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クロードの難題

 大きな溜息にイレーネが顔を上げた。

「溜息?クロード様、お珍しいですわね?」

「これは失礼致しました」

 オラール王国首席宰相のクロード・セゼール――王族との繋がりも深い、セゼール侯爵家の当主と東の元帥を兼任するヴァランを父に持ち、母は現国王の叔母という由緒正しき王族の一員だ。若くしてその地位に就いているのはその血筋だけでは無く、明晰な頭脳と卓越した政治手腕によるところが大きい。


 彼が摘発した後宮の陰謀も一段落つき、何かと大変だったアランとイレーネも無事婚約した。しかしイレーネとの勉強会は彼女の希望で続けていた。今日も仕事の合間を縫った勉強会で、イレーネの筆記が終わるのを待っているところだ。その間、思わず今抱えている難問を思い浮かべてしまって溜息をついてしまった。

「ここのところお忙しくて、大変だったのでございましょう?」

「いえ、問題ございません」

 何でもないというようにクロードはさらりと答えた。イレーネは彼のことを段々と分かってきていた。クロードなら例え自分の命に関わる傷を負ったとしても、平気な顔をして〝問題ない〟と言うだろう。アランから言わせれば彼は心臓が三つある大嘘つきだそうだ。


 イレーネはその彼を見て、くすりと笑った。

「何か?」

「いえ。わたくしは今日のところは大体分かりましたから結構ですが、クロード様はまだお時間よろしいでしょう?ご一緒にお茶を致しませんか?先日、帝国から珍しい茶葉を手に入れましたのよ。如何でしょう?」

「魅力的なお誘いですが・・・そうなると私は許可を取らなくてはなりません」

 イレーネが不思議そうな顔をした。

「許可?何のでしょうか?」

「もちろん。陛下からの許可でございます。前もって報告してある勉強会以外に貴女と二人だけになる場合、必ず申し出るようにと厳命されております」

 イレーネは驚いて呆れてしまった。

「陛下がそのようなことを言っているのですか?」

「はい。たまたま回廊などですれ違うなどは別ですが」

 淡々と言うクロードも内心馬鹿馬鹿しいと思っているだろうが、もちろん顔には出さない。イレーネこそ大きな溜息をついてしまった。

「本当に困った方ですこと・・・クロード様、申し訳ございません。そのような馬鹿げた事を言っているなんて思ってもいませんでした。今度言っておきますわ」


 クロードはアランの怒られている姿を想像してしまった。あの怖いもの知らずのやりたい放題の王を、唯一恐れさせるのがこのイレーネだった。彼女から嫌われるのをとても恐れているからだろう。それほどイレーネを愛しているのだ。だから行き過ぎの感がある独占欲でもクロードも目を瞑っていた。それくらい可愛いものだ。

「いいえこれぐらい問題はございません。いつものことでございますから慣れております。それよりも貴女に怒られて、八つ当たりされる方がもっと酷いでしょう」

「八つ当たり!・・・そうでしょうね・・・クロード様、苦労なさっていますわね」

「いえ、問題ございません」

 イレーネはまたくすりと笑った。彼の口癖の〝問題ない〟と言うのが連発するからだ。

「では二人でなければ宜しいでしょう?お茶は侍女のリリーが淹れますから部屋には三人になりますもの」

「微妙ですが・・・命令違反にはなりませんね。ではお言葉に甘えてさせて頂きましょう」

 クロードは今頃、自分が山積にしてきた書類に目を通している筈の王を思い浮かべた。


(これが知られたら拗ねて大変でしょうね・・・まあ・・たまにはいいでしょう)


 お茶好きのクロードは〝帝国の珍しい茶〟と聞いてはその魅力に勝てなかったのだった。

「リリー、あのお茶の準備をして貰える?クロード様をご招待したのよ」

 クロードと聞いてリリーが頬を染めた。するとイレーネの後ろからクロードが部屋に入って来たのが見えた。リリーは慌ててお辞儀をして、準備をする為に小走りで去って行った。クロードは彼女にとって憧れの人だった。以前、イレーネが借りていた本を返却するように頼まれた時、王宮図書館でクロードを初めて間近で見てからだ。


