中でも重たい図鑑が最後。にしてもこの見覚えのある図鑑、俺の家にもあったような気がする。


 本がいっぱいで既に幸せそうな顔をしている遥は、3階の席へ向かった。やっぱり図書館での遥は足取りからしても学校と違う。階段を上がるのもあっという間。

 先にどこかへ行った遥だったが、俺が3階につくとすぐに戻って来て、席の方を指差す。なんだろうとそちらを見ると、横にいる遥が指で小さなバッテン印を作っていた。なるほど、席が空いていないってことか。わざわざ見に行ってくれたんだな。しっかし困った。席は探せば良いけど、この重たい本たちを早くどこかに置きたい。


「あっ ち」

「ああ、向こうね」案内されてやってきたのは子供用の読書スペース。でも2階の席とは違って幼児ではなく、小学生や中学生くらいが座る椅子だ。席の数は少ないけどちょうど2つ空いて──


「あら、あなた図鑑も読むのね。もしかして舞姫は難しくて読めなかったのかしら?」聞き覚えのある声は、俺が今まさに座る席の正面にいた。例の長い黒髪の女。俺たちと同学年くらいのやつ。先週のやつと同一人物だと確信した俺は「・・・あぁ?」と、睨んだ。しかしこいつには全く効果がない。今週も出会うとは、なんの運命だよ。とりあえずこういうタイプは無視するのが──


「隣の女の子は、あなたのエリスと言ったところかしら」


 もしも人目がなくて、俺とこいつしかいない空間だったら俺は、こいつを殴っていたかもしれない。そんな怒りがぐわっと湧き上がった。その怒りを噛み殺して、代わりに彼女の目を見て訴える。


「──取り消せ。遥はそんなんじゃない。それに、男だ」


 彼女は俺から目をそらした。細くなったこいつの目は俺の隣、遥を凝視する。それくらい、遥のことを男だと理解するのに時間がかかった。


「・・・なーんだ。そうだったの」


 男だと分かってからは俺たちへの興味が薄れたのか、黒髪の女は自分の手元の、ぶ厚い本を開いた。俺が持ってきた図鑑より厚い。何かと思ったが、本の表紙を見て納得。彼女が読んでいるのは漢字辞典。こんなにたくさんの本があるのに、読むのが辞書って・・・ほんとに変わってんな。

 

《この人、拓馬の友達?》

《いや、知らない人》

《辞書を読むなんて、不思議な人だね》

《関わらないようにしよう》

「なにしてるの?」そろそろ話しかけてくるだろうと、思ったちょうどその時。こちらを覗いていた黒髪女は会話に割り込んできた。念のためにメモ帳を守るように隠した。


「な、なんでもねえよ。てかお前こそなんなんだよ」

「私は、かみきりん」超ハッキリとした声での自己紹介。学級委員でもやっているのか?けど、別に名前は聞いてないし。質問もそう言う意味じゃないし。しかし彼女の自己紹介は止まらない。


「かみきの漢字は上杉謙信の上に、植物の木。りんの字は、私のようにリンとした人間に相応しいリンよ」


 一部にイラっとする説明があったけど、分かりやすい。りんの字はどうせ凛だろう・・・上木凛か。頭の中で並べたその漢字、思い当たる人物はいない。やっぱり知らない奴だ。


「それよりさっきあなた達がやってたのって、筆談でしょ?」

「なんだ。知ってんのかよ」

「あなたはどうして手話を使わないの? ひょっとして覚えていないの?」


 上木は俺を煽ったつもりはないだろう。普通の口調だった。そこまで分かっていても、俺は大声を出したくなった。


「べ!・・・別に、良いじゃんかよ。お前に言われる意味がわかんねえ」


 再び思う。ここが図書館で良かった。図書館だから感情をセーブできた。これでもまだ冷静でいるつもり。けど、落ち着かない物は落ち着かない。もうこれ以上は、お互いのために関わらない方がいいだろう。


