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リリーのお見合い

 キトリーは朝から上機嫌だった。執事のブノアからリリーはその訳を教えて貰った。今日はセゼール侯爵が遠征から久し振りに帰って来るからだとの事だった。侯爵はその家柄にも関わらず軍に従事し、今は東西に分かれる国軍の一翼東の元帥を拝命している。実直な侯爵は先王の信任も厚くアランの後見人でもあった。そして王家の姫キトリーを娶ったのだ。

 その身分のせいなのか?彼の性格上そうなのか?何時も・・・

「お帰りなさい。ヴァラン」


「ただいま戻りました。姫」


 ヴァランはそう言うと跪いてキトリーの手を取りそれに恭しく口づけした。侯爵は幾つになってもキトリーを姫と呼び、それを守る騎士のような態度らしい。

 リリーは驚いてしまった。彼女が名前を呼ぶものがいないと言っていたが、夫の侯爵は呼ぶだろうと思っていた。しかし目の前に展開される二人は見ているこちらが恥ずかしくなるくらいの関係なのだ。礼儀正しい夫と、どちらかと言うと高飛車な妻。しかし侯爵の態度がよそよそしい訳でもなく、本当にキトリーを大切に思っているようだった。キトリーもそれが分かっていて彼の姫という立場で接している。夫婦と言うよりも主従関係のような雰囲気だ。


(不思議な夫婦だわ・・・)


 その二人が難しい顔をしだしたのだった。

「あの子には本当に困ってしまうのよ。縁談を全て断ったのですって・・・大神官が泣き言を言ってきたのよ」

「またですか?」

「ええ、結婚はしないそうよ。そんなのに時間をとられるのが勿体無いと言い捨てたらしいわ・・・困ったこと。アランみたいに節操無しでは困るけれど少しはねぇ・・・ヴァラン、あの子は貴方に似たのよ」

「私にですか?」

 キトリーはにっこり微笑んだ。

「だって貴方、妾一人持たないじゃない?浮気すらしないし淡白よね?・・・・違ったわ。淡白では無かったわね。ふふふっ・・・」

 夫の淡白とは程遠い情熱的な夜を思い出して笑った。

「姫!からかうのは止めて下さい」

「いずれにしてもこの際、あの子をその気にさせてくれるなら誰でも良いわ。犬でも猫でも」

 ヴァランはそれこそ驚いた。息子の嫁に犬や猫でも良いと言うのだから。相変わらずキトリーの思考回路は変わっていて、振り回されるのは何時もの事だった。だからクロードは彼女似だとヴァランは思う。拒否は許されない大神官からくる王族の責任でもある婚姻を断る神経が並みではない証拠だ。


(クロードは姫にそっくりじゃないか・・・)


 キトリーは大神官の決めた婚姻は嫌だと我が儘を言って、更にひと目惚れしたヴァランと結婚させろ、と王や大神官を脅したのだ。


(そう・・・あれはまさしく脅しだった・・・)


 結婚出来ないのなら死んでやると言って神殿の塔から飛び降りたのだ。危なくそれを受け止めたのはヴァランだった。今、思い出しても冷や汗が出る。その調子でヴァランも結婚を承知させられたのだ。しかし破天荒な変わり者の姫だったがそれが結構可愛くなってしまって今に至っている。

 二人が黙り込んでしまったところにリリーがお茶を出した。

「ありがとう、リリー。気が利くわね。それにあれも頂戴、魔法をね」

「はい、畏まりました」

 リリーは何時ものように硝子の小瓶を出し一滴落とす。ふわりと漂う甘い香りがキトリーは大のお気に入りだった。同じくクロードもだが。


 ヴァランは彼女の事をクロードから聞いていた。そしてキトリーがとても気に入っているとも。そのキトリーが急に奇声を上げたので、ヴァランは飲みかかった茶を気管支に入れて咳き込んでしまった。

「姫!何ごとですか?」

「そうよ!そうだわ!これが一番だわ!ねぇ、リリー、うちの息子と結婚しない?うちは一応侯爵家だし、あの子も役立っているのかどうか知らないけれど宰相とかしているでしょう?結婚して損は無いわよ!」