 その王宮図書はイレーネが勉強会で利用する場所だが、そこには専用の侍女がいるのでリリーは随行した事は無かった。初めてそこに足を踏み入れた時、その圧倒的な広さと書籍の量の多さにぽかんと口を開けてしまった。イレーネは帝国より素晴らしいと褒めていたが本当に驚いた。しかし驚いたまま進んだリリーは直ぐに困ってしまった。出入り口には親切に見取り図があったのにそれを確認せずに入ってしまったのだ。広い館内で係りのいる返却場所が分からなかった。しかも周りには誰もいない。


「どうしよう・・・来た道も分からなくなったみたい・・・」


 小さく呟いた声だったが静まり返った館内では恐ろしく響いた。まるで誰もいない違う世界に飛ばされたような感じだった。段々と心細くなって怖くなり思わず本を、ぎゅっと胸に強く抱いて走り出した。リリーの軽い足音が響く。涙を溜めながら必死に出口を求めて駆け続けた。


「誰です?走っているのは?館内では静かにしてください」


 怒鳴ってはいないが十分大きな声で注意する男の声が聞こえた。しかし勢いがついていて止まれなかったリリーは曲がり角で、ドンと誰かとぶつかってしまった。そして弾かれて後ろに倒れるかと思ったリリーを、そのぶつかった相手が支えてくれた。リリーはその相手を見上げた。小柄な彼女が見上げないといけない程、ぶつかった相手は背が高かった。


(あっ、この方は宰相の・・・)


 リリーは名前までは知らない。それはクロードだった。

「大丈夫ですか?しかしこういう場所で走るのは感心しません」

 リリーは怒られたのに、ほっとして足の力が抜けその場にへなへなと座り込んでしまった。そして安堵の表情を浮かべると瞳に溜まっていた涙がひと雫こぼれた。

「良かった・・・誰かいて・・」

 クロードはこの少女が誰なのか自分の記憶を捲った。一度見た顔は覚えている。


(イレーネ殿の帝国から来た侍女だったな・・・名前は・・・)


 クロードでも流石に名前までは知らなかった。聞いたことが無いものは当然だろう。他人の侍女の名前まで聞く必要もなければ覚える必要も無い。クロードは彼女がしっかり抱えている本に目が止まった。それは自分がイレーネに薦めた本だった。

「それを返却に来たのですか?」

 クロードがその本を指差して言った。

「あっ、は、はい。でも・・・ここは初めてだったので迷ってしまって・・・」

 クロードは彼女の様子から察しはついた。今の時間、殆ど利用者がいないこの場所は陰気で重々しい雰囲気だ。慣れないものなら怖くなっても不思議では無かった。

「私が返しておいてあげましょう」

「え?」


 リリーは驚いた。座り込む自分の目の前に金色の耳飾りが揺れたのが見えた。太陽の印が刻まれた王族の証。それが小さくシャリンと音がした時には本がその彼の手の中だった。クロードが腰を屈めてリリーの抱えていた本を取ったのだ。

「駄目です!」

 リリーは思わず叫んだ。そしてガクガクとまだ足を震わせながら立ち上がった。

「わ、私が申し付かった仕事ですし、それにちゃんと場所を確認していないと次回困りますから・・・あの・・申し訳ございません」

 クロードは少し感心したような顔をした。怖かっただろうに健気にも続けると言うのだ。

「では、案内してあげましょう。こちらです」

 本当に気まぐれだった。彼女が巣から落ちた雛鳥のようだったからかもしれない。幼い頃、アランがよく悪戯して落とした雛鳥をいつも自分が戻していたのを思い出した。


 リリーは信じられなかった。身分の高い、偉い人が親切にしてくれたからだ。普通は帝国でも此処でも侍女といって蔑まれることは無いが、気にも留められないものだった。あって当たり前の空気のような存在だろう。その時からリリーはクロードが気になり始め憧れた。もちろん遠くから垣間見て心ときめかせているだけで、だからどうしたいと思っている訳では無い。あの時以来、会話することも当然無いし、そんな些細な出来事をクロードも覚えてもいないと思う。でもリリーにとってはとても大切な思い出だ。リリーはお茶の準備をしながら頬を染めた。


(私の淹れるお茶を飲んで頂けるなんて幸せだわ!)


