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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第九十一話「ベリアル」

 金太郎きんたろうたちは、あてもなく真っ暗な空間をひたすらと突き進む。


「……なあ。何もなさすぎて、先が思いやられるんだけど?」

 金太郎が愚痴をこぼした。


「愚痴を言っている暇があったら、モンスターの気配を探ってろ!」

 すると将角まさかどが金太郎を戒め、それを見たけい歩夢あゆむが後方で含み笑いをしながら我慢している。



 進んでも進んでも同じ景色──。

 すでに見飽きた光景。

 右も左も、上も下も、前も後ろも────


「──だけど、さすがにここまで何もないと気が狂いそうになるね……」

 歩夢も、もううんざりだと言わんばかりに愚痴を口にした。

 だが金太郎を注意したばかりの将角は、無言の視線を歩夢に向ける。


「はいはい……。わかってますよ」

 将角が言いたいことを肌で感じた歩夢が、やれやれといったジェスチャーを交えながら答えた。



 最後にモンスターと遭遇してから一時間ほどが経過している。

 真っ暗で何もない空間の中、すでに五キロメートルほど彷徨っていた四人にとって、もはや精神的にも限界が近づいていたことも確かだった。


竜崎りゅうざきの気配があるのは、もっとずっと向こう──。遥か彼方だぜ……? 出会うころには俺たちジジィになっちまう…………」

 再び愚痴る金太郎。ある意味で、将角に怒られる覚悟をしての発言だった。

 だが────


「──お、おい! 向こうの方から何かヤバい気配が、こっちに向かってきてるぞ!」

 声を上げたのは歩夢。

 金太郎と将角、そして桂の三人が、歩夢の指差した方向に視線を向けた。


「…………確かに、凄い速さで近づいてきている!」

「ああ……。これは────モンスター、なのか……⁉」

 桂と金太郎もモンスターの気配を察知し、それぞれ言葉を口にした。



 次の瞬間────



「…………上だ!」

 将角が叫び、素早く後方へと身体を移動させ、視線を上にいる何かに向ける。

 金太郎たち三人の視線も、同時にそれを捉えた。



「あれは…………人?」

「……モ、モンスターじゃ……ない、だと……?」

 歩夢と将角が、無意識に言葉を漏らした。



 四人の目の前に現れた()()は、紛れもない人の形をした何かだった。


「だ……誰だ…………おまえ⁉」

 思わず金太郎が叫んだ。


 すると目の前に現れた人の形をした物体は、真っ赤な瞳を金太郎たちに向けて口を開いた。

「我が名はベリアル────」


 四人の表情が一気に強張り、凍りつく。

 「しゃ……喋った⁉」

「べ……ベリアル…………だと⁉」

 言葉を口にしたのは歩夢と将角。

 金太郎と桂も額に汗を浮かべて、瞳を左右に震わせている。



 金太郎たちの反応を見て、ベリアルが静かに微笑んだ。

「まさか、この空間に生きた人の魂が紛れ込んでくるとはな……」


 ベリアルを前にして戦慄する四人。

 しばらくして桂がベリアルを凝視しながら口を開いた。

「ど、どこかで見たことがあると思っていたら……ベリアルってクロスレイドの王将モンスターじゃないか…………!」

 桂の身体が小刻みに揺れているのがわかる。


「な、なんだって……⁉」

 桂の言葉を聞いた金太郎が、驚いたような表情で聞き返した。


 将角と歩夢は、ベリアルに視線を向けたまま固まっている。


 すると不気味な笑みを浮かべたままベリアルが桂に向けて答えた。

「くくく……。よく知っているじゃないか……。そうだ。このベリアルの姿は、クロスレイドの王将モンスターとして存在しているものだ」