 リリーは今までの人生の中で一番驚いた。驚き過ぎて瞬きも出来ず硬直してしまった。だから代わりにヴァランが言ってくれた。


「姫!何を言っているのですか!」


「何をですって?とっても簡単なことだわ。リリーがここに嫁いでくれたら私は何時でも美味しいお茶が飲めるじゃない?それにあの子、リリーをちゃんと認識していたのよ。あの子が侍女の名前なんか覚えた事無かったもの。毎日必ず帰って来てお茶をするし、脈がある証拠よ」

 ヴァランは次の言葉が出なかった。きっと理由は一番目に言ったものだろう。犬や猫より当然良いと言えるが、侯爵家というよりも王族の一員であるクロードの相手に他国の侍女など考えられない。

「ねぇ、リリー、どうかしら?」


「ど、どどど、どうだと・・おっしゃられても・・私とは身分が違います」


 それはそうだとヴァランは思った。キトリーがヴァランと結婚したいと我が儘を言って、それが通ったのはセゼールの家柄が良かったからだ。

「姫、彼女を困らせたらいけない」

「ヴァラン!あなたは黙っていらして!ねえ、リリー?」

 リリーはもう気が遠くなりそうだった。

「やっぱりあの子じゃ駄目かしら?家柄に財力と権力もまあまあで、顔もまあまあだと思うのだけど・・・あの性格じゃあ考えるかしらね・・・何を考えているか分からないし、陰険で嫌味だし・・・」

「そ、そんなことありません!クロード様はお優しくって、とても、とても素敵です!」

 リリーは真っ赤な顔をして剥きになって言い返した。そしてはっとする。キトリーはあらっ?というような顔をして微笑み、ヴァランは渋い顔をした。

「リリー?もしかしてあの子のこと好きなの?」

 キトリーがまるで内緒話をするように囁くような声で言った。


「ち、違います!誤解です!私、クロード様のこと好きではありません!」


 リリーは尚更、真っ赤になって大きな声で否定した。

「そこまで貴女に嫌われているとは思わなかったですね」

 急に後ろから少し怒ったような声がした。リリーは驚いて振向いた。もちろんその声の主はクロードだった。

 リリーはそんなつもりで言った訳では無かったが、入って来たばかりで最後の方しか聞いていない彼はそう思わないだろう。

「わ、私、そんなつもりじゃなくて・・・」

 クロードの顔を見られなかった。きっと気分を害しているだろう。うつむくと涙が頬を伝わらず、ぽたぽたと床に落ちた。


「あっ、泣かせたわね?クロード。意地が悪いんだから」

「意地が悪い?何故です?私は何もしていません」

 声は更に不機嫌で怒ったようになっていた。リリーはもっと涙が溢れてきだした。嗚咽を堪えるので肩が震えてきた。

「もう!無神経な男は嫌いよ!貴方達、此処から出て行きなさい!」

 ヴァランは自分も?というような顔をしたが、キトリーに睨まれてクロードと部屋から追い出されてしまった。

「父上、何ですか?母上のあの癇癪は?」

「さあ?何だろうな」


 クロードはその答えが気に入らなかった。肝心なことを何時も言わないのがヴァランの特徴だ。聞き出すのには苦労するから今日は止めにした。リリーのあの〝好きじゃない〟という言葉が自分的に結構堪えているみたいだった。〝好きじゃない〟というのは言い換えれば〝嫌い〟だと言うことだ。そして泣く姿を思い出すと胸がずきりと痛む。いつ嫌われるような事をしたのか?と考え込んでしまった。

 一方、キトリーは泣いてしまったリリーの為に、自らが茶を淹れると彼女に勧めた。

「さあ、リリー、泣きやんでこれを飲みなさい。私が調子に乗りすぎたわ」

 リリーは驚いて、ぱっと顔を上げた。


「も、申し訳ございません!キトリー様にお茶を淹れさせるなんて・・・」


 そしてまた涙が溢れ出した。主人にお茶を淹れさせるなんて侍女失格だと思った。

「たまには良いでしょう?そうそう、お前の魔法じゃないけれど、私も魔法をかけようかしらね?貸して頂戴、お前の魔法の小瓶を」

 キトリーはそう言って、リリーから何時もの小瓶を受け取ると、一滴落とした。

「はい、どうぞ」

「・・・・・あ、ありがとうございます・・・」


 リリーは温かいそれを両手で包み、一口飲んだ。優しい香りが彼女を包むようだった。涙が止まって少し微笑んだ。

「ふふっ、私にも魔法が使えたわね」

「え?」

「リリーこれを入れる時、願いごとを心の中で唱えるのでしょう?例えばそうね・・・私になら〝今日は楽しいことがありますように〟とかクロードになら〝疲れがとれますように〟とかね?」