 そんなことがとても幸せに思うリリーだった。

 クロードとイレーネの前に、広口で蓋付の器が置かれた。蓋は閉まっておらず茶も中に注がれてはいなかった。しかし白磁の器の中には丸く萎んだ葉が何種類か入っていた。

「これは?」

 不思議そうにクロードが聞くと、イレーネはにっこり微笑んだ。

「今からがこのお茶の見所ですのよ」

「見所ですか?」

「ええ。リリーお願い」

「はい、イレーネ様」

 リリーがとても細く長い注ぎ口の付いた湯の入った入れ物を持ってきた。そして高いところから広口の器にその湯を注ぐと、中の葉がくるくると回り出した。そして蓋が閉められ、砂時計がひっくり返されたのだった。その手際をクロードは興味深く見た。

「なかなか変わった淹れ方ですね」

「そうでしょう?リリーは・・・今、お茶を淹れている私の侍女の名前ですが、リリーの実家はお茶の商いをしていまして、独特な製法の商品が多くありますのよ。今日はその中でも季節限定ものですわ」

 クロードがその時初めてリリーを見た。


(ああ、図書館にいた・・・)


 過日の図書館の件を思い出した。しかし空気のような存在の侍女を紹介されても関心は湧かないが、このお茶の淹れ方には興味があった。

 リリーは彼の視線を感じて、どきどきしながら時間の経った器の蓋を開けた。そして綺麗な硝子の小瓶に入っている金色の液体を一滴落とした。その雫が、ふわっと甘い香りをたてた。淹れ終った湯気の中を覗き込んだクロードは感嘆の声を上げた。白磁の器の中には琥珀色の花々が咲いていたのだ。

「これが見所と言われたのが分かりました。飲むのが惜しいくらい美しい」

「そうでございましょう?見かけも美しいですが飲むと夢を見るようですのよ」

 イレーネは同意を求めるかのようにリリーに微笑みかけると、そのお茶に口をつけた。同じくクロードも一口飲んだ。

「これは本当に素晴らしい味だ」


 喜ぶクロードを見るとリリーはとても嬉しくなった。もう一杯入れて、二人が歓談している間、部屋の隅で控えていた。間近でクロードも見たし、声も沢山聞いてしまって胸がいっぱい、いっぱいだった。もうこれ以上彼を見たり聞いたりしないように意識は彼方へと飛ばして立っていた。しかしイレーネが自分を呼ぶ声に、はっとして戻って来た。

「リリー?リリー、こちらへいらっしゃい」

「あっ、はい、イレーネ様」

 何故かクロードがリリーを見ていた。

「出来ればお願いしたいのですが・・・しかしこう言うのも何ですが母は変わり者で・・・」

「それは保障しますわ。私に最後まで辞めずに勤めた数少ない頑張り屋さんなのですもの」

「最後まで?」

 クロードは怪訝そうに聞いた。

「ふふふっ、私、昔は癇癪持ちの意地悪皇后でしたのよ。実家の両親をよく泣かせましたわ。侍女が一月も持たないのですからね。送り出す侍女がいないと言って嘆かれました」

「貴女が?ですか?信じられません」

「ねぇ、リリーそうだったわよねぇ?」

「そんな・・・あの頃のイレーネ様はとてもお辛い毎日だったのですから、それを察しない私達が悪かったのです」

「そんな事いうのはツェツィーか、あなただけよ。この子は本当に優しくて、とても我慢強い子なんですよ。だからお役に立てると思いますわ」

 リリーは何の話を二人でしているのだろうかと思った。

「あの・・・イレーネ様、何のお話をされていらっしゃるのですか?」

「実はねクロード様のお母様のお話をしていたのよ―――」


 クロードが今抱えている難題、それは実母の侍女の件だった。王族でセゼール家に嫁いだキトリーの我が儘に手を焼いていたのだ。最近お気に入りの侍女が結婚で辞めたのが事の発端だった。その辞めた侍女はお茶を淹れるのが上手で、それと同じように淹れられる者がいないのだ。

