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今日は仕事を休んだ。

作者: きゅん

真面目が取り柄の高橋。

初めて会社を休んで得られた物はあったのか。


”あぁ、また今日も同じ日常が始まる”


上京してすぐに入社して3年間無遅刻無欠席で勤めている会社。

人付き合いもある程度取り繕えば難なくこなせる。

仕事内容も可もなく不可もなくで難しいことは一つもない。

慣れてきた今ではそれなりに自由にやらせてもらっている。


そんな平凡で変わり映えのない日々。



それは突然襲ってきた。


”仕事に行きたくない”


体調が悪いわけでもない。

会社で嫌なことがあったわけでもない。

面倒というのも少し違う。

とにかく猛烈に仕事に行きたくなかった。


これまでズル休みはもちろん病欠もしたことがなかった。

休みたいなーとぼんやり考えることはあったけど、それを実行するなんて思いもしなかった。


今日この気持ちのまま仕事に行ったら何かが起きそうな気がする。

それなら休んだほうがいい。


そう思い込むようにして休むことに決めた。


上司になんて言おう、、。

何かが起きそうな気がするなんて言えない。

今の心情を正直に言えば誤解されて大事になりかねない。


仮病しかない。

始業時間は迫っている。

考えている時間はない。



プルル...プルル...


『はい、〇〇会社です』

「あ、、おはようございます。高橋です」

『おはようございます。どうしましたか?』

「すみません、今朝起きてから体調が優れず、お休みをいただきたくてご連絡しました」

『わかりました。お大事にしてください』

「申し訳ございません。ありがとうございます。失礼いたします」


・・・


なんだ、案外あっさりだったな。


電話を切ってしばらくは嘘をついてしまった罪悪感に苛まれた。

急ぎの仕事が出来て誰かが私の仕事を補っていたら?

嘘だとバレてしまっていたら?

あぁ、やってしまった。休まなければよかった。

そんな気持ちが大きくなったけど、やっぱり行きますなんて言える気力はなかった。


いつもの今頃は朝の通勤ラッシュと戦っているところ。

私はベッドの中にいる。


しばらく罪悪感に苛まれた後、今度はなんとも言えない高揚感にかられた。


仕事の予定だった1日がぽっかり空いた。


なんでも出来る気がしてきた。


さっきの罪悪感が嘘のように解放感へと変わった。


今更考えたって仕方がない。

隣の席のあの子も、向かいの席のあの人も、休んだって仕事は回っていた。

今考えることは今日何をするかだ。


短時間で目まぐるしく動いた感情のおかげですっかり目も覚めた。


とりあえず、溜まっていた家事をして少し遅めの朝食を食べる。

普段なら見ないドラマの一話目を見て、意外と面白いじゃん。なんて思える余裕もできた。

二話目も見ようかと考えていたところで、外に出たいという気持ちがふつふつと湧いてくる。

そう思い始めると居ても立っても居られなくなり簡単に身なりを整えて外に出た。


行先は決めていない。


しばらく歩いて駅に着いた。


会社とは反対方向の電車に乗ってみよう。

5駅くらいで降りてみようかな。


行動力のない私は今まで会社までの駅の範囲内しか行ったことがなかった。


冒険しているみたいでわくわくした。


いつもの通勤ラッシュとは違う空いている電車。

見たことのない景色。

行ったことのない街。

普段見ることのない人たち。

美味しそうなご飯屋さん。

おしゃれな隠れ家カフェ。


たくさんの発見。


会社にいたら知ることのなかった世界。

全てが新鮮で歩いているだけでも楽しかった。



『お笑いやってまーす!』


どこからか聞こえてきた。

引き寄せられるように声のする方へ向かった。


『お笑いやってます!お姉さん!無料なので見て行ってくれませんか?』

普段なら見向きもしなかったと思う。今日は何故だかとても興味が湧いた。


「行きます」


数メートル先の雑居ビルに案内された先には、20人入れるか入れないかくらいの観客席にステージ。

お客さんは10人くらい。

初めての空間でドキドキしながらも楽しみな気持ちが大きかった。


開演前にMCの芸人さんから拍手のタイミングや注意事項などの説明を受ける。


いよいよ開演して初めて見る生の芸人さんの面白さに圧倒された。

有名ではなくても、どの芸人さんからも笑ってもらいたいという思いが伝わってくる。

ひたむきにお笑いと向き合ってる姿にカッコ良さまで感じる。


私も入社したての頃はキラキラしていた。

当然失敗もたくさんしたけど、それでもひたむきに頑張っていた。

いつからか仕事に対する意識も変わっていた。

”仕事を終わらせる”ということだけしか考えなくなっていた。


慣れてきたらそう変わっていく人の方が多いと思う。

でもそれに気付くことができる人は少ないんじゃないかな。


そんな変な観点で見ていたお笑いライブは1時間ほどで終わった。



退出するとさっきステージに立っていた芸人さんたちがお見送りしてくれた。


『今日はありがとうございました!』


キラキラした笑顔で眩しく感じた。

それと同時に仕事をしたいと思っている自分がいた。


あの頃みたいにキラキラすることはできないと思う。

それでも仕事に対しての意識が変わったのは明白だった。


やっぱり私は今の仕事が好きなんだ。

思わぬ形で再確認できた。


帰りのラッシュを避けるため早々に帰路に着く。


歩き疲れたけど充実した1日だった。

私ってこんなに行動力あったんだ。

よく分からない自信もついた。


今の私の気持ちが今日一番の収穫だった。


明日からいつも以上に頑張れそう。

今までにない活力が湧いている。

今日仕事を休んでよかったとさえ思えている。


家についていつもの日常に戻る。

でも私は今までの私じゃない。



明日は仕事に行きます。

おやすみなさい。

どれだけ真面目に生きていても、心の休息が必要な時はあります。

心を休めたからこそ見出せることって本当はたくさんあるのではないのでしょうか。

高橋が得られた物は何にも代えられない大切なものだったと私は思います。

会社を休むということは決して良いことではありませんが、心の休息が必要な時もあるということを頭の片隅にでも置いておいて下さい。

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