悪役令嬢の縦ロールは荷電粒子砲でした
「アリアフィーア=フィッチラリア公爵令嬢、貴様との婚約を破棄させてもらう!!」
それは学園主催のパーティーでのことだった。騎士団長の息子や宰相の息子など国家中枢に位置する権力者の子息さえも出席する中、第一王子は高らかとそう宣言したのだ。
第一王子の婚約者であるアリアフィーア=フィッチラリアはあまりにも突然のことに一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「婚約、破棄……? ご自身が何をおっしゃっているのか理解しているのですか殿下!?」
「当たり前だろうが!! 我が婚約者でありながら悪逆に手を染めた貴様を切り捨てるのは当然のことと知れ!!」
毎日メイドが巻いてくれる左右に四本ずつ、計八本もの金の縦ロールが特徴的なフィッチラリア公爵家が令嬢と第一王子を中心として先ほどまで賑やかだったパーティー会場は不穏な静寂に包まれていた。
思わずいつだって背後に控えてくれているメイドに視線を向けようとしたアリアフィーアの肩を第一王子は掴み、強引に自分のほうへと顔を向けさせる。
「貴様がシーファ=ローズ男爵令嬢に対して数々の嫌がらせを行ってきたことはとうに判明しているのだっ!! せめて潔く己の罪を認めるがいい!!」
「な、にを……? 殿下、それは誤解ですっ」
元は平民ながらに男爵家に養子として迎えられたシーファ=ローズ男爵令嬢は学園では少々浮いた存在だった。
良く言えば天真爛漫、悪く言えば礼儀知らず、それがシーファ=ローズ男爵令嬢の評価である。愛らしい外見は男心をくすぐるのもあって、すでに婚約者のいる令息たちが『貴族社会では珍しい』彼女に惹かれてしまったのも令嬢たちの印象を悪くしたのだろう。
嫌がらせは、確かにあった。
だが、アリアフィーア自身は関与していないし、逆にそんなことはやめるようにと影で諫めていたほどだ。
ブラッディクロス公爵令嬢などの『別勢力』が嫌がらせに関与している疑いがあったために下手に対立を深めないようにとあまり表立って動くことはできなかったが、だからといってこのような仕打ちを受けるいわれはない。
「誤解? そんなものあるわけないだろう。いいや、あったとしても結末は変わらない」
ぞわり、とアリアフィーアの背筋に悪寒が走る。
正面、肩を掴み彼女を見据える第一王子の表情が嘲るように歪んでいく。
小さく。
アリアフィーア=フィッチラリア公爵令嬢の耳元に顔を寄せて、彼女にだけ聞こえるような声でこう囁いたのだ。
「心配はいらない。きちんと貴様が嫌がらせを行っていたという証拠はブラッディクロス公爵令嬢と共に捏造しているからなあ」
悪意が。
アリアフィーアの身体を雁字搦めとする。
「フィッチラリア公爵家は発展しすぎた。王家さえも脅かしかねないほどにな。だから取り入る、と父上は考えたようだが情けないにも程がある。ならば滅ぼす、くらいやらないと王者とは言えないだろう?」
『今』己の無実を訴えないといけないのに、『今』この瞬間こそがアリアフィーアの命運を決するというのに、痺れたように口は震えるだけで声の一つもあげられなかった。
「ここからだ。父上はそのうち病でくたばるし、争いは好まないなどと甘ったれたことばかり言っていた母上は『排除』した。後は我が王位を脅かしねないほどに成長したフィッチラリア公爵家を『攻撃』するために貴様を徹底的に陥れてくれる。万が一にも我が覇道の邪魔になりかねない要素はそのことごとくを滅ぼしてやるよ」
あくまで政略的であり、形式上の付き合いしかなかったとはいえ婚約者であったアリアフィーアを冤罪で陥れることに罪悪感どころか喜びさえ見出しているその笑みに怖気が走る。
シーファ=ローズ男爵令嬢は何が何だかわからないといった風におろおろとしていた。おそらく利用されているだけで、今回の件に関与はしていないのだろう。第一王子の囁きも聞こえていないだろうから、単にいきなりの展開についていけていないようだ。
