窓の向こう
タダシの家には開かずの部屋がある。
そこには一つの窓があるのだが、その窓の先が分からない。
タダシはそれがどうしても気になっていた。。。
タダシは今年で10歳になった、小学校4年生だ。
学校から家に帰ってきたときだけでなく、休みの日で家に居る時、また、平日の朝でもトイレの中でふと考えてしまう、あの部屋のことを。
タダシの家は、いわゆる、一軒家だ。
そして、一か所、物置としてすら使われていない部屋がある。
その部屋がなぜ使われていないのか分からない。
親には何度もその部屋のことを聞こうとしたのだけれども、いつもタイミング悪く聞きそびれてしまう。別に何かある訳ではない。たまたまだ。そして、聞くタイミングを失くしてしまっていた。
そもそも、開かずの部屋なのに、窓があるのを、なぜタダシは知っているのか?
そのこと自体も、タダシはあやふやになってきている。
幼いころに、いう事を聞かなかった罰で閉じ込められたことがある気がするし、もしかしたら部屋のことを考えすぎていたせいなのか、夢で部屋に入っては窓があると思い込んでしまってるだけかもしれないし。
いずれにせよ、ハッキリを覚えていない。
それでも、その部屋には小さい窓があり、その向こう側の景色がおかしいというか、どうしてもその窓の外が自分のいる世界とは違う世界のように見えてならないのだ。
いや、正確には、その窓を見たかどうかもあやふやな時点で、そう思っているだけなのかもしれない。
「タダシー、留守番お願いねー。」
母の声がする。
今日は短縮授業で早く学校は終わった。
お昼ご飯も家で食べたのだが、母はこれから買い物に行くらしい。
自分は学校の宿題があるのだが・・・。
タダシは心に決めていた。
今日、決行しなければ、と。
あの部屋への侵入を。
母が家を出たのを確認すると、一気に準備を始める。
椅子、トンカチ、くぎ抜き、ペンチ。
自分でも、なんでそんなものを集めてきたのか、よくわからない。
でも、あれは開かずの部屋なのだ。
何かあってからでは遅い。
玄関とトイレの間にある、ドア。
ドアの先には開かずの部屋がある。
そのドアの前に立って、深呼吸をする。
大丈夫だ、何があっても、対応できるさ。
さあ、ドアノブをつかもうとしたのだが、ドアノブが見当たらない。
おかしい。今まで何度も見かけたはずのドアノブが。
とりあえず、ドアを押してみる。肩から体重を掛けて押してみても、びくりともしない。ドアなら鉤が掛かっていても、少しの隙間(遊びというか、押したら少しはガタガタと動くマージン)が全くないように感じる。
なぜだ?
くぎ抜きの細長い部分をドアと壁の隙間に入れようとするが、隙間には入らない。床とドアの間もだ。
なんで?
もう嫌になってしまって、ドアを思いっきり蹴飛ばす。
ガタン、とドアが揺れる音がした。
さっき体重を掛けても何も揺れなかったのに。
「なんだよー」
もう一度ドアを蹴飛ばす。
また、ガタン、と一回音がした。
「一体、何をやっとるんだ?」
どこからか声がした気がした。
思い違いなのか、それとも本当に何か聞こえたのか?と薄気味悪くなりながらも振り返るが、なにもない。
「こっちじゃ」
声は頭の上からした気がした。
見上げると、そこには何もなかった。
そして、それから後悔した。もし、何かあったら、という事を見上げる前に考えるべきだったのではないか、と。そうでなきゃ、見てはいけないものを見たかもしれないなんて、あとから思う。結果としては何も見ていないからいいのだけれど。
それにしても、さっきの声は聞こえた気がしたんだけどな、、、と不思議に感じる。
開かずの部屋とは廊下を挟んで反対のところにある小窓から外の光が射していた。
椅子に上って、窓の外を見てみる。
あれ、この向きって、窓の先は台所じゃなかったっけ?
そんなことを考えたのは、もう、椅子の上に立って窓の向こうを見た後だった。
窓の向こうには、家の中の風景が映っていた。
小学生の少年がドアに向かって肩からタックルをしたかと思うと、何やらドアの横や下に差し込もうとして、そのあと、ドアを蹴っ飛ばしている・・・。
もしかしてこれって・・・。
って思ったところで、窓が自分に迫ってきている気がした。窓との距離がどんどん縮まれる。
椅子から慌てて降りて、足元のトンカチを手にする。
窓がガバット開いて、その向こうに吸い込まれそうになる刹那。
「!!!」
タダシがトンカチを振るうと、音にならないような音がした気がした。
思わず目をつぶったままトンカチを振るっていたようだ。
ゆっくりと目を開けると、そこには何もなく、いつも通りの廊下だった。
椅子と、トンカチとくぎ抜き、ペンチがそばにあるだけ。
ただ一点、正しの記憶と異なる点は、玄関のすぐ横がトイレだというところ。
母と父が帰ってきてから聞いてみても、二人とも、昔から玄関のすぐ横にトイレが合って、その間には部屋など無い、というのだ。父が家を新築で家を建てたので、設計時点から関わっていて、間違いはなさそうだ。
だったら、自分が今まで感じてきたこと、今日あった出来事は一体何だったのか?
その謎は解決することはなかったが、それ以降タダシがその部屋のことを考えることはほとんどなく、忘れていってしまった。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
つまらなかったところは、どこがどうつまらないか、教えて頂けると助かります。
別の作品もどうぞよろしくお願いいたします。