 キトリーは息子のクロード以上のお茶通だった。おかげで最近では気に入らないものだから癇癪をおこすので、侍女が直ぐに辞めてしまうのだ。その為屋敷に戻っても溢れる程いた筈の、侍女はおろか召使いまで不足している状態だった。

 父は運のいい事に軍の関係で遠征中だし、クロードも何かと理由付けて王宮に留まり屋敷には帰らなかった。しかし毎日のように執事からは嘆きの手紙が届けられるのだ。

 だからついイレーネの所の侍女の腕前に思わず願い出てしまった。リリーを貸して貰って家人達にお茶の淹れ方を教授して貰おうということだった。


「―――という訳なの。リリーどうかしら?いつもお世話になっているクロード様をお助けして差し上げたいのよ」

「私で宜しければお手伝い致します」

 リリーはもちろん彼の役に立つなら嬉しかった。その返事を聞いたクロードは胸を撫で下ろした。

「それは助かります。イレーネ殿、それではお借りいたします。リリー、宜しく頼みます」

 リリーは名前を呼ばれて真っ赤になってしまった。

「こ、こちらこそ宜しくお願いいたします」

 新しい変化にリリーは少しの不安と嬉しさで胸をふくらませたのだった。


 そして早速リリーは翌日、セゼール侯爵邸へと向った。迎えの馬車に乗り到着した場所は王宮からも近い別邸だった。本宅は領地にあるらしいが公式な行事が多い季節はこの王都に居を構えるらしい。とは言ってもその当主と長男が王宮に勤めているのだからほぼこの屋敷が本家のようなものだろう。だからその構えも立派なものだ。


 到着したリリーを迎えたのは心痛で病んでいるような執事のブノワだった。初老の彼は歳よりももっと老け込んでいる感じだ。クロードが言っていたように侯爵夫人に相当苦労しているのだろう。リリーを見るなり気の毒そうな顔をした。思ったより大変なのかもしれないとリリーは不安になった。しかし案内された部屋にはその侯爵夫人の他にクロードが居てほっとした。

「母上、先ほど話していた侍女のリリーです。今日から暫く此処で勤めて貰います」

 クロードがそう言ってリリーを紹介した。リリーは細身の美人で気位の高そうな侯爵夫人の迫力に呑まれていた。イレーネとはまた違った気品ある貴婦人は、早世した先王の妹というのに相応しい風格だった。リリーは、はっとしてお辞儀をした。


