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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第八十九話「ショック・エンド」

◇ ◆ ◇


「…………ここは?」


 気づくと金太郎きんたろうはただの真っ暗な空間を漂っていた。

 周囲はすべて黒で覆いつくされている。何もない。上も下も360度すべて。

 地面もない。まるで宇宙空間に浮いているような感覚。


「そうか。ここが竜崎りゅうざきのいる4.5次元……」


 金太郎たちは量子の光に包まれた次の瞬間、気づいたらこの場所にいたのだ。


 金太郎がキョロキョロと周りを確認し始めたその時、背後から声が聞こえてきた。

「──無事か? おまえ……金太郎だよな?」


 声が聞こえた方に視線を向ける金太郎。

 その声の主の姿を目にした金太郎が、仰け反るようにして驚く。

「うわぁあああ……⁉」


 そこにいたのは見たことのない人物──

 いや────正確には見たことのある姿だった。


「え……? ス、スサノオ……? あ……。ま、将角まさかど……なのか?」

 目の前にいたのは、将角が所有する王将モンスター〈スサノオ〉。


「何ビビってんだよ。あのオッサンが言ってただろ? 俺たちは、こっちの空間じゃ王将モンスターをアバターとして行動することになるってよ」


 そう。この〈スサノオ〉が将角なのだ。

 見た目は〈スサノオ〉だが、中身は将角。


「ああ……。アバターってこういうことか……」


 どうも金太郎は、亞比あびの言っていたことが半分ほど理解できていなかったようだ。

 目の前の〈スサノオ〉に将角の魂が入っているということがわかってから、再び辺り一帯を見回す金太郎。

 そこには将角が入った〈スサノオ〉の他に、二体のモンスターが金太郎の方を向いて浮いていた。

 王将〈ロキ〉と王将〈スルト〉だ。


 金太郎が指を指しながら、中身を確認していく。

「えーと……。こっちが歩夢あゆむで、こっちがけいでいいんだよな?」

 金太郎の問いに二人は頷いてから、桂が「うん!」と答えた。


 桂の持つ王将〈スルト〉は、やや化け物じみた巨漢の姿をしている。

 そのため、男とはいえ可愛らしい桂の声質と喋り方とのギャップが凄まじいことになっていた。


「桂の外見がスルトか…………」

 少したじろぐ金太郎。


 だが桂はキョトンとした表情で答えた。

「……ん? どうしたの?」

「いや、何でもない……」


 そう答えてから、ハッとなって自分の手をみる金太郎。

 当たり前だが、金太郎の姿も変わっているのだ。


「ああっ……⁉ お……俺の手がっ…………!」

 金太郎は、変わり果てた自分の両手を見て動揺している。

 その様子を見て、将角がため息をつきながら言った。

「はぁ……。本当におまえは頭がいいのか悪いのかわからんな……」


「あ、ああ……そうか…………。俺も〈ギルガメッシュ〉の姿になっているんだった……」

 冷や汗をかきながら金太郎が答えた。



 無事に4.5次元へと到達できたことを確認したところで、まずは器となる王将モンスターの身体を動かしてみる四人。


 まずは歩夢が、腕や足など動かせる部位を回しながら言った

「ま、人間だったときと比べて、それほど動きに違和感は感じないね」


 金太郎は、手を握ったり開いたりしている。

 桂も色々な動きを試しているようだ。


 すると将角が不敵な笑みを浮かべてから、手のひらを前に突き出して言葉を口にした。

「現れろ! 〈ダークネス・ドラゴン〉!」


 その言葉を耳にした三人の視線が、一斉に将角の姿を捉える。

 すると、突き出した将角の右手の前に魔法陣のようなものが出現し、その中から〈ダークネス・ドラゴン〉が姿を現した。


「将角……。おまえ、いきなり何やってんだよ⁉」

 何の相談もなく、急にドラゴンを召喚した将角に声を荒げる金太郎。

 だが、将角は楽しそうに答えた。

「別にいいじゃねぇか。いきなりモンスターの大群が襲ってきた時にモタモタしていたらやられちまうからな。本当に召喚できるのか試しておいた方がいいだろ?」


 将角の目の前に現れた巨大な黒いドラゴン──。

 遥か地平に向かって雄叫びをあげている。

 その存在感は、もはやクロスレイドの立体映像とは比較にならないほど生々しい。



 しばらく将角の〈ダークネス・ドラゴン〉に見とれていた三人。

 少しして歩夢が口を開いた。