ブラッディクロス公爵令嬢は遠巻きにこちらを見やり、くすくすと引き裂くような笑みを広げていた。口の動きだけで、アリアフィーアへと悪意を放つ。『貴女がいなくなった後、殿下は私様と婚約してくれることになっているのですわ』、と。そのおぞましい悪意だけで、何に巻き込まれたのか察することができた。
学園主催のパーティーということで参加しているフィッチラリア公爵家の関係者はアリアフィーアとそのメイドだけ、という時点ですでに包囲網は完成していたのだろう。『公爵家の力』が及ばない閉鎖空間で全てを決するつもりなのだ。
「だから、さ」
どんっと第一王子に突き飛ばされたアリアフィーアが床に転がる。そんな彼女を、婚約者であった男はにたにたと嘲笑っていた。
はじめこそ『取り繕っていた』くせに、最後まで我慢できなかった男は喜び勇んで拳を振り上げる。
「守るべき民を傷つけた悪女は我が手で裁いてくれようぞお!!」
拳を振り下ろし、アリアフィーアの顔を打ち抜こうとする。第一王子の企みを考えれば痛めつける必要はどこにもなく、だからこれは単なる『趣味』でしかなかった。綺麗であればあるだけ壊したい。そんな歪んだ欲望を満たすためでしかなかった。
だから。
だから。
だから。
ジュッッッドォン!!!! と。
拳がアリアフィーアを捉えるその前に放たれた閃光が第一王子の腹部に突き刺さり、勢いよく吹き飛んだ彼はそのままパーティー会場の壁に叩きつけられた。
「ばっぶうー!?」
それは見事な吹き飛びようだった。
しばらく誰も何も言えないほどに。
「え、え? 今の、えっと、今のわたくしの、ええーっ!?」
何が起きたのか、事実だけなら説明できる。何せアリアフィーアの身体が始点となっていたのだから。
縦ロールが勝手に動いた。八本ある内の一本。右の第一縦ロールの先端が王子に照準を合わせたと共に閃光を放ったのだ。
なんだそれは、であった。
事実こそ認識できていても、受け入れることは到底不可能だった。
そこで。
悪意に満ちた空気をサラッと吹き飛ばす、それはもうあっけらかんとした声が響いた。
「いやあ、良かった良かった。自動迎撃が動作不良起こしちゃったのかと思ったよー」
ゆっくりと振り返ったアリアフィーアは驚いてはいても『やっぱり』とどこか納得もしていた。
未だ状況は理解できない。
だが、こんなわけのわからない状況を生み出すのは彼女以外に存在しないのだから。
「シリアっ、やっぱり貴女ですかぁっ!!」
「はい、やっぱり私だよね☆」
いつだって、そう、幼い頃からずっと一緒のメイドはそれはもう清々しい笑顔でそう答えたのだった
ーーー☆ーーー
『おっ、お嬢様はっけーんっと』
それはよく公爵家のメイドとして雇ってもらえていると不思議になる女だった。
豪勢な金の縦ロールのアリアフィーアと違い、黒髪の彼女は見た目こそ印象に残らない控えめな容姿をしていた。
十年以上前のその日だって、家庭教師の授業が厳しくて逃げ出したアリアフィーアを見つけたシリアは馴れ馴れしく頭を撫でてそんな風に声をかけたものだった。
『うっ、ぐすっ。シリアぁっ』
『はいはいシリアだよー。で、なんで泣いてるんかなー?』
『毎日、お勉強やダンスやマナーを学んでばっかり。特に魔法ができるようにならないからとできるようになるまでおやつ抜きだってっ』
『ああ、お嬢様はアホみたいに多くの魔力を宿しているからその分操作が難しいっぽいもんねー。才能がありすぎるのも困りもの的な? ……しっかしおやつ抜きって公爵家だってのにお仕置きが庶民感覚だよねー』
『もうやだ、こんな生活やだよ、シリアぁっ!!』
『そっか。それじゃあちょっくら家出でもしちゃおっか』
『え?』
『公爵家から出れば貴族としてふさわしくーってためだけのアレコレに縛られることもないしね。というわけでしゅっぱーつ!!』
