ハイエルフは万能じゃない!~異世界にハイエルフで転生したけどもう手遅れ~
こんにちわ、ヒロミネです。今回の作品は短めな冒険物となります。
つたないところもあると思いますが、最後まで読んで頂けますと幸いです。
人は生きていると様々な問いに出会い、試される。
例えば1+1=と聞かれれば2と答えて田んぼの田と言われる意地悪問題。
例えばパンはパンでも食べられないパンは? と問われればフライパンと答えて「それパン付けばなんでもいいんじゃん!」という理不尽問題。
例えば無人島に行くなら何か一つだけ何を持っていく? という意味のない仮定の問い。
様々な問いがある。
その中でもとりわけ、もっとも難しく、また、とてもどうでもいい問い。
「生まれ変わったら何になりたい?」
そんな問いかけ。
「鳥になって空を自由に飛びたい」「魚になって海を自由に泳ぎ回りたい」「猫になって日向でのんびり暮らしたい」「犬になって駆けまわりたい」色々あるだろう。
特に鳥なんかは無難かつ夢があるような回答でとても良いとされる。
であれば、もっとも夢がないとされる答えは何か。
「人間」
である。
しかしどうだろう、これは果たして夢のない答えと言えるだろうか。
異世界転移や転生物が流行るこの時代。誰もが今の現状をやり直したい、何かを変えたいと望んでいるはず。
生まれ変わることを望んでいる。
そんな時代のこの問いかけには、どう答えるのが一番『夢』があるのか。
そのような問いからこの物語を始めてみよう。
話は変わって2025年。世界初のフルダイブタイプのVRMMO、マスターオブアークオンライン、通称MOAが大流行した年から二年。
とある一人の日本人女性の視点で、この物語は始まる。
「はー、メンテ終わったー!」
私こと一條嶺菜はふうっと溜息を吐く。
私はひとりごちりながら、自らの周り……白い天井に開け放たれた窓、白い床、物々しい機器を、自らの置かれている自分以外は誰もいない病室を見回す。
「はあー。今日も今日とてゲーム三昧。いいご身分だよね私ってさ」
自分で言っていてちょっと可笑しくなる。いい『身分』というにはあんまりな体の自分を顧みてだ。
「また細くなったかな……ははは」
ベッドの上の自分の体を、しかし首から上しか動かない体を見て笑う。
事故って両親を亡くし、一人生き残るも体が動かなくて命だけ機械に繋がれてる。まあよくはないけどたまにある話。
私はそのたまにいる、ちょっと可哀そうに見える人間というだけ。
「はー、おかげでネトゲ廃人まっしぐら。これがホントの廃人プレイ、なんてね」
誰が聞いている訳でもない空間で、だからこそ自嘲気味に、あるいは自虐的に笑えない冗談を言う。こんなのにも慣れたものだ。
「……ふう、なんか現実見てると悲しくなるのでゲームでもしましょうか」
自らの置かれた現実を前に、流石の私も多少物悲しくなり、大型アップデートを済ませたMOAに戻ろうとゲームを起動する。
ログインを済ませると、そこはいつもゲームを終了してまた、始めているマイハウスではなかった。
「レイナ様、おはようございます」
「はあ、おはようございます?」
よく知らない空間に、知らない女性が立っていて、声を掛けて来る。
「本日はMOAにログイン頂きましたプレイヤーの皆様に、プレイ時間に応じた装備を進呈させて頂いております」
「お、おぉ……?」
何と言うか、『プレイ時間に応じた』のあたりに強い抵抗を覚えて変な声で返してしまった。
「レイナ様のプレイ時間はさん……」
「待って言わないでごめんなさい許してださい!!」
私はプレイ時間の読み上げを全力で止める。分かってる。自分でも意味のないことなのは。でも現実を耳にするにはちょっと心臓に悪いのだ、主にプレイ時間は。
「そうですか。それではこちらの中から好きな物をお選びください」
「この中って、あ、これね」
三つある装備の内から一つ選べってことかな。
でも宝箱に入ってて中身は見えない、試しに鑑定スキルを使ってみたいけどここはどうやらスキルなどは使えないエリアのようだ。
「じゃ、これでいいや」
「真ん中ですね」
「迷ったらストレートにいかないとね」
迷ったら直球勝負が私の基本スタンスだった。
「それではもう一品お選びください」
「へ?」
これは想定外。色んな意味で。
「どうぞお選びください」
「じゃ、じゃあ左のを」
私が遠慮がちにそう言うと、女性から驚きの言葉が出て来る。
「左ですね、それではもう一品お選びください」
「全部じゃん!!」
これには流石にツッコんだ。
っていうか何、この事務的な手続き。これなら最初から全部でいいじゃん。わけがわからない。
「もう一品……」
「わかったから、右のも貰います!」
「右ですね。それでは開封をどうぞ」
「はいはい……さて中身はっと?」
中身を見てみる。
まず最初に見たのは真ん中。なんかこう、腰回りにつけるような装備のようだ。そういえば叔父さんが好きで良く話したり見せたりしてきたガン〇ムのクア〇タとかいうのがソードビットとか言うのを付けてたけどそれが似てる気がする。
「こちらは遠隔攻撃、防御に使えるソードビットです。物理攻撃ですが物理と魔法両方の攻撃力を参照できます」
「へえ……え、つよ」
属性は物理の扱いだけどダメージは物魔で上がるってことだよね。魔法属性が効かない相手に便利な装備だ。
「つ、次は何かな」
なんかちょっと心配になって来た。主に装備のぶっ壊れ具合が。
次は左を見てみる。
「髪留め?」
シンプルな見た目で草と蔦をモチーフにしたものだった。
「こちらはスキル付きの装備、永劫回帰の髪飾りです。通常は魔力とMPを1.5倍にするものですが固有スキル使用後一定時間のみ通常の3倍になります」
「は、あははははははは……」
こんなの乾いた笑いしか出ない。ぶっ壊れてるにも程がる。
通常の三倍ってどこの赤い彗星だろうか。
「最後のは……何かなぁ……」
というかここまで魔職向けな装備しかないけどいいのだろうか。私はハイエルフで魔職だから良いけど、これ他のプレイヤーは貰ってもがっかりする人いるんじゃないかな。
あ、でもソードビットくらいなら便利なのかな。
「そちらは降隕の杖です。メテオフォールという魔法が使えるようになります」
「こわっ」
何その物騒な魔法は。名前からストレートに来てる感じするけど、物騒すぎやしないかな。
「以上になります、ちなみに選べる装備の数はプレイ時間を参照しております」
「あ、そういう……っていうかこの三つ全部ぶっ壊れてる装備だけど大丈夫かな……」
なんだかアプデ後のゲームバランスが酷く心配になってきた。
「最後に、プレイヤーの皆様に取っているアンケートがございます」
「お? はいはい」
こういうのは実際ゲームに反映されているかは別として大事な要素って気がするからちゃんとしないとね。
「MOAとリアル、どちらが楽しいですか?」
「え、MOAだけど」
「ではMOAで大切なものは何でしょう?」
「……お金と装備?」
「では、リアルで大切な物はなんですか?」
「MOAだけど」
「生まれ変わったら何になりたいですか?」
「急にゲーム関係ないね。いや、さっきの質問もだけど……うーん」
私はちらっと、自分のアバターを見て、答えてみる。
「ハイエルフ?」
「ご協力ありがとうございます」
「あ、はーい」
なんかわからないけど、アンケートは終わったらしい。
うーん、これ、ゲームのバランス調整に関係ある?
「それでは、MOAの世界をお楽しみください」
それだけ言われると、私は一旦意識を失い、目が覚めるとそこは……どこ?
「こんな場所でログアウトした記憶ないんだけど、新イベントなのかなあ」
過去にこういった特別エリアにいきなりログインさせられるイベントも無いではなかったのでその可能性が一番高い。でもそれにしては周りにプレイヤーが見当たらない。アプデ明けは人が結構いるんだけどなぁ。
とりあえずさっき貰った装備でも装備しようかな。
ソードラックはなんかデザイン的に私の装備とのバランスが悪いから、とりあえず杖と冠だけでいいかな? それとも一度試験運用を兼ねて装備を……。
「誰か助けて!!」
「へ?」
何か今、助けを求める声が聞こえたような。
他のプレイヤーかな、それかイベント? とりあえず向かってみる。
「ってオーク?」
見知らぬ少女がオークに襲われている現場に到着した私、さて、どうするか……って助ける以外ないよね。
「ソードラック!!」
とりあえずお試しで装備してみておいたソードラックを早速使ってオークを攻撃する。
ソードラックは複数飛んで行ったけど、最初の一本が首を落としたので他はそのまま帰って来た。
……って、首? 落ちて……え?
「うっ」
帰って来たソードラックの一本から漂う血生臭さに吐き気を催す。
「これは酷いアップデート」
正直最悪だ。質が悪いにも程がある。
「あ、あの、ありがとうございました!」
「へ? あ、あぁ……いえ、どういたしまして」
そう言えばこの子を助ける為にオークを倒したんだったね。
「あれ、ネーム……」
「はい?」
彼女を見るとプレイヤーネームもNPC表記も無い。
どういうことだろう、これもそういうアップデートなんだろうか。
「あぁいや、貴方の名前は?」
「私はアイシェです。お姉さんは?」
「私はレイナ、よろしくね」
うーん、どうもおかしい。
助けた少女を見てみるが普通NPCならネームの前にそうNPCと表記されるし、ここまでリアルに話せない気がする。
仮にプレイヤーならやっぱりネームが見えないのがおかしい。こんなアップデート情報は事前に見た記憶はない。
「どうかしたのお姉ちゃん?」
「え、いや。何でもないよ」
自らが助けた12、3歳の少女に要らぬ心配を掛けまいととりあえず何でもないことにしておく。
(本当はなんでもありまくりなんだけど)
「さて、どうしようかな……道も分からない森の中かあ」
転移でマイホームに戻るのはまだ試してないしやってみようかな。
目の前の少女には置いて行くようで悪いけどこちらも非常事態感がある。
「転移、マイホーム」
「?」
転移しようとした私を少女が――アイシェが不思議そうに見上げて来る。
「転移出来ない……? これって、うーん?」
試しにログアウトを試みるもウインドウが開かない。
……あ、これはもしや……異世界転生という奴では?
って、そんなわけないよねぇ、いくら流行ってるからって、ねぇ?
「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
「うーん大丈夫じゃないかも」
見知らぬ場所に訳の分からない状況、あと死んでも消えないオークと頭。
全然大丈夫じゃないね、これ。
「オークの解体が出来ないの? それとも体調が悪いとか?」
「……どっちも?」
気分は悪いしオークの解体? に至っては意味が不明だ。まさか捌くのだろうか。
「じゃあ私が解体しようか? 体調はこの薬草を……」
私が困っていると思ってか、少女が色々世話を焼こうとしてくれる。
「いや、薬草は大丈夫……解体はお願いしてみようかな」
「うん、わかった!」
アイシェは笑顔でそういうとオークの死体に向かって走り出す。
あんないい笑顔で巨大な豚の魔物に走っていく絵面は中々にシュールだ。
「はあ……まさか本当に異世界とかじゃないよねえ」
アイシェには聞こえてないだろうし、聞こえても意味が分からないだろうから一人ごちる。
これが異世界転生だったら由々しき問題だ。
何せほら、えっと、何。あれ?
私は元の世界に残して来たものについて考えて、ふとあまり問題が無いことに気づく。
元の世界の私は半分以上機械に生かされている身体で自由も無く、心配なのは私に良くしてくれた叔父さんくらいだがそれでも新しい人生を得られたと考えたら案外悪くない?
私がそんなことを考えていると、走って来る足音が聞こえる。
「お姉ちゃん、解体終わったよ」
「え、もう? 速いんだね」
「えへへ、そうかなあ」
思ってたより長いこと考え込んでいたのか、それともアイシェの解体スキルが高いのか、一般的にそんなものなのか……まあとにかくアイシェの笑顔が見れてるし、いいとしよう。
「それで、レイナお姉ちゃん」
「うん?」
レイナお姉ちゃんか、良い響きだね。
「解体したオークは売るんだよね?」
「え? あー。うん、そうだね」
よくわからないけど話を合わせる、駄目な日本人らしさが出てしまった。
「それじゃあ町まで一緒に言ってもいい?」
「うん? いいけど」
それは願ったり叶ったりだ。こんなわけわからない森の中で一人とかシャレにならない。
「それで、解体したオークなんだけど」
「あー、どうやって運ぼうか……」
オークの体積は結構ある。女手二つで持っていくには手に余る。
……そういえば。
「アイテムボックス」
「?」
私がシステムコールするとアイテムボックスが開いた。おお、素晴らしい。
これは絶対異世界チートの範疇だね。所謂何でも入るボックスだね。
しかしどうやって収納すればいいんだろう?
「インベントリにオークを収納」
試しに言葉にしてみるとオークがインベントリのウィンドウがあった辺りに吸い込まれて行ってインベントリに『オーク=解体済み』と表記されたアイテムが表記されている。
うわあ、便利~。
「え、え?! お姉ちゃん何をしたの?!」
「え、あー、魔法、的な?」
上手く誤魔化す方法を思いつかなかったのでうっかり適当な事を言ってしまった。
ちゃんと言ったら伝わるのかな? この世界……この状況の一般的反応がわからないから困る。
「魔法でそんなこともできるんですね」
「ま、まあね」
とりあえず今は魔法ってことにしておこうと思う、面倒だから。
「それじゃあ街に行こうか」
「あ、はい!」
とはいえ私は道なんて知らないのでアイシェの歩幅に合わせる感じで上手く一緒の方向に歩いて行く。
まさか知りませんなんて言ったらここが異世界なら怪しまれるかもしれない。
そんな常識も知らないの? 貴女何者? なんてなりたくない、面倒くさい。
「それにしても私、エルフの方を初めて見ました」
「え?」
エルフ? 私が……?
そう思い耳に手を当ててみると……え、長い。嘘。
「エルフの方って美形が多いって聞いてたんですけど、本当にお綺麗なんですね!」
「えあ、あ、ありがとう」
余りの事に変な声が出た。
なんで私エルフ――恐らくハイエルフ――で転生してんの?!
「私も大きくなったらレイナお姉ちゃんみたいに綺麗で強いカッコイイ大人になりたいです」
「きっとアイシェならなれるよ、うん」
見た目も可愛いし解体も上手なんだろうし、きっと将来はナイフとか剣を自在に操れるようになる、と思う、多分。
まあ私の場合ソードビットって言うチート装備使っての不意打ちからの瞬殺だからあんまり私みたいになれると思われても困る気がするけど。
「それにしてもアイシェはあんなところで何してたの?」
「そ、それは……」
事情を訊くと。なんでもアイシェのお母さんが病弱で父は他界、そんな中妹二人を養う為に薬草採取の仕事に来たところ、あの場違いなオークに襲われたらしい。
「この辺りでオークは珍しいんだ?」
「そうですね、この辺りは初心者冒険者の狩場ですから、弱い魔物ですらほどんど出会うことはありません」
「今の言葉だとオークが強い魔物って聞こえるんだけど」
「強いですよ、とっても強いです。初心者が出会ったら必ず逃げるように言われているくらいですから」
「そ、そうだったんだ」
それを瞬殺した私って一体。
「でもレイナお姉ちゃんみたいな強い人に出会えて幸運でした」
「あははは、どうも」
素直に褒められるというか、喜ばれると照れるものがある。
「そういえば、レイナお姉ちゃんは森で何をしてたんですか?」
「えっと」
ヤバいどうしよう。気づいたら森の中で目が覚めましたとか言えないし。
かといって迷子って言うのもなんとも気恥ずかしい……うーん。
「ちょっと散歩を……ね」
「お散歩ですか。エルフの方って自然を愛するって聞いてたけど本当なんですね」
「うん」
いや、ホントは全然そんなことないんだけど、うまく説明できない以上、勘違いしてくれてるならそれに乗っておくべきだよね。
騙しているみたいで気は引けるけどさ。
その後も私達は他愛ない話をしながら街へと歩いて行った。
しばらくすると目的の街らしきものが視えて来る。
「あれが街か~」
「? レイナお姉ちゃんはアルケの街を知らないの?」
「あ、……うん、ちょっと遠くから来たからね」
「そうなんだ?」
散歩に行くのに遠くに来ましたっていうのもおかしな話だけど、なんとか誤魔化せているみたいだ。
街はといえば、外観は西洋風、いかにも異世界ファンタジー丸出しな感じだ。
よくみればお城のような大きな建物まである。まさか街といいつつ城下町ってオチかな。
「あの、レイナお姉ちゃんは街の入り方は……知ってるよね?」
「え、入り方とかあるの?」
そんなの知るわけがない。どんな入り方だろう。壁を上るとか?
というかそれ以前にまずはこの物騒なソードビットをしまうところからだろうか?
「門番の人にステータスカードを見せるんだけど、持ってるよね?」
「……」
持ってないですとは言えない。かといって代わりになるモノも……お?
そういえば私のステータスって確認できるのだろうか。
「アイシェ、ちょっと待ってくれる?」
「うん? いいけど」
私は街に入る前に準備としてできそうなことをやってみる。
「ステータス」
私がシステムコールをするとステータスが空中に表記される。
レベル100……ゲーム内のステータスのままだね。
あ、ついでにソードビットをインベントリに入れて……。
「レイナお姉ちゃん?」
「あ、えーっとアイシェにはこれって見えるかな」
私は確認の為にステータス欄をアイシェの前に移動させてみる。
「? 何かあるんですか?」
「見えないかあ」
困った。これではステータスカードとやらを調達するところから始まってしまう。
「あ、でも、カードがない人は門番さんのところで発行して貰えるって聞いたことがあります」
「そうなの? それは助かるね」
そういう事なら問題無さそうだ。唯一問題があるとしたらステータスとかいう極秘情報を確認される可能性くらいだ。
そういえば私の強さってこの世界ではどのくらいなのだろう。
うーん、考えても答えは出ないし、出たとこ勝負ってところかなあ。
そんなことを考えながら歩いている間に、遂にアルケの街の門についてしまった。
「ステータスカードを」
「はい」
アイシェは言われた通りにステータスカードを出す。
「朝出かけて行った嬢ちゃんだよな。そっちのエルフは?」
「あ、レイナお姉ちゃんは森の中でオークに襲われていたところを助けてくれたんです」
「ども」
私は軽く会釈をすると門番も頷く。
「それではそちらのエルフもステータスカードを」
「持ってないので発行していただけませんか?」
「持ってない?」
「田舎から出てきたもので、そういった物を持っていないんです」
完全に口から出まかせだけど、大丈夫かな。
散歩だとか遠くから来たとか、適当な事ばかり言っている気がするよ。
「そうか、なら銀貨1枚だな」
「あ、はい」
言われて私は返事をしたものの金があるかどうかを考えた。
お金……持ってる??
「ちょっと失礼……」
私は門番に背を向けるとこっそりとインベントリを開いた。
お、よく見るとゲームの時に持ってた全額を所持している、これなら結構な大金なんじゃないかな?
「銀貨一枚っていうと、えー、このくらいですか?」
私は分らなかったのでとりあえず元の世界のPASM〇が500円なのを参考に500リーネを出した。
リーネはゲーム内の通貨だったけど、ここで使えるのだろうか。
というか銀貨一枚と言われたのに500出すのはおかしい?
