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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第九十五話「固定観念の解放」

 ベリアルを倒した金太郎きんたろう一行は、竜崎りゅうざき王牙おうがを目指して何もない空間をひたすら進んでいた。


 金太郎たちにとって特に想定外だったのは、現世ですでに亡くなった将棋棋士たちの魂がクロスレイドの王将モンスターの姿となって、この4.5次元空間を彷徨っていたことだ。

 王将モンスターをアバターとして、この空間に来ているのは自分たちだけじゃなかったのだ。


 ──いや

 彼らは自らの意思で来たのではない。

 あくまで竜崎の意志によって、この空間に無理やり幽閉されたような形だろうから、決して金太郎たちとまったく同じというわけではないが……。


 亞比あびは竜崎を倒すための力として〝ドラゴン〟が必要だと言っていた。

 だが金太郎たちはベリアルとの死闘のなかで、この4.5次元において王将アバターの戦闘能力もそれなりにあることを知ったのだ。

 つまり金太郎たちも、状況によっては自らの肉体を駆使して戦闘を行うことができるということだ。


 竜崎という不確定要素との戦いにおいて、はたして王将の力が役に立つのかはわからないが、少なくともドラゴンの力が及ばない領域、または不意な状況になった際に自らの肉体に頼れるのは非常に心強い。


 もうひとつ気になったのは、ベリアルが〈ブラック・ユニコーン〉というクロスレイドに存在しているモンスターを召喚して、戦力として従えていたことだった。

 亞比からは聞いていなかったが、ドラゴン以外のモンスターも同じように扱える仕様なのか?


 どちらにしても、生きた状態の肉体から無理やり魂を引き剥がしてきた金太郎たちとは、そもそもの仕様自体が違うのかもしれないが……。

 自分の意志とは関係なく竜崎の力によって王将モンスターの肉体を与えられた将棋棋士たちの魂には、それぞれの性質に合ったモンスターが自動的に割り当てられるのか、それとも竜崎自身が選んで与えているのか──

 理由は不明だが、敵もモンスターを召喚してくる可能性があることは判明している。それだけは確かだ。



「それにしても……こう何も風景がないと、さすがに気が滅入るな」

 珍しく愚痴をこぼしたのは将角まさかどだった。

 隣にいるけいの疲れを悟って、代わりに口にしたのだ。


「確かになあ……。目指すものが何もないから、やたらと疲れるよな」

 将角の言葉に答えたのは金太郎。

 歩夢あゆむも無言で二人の方を見て歩いているが、その表情はいかにも同意だと言いたげだ。


 全員ぐったりしながら空間を浮遊していると、しばらくして将角が目を閉じて歩みを止めた。


「将角……?」

 三人が将角を置いて少し先に進んだ形となったため、桂がうしろを振り返って将角に声をかけた。

 桂に遅れて金太郎と歩夢も、うしろにいる将角へ視線を向ける。


 将角は三人の視線を浴びながら、目を閉じて神経を集中している。

 少しして目を開くと、いつもの不敵な笑みを浮かべながら将角が言った。

「……やっぱりな。おまえら。モンスターたちの気配を探った時みたいに神経を集中して、俺たちがいた4次元の世界の街並みや風景を思い浮かべてみろよ」

「……は?」

 怪訝な反応を示す金太郎に、さらに詳しく説明をする将角。


「いいか? 亞比のおっさんも言っていたが、俺たちがいた4次元の世界も、この4.5次元の世界も……なんなら5次元の世界だろうが、別の空間へ行くわけじゃないってことだろ? ここは紛れもなく俺たちがいた地球──。ここにあるはずなんだよ。俺たちの街が────」


 そう────

 ここは4.5次元と言っても、あくまで次元が変わっただけで存在している場所は同一なのだ。

 金太郎たちの家。育った町。通った学校。すべてここにあるはずなのである。


 将角の言葉を横で聞いていた歩夢が、無言で目を閉じて神経を集中し始めた。

 しばらくして歩夢が口を開く。

「……ああ。確かに感じるね」


 続けて桂も見慣れた風景を認識できたようだ。

「ここは……千葉県あたり…………なのかな? ずいぶん進んだような気がしたけど、実際にはまだ日本からも出てなかったんだね」


 現在、金太郎たちは成田市の上空辺りを浮遊していたのだ。


 最後に金太郎が疑問を口にする。

「っていうか……たまたま今は成田市の空の方にいるけど、4.5次元だと360度どの方向にも進めるじゃん。もし地面に向かって進んだらどうなるんだろう?」


 もっともな意見だが、それに対して冷静に分析して答えを出したのは将角。

「推測でしかねぇが──世界そのものが、すでに実体があるようでない……とか? もしかしたら俺たちがこれまで見て聞いて触って経験してきた世界そのものまでも、ある意味ですべて得体の知れないものなのかもな。俺たちの意識が記憶として感じていただけなのかも────」

