表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超越の恋呼  作者: 葵尉
14/14

夢 

13話 夢 


 俺の前の席が空いていることが当たり前になりつつある。みんなの頭の中はもう、夏休みのことでいっぱい。宿題も配られ始めて、来週学校に行けば夏休みが始まる。普段みんなと気が合わない俺も、こればかりは同じ気持ちだ。


 学校に行かなくて良いから嬉しい──と、去年まではそう思っていた。でも、今年は違う。今年の夏は遥と一緒だ。過ごそうと思えば毎日ずっと、遥と一緒にいられる。それを考えたらワクワクせずにはいられない。今だって例の通り図書室に遥といるけれど、それとは違う日々がやってくる。毎日がこんな風に楽しくなるなんて、遥と出会って感謝がとまらない。


 夏休みに備えて、というわけではないけれど、簡単な一言程度の手話も覚えた。それでもメモ帳のページは、どんどん文字に流されていく。今使っているメモ帳が何冊目なのか、数えることはもうやめた。逆に、減ったものといえば、遥への嫌がらせだ。

 

 俺と過ごしてたった3ヶ月程度とはいえ、俺が見た感じは減っている。むしろ最近は俺の方がターゲットになっていることも多いのかな。それは、そのままで構わない。遥の笑顔が見られるなら、自分が嫌なことをされても何ともない。こいつが笑っていれば俺たちの勝ちなんだ。


《何を読んでるの?》


 持っていた本の表紙を遥に見せる。失礼なことにタイトルを見た遥はくすっと笑った。笑われた理由は分かっている。見せた本が俺には似合っていないと、思っているんだろう。


 今読んでいた本は『カマキリ国の魔法の指輪』という小説。絵本のようなタイトルだけど、これでも一応小説。カミキリムシ国と戦争をすることになった、カマキリ国の王子の物語。主人公の自分勝手なワガママ王子が、なんでも願いを叶えてくれる魔法の指輪を探す内容。色々あって王子がその指輪で戦争を止めて、平和に終わるというありがちなハッピーエンド。


 設定も挿絵も絵本っぽいくせに、意外と真面目に戦争とか、平和について書かれている。それでもシリアス過ぎず、最後も魔法の指輪で戦争を解決──というファンタジー的な終わり方で読みやすい。わがままだった主人公が、国のことを考えるように成長するのも面白かった。好きなタイプの主人公だし、ここ最近読んだ中では当たりかな。


〝遥は?〟手話で何を読んでいるのか聞いてみると、遥も同様に本の表紙を見せてきた。タイトルは『星を見た少年』。俺が知らない本。『星の王子様』とは違うもんな。遥が読んでいる本で、俺がタイトルすら知らなかった本は、これが初めてかもしれない。


 《それって、どんな話なの?》

 

 すると今度は本の裏表紙を見せてきて、小さな指がそこを差す。なるほど、あらすじを読めということらしい。遥が言うなら仕方ない。読んでやろう。


 【地下洞窟の中で暮らす空を知らない少年エイド。ある日エイドは、絵本の中で星の存在を知る。少年はその絵本の星に強く心を惹かれた。そして本物の星を見ることが彼の夢となった。エイドの──】だーめだ。つまらなそうな本。ていうかこのタイトルって、盛大なネタバレになってない? だって星を見ちゃってるじゃん。それを見ることが目標なんだろ?読んでいる遥はそれに気がついているのかな。


〝面白い?〟


 遥は今読んでいたページまでを、最初からパラパラと流し始めた。めくるページがなくなって読んでいたページに戻ると、そこを眺めて苦笑い。最終的には首を小さく左右に振った。やっぱりつまらないんじゃん──と、メモ帳に書こうとしたが、遥が先にメモ帳を見せてきた。


《でもね、夢に向かう主人公の姿は好きかな》


 主人公の夢って・・・・星を見ることか。このエイドってやつがいる世界が、どんな世界かは知らないけど、星を見ることって大したアレじゃないよな。


 そういえば──《遥の夢ってなに?》


 尋ねた時、遥は本を落とした。予想外の質問をされると遥は停止する。久々に緊張している。いや、照れているのかな。そっか、夢を言うことってちょっと恥ずかしいもんね。


《俺は偉い人になりたい》


 自分の夢を教えればきっと教えてくれるだろう。そう思って見せてみたが、遥の鉛筆は動かない。もしかして、夢そのものを持っていないのかな?


《小説家とかどう?》


 それは思いつきだった。遥は本を読んでいる姿が綺麗だから、書く姿も見てみたいな、なんて。でも実際、小説家は似合っていると思うけどな。丸い眼鏡をかけたりしたら、雰囲気はバッチリだよ。遥はどんな本を書くだろう。こう見えて思わず吹き出すギャグとか?もしくは途中で閉じたくなるホラーとか──


《僕は》


 そこで遥の手が止まった。でも停止はしていない。震えながらも、何かを書こうとしてる。時間を使ってそれを書いた遥は、うつむきながらメモ帳を見せてきた。下を向いて顔を隠したのは、見せるのも恥ずかしい夢だからだろう。もちろんそれ以外の感情もあるんだろうけど。ただメモ帳に書かれたことを見るだけなのに、なんだか俺も急に緊張してきた。いったいどんな夢が書かれているんだろう。


 心臓を鼓動させながら遥のメモ帳を見る。しかし鼓動はそれを見てすぐにおさまった。そこに書かれていた夢は、思わず真顔になってしまうほど、シンプルなものだったから。星を見ることよりも簡単な夢。だって、今すぐにでも叶えることが──。


《僕の夢は、拓馬の声を聞くことかな》


 バカだな俺。何言ってんだ。まだ星を見る。いや──星に行く方が簡単な夢じゃないか。────ああ。謝らなきゃいけない。さっきの本の主人公のエイドに、星を見たいという夢を馬鹿にしたことを。遥の夢ってこんなもんで良いのかよ。俺の声を聞くことが・・・夢になっていいのかよ。だって夢って、叶えられるか、叶えられないか分からないものだろ?もしくは確実に叶えられないものとか。だから俺は【星を見る】なんていう夢をさっき笑ったんだ。


 俺の声を聞くことが夢って・・・いや分かってるよ! それが遥にとって特別なこと──夢になるってことは分かるよ。分かるんだけどさ。そんなの悔しいじゃないか!本来ならその夢を、簡単に叶えてあげられるはずの俺が、夢を叶えてあげられないなんて悔しいよ。


《拓馬? 目が痛いの?》


 泣いてるんだよばか。


《なんでもないきょうもかえりまってて》


 チャイムの音が鳴った瞬間、腕で目元を押さえながら図書室を出た。最後に見せたメモ帳の文字、遥は分かってくれたかな。汚くて読めなかったかな。



 クラスに戻る前、滝のように出した水道の水で目を冷やす。轟々と出る水の音で少し気持ちも落ち着く。


 ──俺の声を聞くことが遥の夢か。そんなこと言ったら俺だって、遥の自然な言葉(こえ)を聞きたいよ。他のやつらと同じように普通に、遥と話をしたいよ。手話もメモ帳も使わない会話を1度で良いから、遥としてみたいよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