「ちょっ!! 嬢ちゃんそんな大金人前で出すもんじゃない!!!!」
「え」
っていっても高だか500リーネだ。初心者でもすぐに稼ぎ出せる正直言えばはした金という奴だ。
「この硬貨一枚で十分だ! むしろお釣りが出るくらいだぞ? まったくどんな田舎から出て来たんだ……」
「アハハハハハ……」
乾いた笑いしか出てこない。まさかこんなところでいきなり無自覚無双――金銭だけど――を行うことになろうとは。
「それじゃ、カードを発行するに当たっていくつか説明するぞ?」
「あ、はい。お願いします」
その後私は門番さんからいくつかの注意や説明を受けた。
まず、再発行には銀貨3枚必要になってしまう事。
次に盗まれた場合これも直ぐに再発行すること。
次にステータスは基本人には見せない方が良いこと。――これは門番にも同じで門番さんもステータスの詳細までは見ない決まりらしい――
ステータスの詳細は本人が魔力を通さないと見れない事。
最後にこのカードは何処に言っても身分証明になるので大切にすること。
そんなところだった。
「人によって魔力の波長が違うから見れないんだ……へぇ」
不思議な物だ。世界中探したら誰か一人くらい同じような波長で見えちゃう人とか出てきそうなものだけど、そういう話はないらしい。
「それじゃ、気を付けてな」
「街中なのにですか?」
「エルフは高く売れるからな。奴隷商に狙われるかもしれん」
「こわっ」
何それ怖いんですけど。ロクな街じゃないんじゃないのここ。
「取り締まりはしているが、未だに奴隷の密売は無くならないようだ」
「そうなんですね」
これは忠告に感謝だ。なんて怖い世界なんだろう。
「ご忠告ありがとうございます。気を付けます」
「そうしなお嬢さん」
そんなこんなで、遂に初、異世界の街に足を踏み入れた私。
異世界ファンタジーの王道な街並みとはいえ、日本に無い景色なだけに新鮮味はバッチリある。
転生? 前の私の体は13の頃から動かなかったからやはり新鮮だ。
そういえば今の私の年齢っていくつの設定なんだろう。現実的には16のハズだけどアバターのハイエルフは数万年生きたエルフが転生の儀を行う事で成れる特殊な種族だ。
そう考えると私って数万と何歳になるの?? やだやだ、考えないようにしよう。
「レイナお姉ちゃん、ここまで一緒にありがとうございました!」
「え、あ。そうだよね、うん、私の方こそありがとうね」
私達はそれだけ言葉を交わすと別々に行動することになる。
これが異世界転生物なら初めて会ったキャラはその世界のガイド役というか、俺TUEEEの見届け役とかだったりするんだろうけど、あの子とはここまでのようだ。
さて、とりあえず宿でも探さないとね、後今後も考えれば職も必要だ、冒険者とかにでもなるのが一番手っ取り早そうだね。
「さて、どうしたものかなあ」
よくよく考えたらアイシェか門番さんに宿の場所でも聞いておけばよかった。
まあ自分で街を散策しながら探すのも悪くないかな。
それからしばらく街の中を散策しながら、時にちょっとした買い食いでお腹を満たしつつ歩いていると、漸くそれっぽい、つまり宿っぽいものを見つけた。
というのも、表の看板にベッドマークにZZZと書いてある、これで宿屋じゃなかったらなんだろう。
「おじゃましまーす」
私は遠慮がちに宿屋の扉を開けた。別に悪いことをしている訳では無いが、良く知らない世界というのがこう、何をしても間違ってたらどうしようという感覚にさせる。
さっきもお金でやらかしたし。
「いらっしゃい。おや、エルフかい」
「もしかしてエルフはダメでしたか?」
異世界物だと亜人とか異端は除け者とかあるもんね……奴隷にされてるくらいだし。
「いや、珍しいお客だと思っただけさ。私はオリヴィエこの宿の店主さ」
「私はレイナって言います。ちょっと遠く田舎から来たもので世間知らずな面もありますがどうぞよろしくお願いします」
ここまで言っておけばうっかりやらかしても大丈夫だよね……?
「そうかいレイナ。何か分からないことがあれば私か娘のローテに訊いてくれればいいよ」
「はい、ありがとうございます」
優しい女将さんでよかった。これで後は何泊するかだね……どうしようかなあ。
「とりあえず10日ほど止まりたいんですけど」
「それなら銀貨5枚だね」
さて、さっきは500リーネを出して結果的に持っていかれたのは10リーネ程度だった。
この世界の価値観は未だ見えてこないけれど銀貨5枚の宿ってお高いのかな?
大体50リーネで、10日だから1日5リーネだ。私の感覚だと安すぎる。
「……よし、やっぱりとりあえずこれで泊まれるだけお願いします」
「な!?」
私は200リーネを出すことにした。
これで一月以上は宿を確保できるよね。
「レイナ、アンタ随分と羽振りがいいんだねぇ……」
「そうですか?」
「そうだよ……普通宿代は前払い。でもだからってここまでの大金を払って泊まるくらいならいっそ街中に家出も借りた方が良いんじゃないかい?」
「おぉ……」
そんな心配をされてしまうとは思わなかった。
確かに、一か月分の宿代を払うくらいなら一ヵ月分何処かに家を借りるのも悪くは……。
いやいや、この街に根を下ろすと決まったわけでもあるまいし。
「大丈夫です、この街に住むと決まったわけでもないので」
「そうかい? ならまあ、頂いておくとするかね。食事は付いてるから安心しな。時間になったらローテに呼びに行かせるよ」
「ありがとうございます」
そしてその後、私は女将さんに言われた通りの部屋に入った。
うん、シンプルイズベスト。いい部屋だね。
「さて、これからどうしようかな」
ここまではとりあえず初日に進めるべきイベントを進めたに過ぎない。
この後どうするか、それが重要だ。
転生したからには何か役目でもあるのだろうか……?
神様が可哀そうな私に気まぐれに自由をくれたとか?
うーん、悩んでも分からないね??
「そうだ、容姿の確認しておこ」
森で耳を触ってから気になって居た。
私のエルフの姿はゲーム内のままなのかと。
「うわ、ゲーム内のアバターのままだね。装備もそのままだし、顔も……元の私より遥かに美人だ、神様グッジョブ」
などと冗談を言ってみたが、いやホントに美形だ。流石エルフ。
いや、まあ、正確にはハイエルフなんだけど。
「でもそうなるとホントに設定どおりなら私数万歳ってことになるね」
MOAにはハイエルフへの転生条件として3万時間のプレイというものがあった。
これは大半のプレイヤーには知られていない、何故なら私も3万時間やって初めて転生可能通知が出て知ったからだ。
でもって、なんでそんなクソ調整なのかといえばMOAの設定にハイエルフは長い時を生き、鍛えたエルフのみが転生して王族に迎え入れられた者という設定があるからだ。
なのですべてのエルフが王族になれるわけではない。鍛えて、レベル100に到達したものだけだ。
それも更にクソ設定で、実はMOAは最初の20名しかレベル100には到達できないという設定まであった。
これは後から知られたことで、最初にプレイしていたプレイヤーの中でも皆競ってレベルを上げたりしていなかったので、たまたま最初に100になった者が20名に達したとき、初めて知ることとなった。
なので本来のレベル上限は80だ。20レベル分、最初の20人は強いということになる。
ちなみに私がその最初の20人に入れたのは当然廃プレイしていたからだ。
当時はもう既に体が機械に生かされている状態だったので、MOAを初めて、嵌って、それから一直線にレベル100まで行ったということだ。
で。そんな私が3万時間プレイした結果が転生条件ハイエルフと恐らく一万時間ごとに一個もらえる装備、ソードラック、永劫回帰の髪飾り、そして降隕の杖。
はあ。これって絶対チート転生だよねえ……。
「私、これからどうしたらいいんだろう」
エルフの王族、ハイエルフだと言うだけでも生きにくそうなのにこんなステータスだし。
この世界での強さはわからないけど、多分最強……なんだろうなぁなんて、うぬぼれ過ぎかな。
そんなことを私が悩んでいると随分時間が経っていたのか、少女の声で呼び出しが掛かる。
「レイナ様、お食事が出来てますので下の階までお越しください」
「あ、はーい」
どうやらさっき女将さんが言ってたローテという少女のようだ。
私は早速部屋を出ると下の階へ向かう。
「こちらにどうぞ」
「ありがとう」
ローテという少女だろう子は、赤毛の三つ編みの可愛らしい少女だった。
ていっても年齢は同じくらいかな? いや、設定年齢は別としてね。16くらいかなと。
ちなみにこの宿は食事処も兼ねているらしく、今の時間は昼間と違って大変賑わっている。皆さんシュワシュワを飲んでいい気分のようだ。
「それはそれとして……これは中々」
目の前に出されている料理に目を向ける。
中世風の世界だから硬い黒パンとかかなと思ったけどパンは普通そう。
後は美味しそうな香りのするスープに、よくわからないけど肉料理が添えられている。
「頂きます」
そう言ってから私は食事を摂る。
まずはパン。うん、普通だ。可もなく不可もない。
次はスープ、これは美味しい。食通じゃないけど美味しいのはわかる。というか病院でロクに体の動かなかった私は点滴か流動食だけだったのでそうじゃない普通の料理というのがもう美味しい。
そして最後に肉。これはごちそうって感じがする。やっぱりお肉はいいね。食べ応え抜群だよ。
「ふう、ごちそうさまでした」
私個人としては大変美味しい食事だった。他の人からしたら普通かも知れない料理でも私にはごちそうだ。
「お姉さん良い食べっぷりだったね?」
「そ、そうかな」
長めな病院暮らしが私をそうさせたのだろうか。
「というかローテはいくつなのかな?」
「16だよ」
「おな……そっかあ」
うっかり同い年とかいう所だった。ハイエルフ設定忘れて妙な事言ったら変に思われるよね。
「お姉さんはエルフだから長生きなんだよね? 旅をしてるの?」
「えっと……まあそんなところかな」
本当はただの人生の迷子なんですけどね。
「じゃあ冒険者もやってる?」
「うん? いや、私はやってないね」
そう言えばそんなのが居るらしいのをアイシェに聞いたね。
なってみてもいいかなあ、冒険者、やること無いし。
「そっかあ、エルフって温厚だって聞くし、争いごとはあんまりなのかな」
「ま、まあ人それぞれだと思うよ? エルフもね」
他のエルフのことなんて一ミリも知らないのに適当な事をまた言ってる。
行き当たりバッタリだなあ私って。
「ちなみに冒険者になるにはどうしたらいいのかな」
「えっと、冒険者ギルドで登録するらしいよ?」
「なるほど」
なら明日になったら行ってみよう。どうせやること無いし。何するために転生したのかすら判明してないからね。
「それじゃ、ごちそうさま。また明日からもよろしくね」
「うん、おやすみなさい!」
ローテはそう言うと元気に駆けて行った。
さて、私はと言えば部屋に籠ってステータス等を再度確認する。
装備は最後に所持していた物のみでマイホームのインベントリの肥やしになっていたコレクションは持ってない。
一応最強武器は持ってるけど多分これより降隕の杖の方が強い。
防具は頭の装備を髪飾りに変えておく。うん、違和感無いね。
そしてソードビット。うわあ、目立つなあ。これをジャラジャラ引き連れながら歩いてたら滅茶苦茶目立ちそうだ。これは来るべき時まで肥やし確定だね。
さて、とりあえず色々確認は出来た。
というわけで、おやすみなさいの時間だね。
「あー、ベッドで寝れるって幸せ」
これも機械に体を覆われていた私には長らくしてない体験だ。
そんな心地よさの中、私は夢の中に落ちて行った。
翌朝。
「よっし、今日も元気だありがたい!」
私はベッドから跳ね上がると準備体操をする。
今日は冒険者ギルドに登録して早速軽い冒険をしてみようと思ってるからね。柔軟も欠かさないよ。
「さて、行きますか!」
私は元気よく扉を開けようとして、そこでふと止まった。
「あ、朝ごはんまだ頂いてないや」
私はそう思って下の階に降り、オリヴィエさんのところに顔を出す。
「あのう、朝ごはんって」
「ん? あぁ、嬢ちゃんかい。出来てるよ、おあがり」
「はーい」
朝起きたら食事が用意されてるなんてありがたいね。一生怠けたくなる。
「頂きます」
朝食は軽食のようでパン二つとスープの組み合わせだ。
「ご馳走様」
私は朝ごはんをサクッと食べ終えると、オリヴィエさんに冒険者ギルドの場所を訊いて冒険者ギルドに向かった。
「ここかあ」
冒険者ギルドに着くと厳つい人達が出入りしているのが目につく。
中には女性もいるけれど全体で見れば厳つさが勝つ。
そしてエルフが珍しいのかチラチラとみられる。微妙に恥ずかしい。
「さて。それじゃあさっそく入りますか」
私は恥ずかしいのは忘れて中に入る。中はより厳つい人達がごった返していた。
さて、受付は……お、きっとあそこだね。
カウンターらしきところに女性たちがいる。
「あの、ここで冒険者ギルドに登録できますか?」
「はい、可能です」
私は中でも一番美人なお姉さんに話しかけてみた。
別に百合の趣味は無いけどこういう時、美人さんの方が情報を持ってたりするのがテンプレだと思う。
「それじゃあ冒険者登録したいんだけど」
「はい、それでは手続きを行いますのでその説明をさせて頂きます」
「お願いします」
めんどくさい手順じゃないといいな、と思いつつも私は話を訊くことにした。
「――と言った感じです」
受付のお姉さんが言うにはステータスカードと大差ない感じだった。
違う所と言えば高ランク冒険者になれば場合によっては国の機密情報なども閲覧できる場合があるってことくらいかな。
と言っても最近はそんな高ランクの冒険者なんていないらしいけどね。
「それでレイナさん、早速依頼を受けられますか?」
「はい、お願いします」
私は二つ返事で答えたけど、今サラッと私の名前を呼ばれた気がする。
もしかしてステータスカードでチラ見したのかな。
「レイナさんはFランクからですから、スライム討伐や薬草採取ですかね」
「もうちょっと上の仕事ってないですか?」
「一応一ランク上の仕事は受けられますが、腕には自信がおありなんですか?」
「えっと、まあ、はい」
ここでレベル100ですから。とかドヤ顔する程阿保の子ではない私だよ。
「でしたらウルフの群れの討伐などいかがでしょう」
「わかりました、それにします」
それくらいなら肩慣らしに丁度よさそうだよね。
「それではこちらが依頼書になりますのでサインを。依頼遂行が出来なかった場合は違約金が発生しますのでご注意ください」
「分かりました」
まあウルフの群れ相手に負ける事なんて無いと思うけどね……。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
「はーい」
私はギルドを出ると早速依頼書を確認した。
「えーっと? 西の森に現れたウルフの群れの討伐。数は10以上。へぇ意外と親切?」
なんの情報も無く探すよりはずっとマシだ。まあ最悪システムコールでマップとかスキルのサーチとか使える気はするけど。
「さてと……移動はダッシュでいっか」
とは言え人ごみを爆走するわけにはいかない。
私は路地裏に入ると壁を蹴って上り屋根の上に立った。
ここなら走っても迷惑にはならない……ならないよね?
もしかしたら上の階が五月蠅いマンション住民のような気持ちにさせてしまうかもと思いつつも屋根の上を爆走し、跳ねる。
そして街の外壁を超えて西の森に到着した。
「さてと、マップ」
私がシステムコールするとマップが開く。
便利過ぎるなあこれ。
かなり広めの範囲をカバーしてくれているので非常に助かる。
ここにサーチのスキルを合わせてっと。
「サーチ、ウルフ」
ほらでてきた。ウルフの群れってこれだよね。
でも数は100数匹というところ、聞いてた10倍なんですが。
ただそれより気になるのは反応の中にちょっとだけ強めな反応を示しているモノが居る。多分群れのボスとかかな。
「さて、行きますか!」
善は急げというし、早速行動だ。
私はマップを頼りに群れの方向に森を駆け抜けると直ぐに群れと会敵した。
「ウォーターボール!」
出会うなり私は水の初級魔法でウルフを攻撃する。
被弾したウルフは断末魔を上げるとそのまま動かなくなった。ちなみにグロイ絵面にはなっていない。
いくら初級とはいえレベル100の私が撃つのだ、これを耐えられたら驚くけどあっさり死なれると悪いことをしている気分になる。弱い者いじめ的な意味で。
「ウォーターボール! ウォーターボール!」
私は出来るだけ見た目が酷くならない様水球を当てると言う戦法で戦いをする。
すると数が減って来た頃に、漸く群れのボスが動き出した。
「うぉおおおおおおおおんん!!」
なんか凄い吠えてる。ちょっと可愛いとか思ってしまった。
「でもごめんね、ウォーターボール!」
「うおん、がるうるるるるる」
「マジかぁ」
ウォーターボールは見事に避けられ、思いきり警戒されている。
攻撃を回避すると言う程度の知能はあるってことだ、面倒だなぁ。
「ってことで仕方ないからライトニング」
「ぎゃうん」
流石に電撃の速度は避けられなかったようで一撃でボスウルフの体を電流が駆け巡り倒すことに成功した。
「ふう、レベル100なのにここで苦戦してたら格好付かないよね」
別に誰に見せつけるでもないけど、格好は重要だよね。
「さて、インベントリに入れて帰りますか」
私は一人ごちると颯爽と森を駆け抜けこんどは流石に城壁を登ったりはせずに門から普通に入った。
さて、冒険者ギルドに向かいましょうか。
「お姉さん、依頼達成してきましたよ」
「え?」
私が受付のお姉さんに話しかけると驚いた様子で声を上げる。
「もう帰って来たんですか?」
「えぇまあ、余裕でした」
そう言って私は証拠と言わんばかりにインベントリからウルフの群れを引っ張り出す。
「なっ……本当にウルフの……しかも真新しい。その上ホーンウルフまで居るじゃないですか!」
「ホーン?」
そう言えばちょっとだけ賢いわんこが頭に角なんてあったような無かったような。
「これでは冒険者ランクDの依頼ですね……」
「え」
この程度でDなのとか、それ以前に、私のランクはFだ。Eランクまでしか受けられないことを考えると……。
「依頼にはならない……任務失敗?」
「いえ、そんなことはありませんが……少々ギルドマスターと相談してまいります」
そう言うと受付嬢のお姉さんは奥の部屋に消えて行った。
うーん、面倒事の予感がする。
しばらく待つと、ギルマスですって感じの屈強な男性と一緒にお姉さんが帰って来た。
「ふむ、貴女がウルフの群れを倒したエルフか」
「はい、そうですけど」
屈強そうな見た目と厳つさに似合わず言葉遣いは丁寧なものだ。
『お前がこれをやったのか』くらい来るかと思っていただけに斬新だった。
「そうか……ヘレナの言葉を疑っていたわけでは無いが、素晴らしい実力だ」
どうやら受付のお姉さんはヘレナさんというらしい。そしてなんか褒められてる。
「単騎討伐でこれならCランクを与えていいだろう」
「Cランクですか?! ギルマス、いくらなんでもそれは……」
「仕方ないだろう、こんな実力者に初心者用の狩場を狩り尽されてみろ。新人が育たなくなる」
「まあ、確かにそうですね……」
そう言って二人は私を見る。何かなその目は。厄介な物を見るような眼は止めて欲しいよ。
「兎に角、レイナ、貴女は今日からCランク冒険者だ。まだ上に興味がある様なら受けてみると良い」
「ギルマス、流石に登録初日にBランクなんて無理ですよ」
「何、ほんの冗談さ。ま、頑張ってくれ」
そういうとギルマスは奥の部屋に戻っていった。
「それじゃヘレナさん、B級の依頼を」
「レイナさんまで間に受けないでください!」
「えぇ……」
多分大丈夫だと思うんだけどなぁ……。駄目かな。
「それに、さっきの事で目立ってます。今日の所は依頼料だけ受け取って帰ってください」
「あー……なるほど」
確かにそうした方がよさそうだ。周りの空気が悪い。
ぽっと出の私を妬んだりしてる感じがヒシヒシと伝わって来る。
「それじゃ、私はこれで」
そう言って帰ろうとした矢先だった。
「おい嬢ちゃん、どんなイカサマをしたのかしらねぇが、初日からCランクとはいいご身分じゃねぇか、え?」
「あちゃあ」
面倒なのに捕まったようだ。見るからに質の悪い風体の男四人に囲まれる。
「通してもらえます?」
「この状況で訊く意味あんのか?」
「ですよねえ」
はあ、面倒事に巻き込まれるのは嫌だったんだけどな。
後ろを見るとヘレナさんが動揺してわたわたしている。うん、まあ普通そうだよね。
こんないたいけな少女って風な子が絡まれてたら誰だって女の子が負けると思う。
でも私は知っている、見えている。
「プロパティ」
彼らのレベル、ステータスが。
「あん? なんだって?」
「ここで私を通すのと痛い目見るのどっちがいい?」
「言ってくれるじゃねぇかイカサマ女が!」
そう言いながら私に向けられた腕を私は軽く捻りながら後方……受付の方に投げるわけにもいかないのでギルドの出入り口付近にぶん投げた。
「他は? やる??」
「舐めんな!」
「調子に乗りやがって!」
「イカサマの分際で!!」
今度は三人口も行動も揃えてやって来たので三人の鳩尾に軽くパンチと肘鉄を入れて気絶させてから、邪魔なのでさっきの男の居る辺りに放り投げておく。
「お掃除完了っと」
「レイナさん、大丈夫なんですか?!」
「およ」
心配したヘレナさんがギルマスを連れてやってきた。
「これはどういう状況だ」
「私が一日でCランクになったのが気に入らなかったみたいだからやっつけた?」
「彼女が絡まれていたんです!」
「はぁ……なるほど。そこで潰れてるのはCランク冒険者のラッツ達だな。お前が一日で自分達に並んだのが面白くなかったんだろう」
まあそうだよね、普通いきなり新人が先輩と同じ役職だったら「は?」ってなるよね。なるよね? 私16だから詳しい社会人事情は分からないけど。
「今後こういう事がないよう他のモノには言い聞かせておくが……お前もあまり無茶はするな」
「は、はい」
なんか一人称がお前になっちゃったよ、印象悪くしちゃった?
