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超越の恋呼  作者: 葵尉
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気持ちの伝え方

5話 気持ちの伝え方


────遥と出会って1週間が経った。後に思い出と呼べるようなものがほんの少しずつ、それこそ塵のように積もっている気がする。メモ帳も今使っている物で8冊目。自分でも信じられないほど、メモ帳を書き尽くしている。この全てが勉強ノートだったらと思うと、頭がおかしくなりそう。


 朝も帰りも一緒に通って、学校でもお昼休みは一緒。学校の人間とこんなに同じ時を過ごしたのは、人生で初めてかもしれない。小学6年生にして初めて出来た本当の友達。おかげで今は毎日が楽しい。──ただ、全てが全て良いわけではない。耳が聞こえない遥をいじめるやつが、やっぱりいるんだ。


 小学生ってのは、少しでも周りと違ったりするといじめの的になる。俺もいじめられたことはあるから分かるんだ。そんでもっていじめをする人間は、暴力をふるったり、物を隠したりすることにそれほど罪悪感を抱いていない。遊びの延長としてやっているから、たちが悪い。けどそのための友人なんだ。俺が遥を守る。いじめなんて何の意味もないんだってことを、分からせてやる。


 当の遥はというと、そんなことはどうでも良いという感じで、今も幸せそうに俺の正面の席で本を読んでいる。遥はそれで良いよ。この顔を見ると俺は救われる。争うのがバカバカしくも感じる。


「こんにちは拓馬くん。今日も早いですね」

「なんだノリ先生か。あんたも暇だね」

「いや、あの、私これが仕事ですから」

「昼休みくらい休めば良いのに。どうせ本を借りに来るやついないんだしさ」

「それでも来れる時は、なるべくここにいたいんですよ。職員室はどうも苦手で」


 彼は司書の席には座らず近くの椅子に座った。小さく感じる椅子が潰れないか心配だが、先生は自分の席のように座る。と、同時に遥と手話で何か話していた。挨拶だろうか。


 手話。いい加減俺も覚えた方が良いんだろうな。でも今のままでも不便はないし──


「そうだ拓馬くん。今度の土曜日空いてますか?」

「まあ、予定なんてあっても塾くらいだけど、なんで?」

「遥くんと遊ばないかと思いまして」


 両手で持つ本から顔を半分出して、こちらを覗く遥。とても可愛い笑顔をしているんだろうと、その青い目を見れば分かった。そんな笑顔を曇らせるわけにはいかない。でも──


「でも俺、遥となにをしたら良いか分からないよ」


 そもそも友達という存在と遊んだこともないから、こういうことは分からない。ゲームをすれば良いのか? でも音が聞こえない遥はそれで楽しいのか? 公園で俺が好きなサッカーに付き合わせる?いや、遥は絶対退屈だ。かといって昼休み同様にこうやって過ごすのもなんだか申し訳ない気がする。


「そんなに悩むことないですよ拓馬くん」

「な、なに笑ってんだよ!」

「いや~。だって君がそんな真面目な子だと思わなくて」

「うるせえなパチモン教師!」

「遥は君と図書館に行きたいそうですよ?」

「図書館に?遥がいつそんなことを」

「さっき聞いたんです」


 ああ、手話か。分かっていたけどやっぱり便利だ。手話を知らない人からしたら、何を話しているか分からないんだもん。全く、この先生は余計なことしやがって。遥もコソコソしないで俺に言えば良いのに。

 そんな視線で2人を睨むと、俺を仲間外れにしたことを申し訳なさそうに頭をかいていた。


「冗談だよ遥。行こうぜ図書館」遥に俺の声が聞こえないのは分かっている。でも言葉は気持ち。だから行動でも伝わると思った。遥の頭を撫でれば、言葉がなくても伝わるかなって。目を見ると、遥はなんども頷いて了解の返事をしてくれた。それにしても・・・綺麗な髪だな。何度見ても思うよ。さらさらの空色の髪。守ってあげた──


「もし良ければ私も図書館に行きましょうか」

「いや、あんたは良いや」

「しょぼん」

「・・・あんたいくつだよ」

「28です」

「良い大人のくせにキモい言葉使うなよ。こっちがしょぼんだっての」


・・・キモいは言い過ぎたかな。無言で小さな椅子を離れるノリ先生。彼はそのままうつむいて本来の司書の席へ向かう。


「なあノリ先生。冗談だよ」


 軽く振り返った彼はさわやかな笑顔で「分かっていますよ?」と、一言だけ。その笑顔を見て俺は手話で〝殴るぞ〟をどう言うのか調べようと決めた。 

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