『え、ええ、えええーっ!?』
そうやって公爵家の令嬢を文字通り『誘拐』、迫る公爵家の私兵をコテンパンにやっつけて、最後には『やっぱりおうちにかえりたい』というアリアフィーアの訴えに『それじゃあ帰りましょうかっ』と気軽に答えて『誘拐』事件は幕を閉じたという。
そんな騒動以外にもペットが欲しいとねだったアリアフィーアのために軍勢さえも殲滅した伝説が残っている魔獣フェンリルを飼い慣らしたり、転んで膝を擦り剥いたアリアフィーアのために未だ未攻略であった七つの高難度ダンジョンを攻略してどんな傷でも治す万能薬を発見、お屋敷をダース単位で買えるほどに価値のあるそれを擦り傷を治すために使い切ったり、アリアフィーアのお尻を撫で回してニヤニヤしていた隣国の王子をぶん殴って外交問題に発展しかけたり(その時は公爵家が隣国と交渉して王子の恥を広めない代わりに穏便に済ませてくれるよう秘密裏に場を収めた)、それはもう問題行動の塊であった。
いつだってそのメイドはやることなすこと無茶の塊だった。そんな彼女を辞めさせるべきという話は何度も出たものだが、アリアフィーアは何度だって止めたものだった。
『お嬢様も物好きだよねー。私のような奴、さっさとクビにすればいいのに』
『貴女のような人を野放しにしたら何をやらかすかわかったものではありませんからねっ。貴族としてきちんと管理するべきだと思ったに過ぎませんっ』
『そっかー。まあ私は大好きなお嬢様と一緒にいられるならなんだっていいんだけど』
『ぶっ!? だっだいっ大好き!?』
『あっはっはっ。私ってば飽き性だからねー。メイド服って可愛いなーってことでメイドになってみたけど、どうせすぐに飽きてやめると思ってたらまさか主人に心奪われて離れられなくなるなんてびっくりだよねー』
『う、うう』
『で、お嬢様はー?』
『わっわたくしですか!?』
『そうそう。私の想いが不快だっていうなら今すぐにでも出ていくけど』
『ばかですね。不快なわけありませんよ』
『それじゃあ、好きなんだねー?』
『うっ、ううっ。そ、それは……!』
『好きじゃないなら出ていこっかなー?』
『このばか味をしめています!? ああもう好きです、好きですよ悪いですかばーか!!』
『悪いわけないじゃん。すっごく嬉しいよ、お嬢様』
『……、ばか』
いつだって彼女は突拍子もなく、想像の埒外のことばかりやらかして、アリアフィーアの心をかき乱してきた。
好きだと、そう言っておきながらメイドの態度はいつもと変わることはなかった。アリアフィーアと第一王子の婚約が決まったとしても。
『何か、言うことはないんですか?』
『ん? ああ、婚約おめでとうございます、お嬢様』
『そうではありませんっ。いいんですか? わたくしが貴女以外の人と結婚しても!!』
『いいもなにも、ねー』
『……ッ!! あの言葉は、嘘だったんですか? あの時みたいに、わたくしを「誘拐」してくれないんですか!?』
『お嬢様。私だってやっていいことと悪いことの区別はつくって。今はまだその時じゃ──』
『馬鹿、馬鹿馬鹿っ!! いつもは無茶ばかりやるのに、こんな時ばかり常識人ぶって!! 本当は、わたくしだってわかっています。やっていいことと悪いことがあるくらい。この想いがフィッチラリア公爵家の不利益となるものだということくらいわかっているんですっ!! それでも、貴女だけは……シリアの、馬鹿』
そして。
そして。
そして。
ーーー☆ーーー
毎日アリアフィーアの縦ロールを巻いているそのメイドはそれはもう清々しい笑顔だった。
「それよりお嬢様大丈夫? 怪我してない?」
「え、ええ、大丈夫です」
「それはよかった。それじゃあ帰ろっか」
「軽い、軽いですっ。今の見ましたよね? 凄い光が第一王子を吹き飛ばしたんですが、もしかして殺っ殺してっ」