「……そうだね。急に実戦で失敗するより、一度体験しておいた方がいいかもね」


 そう言って、歩夢も〈ゼロ・ドラゴン〉を召喚してみせた。

 それに続いて、金太郎と桂もそれぞれ〈ゴールド・ドラゴン〉と〈カレント・ドラゴン〉の召喚を試す。



 四人のドラゴンが無事に召喚されたことを確認して将角が言った。

「無事に召喚出来たな。ま……精神力が減るとはいえ、召喚しているだけならそこまで急激に減るわけじゃないって感じか?」

「そうみたいだね」

 将角の言葉に桂が答えた。


 続いて疑問を口にしたのは金太郎。

「亞比さんの話だと、必殺技使うとかなり精神を吸い取られるって言ってなかった? それから進化────」


 すると将角が、また不敵な笑みに変わって言った。

「だったら、試すまでだ」


「……え?」

 金太郎が聞き返すような反応をした瞬間、ふたたび右掌を前に突き出す将角。



とらわれのたましい虚像きょぞううつわ! 永遠えいえんやみなげき、そのてに影響えいきょうけたいつわりのおうは、ひそかにその性質せいしつ深淵しんえんより姿すがたをあらわす! 潜移暗化せんいあんか────現れろ! 《ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ》!」



 急に召喚口上を唱えた将角。

 すると次の瞬間、将角の〈ダークネス・ドラゴン〉が漆黒の球体に覆いつくされた。


 金太郎が慌てたような表情で将角を非難する。

「ま、将角⁉ おまえは、やる前にひと言くらい言えよ!」

「まあ、いいじゃねぇか。さっきも言ったが、おまえらも試しておいた方がいいぞ」


 将角が楽しそうに言葉を返した後、〈ダークネス・ドラゴン〉を覆っていた漆黒の球体は水たまりのように平たく変わり、水面から姿を現すようにその中心から巨大なドラゴンがゆっくりと姿を現した。


 〈ダークネス・ドラゴン〉が進化した姿────〈ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ〉。

 青い髪をなびかせて、遥か地平へ向かって激しく咆哮した。


「おおっ……⁉ すげぇ! マジで進化した!」

 その様子をみて子供のようにはしゃぐ金太郎。

 歩夢と桂も驚きの表情を浮かべて、将角が進化召喚した〈ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ〉を眺めている。


「ほら。おまえらも試しておけよ」

 将角の言葉に、歩夢が続く。


「そうだね」

「それじゃ僕も……」

 そう言って歩夢と桂が、同時に右掌を前方へと突き出して召喚口上を唱えはじめた。



世界せかいわりは再生さいせいへのはじまり──! かえされる悲劇ひげきむねきざみ、かなしみとともにその希望きぼうちから世界せかい再生さいせいへとみちびけ! 輪廻転生りんねてんしょう──〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉!」


よこたわるはあいかばね……電流でんりゅうけもの! ねがわくばふたたびそのいのち宿やどし、眷属けんぞくとなって世界せかいすべてをほろぼすがいい! 捲土重来けんどちょうらい──〈カレント・ドラゴン・シュトローム〉!」



 歩夢の召喚口上が終わるとともに、〈ゼロ・ドラゴン〉が緑色をした光の球体に、桂の〈カレント・ドラゴン〉は血のような真っ赤な色をした光に包まれた。


 直後──

 歩夢の〈ゼロ・ドラゴン〉を包んでいた光の球体が弾けた中から出現したのは八枚の翼を持つ巨大な白いドラゴン────〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉。


 同時に、桂の〈カレント・ドラゴン〉を覆う真っ赤な光は、柱のようになって遥か上空の彼方へと伸びていった。

 光が上空へと消えたあと、その場に現れたのは赤緑色をした禍々しいドラゴン──〈カレント・ドラゴン・シュトローム〉。



 三人がドラゴンを進化させたのを見て慌てる金太郎。

「き、汚いぞ……おまえら⁉ 俺だって──!」


 金太郎は焦った様子で召喚口上を口にした。



欠落けつらくしていたのはたましいへのちかい……。尊厳そんげん内側うちがわにあるおもいのさきに、もとめるものは生死せいしをともにした金色こんじきこえふたたねがいのまえきばをむき、反逆はんぎゃく狼煙のろしをあげよ! 画龍点睛がりょうてんせい────〈ゴールド・ドラゴン・リオール〉!」