 リリーは驚いて楽しそうに喋るキトリーを見た。


「どうしてそれを?」


「どうしてですって?だってそう感じるのですもの、お前のお茶を飲むとね。楽しくなったり、ほっとしたりとか・・・当たりでしょう?」

「はい。この小瓶に入っているのは珍しくもない花の蜜なんです。亡くなった母がいつももお茶を淹れる時、魔法だと言って入れてくれていましたから・・・私も同じように魔法をかけるみたいに心を込めてと思って・・・」

 キトリーは優しく微笑んだ。

「素敵なお母様ね。そしてお前がどんなにいい子なのか改めて思ったわ。それとさっきの続きだけどクロードのこと好きでしょう?」

「はい・・・憧れています。でも本当にそれだけです。もう見ているだけで、いっぱい、いっぱいなんです」


 今度は正直に言った。嘘を言って彼に不快な思いをさせてしまったからだ。

「あら?見ているだけ?駄目よ。だって抱きしめてもらいたいとか思わない?口づけしてもらいたいとか・・・そのもっと先とか・・・」

 リリーはこの侯爵夫人が変わり者だというのが良く分かった。自分も王族だというのに息子に平民の侍女と結婚させようとしたり、それを率先したりするからだ。リリーはもう絶句するしか無かった。そして数日後、リリーはキトリーが変わり者では無く、王族の血筋がそうなのだと思い知ったのだった。



 王の要請で王宮の会議室にリリーは来ていた。あれ以来クロードの態度がよそよそしくなってしまい、リリーは誤解を解きたくても何も言えないでいた。それに今日は朝からもっと機嫌が悪いみたいだった。見るからに苛々としている感じだ。朝食後のお茶も早々に飲み干し、さっさと席を立って先に王宮へ行ってしまったのだ。リリーは一人でそっと涙ぐんでしまった。よそよそしい態度になっていた彼でも、お茶の時間だけは楽しむようにゆっくりと飲んでいたからだ。そして悲しい気持ちのままリリーは王宮に向った。


 その会議室にはまだ王やクロードなどの重臣は入室していなく、王国の主だった商工関係者だけが着座していた。彼らに先にお茶を出すように言われたリリーは、言いつけ通りに出し終えた。そして次ぎに王の控え室へ呼ばれ、そこでお茶を淹れるように言われた。そこには王と共にクロードがいた。ちらりと様子を窺えば、クロードはむすっとした感じで朝よりもっと不機嫌そうだった。逆に王は上機嫌だ。

「おいっ、リリー。どうだった?」

「え?」

 リリーは驚いた。王が声をかけてきたからだ。今まで一度もそんなことは無かった。

「奴らの中でいいのはいたか?今日の連中は王国でも指折りだからな。保障するぞ!」

「何の話でございますか?」


 アランは何だ?というような顔をしてクロードを見た。クロードはその視線を受けたが知らぬふりをした。アランからこの見合いもどきの件を、リリーに前もって話しておくようにと言われていたのだった。しかしこの数日そんな気分にはならなかったのだ。