 何も言わず、書かず、俺は遥の腕を引っ張った。驚いた顔でこちらを見る遥の目に、俺の顔はどう映っているだろう。なるべくいつも通りを装って、なにもなかったフリをして、俺たちは別の席へ移った。向かったのはすぐそこのじいさん達の群れ。ちょうど空いていた席に座る。少し心が落ち着くまで離れるだけだ。


《ごめん遥。さっきの女子がちょっとうるさくてさ》

《大丈夫だよ。むしろ気がつけなくてごめんね》


 遥はどこまでも優しいな。どうしてか、文字で見ると余計に申し訳なくなる。


《遥は謝らなくて良いんだよ。そういうのは全部俺が──》書いていたメモ帳が突如、糸で引っ張られるように手元から頭上へ上がっていく。見上げると前に座っていたおじいさんが、それを持って立っていた。クラシックを優雅に聴いていそうなおじいさんの顔が、鬼の面に変わっていく。その怒りを曲で例えるなら、新世界よりワルキューレが騎行して来そう。いや、雷鳴のごとく運命の音色が──


「ここは本を読むところだ! 小学生のくせにこの注意書きが読めんのか!」

「え、あっ、と・・・」


 机の中央に置かれたプレートには確かに〝ここで勉強をしてはいけません〟という注意書きがある。だけど俺たちは勉強をしていたわけではない。俺たちは──


「おまんら今このメモ帳で勉強しとったろ! 勉強はよそでやらんか!」

「違います! 俺たちは筆談を」

「屁理屈を言うんじゃない!!」じいさんは取り上げた俺のメモ帳で机を叩いた。〝バチン〟と、鞭のような音をならしたメモ帳は、彼方へと飛んでいく。手を伸ばしたが届かず、見送ることしか出来ない。

ごめん遥。俺のせいで、俺が手話を覚えれば──


「ちょっと、そこのおじいさん。図書館でそんな大声を出してはいけませんよ」突如、救世主の如く現れた凛とした声。机の横に立っていたのは長い黒髪の少女──向こうの席で、漢字辞典を読んでいた|上木凛だ。彼女の片手にはたった今飛んでいったはずのメモ帳。


な、なんでこいつがこんな、まるで俺たちを庇うようなことを・・・。


「今度はなんじゃ! おまんも子供のくせにお年寄りに反抗しおって!」

「図書館では静かにする。お年寄りのくせに知らないんですか~?」


 上木の口調は挑発していた。こんなことをしたら、大人に怒られるに決まっている。しかし周りの視線は彼女を援護していた。他の席のおじいさん達は何か言うわけではないが、怒っている老人に目で静かにするように訴えている。


 味方だと思っていたであろう他の老人に裏切られ、数的不利になったおじいさん。「なんでだ!」と言いたげに口を噛み締めて、顔のしわを深くする。革命のエチュードでも流してあげたい。周囲を不満げな顔で眺めると、彼はどこかへ去っていった。なんとかなったかと、思ったその時、今度は俺たちに周りの視線が集まった。だけどそれは嫌な視線ではなかった。


「君たち小学生なんだろう? 今の時代に図書館に来て本を読んで偉いじゃないか」

「確かにあのじいさんの言うことは正しいかもしれんが、言い方が悪かった。気にせんことだよ」

「そうそう。別にちょっとくらい、それこそメモくらいで怒る人はおかしいよな」


 素直に「ありがとうございます」とは、言えなかった。そう答えるのはなにか違うと感じた。ごめんなさいと、言うのも違う。なんとなく、頭は下げた。そうして視線が静まるのを待った。このまま席に着こうと思ったが、どうも気まずかったので、人がいないところを目指す。遥も俺のそんな気持ちを察していたのだろう。手を引かなくても一緒に来てくれた。