「リリーと申します。宜しくお願い申し上げます」

「ずいぶん子供ね?」

 リリーの顔が赤く染まった。小柄で童顔だから歳をとても下に見られる事が多いのだ。それが彼女の悩みの種だった。

「あの・・・私これでも十九になります」

「あらっ?十ぐらいかと思った」

「はい、よくそう言われます」

 クロードも歳を聞いて驚いていた。流石に十歳とは思わなかったが十二、三ぐらいかと思っていた。

「お前、お茶を淹れるのが上手だと聞いたのだけど、香草は使える?」

 クロードはしまったと思った。キトリーはこの香草関係に今凝っていたのを忘れていたのだ。庭にその香草園を作らせたばかりだった。

「香草でございますか?種類が揃っていましたらお好みに合わせて色々と調合いたしますが?」

「お前、調合が出来るの?」

「はい。一応、私の実家はそういう類の商いをしておりますので、私も見よう見真似で一通りは出来ます」

 キトリーは少し興味を持ったようだった。

「そう。まあ口では何とでも言えるものね。じゃあ一杯淹れて頂戴」

「はい、畏まりました」


 案内された場所はお茶の為だけの厨だった。茶葉はもちろん茶器も種類豊富で棚に整然と並べられていた。

「すごい・・・うちの店でもこんなに無いわ・・・」

 リリーは楽しくなってきた。元々、お茶の種類を色々混ぜ合わせて何処にも無いような独自のものを作るのが好きだった。その腕前は超がつくほど一流だと父親が認める所だ。今は行儀見習いのつもりで侍女に出したが、ゆくゆくは婿を取って家業を継いで欲しいと思っているようだった。

「お待たせ致しました。どうぞキトリー様、お召し上がり下さいませ」

 侯爵夫人がちらりとリリーを見た。


「キトリー?」


 リリーははっとして自分の失敗に気がついた。キトリーをちゃんとした敬称で呼ばなかったのだ。イレーネが皇后とか殿下とか呼ばれるのを好まず、名前で呼んでいたのでついその癖が出てしまった。言い直そうとしたリリーだったがキトリーが笑い出したのだ。

「懐かしい呼ばれ方。最近では私自身、自分の名前を忘れるぐらいそう呼んでくれるものはいないわ。とてもいい・・・」

 最近では眉間にしわを寄せた顔しか見たこと無かった母親の笑顔にクロードは少し驚いた。器から香る優しい香りのせいかもしれない。


(これはまずまず成功でしょう・・・)


 キトリーは初め茶の香りを楽しむように器に口を付けずにいた。

「香りはまあまあね・・・」

「キトリー様、召し上がる前にこちらを」

 口を付けようとしたキトリーにリリーが硝子の小瓶を差し出した。そしてその中身を一滴落とす。その金色のしずくが茶の中に広がると甘い香りがした。

「どうぞ」

「今のは何?」

「これはお茶が美味しくなる魔法です」

「魔法?面白いことを言うのね」

 キトリーはリリーの言い方が気に入ったようだった。そして一口飲むと笑みが広がった。

「如何でしょうか?母上?」

 母の表情の変化を見逃さずにクロードが訊ねた。キトリーは勝ち誇るのでも無く澄ました顔の息子が憎たらしかった。


「まあまあよ」


 リリーはその答えに自信が無くなってしまった。気に入って貰えると思っていた自分が恥ずかしくなって俯いた。鼻の奥がつんとして涙が出そうだった。

 クロードは直ぐ彼女の変化に気が付いた。

「リリー、母はとても気に入ったそうです。今日から宜しくお願いします」

「え?でも・・・」

 涙ぐむリリーが顔を上げた。

 クロードはやはり彼女がとても幼く見えた。

「母の〝まあまあ〟はとても気に入ったという言葉と同一です。そうですよね?母上?」

 キトリーは息子の責めるような視線を受けて横を向いた。

「そうだったかしら?」

「母上、違うのでしたら彼女はイレーネ殿の所へ戻します」

 キトリーが急に立ち上がった。

「お前、リリーと言ったかしら?」

「は、はい」

「いらっしゃい、香草園を見せてあげるわ」

「え?でも・・・」


 リリーは不安そうにクロードを見た。視線を向けられたクロードは彼女を見ると本当に雛鳥を思い出す。守ってあげないといけないような気持ちが湧いてくるのが不思議だ。

「大丈夫。母は君が気に入ったようだから行っておいで」

「はい、ありがとうございます」

 つんと澄まして先を歩く母とその後に付いて行くリリーをクロードは送りだした。そして少しぬるくなった茶を啜った。

「本当に冷めても美味しい・・・私も屋敷に帰る楽しみが出来ましたね」

 そして取敢えず難問の突破口が開けたと安心するのだった。


ここに出てくるお茶は昔、台湾で飲んだ「八宝茶」です。初めて見たとき、本当に感動しました。お茶の淹れ方も独特で観光客用かもですがお兄さんが素敵でした。味は…まぁ~好みがあるでしょうね。

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