「クロード、お前、話していないのか?」

「ああ、そうでございました。うっかり忘れておりました」

 クロードはわざとらしく手をぽんと叩くと、しらっとした顔をしてとぼけた。

「お前・・・何考えているんだ?お前が忘れるようなボケするかぁ?」

「私も人間ですから、うっかりすることもございます」


 アランは舌打ちした。

「何がうっかりだ!そんなもの!それとも何かあるのか?」

「何も問題ございません」

 澄ました顔でクロードは答えた。ふん、とアランは鼻を鳴らした。

「もういい!お前は当てにしない!リリー、今日呼んだのはお前の見合いだ」

「見合い!私のですか!」

 リリーは驚いてひっくり返ったような声を出した。

「そうだ。お前の親が結婚相手を見つける前に、ここで結婚してしまえ!」

「け、け、けけ結婚!」

「そう結婚だ!これは命令だ!そしてここにずっといてイレーネの側にいるんだ!」

「イレーネ様・・・」

 リリーはイレーネの名を聞いて、王が何を考えているのかが分かってしまった。反対にそっぽを向いていたクロードが、はっとしてリリーを見た。


(彼女にイレーネ殿の名前を出したら・・・きっと・・・)


 クロードの懸念通りにリリーは、突拍子も無いアランの考えを真剣にとらえているようだった。彼はアランの考えに賛同出来なかった。イレーネの為にリリーを無理矢理結婚させるような事は間違っていると思っていた。


(しかしイレーネ殿を引き合いに出せば彼女を尊敬して慕っているリリーは・・・)


 クロードは彼女がイレーネの事を想って泣いていた姿を思い出してしまった。

「そういう訳だから会議中、お前も中にいて茶の世話をしろ。そして誰がいいか観察するんだぞ!俺が後から話は付けてやるからな」

 そんな馬鹿な、とリリーは思ったがこの王は押しが強い。イレーネがいつの間にか彼と結婚するようになったのは、そのせいだとリリーは思っている。こうと決めたらそれを無理矢理押し通す感じ・・・・リリーは助けを求めてクロードを見た。

 大きな瞳ですがるように見つめられたクロードは何やら胸の奥が、もやもやとしてきた。最近ずっとこうなのだ。原因は全て、この帝国から来た侍女リリーのせいだと分かっている。冷静に自分を分析すればこの娘が気になっているのだと答えは出た。


(・・・・それもかなり・・と付け加えよう)


 それが異性に対する感情だと分かるが、それらは自分の中で制御出来るものと思っていた。性格的なものだろうが、アランのように感情的にはなれない。彼がイレーネとの関係で感情を爆発させて部屋で暴れたことがあった。クロードにしてみれば自分は絶対にそうならないだろうと思っている。


(だから問題は無い・・・)


 余計な感情は何かと支障をきたすもので有り、必要の無いものだった。この感情は一過性で治まる筈だと思っていたのだ。だからその間は無視に限ると、リリーの視線を冷たく受け流した。その途端、リリーは涙ぐんだ。


(??なんだ?この二人?ふ~ん)


 アランは様子の可笑しい二人に気が付いた。リリーのことは良く知らないがクロードの事は昔から良く知っている。この男が他人に対して特に女性に関して、こんなに感じ悪く対応することは無いのだ。何事もそつなく自分に深く立ち入らせず、気分を害させる訳でも無い。実に浅く広く表面だけがいい三枚舌なのだ。


(クロードの奴にも春が来たのかな?ふふん・・・楽しそうだ)


 アランのニヤニヤ顔にクロードはしまったと思った。自分の気持ちを整理する前に勘付かれたと思った。アランの勘は野生動物並に鋭い。

「なぁ~クロード。好きな女ぐらいさっさと攫って来い!とか前、偉そうに言って自分は二の足を踏んでいるわけか?」

「私は二の足を踏んでいるのではありません。私には必要ないだけです」

「ふ~ん。まあ、お前らしい答えだな。じゃあいいんだな?」


 話しこみだした二人に、リリーは自分から話題がそれたと思って安心した。しかし会話を聞いているとクロードに好きな女性がいるようだった。だから胸がツキンと痛む。キトリーが夢みたいな提案をしたが、それこそ夢のようなものだった。王との会話を聞けば好きな人でも彼は必要無いと言っている。キトリーの言ったようにクロードをその気にさせるのは難しいだろう。

「じゃあ、リリー、頼んだぞ。奴らの中で気に入らなかったら次ぎを用意してやるからな。う~んと良い奴を俺が見つけてやる!」

 また自分に話題が戻ってしまったリリーは、涙を引っ込めて小さく溜息をついた。

「なんだ?溜息か?ほらっ、にっこり笑ってみろ!今日は可愛いぞ。男共は釘付けだろうよ。その服、イレーネから貰っただろう?」


 リリーは驚いた。その通りだったからだ。侍女服でないものを着て来いとのことだったので着替えを取りに帰った。その時イレーネが自分の着ない普段着で、リリーに似合いそうなのがあると言って寸法を直してくれたのだ。