 その前置きを付け加えたうえで将角は、金太郎の問いへの答えを口にした。

「恐らく──地面の中のイメージが脳内で見えるだけで、例えば溶岩の中にいても焼け死ぬ……とかはねぇんじゃねぇか? ただ、そこで〝熱い〟とかの恐怖をイメージしすぎると、もしかしたら死ぬかもな」

「えぇ……」

 少しドン引きしたような顔で将角を見る金太郎。


 将角自身、何を言っているのか自分でもはっきりとはわかっていないようだ。

 ただ、何となくそう感じたことを口にしたのだ。


「なるほどね。将角さんの言うことは一理あるよ」

 歩夢が話に加わってきた。

「博士は人間の脳が11次元まで認識できるって言っていた。つまり……僕らが認識していることなんて、まだまだ世界のことわりのほんの氷山の一角ってことさ」

 年下の割に、大人びた印象で話す歩夢。


 続いて桂が口を開く。

「どの次元にいても存在している場所は一緒。ボクはここにいる。そういうことだよね」

「それは間違いなさそうだな」

 将角が桂に言葉を返した。



「ま────馴染みの風景を感じられるようになったことで、多少は退屈し無さそうだね」

「そうだな。とりあえず、竜崎を目指して進もうぜ!」

 歩夢が雑談を終わらせるきっかけを作り、金太郎の言葉でふたたび前進を始める四人。


 四人の目には、これまでとは一転して見慣れた景色が映っていた。

 同時に金太郎の脳裏にはある不安がよぎった。


 思わず、その名を口にする金太郎。

「飛鳥……」

 その時だった。


 突然、金太郎の胸元が激しく光を放ち始めたのだ。


「な……なんだ⁉」

 金太郎の中から発生していると思われる光は、徐々にその強さを増していく。

 しばらくすると、それは金太郎の胸から飛び出して、目の前を浮遊していた。


「こ、これは…………クロスレイドの駒と……カード?」

 金太郎本人も何が起こったのか理解できていなかった。


 当然、他の三人はもっと驚いている。


「お、おい……金太郎……⁉ な、なんだそりゃ……?」

 将角が目を大きく開いて金太郎に問いかけた。


 他のふたりも、驚いた表情で金太郎を見ている。


「お、俺にも何が何だか……」

 そう言った金太郎の目に飛び込んできたクロスレイドの駒とカードに記載されていたイラストと文字──


「……え? この駒とカードって……」

 金太郎は信じられないといった表情で、目の前の駒とカードを見つめていた。


 金太郎の中から出現したクロスレイドの駒とカードらしき物体は、まばゆいほどの光を放ち続けていた。

 そして次の瞬間、それは金太郎たちの上方へと飛び去って行ったのだ。



「な、なんだったんだ……今の?」

 歩夢が無意識に言葉を口にした。


「ずっと昔──。子供のころ、夢のなかで出会った女神さまがくれた駒とカード……。押し入れの奥にしまっておいたはずなのに……なんでこんなところに────」

 なにかを思い出したかのように言葉を口にした金太郎。だが、その表情は目の前で起こった非現実に驚きを隠せないようでもある。


「夢の中の……女神さま?」

 将角が金太郎に向かって言った。


 金太郎は少し考え事をするように無言で俯いたあと、少し笑顔になって答えた。

「……固定観念の解放、か。あまり思い出せないけど、きっと意味があるから現れたんだろうぜ。さ、先急ごうぜ!」

「……は? おまえの中から急に変な駒とカードが出てきてどっかに飛んで行ったんだぞ! 気にならねぇのかよ⁉」

 将角が飽きれた様子で金太郎に話しかけた。


「考えても仕方ないからな。もう何が非現実かなんて、俺たちの常識で語れる状況じゃないだろ?」

 金太郎が金太郎とは思えぬほど大人びて見えた。

「たしかに……ボクらは今回の体験で多くの知らなかった世界を知った。いまさらだよね!」

 金太郎の言葉に茶化すように笑顔で反応したのは桂だった。


 将角も桂の発言を聞いて馬鹿らしくなったのか、頭を掻きながら話を戻す。

「なんか……いちいち知らない事が起こるたびにあたふたしてるのがアホらしくなってきたな……」

「……だね。ま、たしかに考えるだけ時間の無駄無駄」

 歩夢の楽観的な態度がとどめをさし、四人は何事もなかったかのように先を目指し始めた。

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