でも絡まれたんだから仕方ないよね……?
「それと、まだ実力を隠している様ならとっととランクを上げてしまえ。そうすれば絡んで来る馬鹿者も減るだろう」
「は、はあ」
そういう物だろうか、とっととランク上げなんてしたら、むしろまた「イカサマがー!」って絡んできそうだけど……。
「まあここで今のやり取りを見ていた冒険者なら絡もうとは思わないだろうが、今日の所はとっとと帰って置け」
「はい、そうします」
ここは素直に従っておこう。
本当は他にも依頼を見てみたい気持ちがあったけど、今日の所は仕方ない。
そんなこんなで宿に戻って来た私は宿で昼食を頂き、午後は街の散策をすることにした。
街を歩きながら買い食いしたりなんて元の私では考えられない贅沢だ。
「生きてるって楽しいんだなぁ……」
まあMOAをやって居た頃から楽しかったけどさ、実際にこうしていると生きていると実感できる。
「さて、もう夕暮れ時だし帰りますか」
しばらくして漸く日も沈んできたことなので暇つぶしの散策を切り上げて宿に戻る。
宿に戻ると昨日と同じく食事処は賑わっていた。
「あ、レイナお姉さんおかえりなさい」
「ただいまローテ」
昨日同い年と聞いたので呼び捨てでもいいかなと思いながらローテの名を呼ぶ私。
そして最初のお客様扱いの「レイナ様」から「レイナお姉さん」と呼び方の変わっているローテ。
ちょっとは仲良くなれてるかな。
「レイナお姉さん、夕飯は食べますか?」
「うん、頂きます」
「はい!」
ローテは元気よく返事をするとオリヴィエさんの元へ向かう。
そして私はまたしても美味しい夕食を頂き、ベッドに向かい眠りに就いたのであった。
そして後日。
「今日も元気! ホントにありがたい事だね」
そんなわけで私は早速部屋を出ると朝食を頂き、冒険者ギルドに向かった。
「ヘレナさん、おはようございます」
「あぁレイナさん、おはようございます」
私が来ると、待っていたかのようにヘレナさんが返事をする。
「レイナさんにお客様が来てますよ」
「へ? 私に??」
誰だろう。もしかして昨日のラッツとかいう冒険者だろうか。
「レイナお姉ちゃん!」
「アイシェ?!」
なんとお客様はアイシェだった。よかった再開出来て。
「あれ、でもなんで冒険者ギルドで待ってたの?」
「あの、昨日の騒ぎを訊いて、それでレイナお姉ちゃんかなと思って。冒険者ギルドで待ってたら会えるかななんて思って」
「なるほど」
なるほどねえ……それで待っててくれたんだ。なんて可愛い子だろう。
「ん。でも私を待ってたってことは何かの用事……だよね?」
「うん、お姉ちゃんしか頼れる人が居なくて」
「おぉ」
お姉ちゃん、良い響きだなぁ。
こんな妹ならぜひ欲しいけど、誘拐とかはしないよ。
「それじゃここじゃあ何だし別の場所で話を訊こうかな」
「それなら私のお家でもいいですか?」
「いいけど、いいの?」
「はい、お願いします」
「?」
なんかむしろ家に招くのが目的みたいになってない? そんなこと無いかな?
そんなことを思いつつもアイシェについて行く私。
しばらくすると街の外れの方に一軒家が見えて来た。
「ここです」
「ここがアイシェの家か~」
そこら辺にある一般的な家と変わらない家だ。
街の内側とは言え外壁沿いだから土地代とかは安そうだけど。
「それで私にお願いって何かな」
「お母さんを、助けてください」
「お母さんを?」
そう言えばこの子の母親は病弱だと聞いた。もしかしてそれで?
「うーん、私に何ができるかわからないけど、とりあえず診てみようか」
「はい、お願いします」
オークの時のお礼もあるしこれくらいはね。
「さてと、プロパティ」
アイシェの母親の状態を確認する。
名前はエイリー、状態は……呪い?!
「呪われてるね」
「え?!」
誰だかわからないけど、彼女を呪った者が居る様だ。
「解呪は出来るけど、そうすると……」
人を呪わば穴二つ、解呪をすれば呪った人にそれは二倍になって跳ね返る。
ゲームではそういう能力だった。もしここでもそうなら呪った者は間違いなく死に至るだろう。
この手で今救える目の前の命を救えば、同時に何処の誰とも知らない誰かを殺すことになる。
それでも私は……。
「アンチカース=リリース」
呪いを解呪した。
これで、誰かが死んだ。
……。
「これで治るはずだよ」
「本当!」
アイシェは嬉しそうに笑う。
今はこの笑顔のことだけ、考えよう。
「ついでに体力も回復させるね。ヒール」
「うん……うん?」
「お母さん!」
お母さんのエイリーさんは体力が回復するなり起き上がる。
「起きて大丈夫なの?」
「えぇ、さっきまでの苦痛が嘘みたいに無くなったわ」
「よかった……よかったよぅ……」
母が救われたと知って泣き出すアイシェ。
助けてよかった。うん、よかったんだ。
「レイナお姉ちゃん、私、一生掛けてでも恩を返すから!」
「いいよ、オークの解体代だとでも思っておいてくれればね」
「レイナお姉ちゃん流石にそんなわけにはいかないよ」
「そうです、私が働いてご恩に見合うだけの金額をお支払いしますから!」
「うっ、いやいや! 本当にいいですから! 普通に知り合いの女の子が困ってたら助けるでしょ? それだけ、それだけなんですから」
何だかこのまま行くと二人して私の奴隷にでもなりそうな勢いなのでなんとしても阻止したい。
なんならもう一人、妹さんも居るらしいから余計にだ。
この家族にはこの家族の幸せがあっていいはずだ。それだけのことなんだ。
「私は別に何かが欲しくて来たんじゃないです。むしろ最初から恩返しのつもりで何かできないかと思っていたくらいです」
オークの解体に街への案内、それにステータスカードの話、色々お世話になった。
恩を返すのは私の方で、彼女達ではない。
「レイナお姉ちゃん……」
「アイシェ、今はこの、レイナさんの言葉に甘えましょう。ここまで言ってくださっているのだから」
「うん、お母さん」
どうやらようやく納得してくれたようで安心した。
「それじゃ、私はこれで失礼しますね」
「レイナお姉ちゃんありがとう!」
「ありがとうございました」
エイリーさんとアイシェ、二人のお礼の言葉を受けながら私は家を後にした。
ちょっと胸が痛むのはいくらなんでも奢りという物だろう。私は万能じゃない。呪われた彼女も、呪った本人も救えるほど優れてはいない。
それなら助けるのはどちらか、言うまでもなく前者だった。それだけのことだった。
「ふぅ……とりあえずもう一回冒険者ギルドに行って今度こそランク上げしないとね」
そういえば今回の事は冒険者ギルドの依頼になってたりするんだろうか。なっててもあの母娘から金銭を受け取るつもりはないけど、待ってたってことは多分そういう事だよね。
そう考えながら歩くこと十数分、漸く冒険者ギルドに戻ってこられた。
「あらお帰りなさいレイナさん」
「ヘレナさん、Bランクの依頼ってあります?」
「いきなりですねえ」
「まあ、ちょっと色々あって」
少々気分が悪いのかもしれない、だから挨拶もロクにせずいきなりBランクの依頼を求めた。
憂さ晴らしじゃないけど、ちょっと暴れてやりたい気分なのかもしれない。私って本当に子どもだなあと、我ながら思ってしまう。
「あの子の方は大丈夫なんですか?」
「何処まで知ってます?」
「母親が病弱で危険な状態だとまでは」
「そうですか。大丈夫ですよ、治してきましたから」
「そんなあっさりと……魔物討伐もそうですが、何でもできるんですね」
「何でもは出来ませんよ」
本当に、何でもはできない、出来る事だけ、手の届く範囲が人よりちょっと広いだけなんだから。
「ちょっと落ち込み気味のようですね。それではそんなレイナさんにはこの依頼などどうでしょう」
「王都までの護衛依頼?」
「はい、さるお方を王都まで護衛していただく任務となっております」
「さるお方……ねえ」
まさか王族とか言わないよね。まあだとしてもこっちもエルフの王族だし、対等だよね?
そんなことない??
「わかりました、気分転換になりそうなので受けます」
「ありがとうございます。実は任せられるような冒険者が居なくて困ってたんです」
「アハハハハ……」
それっていいように使われたってことでは。
それにしてもCランクならラッツとかいう冒険者たちもいたみたいだけど、私に頼む辺り実力的にはかなり上に見られてるのかな。
「その前にちょっと、やり残しがあるのでいいですか?」
「はい。ですができればなるべく早くとのことですので」
「わかりました、すぐ戻りますよ」
そう言うと私はギルドを出てまず宿に向かった。
別に残りの滞在費をケチって回収しようとかじゃない、挨拶周りだ。
「オリヴィエさんこんにちは」
「あらレイナ。まだお昼には早いわよ」
「あはは、実はちょっとこの街を離れることになりまして」
私は事のあらましを説明すると、オリヴィエさんはそれを訊いて驚いたりしつつも最後までしっかり聞いてくれた。
「わかったよ、部屋は前金を貰った分維持しといて上げるよ」
「え、いいんですか?」
私としては引き払うつもりだったのだけど。
「何言ってんのさ、王都に行って、戻ってくる場所が必要だろ」
「オリヴィエさん……」
ありがたい事だ。ここはオリヴィエさんの言葉に甘えておこう。
「ありがとうございます。それじゃあ私、他にも挨拶してくるので」
「ああ、行っといで」
本当はローテにも挨拶したかったけどローテは今買い物中らしいので仕方ない。
私の脚は今度はアイシェの家に向かう。
さっき会ったばかりだけど、さよならは言っておこう。お世話になったんだから当たり前だよね。
「アイシェ、いる?」
私は家の前に来るとノックして聞いてみる。
「レイナお姉ちゃん? どうしたの?」
「いやあ、実はね――」
あの後ギルドに行って王都に行くことが決まったのをアイシェに話すと、アイシェの顔が陰った。
「そう、ですか……寂しいです」
「う、うん」
まさかここまで寂しがるとは、どうしよう。
「……アイシェも来る? なんて……」
「いいんですか?!」
「え」
自分で言っといてなんだけど、この話、普通乗る?
「アイシェが嫌じゃないならいいけど、多分大変だよ? 旅するんだよ?」
「嫌じゃありません! レイナお姉ちゃんのお役に立てるチャンスですし!」
「おぉぅ……」
凄い勢いだ。ちょっと気圧された。
「じゃあお母さんの許可を貰ったら、一緒に行こうか」
「はい!」
ここでも元気な返事が飛んでくる。余程一緒に来たいようだ。そんなに王都に行ってみたいのかな。
まあそれならそれでいいかもしれない。旅のお供に可愛い妹分。悪くないよね。
「お母さん、私レイナお姉ちゃんの旅に付いて行きたいの」
「アイシェ、無理を言っては駄目よ。貴女はまだ13なんだから」
「あの、私は大丈夫ですよ? なんなら私がしっかり守りますから、ちゃんと娘さんをお預かりします」
「レイナさんまで……そうですか……そうですね、私も若い頃、丁度アイシェくらいの頃にあの人達とパーティを組んで旅に出たのよね……」
そう言って遠い眼をするエイリーさん。あの人って多分旦那さんだよね。達っていうのは仲間が他にもいたんだろうね。
「レイナさん程の方が一緒なら大丈夫なんでしょうね。娘をよろしくお願いします」
「お母さん、ありがとう!」
「必ず娘さんはお返ししますから」
そう言うと私は準備があるというアイシェに倣って自分も旅の準備をすることにした。
とは言え旅なんてしたこと無いのでアイシェ先生に早速助けを求めてしまったけどね。
そんなこんなで私達はさっさと旅支度を整えると夕方になって冒険者ギルドを訪れた。
「あらレイナさん、戻られたんですね」
「はい、あいさつ周りも終わったので」
「そちらのお嬢さんは今朝の?」
「はい、一緒に旅することにしました」
「アイシェです、よろしくお願いします」
アイシェはオドオドすることもなく堂々と挨拶した。
凄いなあ、こんな厳つい人達ばっかりの場所ならもうちょっとビビったりしててもよさそうなのに。
「冒険者登録しておきますか?」
「はい、お願いします」
「え」
アイシェ戦えるの?
「アイシェって戦えるの?」
「多少ですけど、お父さんに剣を教えてもらっていたのでオークは倒せませんがスライムやウルフ一匹くらいなら何とかなります」
「へ、へぇ」
驚きの新事実だ。
亡き父に教わった剣か……それが今役に立つ時が来たんだね。
「それでは冒険者登録も済みましたので、お二人をパーティとして今回の依頼を受けて頂く形でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「はい!」
アイシェの元気な返事の後、ヘレナさんが依頼内容をもう一度説明してくれる。
「さるお方、どんな方なんでしょう」
「さあ、どうだろう。それで何時から出発できますか?」
「今夜からでも可能という事です」
「じゃあ善は急げっていうことで」
私達は今夜、この街を経つことにした。
「それでこちらがその、さるお方ですか?」
私は待ち合わせ場所で待っていた馬車の近くでそのさるお方を見ながら高貴そうな騎士のお兄さんに話しかける。
「そうだ。本来冒険者に依頼するような事では無いのだが、最近王都との間の街道に多くの盗賊や山賊が出るという噂でな急遽このような形となった」
「なるほど」
私はさるお方を見る。まだ幼い少年だ。10歳くらいだろうか。意外と凛々しい顔立ちをしている、将来はイケメンだね。
それにしても今度の相手は人間……か。
「アイシェ、大丈夫?」
「はい、任せてください」
本当は妹分に人殺しなんてさせたくないので私が請け負うつもりだけど、場合によっては自衛する為にやむを得ないこともあり得る。
まあそうならない為の私なんだけど。
「それでは行きましょうか。サモン・ユニコーン」
私は自分達用の脚としてユニコーンを召喚した。
レベルは75で非戦闘ステータスだけど可愛いからこの子にした。
「な! 幻獣だと?!」
「流石レイナお姉ちゃん!」
「え」
何この反応。ただの可愛い馬だよ?
「ギルドから本来Aランクはある冒険者と聞いてはいたが……まさかそっちの少女も?」
「あ、いえ、私はレイナお姉ちゃんのその……」
「妹分だよ、よろしくね」
「は、はい、妹分です」
「そ、そうか」
何か聞きたそうにしている騎士のお兄さんは放っておいて、早速ユニコに乗る。
「アイシェもおいで」
「私もですか?」
「もちろん。一人で乗って行っちゃったら誰がアイシェを運んでくれるのよ」
「それはそうですけど……」
なんだかこのままではらちが明かない気がしてきたので私は無理矢理にアイシェを引っ張り上げた。
「レイナお姉ちゃん?!」
「ほら行くよ。そちらも準備はいいですか?」
「ああ、大丈夫だ、問題ない」
それ問題大有りのセリフだからね、フラグだからね。
「それじゃ、行きますよ」
そう言って私はユニコに乗って駆けだす。
と言っても馬車の速度に合わせるからそこまで早くはない、本来の速度からすればかなり落ちる。
「アイシェはここから王都がどのくらいの距離か知ってる?」
「お父さんから5日程の距離だと聞いたことがあります」
「うへえ、めちゃ遠いじゃん」
その間野宿するのか……しんどいなぁ。お風呂も無いだろうし。この場合作っちゃえばいいのかな?
「野宿だけは避けないとね」
「何言ってるのレイナお姉ちゃん」
「都会っ子に野宿は厳しいって話だよ」
「レイナお姉ちゃんは田舎から出て来たんじゃ……」
「あぁ、そういえばそんなことも言ったね……」
適当に言い過ぎててもうすっかり忘れてた。いけないね、てきとうに生きてちゃ。
「ホントは都会っ子なんだよ」
「そうだったんだ」
「そうなんだよ」
そんな他愛ない話をしながら進むと、暫くしてこれ以上の移動はさるお方の体力的に厳しいとのことで野営することになった。
来たよ、来てしまったよ野宿が。
「まあ嫌だから魔法使っちゃうけどね。クリエイト・アース=ハウス」
私が魔法名を言うとその通りに魔法が発動し家が出来る。
詠唱? もちろんいらないよ。短縮に短縮を重ねてるからね。
「な、今度は何だ?!」
「家だよ。見てわからない?」
結構分かりやすく家ですって見た目なんだけどなあ。
「まま、とりあえず立ち話もなんですから中へどうぞ」
「あ、あぁ……まずは危険が無いか調べさせてもらうぞ?」
「いいですよ。危険がないと分かったらさるお方もどうぞ」
私はそれだけ言うと家に入っていく。
玄関から入り、リビングを見る、さて、今夜は何を食べよう。
一応インベントリに屋台で売ってた串焼きとかを買いだめしてあるからこれでいいかな?
「危険は無いようだが……何故風呂まであるんだ」
「そりゃ入るからでしょ。乙女が二人もいるんだよ?」
「そ、そうか……」
なんであんな当たり前のことを訊くかなあ。
もしかしてこの世界ではこういう魔法は廃れてるの?