「それなら大丈夫。自動迎撃の初期設定は非殺傷にしているから、生物は殺さないよう調整している……はずだよ」
「はず!? はずってなんですか!?」
「大丈夫大丈夫っ。ぶっつけ本番だけど、理論上は死なないはずだから」
「不安しかないんですけど!?」
「まあ最悪殺しちゃっていてもいいんじゃない? あんな奴だし」
「シリアのばかっ。どんな人でも殺すのは駄目ですっ」
「あっはっはっ!! お嬢様は優しいなぁ。まあ終わったこと気にしても仕方ないし、生きていることを期待して帰ろうよ」
「やっぱり全体的に軽いんですってっ。大体、この、縦ロールっ。シリア、わたくしの縦ロールに何をしたんですか!?」
「んーっと。いやまあ詳しく説明してもいいけど、長くなるよ? 女の髪には魔が宿るというのはつまり魔力伝導率が高いってこと、魔力を「加速」させても消滅しないだけの濃密な魔力が必要、縦ロールという「砲」に複数の魔法陣を刻むことで魔力粒子の高速射出を可能としていること、その他にも色々あるけど小難しい理論とかは抜きにして結論だけ言っちゃおうか!!」
そこで『貴様ぁっ! この俺に手を出したらどうなるかわかっているのかあ!!』などと叫びながら立ち上がった第一王子へと──
「お嬢様の縦ロール、荷電粒子砲に改造しちゃったっ☆」
ジュッッッドォン!!!! と再度の轟音。今度は縦ロール一本分、なんてケチなことは言わなかった。八本の縦ロールが狙いを定めて閃光を射出、正確に八の軌跡が第一王子を襲ったのだ。
「ばぶべぶばっぶうーっ!?」
「あっはっはっ。気持ちいいくらい決まったねー。もう起きないでよねー」
「いや決まったねー、じゃなくて! いくら何でも王族に危害を加えては後で大変なことに、それにっ縦ロールっ、荷電粒子砲ってなんなんですかーっ!?」
一通り非殺傷(?)荷電粒子砲を受けて悶える王子を堪能したメイドはにっこりと良い笑顔で主人の問いにこう答えた。
「んー。浪漫、かな」
と、そこで。
ガシャガシャガシャン!! と髪の毛にしては金属的な音を響かせて、勝手に動き出す縦ロール。頭から響く異様な音にアリアフィーアはびくびくと背筋を震わせていたのだが、縦ロールの先の女はより深く怯えていた。
すなわち、ブラッディクロス公爵令嬢。
第一王子をフルボッコにした閃光を放つ縦ロールを向けられ、彼女は『ひぃっ』と悲鳴をあげて両手をあげる。
「おっ、流石は縦ロールっ。悪意には敏感だねー」
「な、なにっ、なにを!?」
「遠隔操作に切り替えてっと。ねえブラッディクロス公爵令嬢さーん。荷電粒子砲ってさ、やろうと思えばこんなこともできるんだよねー」
瞬間、射出。
八本もの軌跡がブラッディクロス公爵令嬢を取り囲むように突き抜けて──そのまま背後の壁に大穴をあけたのだ。
先程と違い、明確に『殺すことができる』威力でもって。
ボロボロと涙を浮かべたブラッディクロス公爵令嬢が尻餅をつく。完全に怯えている彼女へとメイドはこう告げたのだった。
「死にたくなかったら腹に抱えているもの、ぜーんぶ吐き出すことね。少しでも隠したら荷電粒子砲で木っ端微塵だから」
「はっはなっ、話しますわあ!! でしゅっ、ですから殺さないでくださぁい!!」
ーーー☆ーーー
よっぽど怖かったのだろう。ブラッディクロス公爵令嬢は素直に白状した。
次期王妃の座を条件に第一王子と手を組んでいたこと、彼女が裏で手を回して行ってきたシーファ=ローズ男爵令嬢への嫌がらせの罪をアリアフィーアにかぶせるために工作をしたこと、その他にもフィッチラリア公爵家を潰すために第一王子に協力していたこと。
そうして彼女がボロボロと泣きながら告白している中、ゆらりと立ち上がる影が一つあった。
「……ふざけ、るなよ」
第一王子。
その男は何事かと集まってきた護衛の騎士たちへと命令を下す。
「アリアフィーアっ。これはれっきとした反逆罪である!! 騎士ども、王族に手を出した不届き者を始末しろお!!」