「はい、その通りです。イレーネ様から頂ました」

「やっぱりなぁ~一つを覗けばイレーネの好きそうな感じだ。俺は基本的に好きだがイレーネには似合わんだろう?」

 リリーは王の言っている意味が分からなかった。


「なんだ?分からないって顔しているな。胸、胸だ。そんなに開いているデザインはお前みたいに、俺の片手にでも余るぐらい胸が大きいなら様になるが、イレーネみたいに片手で収まるようだとちょっとな・・・まあそれが慎ましやかで良いんだがな。うん、うん、イレーネはいい、とってもいい」

 アランはイレーネの感触を思い出すように、手を開いたり閉じたりして上の空になった。

 しかしリリーはその具体的ないやらしい表現に真っ赤になってしまった。胸が開きすぎると自分でも思ったが、イレーネは似合うと選んでくれたのだ。確かに胸は寸法を直してもっと開いてしまった。胸がまるく盛り上がって谷間をくっきりと描いている。


「だ、だだから、みなさん私の胸を、みみみ見ていたのですか!」


 声がまたひっくり返ってしまった。そして思わず胸を両手で抱くように隠した。クロードは弾かれたように、ぱっと振り返ってリリーを見た。しかし我に返ったアランの、にやりとした視線がきたので顔を背けた。


(ふふん、これはやっぱり面白い)


「リリー、そう気にするな。男はどうしてもそこに目がいくんだよ。なあークロード?」

「もう時間でございます」

「ちっ、無視かよ。ふん、まあいい。じゃあ、リリーよく見とけよ」

 アランはそう言って片手をひらひらさせると出て行った。続けてクロードもリリーを見ることなく出て行った―――


 リリーはもうどうしたらいいのか思考能力の限界を感じてしまった。キトリーにクロードと結婚しろと言われたり、アランからは結婚相手を斡旋されたりと、もう何が何だか理解に苦しんだ。しかし逃れる言い訳も無く、会議室の隅で控える事となった。


 そして意外と長い会議の間、何度かお茶を出していた。要望や意見もかなり出て中弛みしている時だった。アランが側に座るクロードへ愉快そうに耳打ちをしてきた。

「あの三番目と向こうの七番目なんか、彼女に熱い視線送っているみたいだぞ」

「何の話かと思えば・・・今は大事な会議中ですよ。そんなことばかり見ていたのですか?」

 クロードは呆れてそう言った。しかしアランは、にやりと笑った。クロードの視線も自分と同じく見ていたと分かっているからだ。

「ふ~ん、別にお前に相談する必要もなかったな。後であいつらと話しをつけてこよう」

「駄目ですよ」

「何が?」


 クロードは言いたくなさそうに眉間にしわを寄せた。

「三番目の者は女好きで、今でも二人ほど妾を囲っています。それに向こうの七番目は年端のいかない幼女が好きな嗜好の持ち主です」

「へぇー流石よく知っているな?ここにいる全員の弱み握っているんだろうな。だから誰も宰相閣下には逆らわないか?嫌、逆らわせないか?怖い怖い・・・」

 アランはおどけた調子でクロードをからかった。クロードもいい加減我慢の限界だった。アランの言動は腹立たしい上に、リリーが皆、胸を見ていたと言って涙ぐんだように、本当に若い男達が彼女を、ちらちらと見ているのが気に入らなかった。帝国出身の侍女は珍しく、そのうえあの容姿だから目立つのだろう。


(それに、あのドレスがいけない!)


 朝、リリーの姿を見た時、思わず見とれてしまったのだ。アランが言っていた子供のようで大人のような不調和な魅力。まさにその通りだった。それを今日の男達の目に晒すのかと思うと気分が悪くなってしまったのだ。感情など制御できると高を括っていたが中々難しいものだった。取り敢えずアランの言動だけは黙らせようと口を開きかけた時に、その異変が起こった!


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