これって低レベルでも覚えられる魔法なんだけどな……。
私がそんなことをぼんやり考えているとさるお方たちが入って来る。
「部屋は自由に使って。私とアイシェは残った部屋を使うから」
「あ、あぁわかった。そうさせてもらおうサロス様もそれでよろしいですか」
「ああ、構わない」
ここに来て遂にさるお方の名前が聞けた。
サロスっていうんだね、堂々とした態度といい勇気がある。
「お風呂は先に使わせてもらうよ? いいよね」
「普通の旅では風呂なんて入れん。好きにしてくれていい」
「そ。じゃあ先に入るから。出たら貴方達も入ってね」
「私達もか?」
「そりゃまあ、そんな汗だくで布団入られてもね」
「むう……そうか、ならばそうしよう」
どうやら地の利はこっちにあるようだ。素直にいう事を聞いてくれる。
偉い騎士さんなんだろうけど、横柄ではないようだ。
「さ、アイシェ、お風呂に入ろうね」
「お風呂、ですか?」
おや? アイシェはお風呂をご存じない?
「お湯に浸かるんだけど、もしかして初めて?」
「は、はい、普通街ではお湯で体を拭く程度ですので」
「そうなんだ……」
そう言えば宿に泊まった時、私風呂にも入ってないわ体も拭いてないわで散々だったね??
「じゃあきっと気持ちいいよ。クセになると思うなあ」
元の世界の私もお風呂なんて人生の途中から抜け落ちてたから新鮮だ。
早速浴場に向かって、脱衣室で服を脱ぐ。
「さ、入るよ」
「は、はい」
アイシェは初めての体験、私は久しぶりのお風呂だ。
「ふぅ、気持ちいい」
「はふぅ」
体をさっさと洗った私とアイシェは早速お風呂に浸かる。
やっぱり入浴はいいね、心が洗われる感じがするよ。
「はー、最高~、アイシェはどう?」
「はい、最高の気分です」
満面の笑みのアイシェを見て作ってよかったなぁと思う。
やっぱりお風呂は大事だね。今後もこの魔法にはお世話になりそうだ。
というか、よく考えたらこれがあれば宿要らず? いやいや、その街事の特産物などを楽しむならやっぱり宿は取っておくべきだよね。
宿に泊まるのも旅の楽しみ方の一つだ。だからと言って旅の野宿は嫌だけど。
「さて、そろそろ上がろうか」
「はい。レイナお姉ちゃん」
私達はお風呂を上がり、着替えると騎士とサロス君を呼びに行く。
「上がったのでお次にどうぞ」
「あぁ。それでは行きましょうサロス様」
「ああ」
それだけ言うと、サロス君と騎士達はお風呂へ向かった。
「さて、私達は寝室で寝ようか」
「え、護衛なんですよね。寝ちゃっていいんですか?」
「あー、この家私の許可なく入れないからね。壊そうにも壊せないだろうから大丈夫だよ」
私の魔力で作られた家だ。レベル100クラスの敵でも無ければ壊せない。
そんなのがホイホイいる世界だったら世界があっさり崩壊しそうなので、そうなっていないという事は居ないのだろう。
まあそれも確証ではないけど。何せ私が転生しているんだ。他のプレイヤーも転生している可能性はある。
自分だけが特別だと考えるのは危険だとも思う。
とは言えそんな事を言い始めればキリがないのであまり気にもし過ぎないけどね。
「さて、寝よ寝よ」
「は、はい」
そして私達の王都への旅の一日目は終わっていった。
三日後、もうすぐ王都かという所で山賊たちに囲まれた。
「クソ、やはり現れたか!!」
「どうします団長!」
「冒険者はサロス様を、私達が山賊を攻める!」
「え、まあいいけど」
まさかこの中で一番強いだろう私が防御側でとは思わなかった。
まあ何とかしろって言われて大量虐殺するのも嫌だけど。
「サロス……様はこちらに、私の傍なら安全なので」
「……あぁ、よろしく頼む」
なんか悔しそうな表情なんだけど、どうしたんだろう。
そんなサロス君のことはお構いなしに戦闘は始まる。
一人一人は騎士の方が上の様だがいかんせん数が多い。
多勢に無勢という奴だ。これはマズイ。仕方ないね、そろそろこちらも動こう。
「プロテクション・ウォール。この中にいれば安全だから、ちょっと私は敵の数を減らしてくるよ」
「レイナお姉ちゃん私も!」
「アイシェはサロス様と一緒に居て。いざって時は頼りにしてるんだからね」
「は、はい!」
まあ二人の方に敵を行かせる気なんてないけど、一応こうでも言っておかないと付いてきそうだからね。
「トルネード!」
私は二人の傍を離れると射程内に入った山賊の集団に範囲魔法を放つ。
「冒険者?! サロス様はどうした?!」
「安全な場所に匿ったから大丈夫。ほら、さっさと倒すよ」
「あ、ああ」
とは言えさっきの魔法だけでも結構な数が減った。
後は……アイツかな。
私は山賊の首領らしき男を見据える。
「痛いけど我慢してよね……エアシュート!」
空気の弾丸を盗賊の首領にお見舞いすると首領は50mくらい吹っ飛んだ。
やば、死んでないよね。
「詠唱無しの初級魔法であの威力……なるほど、確かに腕はAランクはあるようだな」
「お褒めにあずかり光栄ですっと。さ、他の奴らはどうするの? まだ私達とやり合いたい?」
最初は調子のよかった山賊達もトルネードで半数をやられ、首領まで瞬殺――殺してないけど――されたらもう殆どが降参と言った様子だった。
そんなんなら最初から襲わなきゃいいのに。
そう思っていると一人の山賊が動き出し、叫んだ。
「抵抗するな! したらこのガキどもを殺すぞ!」
「へ?」
そういった盗賊はプロテクションウォールの外で叫んでいる。
馬鹿なのかな。
「はあ、その結界、貴方じゃ壊せないし、入れないでしょ」
「ふん、こんな魔法くらいっ」
そう言って斧を掲げると結界に振り下ろし――弾かれた。
「はぁ……仕方ないなあ」
「クソ、クソっ! な、お前近寄るな! 魔法使い風情が!」
私が近寄ると斧を大振りで振り上げる。
いやいや、この距離で大振りとか対人経験なさすぎ?
私は振り上げられた手を掴んで盗賊をぶん投げた。
投げた方向には首領が居て上に被さる様に落ちる。
我ながらナイスコントロールだ。
「ぐふっ」
「はあ。それで? 他にはいる?」
今度こそ全員諦めがついたのか皆武器を下ろして投降する。
逃げようとするものも居たが土属性の拘束魔法で捕まえて置いた。
「はいこれで終わりっと」
なんとか山賊達との争いも収まると私はふうっと溜息を吐いた。何とか誰も殺さずに済んだね。
そう思っていると、騎士の一番偉そうな人が近づいて来た。
「ふむ、お前は人を殺したことがないのか?」
「え」
急な質問に狼狽える私。
あるか無いかで言われたらあるはずだ。でもそれは間接的で直接的ではない。
「ある……けど」
「そうか。山賊相手に命の心配をしてやっている様だから殺しが出来ないのか余程に余裕があるのかと思ってな」
「あはは」
完全に図星だ。そりゃ余裕はあったけど、それ以上に人を殺したくはなかった。
「まあいい、お前ら、残りの投降した者たちを縛り上げろ。王都の詰め所まで連行するぞ」
「はっ!」
戦闘で傷ついた騎士達も多かったが、余裕のある騎士達が山賊達を縛り上げていく。
傷ついた騎士達には私が回復魔法を掛けて周ることにした。
「ヒール、ヒール、ヒールっと」
「おぉ、こんな一瞬で治るなんて」
「まるで大神官さまの魔法のようだ」
「もしや聖女様では」
「えぇ」
治してあげた人たちの反応が大げさすぎて怖い。王都に付いてから変に噂になったりしないといな。
「よし、こっちは終わったぞ、おい、そいつらは……?」
「あぁ、治しといたよ」
「治しといたって……一体いくつの魔法が使えるんだ……」
あれ、この世界じゃ魔法は複数使えるとおかしいの?
そんなことないよね? 冒険者ギルドにいかにも魔術師ですって格好の人もいたくらいだし。
「あ、それでサロス様は?」
「あぁ、無事だ。だがこちらから接触することができないのだが?」
「あ」
そう言えば防御陣魔法敷いたままだった。
「もう終わったのだろう、ならこちらから出ればいいだけだ」
「サロス様! ご無事で何よりです!」
「……ああ」
またサロス君が悔しそうにしている、何でだろう?
まあでも考えても分からないし、かといって本人に聞くほどの仲でもない。仕方ないのでこの問題は一旦置いておこう。
「それじゃあ移動を再開するぞ」
「はーい」
私は返事をするとユニコにアイシェを乗せて走り出す。
なんだかアイシェも浮かない顔だけど気のせいかな。
そして後日。ついに王都に到着した私達は門番の居るところで山賊達を引き渡した。
「さて、王都までの護衛ご苦労だった。これにてお前たちの任務は終了だ」
「ふう、よかった。何事も無くて――」
いやホント、山賊に襲われた程度で済んで良かったよ。強力な魔物とかには一切遭遇し無かったし。
「と、言いたいところだが、レイナ嬢、君には王城まで来てもらおう」
「……はい?」
今なんとおっしゃいました? 王城に来てもらう? 何故故に??
「この度の働きは見事であった。それにその魔法の才。素晴らしいものだ。ぜひこの国の力になって欲しい」
「えーっと」
話が読めないよ。この国の力にって、それは勧誘? 断れない系の?
仕方ない……ここは必殺技を使うしかないね。効くか分からないけど。
「私こう見えてハイエルフなので、人の国に使えるのはちょっと」
「何?! そ、そうだったのか……いや、そうだったのですか」
「う、うん」
こちらがエルフの王族と分かって態度が変わった。
そう言えばこの世界のエルフってどんな立ち位置なんだろう?
仲間とか入るのかなあ。
「それではやはり、此度のお礼も兼ねて王城へ来ていただけませんか」
「まあ、行くだけなら」
そのくらいならまあいいかな。この国の宮廷魔導士になれとか言われたら嫌だけど。
「あぁでも、アイシェも一緒じゃないと行かないよ。妹分だからね」
「えぇ?! レイナお姉ちゃん?!」
私の言葉にアイシェは驚く。何でだろ、二人一緒なんて当たり前だと思うけど。
あ、もしかして王城に行くのに緊張してるのかな? 私もだから大丈夫だよ。
「わかりました。それではご動向を」
「はーい」
私の態度って王族らしからぬ感じだけどいいのかな信じちゃって。
でも実力は見せたから、長く生きてるエルフだって事くらいは信用されてるのかな?
まあ本当は人生経験16年だけど。
とまあ、そんなわけで私達は王城に向かう事になった。
道中アイシェはオドオドしっぱなしだったけど、まだ付いても無いのにこれで大丈夫かなあ……。
まあ私もちょっと緊張してきたけれど。
王城までの街並みは壮観だった。アルケの街に比べて人通りも多く建物も大きなものが多い。
ここだったらしばらく滞在して買い食い生活をしても楽しそうだね。
そんな風に街中を見ながら行くこと十数分。
お城の前についに辿り着いてしまった。
「こ、ここここ、が王城」
「アイシェ、動揺しすぎだよ。落ち着こう?」
よく考えたらアイシェはアルケの街の平民だもんね、緊張するのも無理はないのかも。
こっちはまだ設定上王族だから対等な感がある分幾何かマシというものだけど。
「嫌なら待っててもいいよ? 宿くらい取ってくれると思うし」
「い、いえ、一緒に行かせてください!」
「そう? なら行こっか」
さて、王城で一体どんなイベントが起きるのやら。
お城の中に入ると随分と世界が変わったように感じた。
外の街並みも凄かったけどここはもう別世界だね。
内装の作り、飾り、彩りの豪華さがまさしくファンタジーのお城って感じ。
「これからレイナ様には国王様に会って頂きます」
「! ……わかりました」
来てしまったよ権力者との接触イベント。
ここは無難にかつスマートにこなして帰りたいね。
って言うか呼称が「レイナ様」になってるね、ちゃんと王族扱いってことかな?
「こちらが玉座の間です」
「緊張するなあ」
「レイナお姉ちゃん緊張してないでしょ……」
隣でガクブルしてるアイシェを見ていると自然と落ち着いてくる。
自分より怖がっている人が居ると不思議と怖くない現象みたいな感じかなあ。
とりあえず扉を開けてもらい、私達は玉座の間に招かれる。
そして国王様? の前まで行く。
アイシェは膝をついて伏せてるけど、私はどうしよう。一応エルフの王族だし対等な立場っぽく振舞うべき??
「あなたが情報に上がって来た冒険者兼ハイエルフのレイナ殿かな」
「はい、エルフの王族たるハイエルフのレイナです」
「ふむ、疑う訳では無いがステータスカードを見せては貰えぬか? 我々にはエルフとハイエルフを見分ける術がそれしかない」
「はい」
疑われてるね完全に。まあいいけどね。そりゃ珍しいでしょうからね、ハイエルフなんて。
MOAでも私だけだったし。
「どうぞ」
「ふむ、確かにハイエルフだな」
私はステータスカードを見せつつ、ステータスカードの便利な機能をしった。
それは見せたい情報だけ見せられるってことだ。
なので種族と名前だけ表記してステータスとレベルは隠しておいた。
「それで、かなりの腕と聞いているが、レベルとステータスを教えてもらう訳にわ行かないのかな?」
「それはちょっと困りますね」
「そうか……ではこの国で宮廷魔術師として働くというのはどうか。冒険者より破格の条件を約束しよう」
「それもお断りさせて頂きたく思います」
私は旅して楽しく生きる気だ、それに私がここに残るのではアイシェをお家に帰す約束が果たせなくなる。
「残念だ。ではせめて、数年でいい、ここで教師をしてはくれないか」
「教師?」
それはどういう発想? なんでそんな話に?
「レイナ殿が守って来た自分物、サロスだが、彼は勇者の末裔だ」
「勇者?」
それってファンタジーとかで出て来る魔王と戦うアレだよね?
「そうだ。そのサロスの教師として訓練を付けてやって欲しいのだ」
「あ、そういう……」
つまりこの国王様はいい選手=いいコーチと思っているタイプということだ。
私にそんなのが務まるとは思えないけど。
とは言えここまで色々断っている。ちょっと悪いことをしている気がしてきてしまったのでそのくらいならいいのかなと思ってしまう自分が居る。
どうしたものかと悩んでいると当の本人、サロス君から声が掛かった。
「どうかお願いします、俺に力を与えてください! 弱いままは嫌なんだ!!」
「えぇ」
あの口数の少なかった少年が頭を下げてお願いしてきた。
どういう心境の変化なのだろう、いや、そうか……彼は勇者なんだ。
ふと、山賊に襲われた際の悔しそうな顔を思い出す。
そうか、彼は勇者なのに弱いことが悔しくて、守られているだけなのが悔しくてあんな顔をしていたのか。
「うーん」
でも私なんかでいいのかな、ぶっちゃけ強いモンスターと戦うのに同伴してパワーレベリング……くらいしか修行が思いつかないんだけど。
「レイナお姉ちゃん、私からもお願いします!」
「へ? アイシェ???」
なんでアイシェまで頭を下げているの?
「私、山賊に襲われた時、怖かったんです。覚悟をしてついて来たつもりだったけど、実際の戦いを見て手が震えて。レイナお姉ちゃんが張ってくれた防御の魔法が無ければ死んでいたと思います……」
「いやいやそれは……」
そんなことにはならない。防御魔法も無しに放置なんてしないし、もし防御魔法を使わないなら二人から離れたりしない。
「お願いします! 私も強くなりたいです!」
「お願いします! 俺も強くならなきゃいけないんです!」
「私からも、再度乞おう、勇者の教師になってくれまいか」
「う、うーん」
少年と少女、二人の想いに気圧される私。
……はあ、まあ、仕方ないかな?
「わかった、わかったよ。二人が一人前になるまで面倒みるよ」
「「ありがとうございます!」」
こうして私は勇者サロス君とアイシェの教師になることになった。
「脇甘い、体が剣に流されてる!」
「は、はい!」
後日、早速私達は訓練を行っていた。
といっても行き成り魔物相手のモンスターハンターなんて無理だからまずは基礎的な戦闘技術を学ばせる。
とは言えこれはほとんど独学した物だから正しいかと言われると分からないけど。
しばらくアイシェの相手をして、休憩に入る。
「アイシェの武器だけど、エストックなんだね」
「あ、はい。お父さんが使っていたので」
それを真似してってことかな。そういえばお父さんに少しだけど習ってたんだっけ?
「私には不釣り合いでしょうか?」
「ううん、珍しい武器だなあと思って」
刺突と斬撃、両方を想定した中々マニアックな武器だと思う。
私個人の価値観で、そうでも無いかも知れないけど。
「さて、次はサロス君やろうか」
「はい!」
アレから私はサロス君のことをサロス君と普通に呼ぶようになった。
こっちは王族だし相手は勇者だ。それなら君付けでいいだろうという考えだ。
「人間を相手にする時は常に相手の思考を意識して。隙があるからってそこに飛びついたら罠ってこともあるからね」
「はい!」
「それから近距離での大振りは止められやすいんだから小さく多く手を出すように意識して。ただしスタミナ配分を忘れない事」
「はい!!」
それから私は半年掛けて二人に色々なことを教えた。近接戦闘の基本から中遠距離戦闘を好む相手との立ち回り方、格上と戦う際の注意点、連携することの大切さとか、様々だ。
因みにアイシェのお母さんにはアイシェに手紙を出させて連絡を取っている。
何せ王宮で数年間預かるんだからね、ちゃんと連絡しないと大変心配を掛けてしまう。
いや、連絡したらしたで心配されたんだけど……それは割愛しよう。
「はぁはぁ……レイナさん、強すぎです、これだけ動いて、息も乱さないなんて」
「レイナお姉ちゃんは一体どれだけ強いのか底が見えません……」
「あははははは」
笑ってごまかすしかない。
二人のレベルをこっそりプロパティでちょこちょこ見ているのだが、最初はアイシェが10レベル、サロス君が8レベルだった。
それが今では20レベルと19レベルだ。これがこの世界でのどのくらいの強さかは何となく知ってる。
そこら辺の騎士のレベルが実は20~25なのでアイシェはもう騎士並みに強い。
そしてサロス君もまた、騎士に一歩及ばないものの相当の実力者というわけだ。
半年でこの変化、実際成長速度としてはどうなんだろう。
今度騎士団長辺りに相談してみよう。
因みに騎士団長は45レベルと中々の数値だったよ。
「さて、今日はここまでにして、お夕食にしましょうか」
「「はい!」」
それから半年ここに来てから一年がたった頃、ある事件が起きた。
「オークキングが群れを率いてこの国に向かってる?」
国王様に呼び出されて主だった重鎮の集まる軍議の間で私の間抜けな声が響く。
「そうです、それでこの群れの討伐をぜひレイナ様に頼みたく」
「それは素晴らしい案ですな騎士団長殿。それなら我が国の国力の低下は最低限におさまるというもの」
「自分の利益ばかりを言うのではない財務官。レイナ殿一人で戦わせる等と騎士道に悖る行為、まして貴族のすることか」
「何をおっしゃいます軍務卿。こんな時の為にレイナ殿は勇者殿を育てていらっしゃるのです。何も一人で行く必要はありますまい」
「はあ」
それからもあーでもないこーでもないとぎゃーぎゃーと会議は続く。
なんだか会議が踊ってるよ。軍務を預かるラーズ卿は私に押し付けるのに反対してくれているがかといって別に私を庇っているというよりメンツの問題を語っている。
財務官はオークたちとの戦争になった場合に掛かる費用の事でも考えているのだろう。
そして騎士団長は私一人にやって欲しいみたいだ。理由は分らないけど仲間の、騎士の命には代えられないのかな?