人目を避けてとりあえずここで良いかと、立ち止まったのは辞典の棚の前。ここなら誰もいな──


「ねえあなた達、いったいどこまで行くつもり?」

「か、上木!? 驚かせんなよ。てかなんで」


 当然のように後ろをついて来た黒髪の女。お化けと勘違いして俺は、大げさなリアクションをしてしまう。


「なんでってこれ、あんたのでしょ」差し出されたのは確かに俺のメモ帳。先ほどの衝撃のせいで、少し折れてしまったようだ。でも、ページはちゃんと残っている。


「ありがとう。メモ帳もだけど、その、」

「ありがとうくらいさ、手話覚えたら?」

「──え? 上木も耳が聞こえないのか?」

「あんた、天然なの?」

「なんだよ。どういうこと?」

「ありがとうとか、そのくらいは手話で言えたら、その子も嬉しいんじゃないの?」

「そう・・・」だな。その通りだ。


 遥を見た。今も困惑している表情。学校で見たことがある顔。なんともないよと、勝手な意味を込めて頭を撫でる。


「遥、ごめん」

「ごめ ん?」

「うん。ごめん」ごめんも手話で言った方がいいのかな。いや、きっとそうなんだろうな。上木の言う通りだ。


「すごいね遥くん。耳が聞こえないのに分かるんだ」 

「あぁ。おはようとか、そういうよく使う簡単な一言は分かるみたいなんだ」

読話(どくわ)か~。でもあんたも凄いね」

「な、なにがだよ」

「だって、耳が聞こえないなら、話かける必要ないじゃん?なのに話しかけるって、私なら勇気がいるなって」


 それは一歩間違えれば俺たちを侮辱して、俺に殴られても仕方のない発言。でも上木の口調は、さっきのおじいさんに言ったような挑発的な態度ではない。ある種のリスペクトを俺たちに持っているように見えた。おかげで俺も彼女と真剣に話すことが出来る。


 「なんていうか俺はさ──耳が聞こえないことが、声をかけない理由にはならないと思うんだ」


 変なことを言ったつもりはない。だが上木は俺を見たまま黙り込んでしまった。予想以上に黙るから、俺が自分の発言を疑い始めた時──彼女は「やるじゃん!」と言って、俺のおでこにチョップをした。


「な、なんだよ急に!」

「あんたのこと見直した。豊太郎より良い男じゃん!」

「豊太郎よりってそれ、嬉しくねえよ」2人でクスクスと笑っていると、袖を引っ張られる。振り返ると遥がメモ帳を掲げていた。ページには《僕にも教えて!》と大きく、強く書いてある。ああ、申し訳なかったと、思う気持ちの裏で、嫉妬をしているかのような顔が少し嬉しかった。


「なんか私お邪魔みたいだから、またね2人とも」

「あ、おう。ありがとう上木」

「私いつでもここにいるから、いつでも来なよ~」そう言って上木は黒髪を揺らしながら、人混みの方へ向かった。いつでもいるって毎週ってことか? あいつも学校行ってるだろうし、そうだよな多分。


《あの人なんだって?》


 上木凛という名前に加えて、さっき助けてくれたことなどを遥と共有した。遥は終始気に食わなそうな目つきをしていが、恩人ということもあり、あいつのことを完全に嫌いにはなれないようだ。


《拓馬、僕はね》

「ん?」

《確かに手話を覚えてくれたらありがたいけど、僕は》

「うん」

「拓馬に話しかけてもらうのが、嬉しいんだ」遥は言った。守ってあげたくなる笑顔で遥は声に出していた。遥の声が自然に聞こえた。暖かい風に乗った優しい声が、俺にそよいだ────そんな気が、しただけだった。

 ほほを叩いて目を見開くと、やはりメモ帳に《拓馬に話しかけてもらうのが、嬉しいんだ》と書かれている。つまり今のは幻聴、だったのか。俺、そんなに疲れてないと思うけど。


《どうかしたの?》

《大丈夫。なんでもないよ》

《2階の席で休む?》

「・・・う、うん」気のせい──だったのか。あれは幻。いや、俺の妄想。だとしても、今一度そんな気のせいを味わえないだろうか。


 ──ねえ神様。奇跡を起こして欲しい。奇跡が起きて欲しい。分かってるよ。どうせ、俺なんかに奇跡は起こらない。俺なんかが奇跡を起こせるわけがない。ならせめて、さっきのような勘違いを積み重ねたい。幻聴妄想夢なんでも良い。そうしてでも俺は、遥の声を聞きたい。遥の自然な声を聞きたいんだ!