 まさかこの次元空間でモンスター以外の会話の通じる者に出会えるとは思っていなかった四人。

 一方で、敵か味方かもわからない得体の知れない知的生命体の存在に、金太郎たちの警戒心は最大限まで高まっていた。


「て、てめぇは…………俺たちと同じか? それとも、俺たちと違うのか……?」

 言葉を口にしたのは将角。敵か味方か確かめているのだ。

 将角は目の前のベリアルに恐怖を感じているのか全身に汗を浮かべており、その表情には一切の余裕が見られない。


「私が貴様らと同じ……? くくく……! くっはははぁ!」

 急に身体を震わせながら、高笑いを始めたベリアル。


「な、何がおかしい……?」

 再び将角が質問する。


「くくく……何がおかしいか、だと? 決まっているだろう……。こんなところまで生身の魂で侵入してきたおまえらが、私の正体すらも知らないのは────」


 次の瞬間、ベリアルの形相が鬼のように変化し、振りかぶった右手の長く伸びた爪が将角に襲い掛かった。

「────滑稽こっけい以外に何というのだ!」

「なっ────⁉」


 虚を突かれ攻将角は、とっさに後方に飛び退いたが、その胸にはベリアルの爪痕が四つ生々しく刻み込まれた。


「てめぇ……!」

 ベリアルを睨み、鋭い眼光を向ける将角。その頬には薄っすらと汗が流れている。


「将角……⁉」

 慌てて桂が将角のもとへ向かい、将角の身体を支えた。

「……大丈夫だ、桂。問題ない」

 ベリアルを睨みながら、桂に言葉を返す将角。


 将角とベリアルの一連の攻防の隙をついて、金太郎と歩夢が左右からベリアルの後方に回り込み、将角と桂の位置を起点にして正三角形を作るようにベリアルを取り囲んだ。

 後方へ首を回し、金太郎側へと視線を送るベリアル。

「……ほう。なかなか落ち着いているようじゃないか」

 ベリアルが不気味に笑う。


 すると、将角に肩を貸しながら桂が言った。

「……もしかしてキミは、もともと将棋棋士だった人じゃないか?」


「…………それを知っているのか?」

 一瞬、ベリアルの表情が曇ったように見えた。


「キミの発言を聞いて思った。キミ────ボクたちのことを〝生身の魂〟って言ったよね?」

 さらに桂が言葉を続ける。

「それに……〝その姿がクロスレイドの王将モンスターのもの〟だと自分で認めたでしょ?」


「なるほど…………。ただの馬鹿どもではないようだな」

 桂の発言を聞いて、ニヤリと不気味な笑みを浮かべるベリアル。



 すると、桂の肩にもたれかかった状態の将角が口を開いた。

「そうか……! てめぇ──すでに死んだ()将棋棋士だな?」

「……なぜ、そう思う?」

 ワンテンポ遅れで、将角の質問に質問で返すベリアル。


「恐らく──竜崎の思念に囚われた人間の魂は、死んだあとこの空間に捕えられるんじゃねぇか?」

 将角は桂の肩から離れ、右手で胸を抑えながら続きを答えた。

「竜崎は間違いなくクロスレイドの存在を知っている。ヤツがこの4.5次元の住人であるなら、4次元である現世の地上で起こっているすべての事象を把握しているはずだからな」


 すると、ベリアルの左後方から金太郎が将角に代わり続きを話し始めた。

「そういうことか! 俺たちは亞比あびさんの装置で王将をアバターとしてこっちの次元に来たけど、竜崎の思念に侵されていたおまえの魂はこの次元に囚われた──」


 その続きはベリアルの右後方にいる歩夢が言った。

「そして竜崎に王将〈ベリアル〉の容姿を与えられ、ベリアルとしてこの空間を彷徨っていた──ってところだね」


 四人の視線が一斉にベリアルを捉える。

 少しの沈黙を挟んだあと、ベリアルは口元を歪め、言葉を口にした。



「……くくく。そう、貴様らの言うとおり────私は人間の将棋棋士だった」

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