「私一人でいいですよ」
「何、それは本当ですかレイナ様」
「ほれ、レイナ殿もこういっておっしゃる」
「むぅ、しかし……」
オークキングならゲーム内でも相手にしたし強さは大体わかる。
正直本気を出せば一瞬で終わる相手だ。
「それじゃ、行ってきますね」
「な、待たれよレイナ殿!」
「はい?」
軍務卿のラーズさんはまだ何か言いたいことがあるようだ。
「本当に貴女一人で倒せるのか?」
「簡単だと思いますけど」
もうここまで来たら実力を隠す気も失せて来ている今日この頃である。
いっそ派手にやっつけて私の実力を見せて置くのも悪くないかもしれない。
「それじゃ、行きますね?」
「あ、あぁ」
ラーズさんはそれ以上は私を止めようとはしなかった。
だが、私を止める者がまだ二人いた。
サロス君とアイシェだ。
「師匠、俺も連れて行ってください!」
「私もレイナお姉ちゃんの剣として戦いたいです!」
「はあ……」
この二人が一番面倒かもしれない。
あれから半年、今やサロスは30レベル、アイシェは32レベルになっていた。
生半可な騎士より強い分、二人とも自分が戦えると自負している。
でも実践の経験はまだ少ない。たまに魔物狩りに連れて行った程度だ。
オークの群れ相手に立ち回れる程の力は彼らには無い。
「今回は私の仕事だよ、二人は待っててね」
「そんな、俺、戦えます!」
「私だって!!」
「はいはい! 二人の気持ちは嬉しいけど、今回は相手が多いの。範囲魔法で一掃する予定だから二人に出番はないよ」
「っ……そう、ですか」
「分かりました……」
露骨に残念そうにする二人。この二人もしかして戦闘狂に育てちゃった?
「さて、じゃあ何処かから私の活躍みててね」
「「はい!」」
私は二人に見送られながら城壁の方へ飛んでいく。風魔法のフライだ。
「さて、北の大草原に居るって話だったけど」
北に向かって飛んだ私はすぐにオークの大群を見つけた。
あー、アレはこの国の戦力じゃちょっと厳しいね。
オークのレベルは20~25と騎士一人一人と大差はないが種族の差がある。戦闘に向いている魔物達相手と同レベルでは分が悪い。
せいぜい二人で一匹を相手にするのがいいところだろう。
数万はいるオークの軍勢を倒すのは困難だ。
ましてオークキングまでいるのでは勝ち目は無いだろう。
MOAでのオークキングには周囲のオークを強化する能力があったし、レベルも40とそれなりだった。
騎士団長ならいい勝負をするかもしれないけどそれは一対一ならだ。騎士団にまず勝ち目はない。
「さて、降隕の杖を装備して……永劫回帰の髪飾りのスキルをオンっと」
一気に魔力が三倍になりMPも増加。
そして杖の力を使って……。
「メテオ・フォール!!!!」
その日。人々は空を見て恐れおののいた。巨大な流星群が降りそそぐ様に。
後に流星の日と呼ばれ。その地を神の怒りの落ちた場所として神殿を立てて祭り上げることになる。
その始まりだった。
「いいね、その調子!」
「はい!」
「言った傍から調子に乗らない、フェイントだよ」
「うぐっ」
あの日から二年、二人は着実に成長していた。
私との訓練もそうだが、最近は魔物討伐などの実戦も増えてきている。
サロスは16歳にしてレベルが55、アイシェは56だった。
二人とも才能があったんだね、もう騎士団長よりも強いよ。
「それじゃ、次はアイシェとやってみて」
「はい!」
「わかりました」
二人の訓練を眺めながら思う。
私何やってんのかなぁと。
今更ながら旅はどうしたのだろう。いや、別に城下町に降りれば楽しい事は十分あるしいいんだけど、せっかくなら世界を旅してみたかった。
とは言えもう三年だ。最初は数年教師をって話だったけど、一体いつまで教師をすればいいのであろう。
一人前になるまで付き合うつもりだったけど、もう二人とも立派に戦士してる。
私の役割はもう終わった気がするんだけど。
「レイナさん、今の試合どうでしたか?」
「え?」
私が物思いに耽っている間に決着がついたようだ。
勝ったのは見た感じアイシェっぽい、相変わらず勇者より強い天才少女だ。
最初はオーク解体が出来る子くらいのイメージしかなかったのにね。
「二人とももう一人前だなあって思ったよ」
「そんな、私なんてまだまだです」
「師匠に比べたら俺達なんて」
「謙遜しないしない。この国で二人に勝てる人なんていないんだよ? 謙遜も過ぎれば嫌味になっちゃうんだからね」
まあこの国にって言うのに私を入れてないのはズルかも知れないけどそこは良いよね。
私この国の人間じゃないどころか何処にあるかもわからなエルフの国の王族だし。
「でも、師匠がいます」
「そうです、レイナさんに勝てる人なんていません」
「私はこの国の人間じゃないよ。ハイエルフなんだからね」
二人はそれでも譲らなかったけど、ホント立派に育ったものだ。
「今の力じゃまだ魔王には勝てないかもしれません」
「そうです、魔王の復活が近い今、もっと強くならないと」
「ん?」
今なんて言った? 魔王の復活が近い? そんなものは初耳だ。
「魔王が復活? するの?」
「え。レイナさんは知らないんですか? レイナお姉ちゃんと出会った頃から有名な噂話ですよ?」
「そもそも俺は魔王の復活に備えて王様の管理下で修行する為にここに移動してきたんですよ?」
「そうだったんだっけ?」
そんな話聞いた覚えがない。
けどそうかあ、魔王が復活ねえ。
それで二人は強くなりたかったんだね。偉いなあ。
「まあ魔王でも師匠には勝てないと思いますが」
「そうですね、レイナさんに勝てる相手になんて勝てる気がしませんから。先代勇者様が倒せたのなら、レイナさんが倒せない訳が無いです」
「う、うーん」
私は出来るだけそう言うのには関わりたくなかったけどもうどっぷり関わってしまってるんだよね、勇者の育成とか最たるものだ。
「師匠が星を降らせれば一発ですよ!」
「そうです! レイナさんなら圧勝です!」
「いやいや、二人ともあんまり私を当てにし過ぎない方が良いよ?」
そもそも魔王と戦うのは勇者の役目で私がそれを横からかっさらう気なんて毛頭ない。
魔王を倒して英雄になるのはサロスでいい。
もしどうしても力が足りないなら私がちょっと手助けをするだけだ。
勇者パーティの魔法使い、その辺で終われば丁度いい。
「さて、その話は後にして休憩にするよ」
「「はい」」
私達は話を切り上げると休憩に入る。
するとそれを見計らってか騎士団長がやって来た。
「休憩中の所済まないが、玉座の間に来てもらえないだろうか。できればレイナ様もご一緒に」
「私も?」
こういう時私がメインで呼ばれることがあっても私がオマケであることは少なかった為ちょっと気になった。どうやら今回私は随伴の教師程度の役割とみた。
そう思いながら玉座の間に着くと、もう既に幾人かの重鎮と見知らぬ顔が三つ程あった。
「よくぞ来た勇者サロス。それに冒険者のアイシェとレイナ殿」
国王に呼ばれてやって来たけど、一体何の話だろう。
見知らぬ三人と関係があるのかな?
「此度集まってもらったのは他でもない、魔王バートが復活したからだ」
「ついに魔王が!!」
サロスが衝撃を受けたように答える。
まあいきなり復活しましたとか言われても困るよね。
「そこで勇者には魔王の討伐に向かって欲しい。旅の仲間、戦力はこちらで用意させてもらった」
そういうと見知らぬ三人が勇者の前に出て来る。
どうやらこの三人が仲間の様だ。
「一人目はチームの目であり耳になりと重宝する忍びの者だ」
「スキア、よろしく勇者」
一人目はくノ一だった。この世界にも忍者居たんだね。
「二人目は力自慢のウォーリアーだ」
「ズィナミだ。よろしくな勇者様!」
こちらは大柄な体育会系と言った感じの好男子だ。といっても20後半くらいだろうけど。
「そして三人目がチームのブレイン兼魔法担当になってくれる賢者だ」
「ソフィアです。よろしくお願いします……と言っても、流星の魔女様には遠く及びませんが」
ソフィアという女性はチラッとこっちを見る。やめて、その二つ名。
「それで、師匠達が呼ばれた理由はなんでしょうか?」
「うむ、強制では無いが、できれば旅に参加してやって欲しいと思ってな」
「すみません、お断りします」
私の回答があまりに即答だったのでその場の全員が驚いた。
いやいや、行くわけないでしょ。魔王だよ? 勇者の戦う相手だよ。
私はやるべきことはやって来たし、そろそろ自由な旅に戻りたい。
「理由を聞いても?」
「エルフの国に帰ろうかと」
「むぅ……そうであったか」
嘘だけど。でもエルフの国は探しておきたい、今後の為にもね。
「もしどうしても私が必要になったら呼びに来てくれたら行くよ、サロス」
「……わかりました、師匠」
何かを決心した様子で答えるサロスに心配になる、大丈夫かな。
そういえばアイシェはどうするんだろう。
「それで、アイシェ、君はどうする」
「レイナさんの旅に同行します」
「そうか……そなた程の剣士、そうはいない、惜しいものだ」
「はっ、過分な評価有難き幸せにございます。ですが元々私はレイナさんの旅のお供でしたので、レイナさんがお断りする以上、私もそうさせていただきます」
「そうか……」
どうやら勇者パーティへの勧誘が狙いで私達は呼ばれたらしい。
でもそもそも私は数年教師をするって約束しかしてないし、その約束はもう果たされたと思っている。
というのもサロスはこの世界ではもう一人前と言える勇者だからだ。
「それではエルフの女王レイナ殿、その共であるアイシェ殿に報酬をお支払いしよう」
「え」
「当たり前であろう、この数年、勇者の成長目覚ましいものがあった。それと言うのも二人のおかげ。この国を代表して礼を言う」
とまあそんなわけで。
私とアイシェは褒賞金をたんまり貰って城の外に送り出されたのであった。
「いやあ、このお金、アイシェの実家に送ろうね」
「え、いいんですか?」
「勿論。可愛い妹分の為になるからね。私はこう見えてお金には困ってないし」
まあこう見えても何もエルフの王族な上にプレイヤーなんだから当たり前かもしれないけどさ。
「なんだか申し訳ないです、レイナさんに助けてもらったお礼をしたくて始めたお供なのに貰ってばかりで……」
「そんなことないよ。今の私が居るのはアイシェのおかげだよ。アイシェから貰ってる分を私が返したいくらいなんだから」
未だにあの森で迷っていたことは覚えてる。
マップは便利だから気づいたら街に向かえたかもしれないけど、他の事でもアイシェに助けられたのは間違いない事実だ。
「そんな、レイナさんには私とお母さん、二人の命を救ってもらいました。このご恩を返すまで、旅のお供をしますよ」
「なら一緒に居てくれることが恩返しだね。一人旅は寂しいし」
これも本心だ。
乗合馬車とかを使って旅を楽しむのもありかも知れないけど、やはり見知った人との旅とは別格だと言えるだろう。
「そう言ってくれると嬉しいです」
アイシェが満面の笑みで答える。
そういえばアイシェは良かったのかな……。
「ねえアイシェ、サロスに付いて行かなくて本当によかったの?」
「はい? まあサロス君とはライバルみたいなものですから、いつか決着は付けたいですね」
「あ、そういう……」
残念、どうやらこれは片思いだったようだ。
どうもサロスは途中からアイシェを意識していた節がある。
さっき私と一緒に来ると言ってた時も見るからにショックを受けていたし。
この思いが届く日は来るのかなあ。
「さあ、それでレイナさん、エルフの国ってどこにあるんですか?」
「え? 知らないよ?」
「え?」
私がすっとぼけた事を言うもので、アイシェも変な声が出ている。
まあ普通知らないと思わないよね。
「いやあ、ハイエルフなのはそうなんだけど、エルフの国? っていうの。何処にあるのかさっぱり知らないんだよねえ」
「じゃあなんで断ったんですか?!」
なんでって、そりゃあ……。
「旅したかったから……??」
「はぁ……呆れました。まさか魔王から世界を救うより旅を選ぶなんて」
「まま、そう言わずにさ、楽しくやろうよ。何かあったら私だって魔王討伐に手を貸すくらいはするしさ」
「というかレイナさん一人で十分な気がしますけど……」
「いやいやそれは無いって……」
それじゃあ勇者の面目丸つぶれだ。そんなKYな事はしない私だよ。
「それより旅旅! 楽しまなくちゃ!」
「はあ、そうですね。私はレイナさんに付いて行きます。そう決めたんですから」
そんなこんなで私達は旅をすることに決定。
目的地はまだ決めてないけど、できればエルフの国かなぁと思っている。
そのためにまずどこに行くべきか。
「何処に行ったらエルフの情報を手に入れられるかなあ」
「エルフの国を探すんですか?」
「そそ」
なんだかんだ言って同族には会いたい、色んな意味で。
「そうですね……それなら東にある帝国の魔導都市レイナールなんかがいいのではないでしょうか」
「そんなのがあるんだ」
「エルフと言えば魔力が高いことで有名ですし、魔法といえば魔導都市レイナールですよ? レイナさん、ホントに何処から来たんですか……」
異世界から来ましたとは言えないよね。
さてこういう時は。
「それじゃあその魔導都市とやらに行こうか」
「え、あはい」
話題を逸らして先に進む私を追ってくるアイシェ。
さあさあ、楽しい旅の始まりだ。
と思ったのも束の間、私達は早速盗賊たちに襲われていた。
「王都近辺さ、治安悪すぎない?」
「魔王復活の噂を聞いてそれに乗じて悪さをしようという輩が多いようです」
なるほど、火事場泥棒みたいなものかな??
「一応言っておくけど痛い目見る前に降参しない?」
「へへっ、こんな上玉二つも前にしてそれはねぇだろうよ」
「「「へっへっへっへっへ」」」
「うわあ」
正直ドン引きである。上玉扱いはまあ嬉しい気がしないでもないけど。
「はあ、アイシェやれる?」
「抜かずにですか?」
「そ」
「やれます!」
「じゃあやろっか」
数分後。
「ずびばぜんでじだ」
「はい謝れて偉いね~。連行はするけど」
私達はぼこぼこにした盗賊たちの謝罪を聞きながらも次の街まで盗賊達を引っ張って走った。
そして街に着くと憲兵さんに盗賊達を渡して冒険者ギルドに向かった。
何か面白そうな依頼があったらこなしつつ楽しみながら旅するつもりだ。
「このフレイムドラゴン討伐なんて楽しそうじゃない?」
「ドラゴン討伐を楽しそうとか言うのはレイナさんだけです……」
いやでも、ファンタジーの定番、ドラゴンだよ?
倒したらドラゴンスレイヤーだよ。
「これにしよう!」
「待ってください!」
私が依頼を受けようとするとアイシェが待ったをかける。
何かあったかな?
「どしたの?」
「その……また降らせるんですか?」
「へ?」
また降らせるって言うのは、まさかメテオ・フォールの事を言っているのだろうか。
だとしたら。
「心配ないよ。ビットと魔法で十分勝てるから」
「そ、そうですか、ビットっていうのはわかりませんが、魔法で……あの魔法以外で勝てるんですね」
「そだね」
どうやらアイシェはそこの心配をしていたらしい。
よく見れば火山に巣食うドラゴンが周辺の町に被害を出しているから討伐して欲しいという依頼だった。
火山に隕石ぶち込むわけにはいかないもんねえ。
「大丈夫大丈夫、地形のこととかバッチリ考えて降らせるから!」
「いえ、そういう問題じゃないんですが……」
じゃあどういう問題なんだろう……?
よくわからないけどまあいいや。
「それじゃ、この依頼受けるね。アイシェのレベルなら大丈夫でしょう」
「まあ、戦いにはなると思います。足手纏いにならないかは少し心配ですが」
「大丈夫大丈夫」
アイシェの実力で足手纏いになるような相手ならこの世界基準で勝てる人物が居ないことになると思う。
受付のお姉さんに依頼書を渡すとかなり驚かれた。
まあうら若き乙女二人でこの依頼受けようとしたらそうもなるよね?
「この依頼はAランク以上の冒険者のみを対象としたものでBランクでは受付できませんが」
「はいっと」
ランクについては聞かれる気はしていたのでギルドカードを提示する。
この三年間、私も伊達に教師をやっていたわけではない。
魔物狩りの際には必ず冒険者ギルドを通していた私達は既にランクSの冒険者だ。
まあアイシェとサロスはこのランクは私ありきで本来はA程度って言ってたけど。
「そちらのお嬢さんも?」
「はい」
アイシェもギルドカードを提示して、どうにか依頼を受けることができた。
「国内に三人しかいないSランク冒険者に受けて貰えるなら安心です」
「いやあ、あははははは」
笑うしかない。その三人のうち二人を育てたのが私ですとは言えまい。
見た目は相変わらずの16歳の少女なのだから。
「それでは行ってきます」
「はい、無事の帰還をお祈りしております」
受付嬢とのやり取りが終わると私達は街を後にした。
宿を取って一拍してもよかったが、まだ日がある内に被害に遭った街に急行したかったから野宿――家は作るけど――をすることにした。
「さて、それじゃあ出発」
私はユニコを召喚してそれに乗る。
アイシェにも乗って貰ってサクサクと森の中の道を進んで行く。
そして日が完全に沈みきる前に家を作る場所を確保し、家を作り、泊まる。
「久しぶりに二人でお風呂だね」
「そうですか? 王宮でもご一緒したと思います」
「そうだけど、ほら、外でお泊りがさ」
「それならあの時はサロス君がいましたよ」
「そ、そうだけど。お風呂は二人きりでしょ?」
アイシェは結構細かいことを気にするね。
私とは大違いだ……。
「レイナさんって結構大雑把ですよね……オーク相手にあんな大魔法使うし」
「うぅ……」
「流石は流星の魔女ですね」
「その二つ名はやめて~!」
「ふふっ、冗談です」
うー、可愛い妹分がいじめて来るよう。
「それにしてもあの二つ名、誰が付けたんでしょうね」
「あー、それねえ……」
巷では神の鉄槌とされている隕石落下、実際は一魔法使いの仕業だと広まる前はそれを知るのはごく一部の間だけだった。
魔力を探知できる魔術師とかがアレは魔法だと言い始めたのが噂の始り。
最初は半信半疑だった民衆もその内多くの魔術師が魔法だという物だから信じてしまった。
で、巷では私とまでは知らなくとも流星の魔女の異名だけが独り歩きしている状態だったりする。
「はあ、嫌な二つ名だよね」
「そうですか? カッコいいと思いますよ」
「それが余計に居た堪れないんだよ……」
自分で名乗ったわけでもない二つ名がカッコイイ上に独り歩き。
実物を見た人は落胆するに違いない。
「そうでしょうか。ソフィアさんなんかは尊敬の目で見てたと思いますが」
「ああ、あの賢者の子」
年は多分私より上だろうけどつい子とか言っちゃった。
流石にもうハイエルフ設定が馴染んでるのかな。
「はい、でもレイナさんが同行しないと分かった時ちょっと様子が変でしたけど」
「変? どんな感じに?」
「なんていうか……ホッとしてるような」
「それ怖がられてるんじゃないの私」
流星の魔女と一緒に居たら危険とでも思われてそうだ。
そんなにむやみやたらに隕石降らせるつもりなんて無いのに。
「そう言うのとも違う気がしますが……」
「?」
そう言うのとも違うってどういうことだろ。ま、いっか。
「さて、お風呂あがったら寝ようね。明日は忙しくなりそうだし」
「はい、レイナさん」
そして後日。私達は早朝に家を経った。
「もうそろそろ着いても良くない?」
「そうですね、ユニコーンさん速いですからね……普通なら5日の距離でも一日ちょっとですからね」
私は可愛いからユニコって呼ぶけどアイシェはさん付けだ。律儀な子だ。
そんな他愛のない話をしていると、遂に被害に遭ったという町に着いた。
町の中は酷い有様で所々の建物が瓦礫と化している。
せめてもの救いはそれが町全てでは無いことかな。生存者の姿も確認できる。
「まずはこの町の冒険者ギルドで話を聞いといた方がいいよね?」
「そうですね、瓦礫になっていなければ、ですけど」
アイシェも怖い事を言うね……。まあこの惨状を見れば、気持ちはわからなくもないけど。
「さてと、冒険者ギルドの位置はこの辺のハズだけど?」
「どうやら無事のようですね」
ラッキーな事に冒険者ギルドは無事だった。いや、この災害でラッキーとか言っちゃいけない気もするけどね。
「隣街で依頼を受けて来たレイナです、フレイムドラゴンについて情報があれば聞かせて欲しいのですが」
「S級冒険者のレイナ様ですね! お待ちしておりました。でも連絡は昨日の午後に来たのにこんなに早く到着なさるなんて!」
「まあ速い馬に乗って来たもので」
っていうか連絡とか来てたんだ。そういう魔法はあるのかな。遠くの人と連絡を取れる魔法が。
「それで、情報なんですけど」
「はい。フレイムドラゴンはここ数日、毎日この町を襲いに来ては数件の建物を倒壊させて住人を襲い、山に帰っていくというのを繰り返して居ます」
「そういう習性なのかな」
「わかりません。ですがフレイムドラゴンは過去、魔王の四天王の一角だったとされる程の魔物です」
「え」
それって私が倒していい案件なのかな? それって勇者のお仕事じゃない?