 すると金太郎の〈ゴールド・ドラゴン〉が黄金の光に包まれたあと、それは黄金の柱のようになって上空へと消えていった。

 そして、その場に姿を現したのは黄金に輝くドラゴン──〈ゴールド・ドラゴン・リオール〉だ。



「全員、無事にドラゴンの進化に成功したな」


 将角が、そう口にした瞬間──

 遠くから何か鳴き声のようなものが聞こえてきた。


 四人は同時にそっちに視線を向けると、遠くから見たことのない姿のモンスターが三体ほど、物凄い速度で突進してきていた。


 それを見た金太郎が思わず声をあげた。

「お、おい……! あれ……モンスターじゃないか?」

「そうみたいだね」

 歩夢も頬に汗を浮かべてはいるが、その表情には不敵な笑みが浮かんでおり頼もしくも見える。


 そして、ここで前に出たのは将角だった。

「……ここは俺に任せてもらおうか」

「将角……⁉」

 一歩前に出た将角の姿を見て、名前を口にする桂。


 将角はうしろを振り返り、笑みを浮かべて言った。

「あいつらは俺の必殺技の実験台になってもらう」


 そう言って、右掌を前へと突き出す将角。

 目を閉じて、少し精神を集中するような素振りをすると、将角の前にいる〈ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ〉が口を開き、その前に小さな漆黒のエネルギーの球体が出現した。


「こ……これは…………」

 歩夢が驚きの声をあげながら、将角の行動を見守っている。


 そして次の瞬間──

 将角が口を開いた。


『ショック・エンド!』


 将角の言葉とともに、〈ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ〉の口もとにあった漆黒のエネルギー弾が、突進してくる三体のモンスター目掛けて放たれた。


 そのエネルギー弾は、三体のモンスターのうち真ん中の一体へと直撃した瞬間、巨大な黒い稲妻のようなものを従えたエネルギー体へと変化し、すべてを飲み込むブラックホールのように徐々に巨大化していく。


 三体のモンスターを飲み込み、さらに肥大化していく漆黒の球体に恐怖さえ感じる金太郎。

「お、おい……将角⁉ あれ、大丈夫なの……?」


 慌てる金太郎とは対照的に、将角は冷静にその状況を静観していた。


 そして数秒後──

 〈ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ〉が放った漆黒の球体は、一定の大きさまで巨大化したのち、一気にその中心目掛けて急速に縮小────────跡形もなく消えた。



「い、一瞬にして、あの三体のモンスターを消滅させたのか……?」

 歩夢が驚いた表情で言葉を口にした。

 続けて金太郎が将角に問いかける。

「お、おまえ……。本当に初めてか? まるで知っているかのような動きだったぞ……?」


 すると将角が、自分の両手を交互に見ながら言った。

「ああ。やった俺もびっくりした」

 さらに将角が言葉を続ける。

「──感覚だ」


 桂が将角の言葉を復唱しながら、その答えを求めた。

「感覚……?」


「ああ……。なんていうか──勝手に身体が動いた」


 将角の話では、精神を集中することでインスピレーションが湧いてくるイメージだそうだ。

 人間の肉体では感じることができなかった感覚だという。


 将角の推測では、いわゆる人間でいうところの第六感と呼ばれるものに近い感覚らしい。



「次にモンスターが来たら、今度はおまえらがやってみろよ?」

 そう言いながら将角が右掌を前に突き出して、目を閉じながら精神を集中すると、目の前にいた〈ダークネス・ドラゴン・オキュスプリテ〉が姿を消した。


「……消えた⁉ おまえ、凄いな……将角」

 感心しながら言葉を吐く金太郎。


 将角は、両手を何度か握ったり開いたりしながら言う。

「何事も経験だ。やらなきゃ何も出来ねぇ。それは何をするにしてもそうだろう?」

 さらに言葉を続ける将角。

「これから命がけで戦おうっていうんだ。やれることはやらなきゃ──死ぬぜ」


 この将角の言葉が三人の心を引き締める。


「そ、そうだね。僕らは今、リアルでモンスターと戦うことになってるわけだからね……」

「うん……」

 歩夢の言葉に桂が頷く。



 そして、金太郎が遥か先を見据えながら言葉を口にした。


「待ってろよ────竜崎!」

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