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超越の恋呼  作者: 葵尉
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舞姫との出会い

〝読まなければ良かった〟森鴎外の『舞姫』を初めて読み終えた時にまずそう思った。当時小学生だった俺の感想は"後悔"。その感想は大学生になった今でも、変わらない。


 読書という暇つぶしを覚えたのは、小学2年生の頃だったと思う。とはいえ少し読む程度。趣味として言えるほどではない。文学に興味はないどころか、それすら何か知らなかった。別に今でも文学が何かなんて分かっていないけどさ。


 舞姫と出会ったのは小学4年生の時。なんとなく眺めていた父さんの本棚に、それはいた。『舞姫』と目が合ったのを忘れもしない。当時はタイトルの読み方も分からなかった。それなのにその漢字二文字のタイトルが〝綺麗だ〟と思って手に取った。すぐにその二文字を辞書で調べて、自分の感覚はハズれではなかったのだと、自信がついたのを覚えている。

 だって姫だ。姫は綺麗で美しい存在だろう。その姫が舞うのだからきっと華々しく素敵な物語のはず。一体どれだけハッピーだろう──そう期待したのに、見せられたのは好きになった人を、愛してくれた人を裏切る主人公豊太郎の言い訳日記。舞姫を手に取った自分の感覚は間違っていたと、読み終えてからは自信をなくして呆れた。


 好きになった人を捨てるなんて理解できない。それとも大人はそういうものなのか?それが分からないまま10年以上たった今でも、カフェで人を待つ時間に、こうしてページを開いてウィクトリア座に足を運んでしまう。


〝答えを知りたい〟そんな想いであれからずっと、舞姫を手放せない。もしもまともに読み込んでいたら、誰よりも舞姫を語れる人間になっている。テレビのクイズにだって出られる。舞姫愛読家としてね。

けど──相変わらず集中できない(つまらない)本だなこれ。1人で読んだら尚更。まだ、()()()がくれた広辞苑を読んだ方がマシ……ごめん森鴎外──それはちょっと言いすぎた。だってそんな作品が俺たちにとっては、今でも大切な物だから。豊太郎も昔よりは憎めない。


「ご注文はお決まりですか?」つまめるほどページが進んだ頃、店員がやって来た。今さらメニューを見た俺は「・・・濃厚ミントチーズヨーグルトで」と反射的に答えていた。


 初めて見たその飲み物は、メニュー表にデカデカと写真が載っている。()()()()を濃くしたかのようなミント色に、俺はあの時と同じく一目、惚れてしまった。もちろん空色の君の髪の方が綺麗だとも。


これ、7月限定の商品か。今月でお別れと考えると笑っちゃうな。まあでも、それも含めて悪くない。

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