「それなら勇者様のお仕事では?」
私が聞きたかったことをアイシェが聞いてくれる。
「はい、ですが勇者様は今他の四天王達を相手取って苦戦を強いられているとのことですので、フレイムドラゴン一体の為にここまで来て頂くことは難しいのです」
「なるほど」
サロス達は苦労しているらしい。四天王『達』を相手にって言うからには同時に攻めて来たってところかな。
これが物語なら一人づつ相手にすればいいだけなんだけどね、そうもいかなかったようだ。
「そういうわけで、冒険者でも実力のある者にドラゴンの討伐を頼んだのですが……」
「うん? 何か問題でも?」
ですが、ってことは何かあったってことだよね。
「先日B級の冒険者が立ち寄りまして、フレイムドラゴンの話を聞くと『ドラゴンスレイヤーになってやる!』と意気込んで山に向かってしまったようで……」
「うわあ」
それは酷い、自殺行為だ。というか何ならその所為でドラゴンが怒って町に八つ当たりでもすればさらに被害は広がる。
「ですのでどうか、そのパーティより先にドラゴンを討伐して欲しいのです」
「山までは距離があるし、まだ追いつけるかもね。やってみるよ」
「ありがとうございます!」
受付のお姉さんのお礼の言葉を受け取ってから、私達はギルドを後にした。
「さて、ユニコでかっ飛ばすけどいいよね?」
「はい、いつでも準備は万全ですから」
そんなわけで私達は山へ向かった。
勿論、山へ向かう際中、空中にも気を付ける為にマップでフレイムドラゴンの位置を把握できるよう心掛ける。
すれ違いで町に行かれたら困る。そして山に向かうのは当然戦場を町にしない為だ。
え、B級冒険者を救う為? 勿論、それも理由の一つだよ。
「早速山が見えてきたね」
「はい、先行しているパーティに追いつけると良いのですが」
そこはもう先行したパーティとやらの移動速度の問題だ。
まあでも山道を人の足で登っていくのはキツイからすぐ追いつけるとは思っているけどね。
「お、フレイムドラゴン」
「何処ですか?!」
私がマップに移り込んだフレイムドラゴンのことを口にすると、アイシェがまだ見えないフレイムドラゴンを警戒する。
「ごめんごめん、探知魔法に引っかかっただけ。まだ先だよ」
「そ、そうですか」
まあ、とは言ってもこのペースなら後数分で会敵するけど。
「準備はしといてね」
「はい、万全です」
うん、いいね。アイシェの表情に不安や焦りは一切ない。
四天王の一角を相手どろうって言うのにこの冷静さは頼りになるね。
山の斜面をユニコがサクサクと上っていくと、遂にフレイムドラゴンの巣穴らしきものを見つけた。
ここまでに冒険者達とは会ってない、何処かで追い越しただろうか?
「ここに居るんですね」
「うん。いくよ?」
「はい!」
私達はユニコを降りると巣穴へと入っていった。
巣穴といっても山の横穴と言った感じで、別に特別な物があったりするわけではないんだけど、巣穴だと分かったのはマップのおかげだ。
「居た」
「グルルルルルルル」
「怒ってますね」
「まあ自分の家に勝手に入られたら怒るよねえ」
見るからに怒ってますという感じで威嚇してくるドラゴンに、私達二人は全くひるまない。
「何の用でここに来た、人間とエルフよ」
「喋れるんだ?」
これはビックリ、まさか話してくるとは思わなかったね。
「我を魔王四天王、最強のフレイムドラゴン。フローガと知ってのことか」
「最強なんだ……余計倒していいのかわからなくなってきたなあ」
「何言ってるんですかレイナさん、倒していいに決まってます!」
でもこういう壁を乗り越えた先にある力を手に入れてこそ、勇者は魔王に勝てるんじゃないかと思う私である。
「いや待て、なるほど、それほどまでの魔力、一体どうやって手に入れた」
「え?」
ドラゴン……フローガは私を見るとそう聞いて来た。
まさか私の魔力値がわかるの?
「それほどまでの強者ならなるほど、我の相手として十分不足無し!!」
「ちょ」
フローがは叫ぶと共に空に飛びあがりブレスを吐いてくる。
「イデア・ヒオノシエラ!!」
私はとっさに氷の最強系範囲魔法を発動した。
イデア系の魔法は複数あるが、通常使えるのはハイエルフのみだ。
とっさの事だったのでいきなり全力の魔法をかましてしまったが、大丈夫だろうか。
よく見てみるとブレスは掻き消え、フローガに魔法が直撃している。
魔法が直撃したフローガは体の半分が凍りながら空から降って来た。
「アイシェ、大丈夫?」
「レイナさん! そんな大魔法を使うなら最初に言ってください!!」
「えぇ……」
なんか理不尽に怒られた気がするよ。
戦いの中でのことは仕方なくない?
「ぐ、ぐう……流石、恐るべき魔力を持つ魔女だ……これほどまでの、魔法を扱える、とは」
「ど、どうも」
そして敵からは賞賛の言葉を頂いた。何この空間。
っていうかサラッと生きてるって凄いね。私の最強系魔法を喰らって生きてるんだから流石は四天王最強と言ったところだ。
「ところで、もう町を襲わないし人も殺さないならここまでにしようと思うんだけど、どうかな?」
「何言ってるんですかレイナさん!」
「いやあ、だって喋れる相手だよ? 殺し難くない?」
「そんなこと言ってたら魔王だって倒せませんよ?!」
「いやだから、私は魔王を倒す気ないんだって」
何度でも言うがそれは勇者の役目で私の役目ではない。
今回はたまたま受けた依頼が四天王討伐になっていただけだ。
「我は魔王に仕える者だ、それはできん」
「そっか……」
どうやら分かり合う事は難しい事だったようだ。
「私が止めを刺しましょうか?」
「いや、私が最後まで相手するよ」
それがせめてもの情け……なのかな。
「イデア・ヒオノシエラ」
私は再度最強の氷魔法を使うと、今度こそフローガは全身氷漬けとなった。
「このままにして置いたら溶けたら復活しませんか?」
「うん、だから……」
せめて最後は楽にと思って凍らせてから、殺す。
「イデア・ケラヴノス!!」
私は最強の雷魔法で氷を砕いた。
これで溶けようが、生きていることはないだろう。
「さて、帰ろうかアイシェ」
「はい、レイナさ……ん?」
アイシェは返事をしながら出口の方を見ると疑問形で何かを見ている。
「どしたのアイシェ」
「いえ、アレが先行したパーティかと思いまして」
「ん?」
よく見ると出口の方に一人、偵察でもしているような人がいる。
「もうドラゴンなら倒しましたよー」
「?!」
偵察しているらしき人? は何故かビックリすると逃げて行った。
「何だろアレ」
「さあ?」
私達はよくわからないまま火山を出る。するとそこに待っていたのは先ほどの偵察の人と……えーっと誰だっけ。
「またお前かイカサマ!」
「あ、ラッツだ」
「ラッツさんと呼べ! 先輩だぞ!!」
なんか取り巻きが意気込んでそんな事を言ってくる。まあ、先輩って言えば、そうかも知れないけど……。
「私一応Sランクなんで、今は私が先輩でよくない?」
「誰ですか、この人達」
「ほら、例のギルドでの騒動を聞いてアイシェが会いに来てくれたことあったでしょう。それの人達」
「あぁ、なるほど」
それで納得要ったのか、アイシェは溜息を吐いた。
「レイナさんは実力でSランクになったんですよ。貴方方にイカサマ呼ばわりされる筋合いはありません」
「なんだと!!」
「女二人でフレイムドラゴンに勝てる別けねぇだろうが! イカサマに決まってる!」
「じゃあどうイカサマしたら勝てるの?」
「そ、それは……なんか、こう、凄いアイテムに頼ってるんだろ!!」
「なんだそりゃ」
なんか相手するのもめんどくさいなあ。
「勝負しろ! 今度俺達に勝てたら本物だって認めてやってもいい!」
「何それ……まあいいや、じゃあその凄いアイテム見せて上げるよ」
私はインベントリから久々のソードビットを出す。
「一人に付き一本で相手してあげる」
私のソードビットは9本あるが、その内5つだけを使って戦うことを宣言する。
「ば、馬鹿にしやがって!!」
「そんな浮いてるだけの剣に何ができるってんだ!」
ラッツ達は私の事がまだ気に入らないようで、文句を垂れて来る。めんどくさいなぁ。
「そういえばさっきから偵察の人は黙ってるね、どしたの?」
「ハイディングを使ってるのに、何故わかった……?」
「あぁ、だってそれ自分より高レベルにはほとんど効果ないでしょ」
私が当たり前のように言うと、偵察の人は驚いた。
「ラッツ止めよう、コイツ等には勝てない」
「何言ってんだ俺はやるぞ!」
「俺もやりますラッツさん!」
そんなわけで一人減ったのでこちらもビットを一つ戻す。
「さ、始めようか」
「こい!!」
「イカサマ暴いてやる!!」
そして戦いが始まる。
といっても、ほとんど展開は一方的だった。
ソードラックの攻撃力が高すぎて剣を弾かれ飛ばされる者、それだけならいいが剣が砕ける者、代わりのナイフを取り出して出したナイフを弾き飛ばされる者。そうやって徐々に抵抗する力を奪っていき、最終的にはラッツ達は大人しくなった。
「はい、これが実力の差って奴だよ。わかった?」
「ちくしょう……あんな訳の分からない装備だけに負けるなんて……」
「装備が強いだけじゃないのか」
「そ、そうだ、装備が良いだけだ」
「そろそろ殴るよ?」
「ひいっ」
ラッツは昔私にやられたのを思い出したのか悲鳴を上げる。
はぁ……ホントどうしようもないねコイツ等。
「さて、私達は先を急ぐから、貴方達もドラゴンスレイヤーなんて無茶しないでちゃんと帰るんだよ~」
私はそう言い残すとユニコにアイシェと二人乗りし、その場を去った。
そして翌日、町に戻ってギルドに報告すると、大変喜ばれた反面、とても驚かれた。
「まさかこんなに早く討伐して帰って来られるとは思いませんでした」
「まあ、私もそうです」
実際こんなあっさり終わってしまうとは思ってなかった。
この世界でのレベル100は相当に強いようだ。
「そこで、その腕を見込んでレイナさん達にお願いがあるのですが」
「ん?」
なんだろう、すっごく嫌な予感しかしない。
「勇者様達が苦戦している四天王との闘いに参加していただけませんか?」
「あ、お断りします」
それはサロス達の仕事であり、試練でもある。私がそれを奪えば魔王を倒すことは出来なくなるかもしれない。
そんな危険な真似は依頼されても易々と受けていいものではない。
「お願いします、レイナさん!」
「いや、だから、駄目ですって」
私にも私でやることもある、まあ同族探しは後回しでもいいかも知れないけれど。
でも、一番の理由はやはり勇者の出番、試練を奪ってしまう事だろう。
彼らには是非とも自分たちの力で乗り越えて欲しいものだ。
「そんなわけで、失礼します」
「そんな、レイナさん!!」
後ろで受付のお姉さんが叫ぶが私はギルドを後にした。
「良かったんですか? 断っちゃって」
「何度も言うけど、私は魔王と戦ったり、四天王を倒したりもしないつもりだよ」
「ドラゴンはやっちゃいましたけどね、一瞬で」
「うっ」
そこを突かれると痛いところだけど、人の命には代えられないってことで。
「それにサロス達も自分で何とかしないと成長しないでしょ。頑張ってもらわないと」
「はあ、レイナさんが魔王を倒せば済む話だと思うんですけど……」
そんなKYな真似私にはできないよとツッコみたくなるがKYって言っても多分伝わらないので止めて置く。
「さあ、そんなことより東に向かおう。レイナールに」
「はい」
それからの旅は順調で、時に魔物討伐の依頼で路銀を稼ぎ、時に山賊に襲われ返り討ち、時に雨に降られて家を造って雨宿り。
実に充実した旅を満喫しながらレイナールに向かい、遂に到着した。
「ここが魔導都市レイナールかあ」
魔導都市なんて言うからどんな場所かと思っていたけれど意外と普通の街並みだ。
変わっているといえば如何にも魔法使いですって見た目とか学者ですって見た目の人ばかりが目に付くことくらいかな。
「さて、ここでどうやってエルフの国の情報を集めようか」
「図書館などはどうでしょう」
「え、あるの?」
この世界に図書館なんて立派な物があるとは思わなかった。普通こういう世界観だと本って貴重品で庶民は読み書きできないから要らない物だと思ってたけど。
「この都市には学術者が多いですからね。ありますよ」
「なるほど」
読み書きできる人が居ればそれだけ需要もあるんだね。
「という訳で付きましたよ図書館っと」
道行く人に図書館の場所を聞きながらなんとか到着した図書館。
なんとか、というのはこの街、意外と迷路のような造りになって居る所為で散々道に迷ったからである。
「それじゃあまずは受付にでも行こうか」
「そうですね、利用する上でのルール等もあるかも知れませんし」
こういう所をキチッと考えてるアイシェは本当に真面目な子だ。
私は単純に受付さんがエルフに関する本を知ってないかなと思っただけだったりする。
「あのー、すみません」
「はい? なんでしょう」
受付らしき場所にいたメガネのお兄さんに声を掛けるとこちらを向いてキリっとした顔をした。
「ここの本って自由に閲覧可能なんでしょうか?」
「いえ、一定の条件がございます」
「というと?」
「まず、学士号を持っている事、それかAランク以上の冒険者であることが条件となります」
「Aランク以上の冒険者ならいいんだ?」
「はい、Aランクともなれば情報の扱いも丁寧なものでしょう。信頼を置ける相手にのみ、この図書館の本は開示されるのです」
「な、なるほど」
でもそれなら、とりあえず私達は閲覧可能ということになる。
「それで、ご用件はそれだけで?」
「あ、私これでもSランク冒険者なんだけど、ちょっと探し物をしてて」
「Sランク冒険者が探し物ですか」
受付のお兄さんは興味津々という感じに私に注意を向ける。
「えっと、エルフに関する記述がある本って無いですか? できれば何処に住んでるか知りたいんですけど」
「うん? 見る限り貴女自身がエルフのようですが」
「えーっと、わけあって帰り方が分からなくなっちゃって困ってるの」
「そうですか……それでしたらこちらにある本が役に立つでしょう」
そういうと受付のお兄さんは受付から出て来きて「どうぞこちらに」と言って私達を案内してくれる。
どうやらこの先にエルフにまつわる本があるようだ。
「こちらでございます」
「これがエルフの国について書かれた本?」
「はい」
「では、ちょっと失礼して」
ページをめくってみる、エルフの生態や特徴について書かれた話がつらつらと続き、途中でエルフの里の話に変わる。
エルフの里はどうやら大陸の北部にあるようだ。
しかし大陸の北部と言うと……。
「魔族領が近いよね、これだと」
「おや、この本をお読みになれるとは、流石エルフですね」
「へ?」
なんで今褒められたの私。
「この本は古代のエルフ語で書かれた物とされており、今でも解読しようとしている学者達が大勢いる本なのですが、流石はエルフ、いえ、これ程昔の言語を知っているのならもしやハイエルフですか?」
「えっと、まあね。でも周りには秘密でお願いしますね」
「はい、情報管理は私の仕事の一つですから。漏洩は絶対にしません」
よかった。生真面目そうな人だから信用できそうだし。ここの学者さん達には悪いけど、ハイエルフだとバレてあれやこれや聞かれたりしても何もわからないので困るしかない。
そうなると色々面倒なので私はこの情報だけ持ち帰ってさっさと北に向かってみることにした。
「アイシェ、北に行くよ」
「は、はい。凄いですねレイナさん。あんな難しそうな本読めるなんて流石です」
「いや……うん」
異世界転生特典で異世界言語の理解が出来るんだよとは言えないね。
「それにしても北ですか。レイナさんも言ってましたけど魔族領が近いですよね」
「うん、ちゃんと里が残ってると良いんだけどなぁ……」
これで魔族に滅ぼされていたり魔族から逃げて移り住んでたりしたらどうしていいかわからなくなる。
常々思っている、同胞は必ず見つけたいと。
「さて、用事は終わったけどせっかく来たんだしちょっと観光していこっか?」
「そうですね、レイナールの料理は何処とも違って変わった味わいがあると聞いたことがあります」
「おー、それは楽しみー!」
そんなわけで私達はレイナールの街を練り歩き、買い食いをし、夜前には宿を取って宿場の夕食を楽しんだ。
旅の醍醐味はやっぱり料理かな。各地で変わった料理と出会えることが一つの楽しみだ。
「この香草焼き? おいしいね」
「そうですね、肉汁がぶわっと広がると同時に香草の香りもまた口の中に広がってとても美味しいです」
またこれが一人飯ではなく仲間と一緒って言うのが良いね。妹分と一緒の食事。うん、最高!
「はあ、幸せ~」
「はい、こんな幸せが続くと良いですね」
「そうだねえ」
その為には世界を支配しようとしているのか破滅させようとしているのか知らないけど、魔王って言う存在を勇者にやっつけて貰わないとね。
どうせ北のエルフの里に行くのだ。もし必要なら私の力も少しくらいなら貸してもいいだろう。
「もしかしたら北でサロス達と会えるかもね」
「そうですね、サロス君達も北の魔王城を目指しているハズですから」
そうなればサロスは喜ぶだろうなぁ、アイシェに会えて。
私も久しぶりに弟子に会えるのは嬉しいし。
「さて、目指すは北のエルフの里だよ!」
「はい!」
私達はそう言って気合を入れると同時に、ベッドに飛び込んだ。
「まあ、明日からだけどね」
「はい、そうですね」
二人で笑い合いながら布団にもぐる。
本当に、こんな幸せがずっと続けばいいのにね……。
翌朝、私達は朝ごはんを宿で頂いてから旅立った。
「短い間だったけど、楽しい街だったね?」
「そうですね、特に学者さん達が……ふふっ」
アイシェが思い出し笑いするのも分かる。
街中には学者らしき人達が研究費の為か、大道芸のように様々なことをやっていた。ある学者は口から火を噴き、ある学者は静電気を目で見えるようにして楽しませていたり。
内容は様々だけれど、兎に角それを必死にやる学者さんとそれを楽しそうに見る住民達のバランスが面白かった。
前のめりに目を輝かせて見る少年に、見飽きたようにしながらもついつい見てしまう大人達。
まあ兎に角、面白おかしい街だった。
「エルフを探す旅が終わったらまた来てみてもいいかもね」
「そうですね、その時は皆で来ましょう」
皆でって言うのはサロスとかも含めてってことかな?
