蛹──さなぎ
12話 蛹──さなぎ
通学路の稲たちもすっかり伸びた。濃い緑はもう実をつけるだけ。俺たちはいよいよ夏休み。というところで、俺のクラス──6年3組に異変が起こった。俺の前の席がここ数日、ずっと空席状態。そう、相沢が不登校になった。
担任は体調不良と言っているが、俺は不登校の一種だと思っている。なぜなら俺は知っているんだ。あいつが学校に来ない本当の理由を。
────ある日、相沢が図書室で真斗たちを追い返した日の、帰り道。いつものように遥と下駄箱を出た時、グラウンドの隅でうずくまる誰かが目に入った。それが相沢でなければ放っておいた。図書室の件もあり、このまま見ないフリをしたら後悔すると感じた。誰もがグラウンドの相沢を気にせず帰っていく。グラウンドで遊ぶやつも少しはいるが、すぐに帰る。こいつも帰れば良いのに、そんな様子もなく体育座りをしていた。
「・・・相沢。何があった?」
だいたい予想はついたがそう聞いた。振り返った相沢の顔は、転んだように汚れていた。もしかすると、殴られたのかもしれない。これだけ見れば何があったかは、言われなくても分かる。
「・・・君のせいだ! 天辻くんのせいだ!」
相沢は起き上がるなり、俺に拳を向けた。それは、片手で受け止められるほど、遅くて弱いパンチ。それでも俺が仰け反ってしまったのは、彼の瞳に俺への怒りが宿っていたから。大した力でもないのに、たった1発の拳で倒されそうになった。
「なんだ、お前強いじゃん」
「どこがだよ。片手で止めたくせに! 僕をバカにしているのか!?」
「いや、強いよ。だからさ、無理してあいつらといる必要ないんじゃないの」
「・・・さすがだね天辻くん。やっぱり頭が良いから分かるんだ」
「勘だよ。なんとなくそうなんだろうなって」
「僕はさ、君のように強くもないし、頭も良くない。だから強い人にくっついていないとダメなんだよ! どうせ独りでも強い君には、分からないだろうけどね!」
それが相沢の捨て台詞。そして、不登校になる前、最後に見た姿。
相沢は学校に来たら、真斗のやつらにいじめられると思っているんだろう。きっかけになった俺が悪いのかな。
自分のせいで誰かが不登校になるとイライラする。胸糞悪い。登校するならいくらでも謝るけど、あいつ意外とプライド高そうだし、謝ったところで来ないだろうな。それに休むことが悪いとは思わない。あいつもあいつで、居場所とかあるんだろう。
ただ、目の前の席がこうも連日空いていると落ち着かないよ。毎回毎回プリントをお前の机に入れてさ、俺は郵便の配達人ですかって。俺、大人になったら荷物はちゃんと受け取ろうと思った。