「あっはっはっ!! ……お嬢様、今のだけ聞いたら普通に正論だねっ」
「笑い事じゃないんですよっ。これからどうするんですかぁっ!!」
「うーん。とりあえず強行突破かなっ。お嬢様、ド派手に暴れちゃおーう!!」
「ええっ!?」
手を取り、駆け出す。
目の前に騎士の群れが殺到していてもお構いなしに。
ジュドジュドォジュッッッドォン!!!! と八本の縦ロールが忙しなく動き、超高速の魔力粒子を射出、オレンジの閃光が騎士の群れを薙ぎ払って道を切り開く。
騎士が落ち葉のように軽々と舞う中、何やらシーファ=ローズ男爵令嬢が『格好いいですう!!』と叫びながらぴょんぴょんと跳ねていた気もしたが、生憎と構っている余裕はなかった。
「騎士の人が吹き、吹き飛んで、ああっ!! とんでもないことやっている気がしますーっ!!」
「いやいや。お嬢様、私だってやっていいことと悪いことの区別くらいはつくんだよ」
「は、ぁ!? この状況でそんなこと言いますか!?」
「だよー。第一王子のくっだらない企みはブラッディクロス公爵令嬢の口から引き出した。その言葉を有名貴族の令息令嬢は聞いている。フィッチラリア公爵家の味方かどうか、じゃない。ここまでやらかした第一王子に味方するかどうか、なんて考えるまでもないよね。後はフィッチラリア公爵家の力で第一王子を潰せば王族に危害を加えた云々はどうとてもしてもらえる、かも!!」
「かもですか!?」
「かもだよー。これでも勝算が一番ある時に動いたつもりだけど、まあ失敗するかもしれないからね。だけど、まあ、お嬢様と第一王子が結婚するまでに好機がこなかったら強引にでも『誘拐』していたから、最悪の場合は当初の予定通り『誘拐』してあげるよっ」
「え? 『誘拐』、って……だって、貴女は殿下との婚約が決まった時っ、だって!!」
「あっはっはっ!! だからやっていいことと悪いことの区別はつくって言ったじゃんっ。無策で『誘拐』して失敗しました、じゃあつまんない。どうせ取り戻すならできるだけ成功する確率が高い時に、じゃないとねっ☆」
無茶苦茶にもほどがあった。
子供の頃とは違うのだ。フィッチラリア公爵家の令嬢にして第一王子の婚約者を『誘拐』しようものなら討伐部隊が編成されたっておかしくはない。
それでもメイドは最悪の場合は『誘拐』すると決めていた。なぜか、そんなの決まっている。
「大好きだって言ったよね、お嬢様。私、政略的婚約だからと惚れた女を王族に譲り渡すほど常識人ぶることはできないんだよねー。反逆上等っ。惚れた女を失うくらいなら国だろうが敵に回さないと女が廃るってねっ」
「ばか……っ!! ばかばか、本当ばかなんですからっ!!」
「あっはっはっ!! そんな馬鹿を切り捨てずにメイドとしてそばに置いてきたお嬢様が悪いんだよっ。というわけで責任とって私と結婚することだねっ!!」
「してやりますよ、ばぁぁぁかっ!!」
ジュッッッドォン!!!! と、まるで祝砲のように八の荷電粒子砲が唸り、オレンジの閃光が第一王子を吹き飛ばす。
そうして学園の伝説に残る『荷電粒子砲乱射事件』は幕を閉じたのだった。
その後、『アリアフィーア様格好いいよう! 縦ロールさいっこう!!』とアリアフィーアに懐いたシーファ=ローズ男爵令嬢にメイドが(らしくもなく普通に)嫉妬したり、ブラッディクロス公爵令嬢と同じく家から追放された第一王子が国を我が手に取り戻すと内乱を起こそうとしていたところをアリアフィーアが縦ロール無双で撃滅したり、メイドが浪漫だと言ってロケットパンチなどに手を出そうとするのだが、それはまた別のお話。
「さあ結婚式のはじまりだよーっ!!」
「ちょっ、ばかっ。縦ロールを祝砲代わりにしないでくださーい!!」
「あっはっはっ!! 大好きだよ、お嬢様ーっ!!」
「もうっ。わたくしも大好きですよ、ばかっ!!」