そういえばアイシェには妹ちゃんもいたよね、今度はその子も連れて来てあげられたらいいかも。
「旅の楽しみがどんどん増えちゃうなあ」
「いいじゃないですか、増える分には」
「そうだね」
本当に、その通りだ。その通りのハズだ。
「さて、それじゃあ気を取り直してエルフの里に向かうよ!」
「はい!」
それから私達は北にあるエルフの里に向かって旅をする際中、とある噂を聞いた。
勇者達がついに四天王を撃破したという話だった。
なんでも一度は敗北、撤退したものの、次の戦いでは見事な勝利を収めたそうな。
特にサロスの成長が素晴らしかったようだ。相変わらず成長の速い子だ。
「アイシェも負けてられないねえ」
「私はレイナさんに付いて居ますから、あまり剣を抜く必要がないのは少し残念です」
「まあ使わなくて済むなら越したことは無いよ。平和な証だね」
「まあレイナさんと居るから、ですけどね」
なんでそこで私を強調するかなあ。私って防災グッズか何か?
「今度また訓練する?」
「いいんですか?」
「一対一でみっちり教えてあげようじゃない」
「ありがたいです!」
「マジかあ」
冗談半分だったのにめっちゃ喜ばれてしまった。
そこは「お手柔らかに」とか言うかと思ったのに、これはもう訓練ホリックだね。
「それじゃあ次の街に着いたら近場で訓練して上げるよ」
「ありがとうございます!」
「うんうん」
いい返事だね、やる気満々で私の方が疲れそうなくらいだね。
「お、もうすぐ街に着きそうだよ」
「アレが水の都キナティスモースですね」
今度私達が辿り着いたのは水の都、美しの都と名高いらしいキナティスモースだ。
名前がめっちゃ覚えにくい。
「ここで旅の疲れを取る為に数日泊まって、その間に必要なら訓練してあげるね」
「はい、お願いします!」
「うん……」
休憩する気あるかな、この子。妹分ながらに生真面目な子なのでちょっと心配だ。
「一応言っておくけど、ここに滞在するのは」
「旅の疲れを癒す休憩ですよね」
「う、うん、わかってるならいいんだけどね?」
うーん、本当に大丈夫かな。
「それじゃあまずは宿を探そうか。いい宿取りたいね」
「そうですね、宿の質に依って休憩の質も変わって来ると思います」
「うんうん」
そういうわけで私達は宿を探すことにした。
といっても流石に観光地というか、宿の数も多く、何処を選べばいいものか悩んだ私達は街の中心にある綺麗な湖がよく見えそうな位置にあるちょっと小高い丘の宿を借りることにした。
理由はズバリ、眺めがよさそうだから、だ。
「こんにちわー」
「はい、いらっしゃい」
「数日泊まりたいんですけど部屋はありますか?」
「えぇ、ありますよ」
「一拍いくらです?」
「50リーネですね」
「おぉ」
確かアルケの街の宿は一泊5リーネだった。そう考えると流石に観光地、お高い値段設定をしていらっしゃる。
「それじゃあ5日程お願いします」
「はい、それじゃあ250リーネですね」
これでも私が最初の頃門番に出した500リーネの半分だ。やすい物だ。
「レイナさん、良かったんですか? 結構高いお宿みたいですけれど」
「そう? 良心的だと思うけどなあ」
部屋から見る眺めはまさに絶景だった。
湖の青と空の青が一体になって素晴らしく美しい絵になって居る。
「うーん、これで50リーネなら安いよ」
「レイナさんの金銭感覚ってどうなってるんですか……」
え? 何かおかしかったかな……。
「そんなことよりさ、観光しない?」
「いえ、修行したいです」
「……アイシェここには」
「休憩できましたがまだ疲れてませんので」
「うぅ……妹分が真面目過ぎるよぅ」
仕方ない、ここまできたら付き合ってあげますか。
「それじゃあ町の外に出てやろうか」
「はい」
そう言って部屋を出ようとするアイシェの肩を掴んで私は止めた。
「ん? どうしたんですか?」
「歩くと時間掛かるから転移しようと思って」
「転移……?」
アイシェは疑問形だがとりあず私が何かするらしいと思ったのか立ち止まる。
「じゃ、今から転移魔法使うねーはいどーん」
「え、ちょっ?!」
私は言うだけ言って魔法を無詠唱で発動する。
すると私達は次の瞬間、広い草原に居た。
「ここは……もしかして?」
「あ、わかった?」
遠くにはお城とその城下町が見える。
そう、ここはアイシェとサロスを育成していた頃、よく気分転換と修行を兼ねて訪れていた草原だった。
「こんな……一瞬で」
「まあ魔法って便利だよね」
「こんな魔法普通使えませんよ……」
「そこはほら、ハイエルフですから」
まあ本当はハイエルフとか関係なく取得可能な魔法だけどね。
「それじゃあ始めようか」
「あ、はい!」
それから私とアイシェは日が沈むまで訓練を続けた。
久しぶりの訓練だけどアイシェは本当に強くなったなぁと思う。
この歳でこの強さだ。将来は世界一の剣豪かも知れないね。
「でもまだまだ甘いよ、速度もパワーも足りてない」
「くっ……これなら!」
そう言った瞬間、アイシェの速度が一気に上がった。
「わわっと、危ない危ない」
「くっぅ……コレでも届かない」
どうやら身体能力をするタイプのスキルか魔法を使ったようだ。
いや、これには本当に焦った。急に速度が上がるものだからうっかり反撃しそうになった。
「アイシェ凄いね、いつの間に?」
「レイナさんがエルフについての記述を読んでいる間に、身体能力向上の魔法について書かれた本を読んでみたんです」
「それで体得できちゃうとか天才か」
「レイナさんに言われたくないですよ……」
いやいや、私のこれはチート能力だけどアイシェのは間違いなく才能だ。
いやあ、恐ろしいものだね。こんな子を育てたのが私だと思うともっといい教師が居ればと思ってしまう。
「アイシェまた強くなったね。これからはちょっと本気だしちゃおっかな」
「やめてください……レイナさんの本気なんてちょっとでも死ねるので」
流石に魔法は使わないけど、ソードビットくらいなら一つ二つ使っても問題無さそうな気がする。
「次はこれで行くよー」
「ソードビット……ですか?」
「そそ」
これを相手にできるようならアイシェも相当の実力者だ。
何せチート装備だからね。
「行きます!」
「がんばー」
それから私達は夕暮れ時まで訓練して、夜になる前には宿に転移で戻った。
「本当にこんなに一瞬で移動できちゃうんですね」
「一度行った場所だけだけどね。基本的には秘密にしてね」
「はい、というか言っても誰も信じませんよ……」
まあ確かにそうかもしれない、この世界の常識なら転移魔法なんて夢のまた夢って奴かもね。
「それじゃあ夕食を頂きに行こうか」
「はい」
私達二人はその後、豪華な夕食に舌鼓を打ち、備え付けのお風呂にも入ってゆっくりしてから睡眠をとった。
そして翌日。
「今日こそ観光するよ!」
「はい、わかりました」
「およ?」
思ったよりアイシェは昨日みたいにがっついて来なかった。
「どうかしましたか?」
「いやあ、また訓練したがるかなあと思って」
「あぁ、いえ、訓練もいいですが私もその、レイナさんと観光したいので」
「そっかーそっかそっか!」
うんうん、嬉しい事言ってくれるね! うちの妹分は!
「それじゃあ観光にレッツゴー!」
「れっつごー?」
そっか、こういう横文字は通じないんだったね。
「さあいくぞ! って意味かなあ」
「ああ、そうですね、行きましょう!」
そんなこんなで私達は水の都を観光することにした。
「まずはやっぱり買い食いだよねー」
「レイナさん食べるの好きですよね」
「まあねー」
数年間とはいえ点滴と流動食だった生活の所為かやはり食べられることに対する感度はひとしおだ。
「ん、この串焼き美味しい」
「あ、私にも分けてください」
「じゃあアイシェの持ってるそれと交換ね」
「はい、いいですよ」
アイシェの持ってるフルーツ串刺しという斬新な物を頂く。
うん、美味しい果物に薄―く水あめが絡んでいて甘くておいしい。
「いやあ、こんなに楽しいのもやっぱり二人一緒だからだねー」
「そう言ってもらえるとお供している甲斐があります」
そうやって私達は楽しくお喋りしながらこの都の名所である湖まで向かった。
「湖ってボートとか出てたよね」
「はい。観光名所の最たるものですから。結構な収入源だとか」
「へ、へえ」
これからロマンチック? に湖観光という時にお金の話は若干無粋かも知れないと思ったけど、それもまたこの世界を知るってことなのかな。
「というかアイシェって結構物知りだよね」
「レイナさんが知らな過ぎる気もしますけど……王宮に居た時に勉強させてもらっていたので」
「そうだったんだ?」
へえ、それは知らなかった。独自に知識の大切さを知って学んでいたんだね。偉い。
私なんて二人の訓練が終わったらあとはのほほんと昼寝とかしてたなぁ……。
「頼りになる妹分が居て私は幸せだよ」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
などと話しながら進んで行くとついに湖に着いた。
「せっかくだからボート乗るよね?」
「そうですね、そうしましょう」
一人20リーネでボートに乗る私とアイシェ。もちろん一緒のボートだよ。
「さ、全力で漕ぐよ!」
「そんなことしたら湖が荒れるから止めてください!」
なんかアイシェに注意を受けてしまった。私の全力って言っても魔職だから大したこと無いと思うんだけどなぁ……。
「じゃあアイシェが漕いで」
「私ですか? いいですよ」
そう言ってアイシェがボートを漕ぎ出す。ボートは停泊場を離れて湖の上をすいすいと進む。
「いいねーなんかまったりしてて素敵な気分だよ」
「それは、良かったです」
アイシェは漕ぎながらなのでちょっと言葉に力が入ってる。
「大変? 変わろうか?」
「いえ、別にこれくらいは、大したこと無いです」
そういうアイシェは確かに大したこと無いと言った様子だ。まあ慣れないから力が余計に入っちゃってるのかもね。
「特にこの湖から見る街の景色がいいね、風光明媚っていうのかな」
「確かに、この景色は素敵ですね」
アイシェもボートを漕ぐ手を一旦止めて景色に見入っている。
はー、平和っていいなあ。
「これを守るためになら、魔王と戦ってもいいかも」
「レイナさんって本当に旅好きですね」
「そっかなあ」
旅が好きって言うより、生きるのが好きって感じがするけど。生きてるって実感できる生き方が好きだ。
「さてアイシェ、そんなわけだから戻って特訓でもしようか」
「え、本気だったんですか、意外です」
「そ?」
「えぇ。レイナさんだから『魔王討伐は勇者の仕事でしょ』って結局やらないものかと」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
その考えは今でも変わらないんだけど、いざって時の為に私達が動ける状態にはなっておいて損はない。
「さ、帰りは私が漕ぐよ!」
「お手柔らかにお願いします」
この後、帰りのボートで大量の水飛沫を上げながら帰ったのでアイシェとボート貸しのおじさんにたくさん怒られた。
後日、私とアイシェは話し合って休暇を切り上げてエルフの森に向かう事に決めた。
理由は魔王討伐の手助けをすると決めたからだ。
そのついでにエルフの里も確認したい。
「さ、行こうかアイシェ」
「はい、レイナさん」
私達は再びユニコに乗ると、旅に出る。
今度の目的地はここから北西にある森林地帯だ。
そこにエルフの里があり、恐らくその奥、大陸北方に魔王の城がある。
そこからの旅は駆け足だった。行く街々を通り過ぎ、少しでも早くエルフの住むであろう里に向かおうとした。
そして数日が経過する。
漸く目的の森林地帯に到達した。
「後はこの森からエルフを探すだけ……って言ってもねえ」
「はい、広すぎますからね、この森」
そう、広いのだ、それもすごーく。
一回飛行魔法で空を飛んでみたけど本当にかなり広範囲に森が広がっていて困った。
なんならエルフが住んでるなら開けた場所があるかなとか思ったけどそんなことも無く、余計に困った。
「どうします? レイナさん」
「まあ手がない訳じゃないけどね」
「そうなんですか?」
こういう時こそエルフの本領発揮だ。
「ちょっといいかな? エルフの里って知らない?」
「何してるんですかレイナさん。それ木ですよ」
「そうだよ?」
「?」
アイシェは何が何だかわからない様子だ。
「エルフは一部の動植物とお話しできるんだよ。知らなかった?」
「え、えぇ、知りませんでした。レイナさんがおかしくなったのかと思いました」
「胸に来る言葉だね……」
一言多いよアイシェ……。
まあそんなわけで手近な木に訊いてみたんだけど……。
「あ、知ってるみたい」
「本当ですか!」
これならエルフの里まで余裕だね。
「森の木々が案内してくれるみたい。いこっか」
「はい!」
そんなこんなで歩くこと十数分、遂に私達はエルフの里についてしまった。
そして囲まれてしまった。
「何者だ! どうやってこの場所を知った!!」
「えーっと、木々に訊いて来たんだけど?」
私はもしかしてエルフだと認識されていないのかと思って長めな髪に隠れた耳を出してみる。
「な、同族か……それもよく見ればすさまじい魔力量だ、も、もしやハイエルフ様でいらっしゃいますか?!」
「一応そうだけど」
「し、失礼しました!!」
この中で一番偉いのか、話していた男性が謝ると同時に膝をつくと他のエルフも同様にそうした。
「いやいや、気にしないで。人間と一緒だし気づかなくても仕方ないって」
「そうですね、エルフは人嫌いと聞いたことがありますから」
まあ私はアイシェのこと大好きだけどね。
普通のエルフは違うみたいだ。
「それで、この里で一番偉い人に会いたいんだけどいいかな?」
「は、それなら私という事になっております」
「あ、そうなんだ」
じゃあもう話は簡単だね。
「そのうちまたこの里に来てもいい? 外の世界で同族に会えるのって珍しいでしょ。たまにこうして仲間に会いたいなって」
「おぉ、エルフの王族たるお方がわたくし達を仲間とおっしゃってくださいますか……それに対し私達は弓を向けてしまいましたこと、深くお詫びいたします」
「あぁーうん、気にしない気にしない!」
その後、私達は王族とその妹分ということで大層豪勢な歓迎を受けた。
特に料理は絶品で、森で採れたのであろう果物やキノコを使ったモノが多かった。
「それで、魔王の事なんだけど」
「はい、私共で知っている事ならお答えいたします」
「復活はもうしてるのかな?」
「そのようですね、結界が破られたのが一ヵ月ほど前ですから。もう完全に回復したものかと」
「ん?」
結界? どういうこと?
「結界って何?」
「ご存じないのですか? いえ、そうですね。ハイエルフは神の域の存在とされるモノ。下々の事に意識が行かないのも無理は無いのでしょう」
「いやあ、そんなことはないけど……」
単純に異世界人だからってだけなんだけどね。
「それではお話しいたしましょう」
それから彼……カイルというエルフが語ってくれたのは魔王は死んだのではなく封印したということと、そのの結界に先代勇者と共に戦ったエルフが携わっている事。
そしてそれを管理する役目をこの里のエルフが担って居たということだ。
「死んで復活って言うんじゃないんだね。そっかあ」
「此度の勇者殿は魔王を倒し切れると良いのですが」
「うーん……」
聞いた感じその先代の勇者とサロスにはそんなに強さに差はない。きっと苦戦を強いられるし、再封印がやっとだろう。
もっと時間があればサロスの方が強くなったとは思うけどね。
「それで、このお話を聞かれたという事はレイナ様は魔王に興味をお持ちで?」
「うん? うーん、まあね」
とは言ってもやっぱり私は補助に回って真正面から戦うのはサロスに任せようとは思ってるけどね。
「それでは魔王討伐をお考えですか?」
「まあそうだね。平和じゃないと旅もロクにできないし」
色んな街を周って来たけど、まだまだ生き足りない世界だ。楽しむ前に魔王に台無しにされるわけにはいかない。
「旅ですか……」
「そ、どうかした?」
「いえ、そのような理由であの恐ろしき魔王と戦うとは、流石としか言えません」
「そ、そうかな」
流石に理由が阿保の子っぽかっただろうか。
ちょっと考えてみる……うん、少なくとも真っ当な理由ではないね。
「それでさ、勇者パーティが今どうしてるかとか知らない? 足並みを揃えたいんだけど」
「それでしたら先日勇者パーティがこの森を通って魔族領に入るのをエルフの偵察が目撃しております」
「おぉ」
なら丁度いいタイミングだね、今からでも追いかければ間に合いそうだ。
「それなら明日になったらここを経つよ、早く再開したいしね」
「おぉ、勇者パーティとはお知り合いでしたか」
「まあね」
その勇者を育てたのは私だし。
「それでは、今日はここでお開きにしましょうか」
「そうですね、歓迎ありがとう」
「いえいえ、ハイエルフのレイナ様を敬うのは当然の事ですから」
「あははは……」
まあ私、そこまで時長く生きてないけどね。小娘だけどね。
とまあそんなわけで、私達は歓迎の宴会を終わると、今晩の寝床に案内され、翌日までぐっすり眠った。
翌朝、寝坊した私をアイシェが揺り起こすところから朝が始まった。
「ふぁー。同種の里だと思うとゆっくり寝れちゃったね」
「レイナさんは今までも結構寝坊助だった気がしますけど……」
「そう?」
思い返してみる。そんなときもあったかもしれない。
「さ、それじゃあ魔族領、魔王の城向けて出発だよ」
「はい、覚悟はできています!」
私が居るとは言え勇者パーティと違ってこちらは二人だ。これまでと違って危険な旅になるだろう。その覚悟だろうね。
「じゃあいこっか」
私が軽く言うと、アイシェも頷き、召喚したユニコに乗る。
「それじゃあ皆、また来るね!」
「はい、エルフの里一同、レイナ様のご帰還をお待ちしております!」
「あ、あはははは」
ご帰還って。私帰って来ても直ぐ旅に出る気だったりするんだけどね。
「それじゃあかっ飛ばすよー!」
「はい!」
私はユニコに全力で森を突き進むように命令する。
鬱蒼とした森を素早く駆け抜けるユニコ。なんて快適なんだろうか。
「これなら一日もあれば森を抜けちゃうね」
「そうですね。そしたら魔族領ですけど」
そう考えると一泊するならまだ森の中の方が良いのかなあ。
「そしたら森の手前で一回泊まろうか」
「そうですね、魔族領に入る前に家に泊まるのが良いと思います」
魔族領に入ってからじゃ何があるかわからないもんね。
そういう訳で、私達は森を抜けきる前に一度家を造って宿泊することにした。
「何度見てもレイナさんの魔法は規格外のモノばかりです」
「そんなことないんだけどなぁ」
この家魔法だって低レベル取得の魔法だ。高レベルになると質が良くなるのは確かだけどね。
「やっぱり魔王には星を降らせるんですか?」
「え、急にどしたの?」
というかやっぱりって何かな。私が偉く物騒な人間に聞こえない?
「いえ、魔王討伐に参加を決意されたのなら、それが最善策だと思っただけです」
「あー。そっかぁ……うーんでも周りも巻き込んじゃうからね、もしサロス達が居たら困るでしょ」
「それはそうですが、サロス君ならアレを見たら逃げると思いますよ?」
「間に合わなかったら危ないでしょ……ダメダメ」
せめてサロス達が魔王城付近にいないと確定していたら使えなくもないけどさ。
「兎に角、星降りはまだ未確定だよ」
「そうですか」
なんか残念そうに見えるのは何かな。アイシェってもしかしてあの魔法好きなのかな?
