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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第九十六話「ガブリエル」

◇ ◆ ◇


 現在、金太郎きんたろうたちは地球を飛び出して月に向かって飛行していた。


 千葉県の上空付近を通過してから地球の大気圏あたりに到達するまでは、それこそ人間の歩行速度に近い速さで進んでいたが、王将アバターの性能を理解して徐々に使いこなせるようになってからは、時速に換算しておよそ二百キロの速度で飛行できるようになっていたのだ。



「……予想はしていたけど、竜崎を目指している時点で地球の街並みを拝むことは不可能だったね…………」

 歩夢あゆむは少しがっかりした表情で、背後の地球を目にしながら言った。


 そう。

 この空間が自分たちの住んでいた4次元の世界と同一なのだと、その目で最初に見て確認したとき、すでに千葉県の上空に向かって進んでいたのだから、当然と言えば当然である。

 地面に潜っていく羽目にならなかった代わりに、宇宙空間に向かって進んでいるのだ。


「この方向と、竜崎りゅうざきの気配を感じる距離を考えると…………」

「…………竜崎は月付近にいそうだね」

 将角まさかどが途中まで言うと、続きを歩夢が代わって言葉にした。


 月までの距離は、およそ三十八万キロメートル。

 いまの金太郎たちの飛行速度でも、だいたい二か月~三か月くらいはかかりそうだ。


「まだまだ遠いね…………」

「ま……地道に行こうぜ」

 桂は、先の道のりを考えて少し気が滅入っているようだったが、一方の金太郎は少し気楽に考えているようだった。


 まるで漫画や映画の登場人物のように、空を自在に飛行する金太郎たち。

 たまに振り返って、故郷である地球が少しずつ小さくなっていくのを確認している。


 見慣れた地球の風景を拝みながらの旅は不可能になってしまったが、代わりに四方八方に輝く星々を眺めながらの旅となったわけだ。

 宇宙も真っ暗と言えば真っ暗だが星がある。

 何もないただの味気ない黒い空間をひたすら進むよりは遥かにマシである。



 金太郎たちが、ここまで到達するまでに倒したモンスターの数は計り知れない。

 定期的にモンスターの群れに襲われ、その都度撃退している。

 数匹程度の群れに遭遇することもあれば、数百匹はいそうな大群が襲い掛かってきたこともあった。


 ベリアルのような王将モンスターの姿をした、今は亡き将棋棋士たちの亡霊にも何回か遭遇した。

 パズズ、アモン、クロノスなど……。

 やはりクロスレイドの駒として存在している王将の姿をしていた。


 ベリアルとの戦闘経験のおかげで、幸いほとんど苦戦をすることはなかったが、金太郎たちは倒した後に消滅してしまった将棋棋士たちの魂の行方だけが気がかりだった。


 けいが、ぽつりと心配そうに口を開いた。

「……将棋棋士だった人たちの魂…………どうなったんだろう?」

「おそらく本来ある人の魂の輪廻に戻ったんだろう……。いや────そう思いたい」

 桂を安心させるためもあるが、将角まさかど自身そう願っているようだった。 


「だけど、この前に遭遇した奴……ラファエルだっけ? もうあのレベルの相手とは戦いたくないね」

 そう口にしたのは歩夢あゆむだ。


 つい先日、やはり王将モンスターの姿をした将棋棋士に遭遇したのだが、それがめっぽう強かった。

 王将モンスター〈ラファエル〉。

 クロスレイドでも、凄まじい強さを誇る激レアモンスターだ。

 それが金太郎たちの目の前に出現し、戦う羽目になったわけだ。


 ベリアルの時もそうだったが、どういうわけか王将モンスターとして金太郎たちの前に姿を現した将棋棋士たちは、誰ひとりとして金太郎たちに力を貸そうと口にする者はいなかった。

 彼らは、もともと一介の将棋棋士であり被害者のはずなのに──。

 金太郎たちは、それが不思議でならなかったのだ。


「それにしても、会うやつ会うやつみんな俺たちに攻撃してくるよな……。もともと人間だろ? 将棋棋士ってどういう思考回路してるんだ……?」

 金太郎が愚痴をこぼした。


「おまえだって将棋棋士だろうが」

「そりゃそうだけど……」

 将角の的確なツッコミに、何も言えなくなる金太郎。



 そのとき────



「……なにか来るぞ⁉」

 とっさに歩夢が身構えて、声を荒げた。


 歩夢の声で、他の三人も敵の気配に気づく。

 向かってくる気配の数は、ひとつ。


「この気配は…………モンスターじゃないな! また将棋棋士の亡霊か⁉」

 将角が神経を集中させて、周囲への警戒を強めた。


 気配の数も判別材料のひとつだが、現在の金太郎たちは気配の質によってモンスターか将棋棋士かを判別できるようになっていたのだ。



「かなり速いぞ……!」

 金太郎が、そう言葉にした瞬間────


 気づくと歩夢が下部へ向かって高速で吹き飛ばされていた。

「ぐはっ…………⁉」

 歩夢の断末魔が響き渡った。


「……歩夢!」

 とっさに歩夢を目で追う金太郎。


 次の瞬間、金太郎の目の前に瞬間移動してきたかのように突如現れたモンスターは、無表情のまま威圧感のある声で名乗った。

「我が名はガブリエル」


 そして言葉を口にした直後、いきなり金太郎めがけて右回し蹴りを放ったガブリエル。

 だが、ガブリエルの回し蹴りを金太郎は左腕でガードするように受け止めた。


「ほう……。我が右回し蹴りを止めるとは」

「お、おまえら……! もと人間だろ⁉ なんで攻撃してくるんだよ!」

 金太郎が余裕のない表情でガブリエルに質問を投げかける。


「その反応と言い様から推測するに……おまえたち、すでに何人かと遭遇しているな」

「それがどうした⁉」

「だったら、そんなこと聞かなくてもわかるだろう?」


 ガブリエルは金太郎の言葉になど耳を傾けず、受け止められた右足を戻し、即座に左足で逆からの回し蹴りを金太郎に放つ。

「くっ……!」

 金太郎は召喚していた〈ゴールド・ドラゴン〉で、ガブリエルの左回し蹴りをガード。

 間髪入れずに、金太郎がガブリエルに右後ろ回し蹴りをお見舞いする。


「ぬぅ……⁉」

 金太郎の右回し蹴りがヒットし、ガブリエルは後方へと吹き飛んだ。


 ガブリエルは、吹き飛ぶ身体を大きくひるがえして体勢を立て直す。


「……モンスターを駆使したコンボを使うとは。貴様ら……ただ者ではないな?」

 ガブリエルから凄まじい闘気が溢れ出る。


「結果的におまえたちみたいなのが二度と現れないように、ここに来たわけだし……。まあ、少なくともおまえたちにとってイレギュラーな存在だろうな……俺たちは」

 金太郎が眉間にしわを寄せてガブリエルに言葉を返した。

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