気づいた想い(Side颯太)
新しい作品スタートです。
どうぞお付き合いお願いします。
アスファルトから湧き上がる熱気を、少しの日陰とそよぐ風がほんの少しだけ和らげている。
夏の強い日差しに照らされた街並みは、コントラストが強く何もかもが鮮やかに見える。
川谷颯太は、その街並みをぼんやりと目に映して、あの日のことを思い出していた。
彼は、あの日も、いつもの日常の中にいた。
その日常の中で、自身が抱く今井美愛に対しての恋心を自覚したのだった。
颯太は、大学生になってから同級生である美愛と再会した。
小中学校が同じだった彼女は、離れていた高校三年間を感じさせないほどに変わっていなかった。一緒にいるだけで明るくなるような朗らかさを持っていて、年齢を重ねるごとに色恋に夢中になって女になる姿を見せていた他の同級生たちと、どことなく違っている気がして安堵したのを覚えている。
再会から三ヶ月が経った今でも、その印象は、変わっていない。
颯太は、自身の行いの報いで、女性不信になっていたところもあって、美愛から初めて電話をもらった時には、非常に警戒していた。
彼女は最初に名乗りもしなかったので、電話口の相手が誰かわからず困惑しかなかった。
なぜ電話番号を知っているのか、何を目的に連絡をしてきたのか、そもそもお前は誰だ、と。
颯太の幼馴染と会う機会があり、その時にお互いの大学が近いからと連絡先を半ば強引に押し付けられ、颯太にも伝えておくと言われ、そのまま連絡しないのは気まずいと思って電話をかけてきた、とのんびりした口調で話す内容を聞いて、そんな疑問も解消したのだが。
(俺は、何も聞いていないけどな。)
幼馴染の大翔を思い出していると、説明の最後に付け足すように「私、今井美愛。覚えている?」と問われる。
その名前はもちろん憶えている。中学二年生の時に同じクラスになった彼女とは、漫画や本の趣味が合って、お互いによく貸し借りしたし、何なら推しの女優が同じでドラマや写真集の話で盛り上がることもよくあって、仲が良かった部類に入る女子だった。先生に頼まれてノートを集めていた真面目そうな姿も想い浮かぶ。
颯太の女性不信を知っている大翔が、彼女を信用して連絡先を伝えただろうこともわかった。
その電話が、ちょうどお互いの授業終わりで、お互いが利用する電車の乗換駅も同じ、そこに着く時刻も同じぐらいだったので、あれよ、あれよと話が進み、予め約束していたかのようにスムーズに、そのまま二人は再会を果たした。
数分はやく乗換駅に到着した颯太は改札付近で待っている間、ふと美愛のことがわかるかと不安を感じたが、やがてこちらに向かって手を振りながら歩いてくる彼女を見つけて、杞憂だったと思った。
来ている服こそ制服から私服になっているものの、小柄で華奢な体格、ふわふわのくせ毛や、優しい丸顔に浮かぶ笑顔は記憶の中の彼女そのままだったのだ。
再会を果たしたその日から、颯太にとって美愛は、昔以上に気が置けない貴重な友人になった。
もちろん二人の間に色恋は存在しなかったが、趣味も波長も合う美愛と一緒に過ごす心地のよい時間はいつもあっという間で、あの日も颯太は、その時間を惜しむように自転車を漕ぐスピードをあげて駅から美愛の家へと向かっていた。
「え?次のデート?」
スマホが鳴って、「電話だ。」とつぶやいた彼女の口から次に出た言葉がこれだった。
後ろの荷台に横座りになった美愛の、颯太の腰元に置かれた手に、自分の手を重ねて、思わず強く握ってしまった。
そうやって重ねた手を意識することなく、彼女は会話を続けた。
颯太がほとんど聞いたことのないツンとした声でデートを断っている。
急にもやもやとした得体のしれないどす黒い感情が渦巻き、その日は、美愛の家で一緒にゲームをする予定だったのだけれど、用事を思い出したと断って、彼女を自宅に送るに留めた。
彼女と過ごす時間を失っても構わないほどに颯太を乱した黒い感情、それが嫉妬だと、帰宅途中の電車の中で颯太は気づいた。
(どれだけ鈍いのか…)
美愛に恋人がいると認識するまで、自身の想いに気づかなかったことに颯太は呆れる。
颯太との間で、女の姿を見せることのなかった彼女にも憎しみのような気持ちが湧く。
今は女性不信とはいえ、初めて恋人ができた中学生の時から大学生になるまで、何人もの女性との間に浮名を流してきた。そんな颯太が初めて感じる強い嫉妬に、今、自身の根本が揺るがされている。
そんな風に、ひどい衝撃をともなって、颯太は、自身の美愛への想いに気づいたのだった。
自転車の二人乗りをしている描写がありますが、自転車の二人乗りは違法行為にあたり、危険抑止のために罰金も課せられております。
自転車の二人乗りは、バランスを崩しやすく、制御が難しいため、安全上の問題があります。
皆様の安全のため、真似をなさらないようにお願いいたします。