「アイシェは星が降るのみたいの?」
「え。いえ、できれば恐ろしい魔法はみたくないです」
「そう?」
じゃあなんで残念そうに見えたのかな。気の所為かな。
「まあそんなことより、今日もお風呂入って寝よう。明日は早くに出るからね」
「はい」
そう言って私達はお風呂に入り、疲れを癒した後、寝床に着いた。
翌日。早朝。
「今日も元気だ絶好調! さあいくよ!」
「今日は朝から元気ですね」
「これから魔王攻略だからね、気合も入るよ」
そう言って私はアイシェと共に家を出ると家を崩し、元あったように戻してからユニコを召喚し移動を始める。
前日に手前まで来ていたこともあり魔族領には数分で入り、その荒廃した大地に何か悲しいものを感じた。
「エルフの住む森とのギャップが酷いなあこれは」
「明らかに毒沼もありますしね……気を付けて進みましょう」
私達はユニコの全速力で走るのを止めて注意を払いながら走ることにした。
「魔王城までってどのくらいあるか知ってる?」
「途中に要所になる砦があってそのすぐ近くだと聞いています」
「砦かあ」
じゃあまずはその砦を攻略するところからかな?
「降らさないでくださいね」
「しないよ!」
まったく、私をなんだと思っているのかな。……流星の魔女か。
そんなことを考えていると、ふと視界に見知った姿を見た気がした。
「あれ? あそこにいるのってサロスじゃない?」
「え? あ、本当ですね、他の方たちもいらっしゃいますね」
勇者パーティは誰一人欠けることなくここまで来られたようだ、安心したよ。
「サロスー! やっほー!」
「? 師匠?! それにアイシェも!」
「こんにちわ皆さん。ここで会えてよかったです」
「またこうして流星の魔女様とお会いできるとは思いませんでした」
「そ、そだね」
ソフィアさんが恭しい礼をする。こういう反応にはどう返していいか困るね。
「その魔女様が来たってことは、一緒に戦ってくれるのか?」
「えーっと」
誰だっけこの筋肉ムキムキな好男子は。えーっと名前名前。
「ズィナミさん、レイナさん共々参戦にまいりました」
「あ、そう、うん。そうなんだー」
「そうですか、師匠が居れば勝ったようなものですね!」
「いや、うーん」
まさかまた星を降らせるわけにもいかない気がする。私は空気の読める女だ。勇者の仕事を取ったりはしない。つもりだ。
「とりあえずこの先にある砦だけど、落としちゃっていい?」
「星をですか?」
「うん」
「まあ、大丈夫だと思います」
サロスがサッとソフィアさんに目を逸らす。
あ、そうか、ここは賢者さんの顔を立てないといけない場面かな……。
「私の事ならお気になさらないでください。流星の魔女様がご出陣となれば私のような賢しいだけの者では力不足ですので」
「ご、ごめんね、出番奪っちゃうみたいで」
悪いなとは思ってるんだけど、できるだけ早く魔王をやっつけて平和な世界を満喫したい私だ。
「それじゃあ砦まで一緒に行こうか」
「はい、師匠」
「はい、レイナさん」
サロスとアイシェ他のメンバーも同意してくれたので全員で砦を目指す。
そして道中いくばくかの魔物との戦闘を切り抜け漸く砦の見える丘まで辿り着いた。
「それじゃあぶっ放すね」
「こうして間近で見るのは初めてです」
「そうだな、あの時は城に残ってたから」
アイシェとサロスがお互いに意見を言い合う。うーん緊張する。
見られてると思うと緊張してしまう私だった。
「さ、いくよ! メテオ・フォール!!」
今回はそこまで広範囲を攻撃する必要は無いので落とす隕石は一つだ。だから魔力もそこまで込めてない。
そして、星が落ちる。
こちらまで届くほどの轟音と共に凄まじい地響きを引き起こす。
なんとも環境に悪い技だ。環境破壊魔法だね。
「凄いですっ……ここまで距離が離れていても振動を感じるなんて!」
「流石師匠の魔法ですね……!」
そんな風に二人が言う物だから他の人達も口々に褒め言葉を出してくるし、恥ずかしいったらない。
「もういいから、ほら後は魔王の城まで一直線だよ!」
「はい、師匠のおかげで万全の状態で戦いに望めそうです」
「そ、そう」
もう褒められすぎてキツくなってきたよ……。
「ところで魔王の城には星を落とさないのですか?」
「うっ」
賢者のソフィアさんから鋭いツッコミが来た。なんて答えよう。
「魔王は……勇者が倒すものでしょう。それに大規模な魔法で攻撃して城を破壊できても魔王の消滅が確認できなかったら安心できないでしょ?」
「なるほど、それもそうですね」
どうやらひとまず、これで納得してくれたようだ。ふぅ。
「それじゃあ行くぞ! 皆!!」
「おう!」
「ん」
「はい、勇者様」
「なんでレイナさんじゃなくてサロスが仕切ってるのよ」
「そこは私じゃなくていいんだよ……」
アイシェだけがちょっと文句ありと言った様子だったけどそんなこと言われて私をリーダーにでもされたら困る。何も知らない私に任せるほど愚かなことはない。
私は言われた通り、望まれる力を振るうだけでいい。
そこから先はあっけないものだった。
魔王の城に着くも警備兵や巡回の魔物を勇者パーティがなんなく倒して突き進んでいく。
私とアイシェは基本的にはそれを後ろから見たり、たまーにアイシェ補助していただけだった。
つまり私は何もしてない。
私、引率の先生みたいなものかもしれない。
「よし、遂に着いたぞ!」
「おぉ」
ついに魔王の城、その最奥。
魔王が待ち構えているであろう玉座への扉の前に立った。
「開けます、師匠」
「なんで私に言うかな?」
私何もしないつもりだよ、基本的には。
「いえ、師匠の準備は万全かと思いまして」
「まあ、大丈夫だよ」
いざとなればインベントリから幾らでもアイテムが出て来る。
旅の間に回復アイテムとかも買い込んであるから問題はない。
「行きます!」
サロスが言うと同時に扉を開ける。
するとそこには紅の髪を靡かせた美しい女性が居た。
「ふむ、そこもとが勇者か?」
「あぁ、俺が今代の勇者だ」
「ふむ……ふむ……」
あ、マズいなこれ。
今プロパティで覗いたけど魔王のレベルは80ある。その上魔王種とやらでステータスも軒並み高い。
対するサロス達はまだ70にも到達していなかった。
人数差もあるから行けるかもしれないけど、難しいかも知れない。
私の出番、あるかも。
「そちらのハイエルフの方が余程強そうじゃが」
「俺の師匠だ」
「ほほ、教師同伴とは今代の勇者はヘタレよな」
さっきから気になってるけど、魔王の喋り方変わってるね。
いや、今考える事じゃないのはわかってるんだけど。
「問答は無用だ。行くぞ魔王!」
「ふっ、こい小童!!」
そこから、戦闘が始まった。
サロスが剣を振り抜くとそれを魔王がふわりと躱す。
賢者が魔法を放てば魔王は不思議な魔法で魔法を掻き消す。
戦士が大剣を叩きつける様に振ればそれを片手で止めてサロスに投げる。
忍者が不意を打てばそれを知っていたかのように背後からの攻撃を避ける。
躱し、消し、止め、いなす。魔王にはどんな攻撃も届いていなかった。
別に勇者達の連携が悪いとかではない、単純にステータスに差があり過ぎる。
それに魔王が一対多の戦いに慣れているのもある、身のこなしに無駄がない。
これはそろそろ出番かなと思った時、アイシェが声を上げた。
「レイナさん、私も行ってきてよいでしょうか?」
「いいけど、危ないよ? 魔王まだ本気出してないし」
「はい、ですから加勢しようと思います」
「うーん」
できれば可愛い妹分には危ないことをさせたくない、とは言え気持ちはわかる。
なので了承した。
「いいよ、危なかったら私が何とかする」
「ふふっ、レイナさんって私に甘いですよね」
「そっかな」
そうだね、そんな気がする。昔からアイシェに甘かった気がするよ。
「行きます!」
アイシェが加わると一気に形成が傾いた、流石私の妹分。
さっきまでの戦いを冷静に観察して魔王がしたいことをさせない、嫌がることをする戦い方ができている。
戦いの基本はペースを握ってしまう事だ。その為には相手のしたいことはさせない。自分のしたいことを押し付けるのが効果的だ。
「チッ! 厄介なのがいたようじゃな」
「サロス、情けないわよ、レイナさんの弟子ならもっと魔王をよく観察するのよ」
「はぁはぁ……すまない、助かった」
あの二人なら連携もバッチリ取れるし大丈夫だとは思うけど、本題はここからだ。
防御に回っていた魔王がこの辺りから攻撃を仕掛けて来てもよさそうな気がする。
「そろそろ本気で行くかの」
「っ! 来るぞ!!」
ほらね、アイシェが加わって余裕が無くなった魔王がついに本気で戦ってくれるらしい。さて、皆はどう出るかな?
賢者さんはさっきまでより長い詠唱の最上位魔法を行使しようとしている。
そして戦士と忍者、勇者にアイシェでその時間を稼ぐと言った具合になった。
悪くない手だけどさて、魔法が通用すればいいんだけどね。
「行きます!! ケラヴノス!!」
「ふんっ、イデア・ケラヴノス!!」
「えっ」
今魔王、イデア魔法使わなかった? あれってMOAではハイエルフ限定魔法なんだけど。
もしかして魔王がハイエルフなんてことないよね……?
あれも魔王種とやらの特徴なのかもしれないね。
っと、そんなことよりソフィアさんを助けないとね。
「イデア・ケラヴノス!!」
「何?!」
今度は魔王が私の参戦に驚いたようで、声を上げる。
といっても魔法と魔法の衝突に負けて危うくイデア魔法が直撃しそうだったソフィアさんを庇っただけなんだけどね。
「ほう、お主ただのエルフでは無いようだな」
「まあ、ハイエルフだね」
「まさかまさか、我が全盛期の時にきた勇者はエルフを連れた者であったが、此度はハイエルフとな。なるほど、此度こそは封印ではなく討伐を目的としているというわけだ」
「いや別に、私としては悪さしないならどっちでもいいよ」
「何?」
「悪さしないなら見逃してあげるって言ってるの」
私としては平和に暮らせるなら魔王の命はどうでもいい、むしろ殺しはあんまり好きじゃない。
だから降参してくれると良いんだけど……。
「ふっ、我に降参しろというか、面白い。それ程の自信何処から来るか見せてもらおうか!」
「なんでそうなるかなあ」
言うや否や魔王が私目掛けて飛びかかって来るのでこちらは距離を取りつつ魔法を使う。
「イデア・ヒオノシエラ!」
「イデア・フローガ!」
私の氷魔法に魔王は炎の魔法を被せて来る。厄介だなぁ、炎属性はエルフ全体が苦手とする魔法だ。それは使用するのも、されるのもだ。
あれを喰らったらいくら私でもダメージを受けるだろう。痛いのは嫌だな……。
とはいえ同じ最強系魔法、イデアでもレベル100の魔力特化ハイエルフとレベル80の魔王種が使う魔法の威力が拮抗する訳もなく、私の魔法が数段上を行った。
「くぅ?! 我が押し負けるだと!」
「だから降参しなって!」
「ならば近接戦ならどうだ!」
「あぁもう!」
より距離を詰めるべく速度を上げる魔王に屋内の限られたスペースを上手く利用しながらも距離を取る私、それでも結局は追い詰められるんだけどね。
なのでその間に……魔王の視線が一瞬玉座の間の柱で切れた瞬間にソードビットを展開して魔王に放つ。
「くっ何だこれは! ぐぬぅ!!」
「ほら、そろそろ降参したら?」
「な、にを!」
流石の魔王も私のソードビット9本を同時に相手どるのは困難なようで、次第に追い詰められていく。
「我は、我は降参なぞせぬぞ!! うぉおおおおおおおお!!」
そう言うと魔王は一気に魔力を開放したのか、一時的にとんでもないステータスに跳ね上がった。
うわあ、冗談キツイ、私の三倍の魔力はある。
「永劫回帰の髪飾り、オン!」
ならばとこちらも髪飾りの力を開放して魔力とMPを3倍にする。
「何?! そこまでの力を隠し持っていたか! だがしかし! これは止められまい!」
そういうと彼女は見た事のある魔法陣を描き出した。
あ、アレはヤバイ、使わせちゃ駄目な奴だ。
「イデア・アポトーシス!!」
「転移!!」
私は魔王と共に以前オークの群れに星を落とした地に転移し、魔王の魔法を空振りさせることに成功した。
とは言えこっちも相当痛い目見たけどね……魔力を上げてたから耐性も出来て何とか生きてるけど体中痛くてたまらない。
「ぐぅっ……転移魔法か……勇者達を救う為に我の魔法をその身一人で受けようとはな……」
「まあ、これでも一応先生だからね、生徒は守らないと」
魔王の使った魔法は自爆魔法だった。
己の全てのMPと9割のHPを引き換えに放たれる強烈な魔法。
それをあの場の全員を巻き込むつもりで使おうとしたのを転移で止めたという訳だ。
「ではどうする、また転移して勇者たちに今度こそ我を倒させるか?」
「いや、もうあなたが降参しないのはわかったよ。だから、だったら私がやる」
これ以上あの子達を危険な目に合わせることも無い。とは言え、流石に魔王にこれ以上隠し玉があるとも思えないけど。
「ふっ、では最後の悪あがきといこうか!」
「っ!」
魔王は最後の悪あがきと言いながらいつの間にか手にしていた回復アイテムでHPとMPを半分も回復していた。
「行くぞハイエルフ!! メテオ!!!」
「っ。メテオ・フォール!!」
魔王が隕石を一つ降らせる魔法を使うなら、こっちは数を撃つ。
全魔力、MPを集中して隕石を落とす。
この日、流星群と共に王都北の平地は大きなクレーターの数々へと変わった。
後に『星を見た日』とされる神話級の戦いの終わりであった。
「はぁっ、はぁっ……」
まさか魔王がこんなに強いとは思わなかった。
チート装備ありきじゃなかったら厳しかったかもしれない。
「まあでも勝ったし……これで……一安……心……」
流石にこちらもMPを全力で注ぎこんだので体がだるい。
こんな感覚になったのは初めてだが、酔っている感覚ってこんな感じかも知れない。二度となりたくないね……。
「さて……MPを回復してっと」
インベントリから買い込んでおいたポーションを取り出してMPを回復する。
今更ながら初めてのんだけど栄養ドリンクみたいな味だ。あんまりおいしくはない。
「さて、転移で迎えに行きますか」
私はそう一人ごちると転移を発動する。
そしてみんなの前に戻ると……凄く心配された。
「どうして一人で魔王と行ってしまったんですか!」
「そうです! 俺達の事、頼ってください!」
「一人で戦うなんて無謀」
「あー、嬢ちゃんが強いのは知ってるがいくらなんでもアレはないぞ?」
「流星の魔女様なら勝てると信じてはいましたが、まさか一対一に持ち込むとは……」
「うん、うん。ごめんね」
皆が心配して言ってくれているのが分かって少し、いや、かなり喜んでいる自分が居る。
自分を心配してくれる人がいるって言うのはありがたいね。
「さて、魔王は倒したし帰ろっか」
「倒したんですか? こんな短時間で?」
「まあ、ね」
まさか魔王が自爆技で体力削ってたからすぐ終わりましたとか、まして星を全力で降らせたとか言えない。言ったら怒られる。
「そうですか……それじゃあ、帰りましょう」
「うん、そういうわけで、皆、転移するから集まって」
こうして私達と魔王の戦いは終わった。
そして、数日、数年の月日が経つ。
あれからアイシェとサロスは見事にくっ付いた。サロスの方からちゃんとプロポーズがあったらしい。最初にそれを相談された時は驚いたけど、気持ちに真剣に向き合ってあげてと返したら、アイシェは故郷に帰るという条件と共にサロスと一緒の道を選んだようだ。
他のメンバーはというと忍者の子は里に戻って英雄の一人として教鞭を振るっているらしいというのを噂で聞いた。
戦士の人は王国の騎士団長を任されて日々忙しく働いているらしい。
そして賢者さんは私に弟子入りを申し込んできたがこれは却下した。理由は色々あるが教えられることが無さそうと言うのが本音だ。
そんな感じに、皆が皆、各々の生活得て、その生活の中で生きていく。
私もまた、一人ぶらりと旅をする流浪の民となって居たが、時には王都に寄ったり、アルケの街でアイシェ達の様子を見に行ったりもした。
そして十年、二十年…………月日は流れていく。
それに合わせるように生活は変わる。
特に変わったのは私の生活で、サロスとアイシェの子供の教師を頼まれたことかもしれない。
私も一人度に少し飽きて来たのでちょうどいいとそれを引き受けて数年時間を共にした。
そして三十年、四十年と過ぎるとさらに生活が変わる。
アイシェ達の子供も二人いたがどちらも成人し、各々の道を歩き始める。
アイシェとサロスは流石に歳なのもあって冒険者家業は引退して畑仕事で生きていく道を選んだようだ。まああの二人には英雄として莫大な褒賞金が出ていたから生活に困ってるわけでもないのでそこまでして働く必要は無いとは思うんだけど。一種の楽しみなのだろう。
そして五十年……七十年と過ぎて、漸く、いや、ついにその時が来てしまった。
「アイシェ、苦しくない?」
「はい、レイナさん、大丈夫です」
「そう……」
アイシェはもう87歳だった。サロスもまた歳であることもあり、昨年息を引き取った。
「私の人生は、レイナさんに出会えたことで、とても充実したものになりました」
「そう? ホントにそうだったら嬉しいな」
「えぇ、本当に……」
わかってる、アイシェは嘘を言ってない、本心からそう思ってくれてること。
「ありがとう、レイナさん、今まで本当に、お世話に、なりました……」
「うん、どういたしまして」
私が笑いかけると、アイシェもまたほほ笑む。
そして。
「レイナさん……貴女はどうか……最後まで……自由……で…………」
「アイシェ……」
彼女もまた、この世を去った。
私一人が、彼女の傍に立つ。
私はその日、彼女を埋葬し、供養すると、また旅に出た。
悲しい、苦しい、辛い。
いつか来ると分かっていた別れ、そして、その別れまでの時を共にできない自分――ハイエルフ――という種族の宿命。
「凄く悲しいハズなのに、涙一つでないんだ」
これもハイエルフになったから感性が狂っているのだろうか。
別れがつらいハズなのに、それに対する涙の一つもない。
「それともずっとわかってたからかな」
いつかはこの日が来てしまうと、だから私は同族を探していた。
いつかもし、別れの日が来たら、そんな悲しみのないであろう同族を頼ろうと。
でも……。
「最後まで自由で、か」
アイシェの言葉を思い出す。私はまだ、この世界を知り尽くしていない。
旅をしつくしていない。
なら、することは決まっているのではないだろうか。
同族の元に泣きつくより前に、することが。
「そうだ、旅をしよう」
その中でまた、大切なものが出来るかも知れない。出来ないかもしれない。
でも、それでもいい、それでも私は旅をしよう。
「この世界を無限に遊びつくしてやる」
そう決意し、私はアルケの街を後にした。
そして、ふと思う。
「もし次に生まれ変わることがあるなら……」
あの日、異世界に転生して、もう数十年。
今になって思う事。
「あの時はハイエルフって言っちゃったけど」
悔やんでも悔やみきれない後悔。
「私は、人間になりたかった、かな」
これが私のこの世界での最初で最後の後悔。
あなたは、生まれ変わったら何になりたいですか?
ご読了ありがとうございました!
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