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超越の恋呼  作者: 葵尉
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エスパー

9話 エスパー

 

 気がつけばゴールデンウイークが過ぎていた。遥と出会ってから1ヶ月半。経験したことがない毎日が過ぎていく。幸せすぎて隕石でも落ちてくるんじゃないかって。毎日が夢なんじゃないかって思う。こういうのを確か、リア充っていうんだ。一緒に登校して、昼休みには話をして一緒に下校して、土曜日には図書館へ行くことが今では決まり事になった。この楽しい生活が当たり前になりかけていた時、それは前触れもなく起こった。


「遥が今日も休み?」

「はい、体調不良みたいなんです」


 それまで普通に学校に来ていた遥が休むようになった。ノリ先生も心配が勝って余裕がない。例の不快な笑いも最近見ていない。


「遥って昔からそうなの?」

「確かに風邪などが多かったですが、高学年になってからはあまり」


 ノリ先生も勘付いていてのこの顔かな。やっぱり〝いじめ〟が原因?でも最近はいじめられていなかった。俺の知らないところでいじめられているとか?

 とにかく遥に会って話をしたい。話さなきゃ分からない。体調不良ならそれで良いけど、そうでないなら俺に相談して欲しかった。

 

「ノリ先生は遥の家知ってる?」

「会いに行ってくれるんですか!?」

「そりゃ気になるじゃんか。友達なんだから」

「分かりました。ちょうど()()()が配布物を、届けてくれる人を探していました。放課後に職員室に行ってみてください」


「林先生って遥の担任的な?」

「そうです。落ち着いた女性の先生ですよ。丸いメガネが特徴で──」

「あんたが俺に渡してくれれば良いじゃん。俺、あんま先生っていう生き物と関わりたくないんだけど」

「ですが林先生は拓馬くんに会ってみたいそうで、ちょうど良い機会かと」

「へ〜。なら行ってみるよ」


 俺に会いたいだなんて変人だな。ノリ先生みたいなタイプだと良いけど。



 ────放課後、言われた通り苦手な職員室に行ったが、そこに林先生はいなかった。もう帰ったのかと思ったけど、林先生は確かに学校にはいた。生徒は誰もいないのになぜか、特別学級のクラスに独りで残っていた。電気はついているけど、あの人の周りはなんだか暗い雰囲気。


「入って大丈夫か?」音を立てずにドアを開けて入ると、無音の教室で1人作業をしている先生がこちらを見た。丸メガネをかけている先生。間違いないこの人だ。


「あ、あの。林先生ですか?」

「ということは君が、天辻拓馬くんね。本当に来てくれたの」

「そういう約束をしたんで」


 荷物を受け取りに行こうとしたが、先生はむしろ近づいて来た。封筒に入ったそれを手渡された俺は、すぐに部屋を出ようとした。出たかった。ただ林先生がまだ話したそうなので「なにか?」と首をかしげる。丸メガネの奥から覗く瞳が急に鋭さを増す。この人は今、俺を観察している。魔女の様な異様な雰囲気を林先生から急に感じた。


「君は、()()()()()()()()()


 唐突に動き出した口。魔女が唱えたのは、俺を石化する呪文。喉をしめつけるような真剣な眼差し。そのせいで言葉を口にできない。林先生はやわらかい表情だけど、これは真面目な質問だ。

 でもなんでいきなりこんなことを? それにすきってなんだ。〝すき?〟って、どういう好きなんだよ。

 俺にゆっくり考えている時間はない。気持ちをそのまま答えるしかない。

 

「もちろん嫌いじゃないですよ。遥とは友達ですから、そりゃあ、すきですよ」

「そう言ってくれて嬉しいわ。あなた聞いていたよりも良い子じゃない。これからも遥くんをよろしくね」


 定型文のような返事。口調からそう感じた。こちらが一生懸命に答えたのに、林先生は特に間も置かずに、すぐそう言ってきたんだ。質問に一生懸命答えた意味がないじゃないか。

 

「は、はい。こちらこそお願いします」

 

 俺を見送る丸メガネの奥は和らいで、彼女はただの林先生に戻っていた。結局なにが知りたかったのか、よく分からなかったけどあいつ同様、悪い先生ではなさそうだ。



 帰り道が途中まで同じだから、遥の家に行くのは難しいことではなかった。それに前、スーパーに近いって言っていたから、おおよその見当はついていた。

 着いたのは普通のマンション。周囲にも同じような棟が建っている。ここからは注意しないと迷子になりそう。遥なら1度は絶対迷子になってる。


 住所通りの棟に来て、月先の苗字を探していると、それは6階にあった。最上階の9階でなくて良かった。って、6階もそう変わらな──エレベーターはあっという間に6階に到着した。たくさんの灰色のドアが並ぶ廊下をしばらく歩くと、月先の表札が目に入った。ようやく遥に会えると思うと嬉しい。けど、いざ遥の家のドアの前に立つと、なんだか緊張する。

 そういえばお母さんとか家にいるのかな。もし遥しかいなかったら、俺がインターホンを鳴らしたところで分からないんじゃ。そう思いながらも深呼吸をして、とりあえずインターホンを鳴らす。ピンポーンという定番の音が鳴ったが、反応はない。大声で呼んでもだめ。ならばもう一度、ピンポーンと鳴らす。