 図書館から帰る前に、俺は赤葉図書館の利用カードを作った。紅葉柄のカードは、ただ持っているだけでもおしゃれでいい感じ。でもカード作った理由はちゃんとある。借りたい本があったんだ。この、手話の本を。まさに初心者向けのやつを借りた。


 遥は俺に話しかけてくれるのが嬉しいと言っていた。だからこれからも声をかける。ただその時に、一緒に手話を出来た方がやっぱり良いと思った。それに、上木が言っていたようにありがとうくらいは、手話でも言えるようになりたい。


《借りられた?》

「うん。借りれたよ~」


 OKと指で返事をすると、遥はなんの本を借りたのか背を伸ばして覗いてくる。俺は、努力みたいなものは人に見せたくない。だから手話の本だけ先にカバンにしまった。代わりにと見せたのは、カモフラージュ用に借りた本。とは、言ったけど一応シートンシリーズは読もうと思った本だ。遥のおすすめみたいだし。


《遥は何借りたの?》聞き返すと遥は持っていた本を急に抱きしめて隠した。なにを借りたのか気になるけど、そんな見せられないような本なんてあったかな。さりげなく遥が持っていた本を覗いてみると、1冊だけ他の本より薄い物があった。絵本のようなサイズにも見える。ひょっとして、絵本を読んでいることを、知られたくなかったのか?俺も隠している物があるし、気持ちは分かる。気にはなるけど、無理に確認する必要もないので、そのまま図書館を後にした。

 

 歩く遥の小さな背中。帰り道の遥の顔はやっぱり、先週見たように元気が──《来週も行きたいな》

 

 唐突に突き出されたそのページ。書かれていたのは、予想外のメッセージ。来週をイメージすると、胸が熱くなって気分が上がる。これからの1週間が一気にイージーに思えた。


「いいよ! OK!」


 俺のサインを見た遥は、両手を上げて夕陽へジャンプ。服も舞い上がって、おへそが顔を出すくらいに跳んだ。ただ約束をしただけなのに、まだ来週になっていないのに、こんなにも嬉しそうにしてくれるなら、嘘をついてでも約束をしたくなってしまう。


 いっそのこと、毎週来るルールにしちゃおうかな。そうしたら遥はもっと喜ぶと思うし。でも、それを言うのは来週の帰りにしよう。遥が図書館に行くのを楽しみにしているように、俺も遥の笑顔を見るのが楽しみなんだ。だから来週までその楽しみをとっておく。俺が来週まで頑張るために。


 家に帰るとこちらも先週と同様の光景。買い物帰りの父さんと母さんが、冷蔵庫の前で楽しそうにしている。

 

「おかえり拓馬」

「たっくん今週も図書館?」

「まあね〜」

「お?何か本を借りたのか」

「試しにちょっとだけ」

「図書館って雑誌もあるわよね。今度母さんとも行こうよ」

「なら父さんも一緒に行こうか──」

「遠慮しとく。てか早く卵しまいなよ。また落とすよ」


 全く。俺だってもう子供じゃないっての。いつまでも親と一緒に────ふと、思った。俺は遥と一緒じゃないと図書館に行かないのでは?恥ずかしいという感情抜きにしても、両親と一緒に図書館へ行くのは嫌だ。だってそれなら、もっと楽しいところがいい。映画館とか、回転寿司とか、サッカーとか。なのに、遥とは図書館に行くんだよな俺。 やっぱり俺、本より遥なんだ。


 これってどうなんだろう。普通のことなのかな。みんなも友達同士なら、普段行かないようなところに行って楽しむのか? 友達のことをこんなに意識するものなのか? 俺ちょっと、遥のことを考えすぎ?

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