・・・やはり反応はない。

 なんだか嫌な予感がしてきた。もしかすると、せっかく来たのにこのまま会えないかもしれない。けれどドアを叩いても、大声を出しても遥には聞こえない。誰にでも開けられるただの家のドアが、重い鉄の扉に見えてきた。

 せめて遥以外の人間が家にいれば──突然、目の前の扉が軽く開いた。中から出て来たのはぼざぼざの水色頭。


「遥!?」

「わ!? ta」

「た?」


 何を言っているのか分からなかったけど、遥も驚いていた。すかさず林先生の名前が書かれた封筒を見せる。それを見て俺がここに来た理由に納得したようだ。そのまま家に招き入れてくれた。俺もこのまま帰りたくなかったから、当然家に上がる。

 

「お、おじゃましまーす!」念のため奥に聞こえる様に言ったが気配はない。どうやら今は遥しかいないようだ。部屋は生活感がある程度に、物が散らかっている。うちと同じだな。いや、じゃっかん月先家の方が綺麗かな。


「こ こ」

「あ、うん。座るね」


 そこの席に着くと、かすかに遥の匂いがする。家の匂いってやつ。リビングの机にはもう麦茶が置かれていた。この麦茶、いつの間にか遥が用意してくれたんだ。そうだ、こんな時こそ──俺は手話の本で読んだ1ページを鮮明に思い出した。左腕を横に、右腕は縦に。ヒーローがビームを出す様なポーズをして、おじぎをしながら、右手を左手の甲に当てる。


〝ありがとう〟


 これが手話。手話の〝ありがとう〟。動作がどうも恥ずかしくて、まだ慣れない。ありがとうって、普通に声に出すのと同じで、手話でもなかなか伝えるのが難しいな。とてもシンプルなのは文字も、手話も変わらないのに、どうも心が素直になれない。そのせいでどこかぎこちないだろうけど、遥はにっこりと微笑んでくれた。俺の手話が伝わった。伝わるってこんなに嬉しいんだな。


《手話、覚えたんだね》

《遥のおかげだよ》

「えへへ」


 今度は元気そうに笑ってくれた。髪の毛はぼさぼさだけど体調は良さそう。いきなり聞くのもあれだから、封筒を渡して林先生のことをまず話した。ついでにノリ先生が心配していたことも。いつも通りに談笑出来るようになったところで、なるべく柔らかい感じで本題。《学校、行きたくなかったの?》と聞いてみた。


 目線を落とした遥は無言で頷く。そう返事をされたら「そっか」しか言えないや。俺だって別に学校の全てが好きなわけじゃないし、遥にとって学校がマイナスな要素を含んでいるのも知ってる。いや、マイナスの方が大きいかもしれない。それに悪いのは学校に行かない遥じゃなくて、マイナスな要素を改善しない学校だ。嫌なところに行かないのは、別に悪いことじゃない。我慢して行って、辛い想いをして、傷ついて帰ってくることが立派だなんて言われる社会はおかしい・・・っていうのは父さんの受け売りだけど、その通りじゃないか。ここからは俺の改善策というかなんというか。とにかく俺は、遥と一緒にいたい。だから、こう言うしかない。


《学校休むなら図書館に行こうぜ》


 それを見た遥は、なんてことを言っているんだという目をしていた。別に人を殺すわけじゃないのに嫌だな〜。真面目で純粋そうな遥からしたら、そうなんだろうけど、しょっちゅうサボって来た俺は罪悪感を抱かない。


 こちらを見つめる遥、どうするのかもう決めた様子。


《拓馬が一緒なら行く》

《もちろん俺も一緒だよ》


 家にいるのも悪いことだとは言わない。俺もそんな時──いわゆるひきこもりの時があった。だけどずっとそれを続けると、気持ちが落ちてくる。不思議なことに家で好きなことをやっていてもそうなった。だから外に連れ出したかった。せっかく遥には好きな場所が外にあるからね。


《さっそく明日から行く?》

《明日は学校に行くよ。先生に今のことを話しておきたいから》

《ノリ先生は問題ないだろうけど、林先生は怒らない?あの人魔女っぽいじゃん》


 遥は首をかしげて笑う。きっと魔女という表現に対してだろう。


《林先生は優しいよ。しっかり話を聞いてくれるし、僕を尊重してくれるんだ》


 どうやら遥の知っている林先生は、俺が見た林先生とは微妙に違うらしい。


《なら安心した。じゃあ明日は来れたら来いよ!》

「う ん!」


 遥と小指を組んで指切りの約束。こういう風に約束するのは強制的な感じがして、ちょっとずるいかな。 


 帰り際、靴を履いている時にふと気になった。どうして遥は、ドアを開けてくれたんだろう。たまたまインターホンを見て気がついたのか?遥の耳が聞こえないのはわかるけど、ほんの少しでも〝もしかして〟を期待した。


《遥、インターホンの音よく分かったね》

「かー ん」

「かーん・・・勘?」

《不思議なんだけど、拓馬が来た気がしたんだ。だからインターホンを見たら、光ってたから、もしかしてって思ったんだよ》


 ・・・なんだよ。遥のもしかしては、俺が来ることなのか。なら、何回でも遥のいるところに来てやるよ。そしたら遥は、何度でもエスパーを発動しちゃうな。

 けど、そうだよな。やっぱり俺のもしかしてが起こるわけないんだ。なんの前触れもなく、遥の耳が聞こえる様にならないかな?俺も、エスパーを発動してみたいよ。

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