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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第六章 次元干渉篇
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第八十五話「完全洗脳された飛鳥」

◇ ◆ ◇


 横須賀市南部にある、とあるアパート──


 銀子ぎんこ響香きょうかは、かつて角田かくたが住んでいたと言われていたアパートの前にいた。


「ここね……」

 緊張した面持ちの銀子が、そう口にした。


 ふたりはVMAX(ブイマックス)を降りて、角田の住処だと思われる一室へと向かう。


 築四十年は過ぎていると思われる古びたアパート。

 外壁のところどころにはヒビも見られ、あちこちが薄汚れている。

 二階建てだが、角田がいると思われているのは一階の一番奥の部屋だ。


 玄関ドアの前に佇むふたり。

 改札には、確かに『角田』の名が記されていた。


「やっぱり、ここに住んでいたことは間違いなさそうですね……」

 そう言いながら、響香はポストに目をやった。

 長期放置されているなら郵便物が溢れていそうなものだが、それがない。


「生活感はありますね……」

 横目で銀子へと視線を向ける響香。


 そして、お互いに頷き合ってから、銀子がインターホンを押した。


 数秒の沈黙を経て、銀子が口を開いた。

「……いないのかしら?」


 そう言って銀子がドアノブに手を伸ばす。

 すると、ガチャリという音とともに玄関ドアが開いた。


「……開いた⁉」


 まさか開くとは思っていなかった二人。

 万が一、中に角田が潜んでいるかもしれないことを考えると、否が応でも警戒心が高まる。


 しばらく無言で開いたドアの隙間を見つめていた二人だったが、反応がないことから意を決して中を覗こうと試みる。

 まずは銀子が隙間から中を確認し、見える範囲に誰もいないことを確認してから、玄関ドアをゆっくり開けた。

 そして、それと並行して響香が先に中を覗き、先ほどの隙間からでは見えなかった全体像を確認する。

「誰もいませんね……」


 銀子は再び響香と頷き合ってから、玄関の中へと足を踏み入れた。

 一歩遅れてついて行く響香。


「何……この匂い…………」

 異臭に顔を歪める二人。


 薄汚れた四畳半ほどの畳部屋。

 室内は薄暗く、あちこちにゴミが散乱している。


 部屋の中央にはシミだらけの汚い布団。

 食べ残したカップラーメンや弁当の容器、飲みかけのペットボトルなどが多数確認できた。

「間違いなく最近まで人が住んでいた形跡はありますね……」


「……そうね。どこかに出かけているのかしら?」

「ぎ、銀子さん……。あまり勝手に物色しない方が…………」

 あたふたする響香を無視して、あちこちを物色している銀子。


 すると、次の瞬間──



 ガチャン!



「────っ⁉」

 不意に聞こえた物音に反応して、銀子と響香が思わず振り返った。



「……誰かと思ったら、銀子と響香じゃァアアアん! 久しぶりィ」

 閉じられた玄関ドアの前に立っていたのは角田だった。


 先ほどの音は、玄関ドアのカギを閉めた音──



(と……閉じ込められた⁉)

 一気に巨大な不安が二人の感情を襲う。



「オレ様に会いに来てくれたのかァ? なァ……? 銀子ォ……響香ァアアア!」


「か……角田くん⁉」

「角田……さん」


 不気味な笑みを浮かべて、銀子と響香を舐めまわすように眺めている角田。

 響香が、ごくりと喉を鳴らして一歩退く。それに釣られて銀子も身を後退させた。


 三人は硬直状態で、しばらく見つめ合っている。

 すると角田の後ろから、何者かが姿を現して言った。



「どうかしたんですかァ──ご主人様ァ?」



 その姿を見た銀子と響香に戦慄が走る。

 一瞬、誰だかわからなかったが、それは間違いなく二人がよく知っている人物だった。


「あす、か……ちゃん?」

 銀子が唖然とした表情で言った。


 まるで別人のように変貌していた飛鳥あすかの姿に、目を大きく開いて声を失う二人。


 ロングだった髪はボーイッシュに短く切り揃えられ、真っ赤な口紅とアイシャドー、そして大きなピアス──

 まるでヘビメタファッションのような黒革の過激な衣装に身を包み、もはや首輪にしか見えないトゲ付きのチョーカーやバングルを装着していた。


 生気を失ったような目で、銀子と響香をみつめる飛鳥。

 直後──

 二人が耳を失うような言葉を口にした。


「この人たちィ……誰ェエエエ?」


「そ……そんな…………あ、飛鳥さん…………」

「嘘でしょ……?」

 思わず漏れた響香と銀子の声。


 露出されたヘソにはピアスが、左肩から腕にかけて変な形のタトゥーが刻み込まれているのが確認できる。

 それを見た響香が恐るおそる言った。

「その腕の模様……シールですよね?」


 すると角田は飛鳥の左背後へと回り込み、そのタトゥーが刻印された腕を撫でまわしながら答えた。

「あァ……これェ? シールなわけないっしョオ?」

「…………え?」

 響香が不安そうな顔で聞き返す。


「見ればわかるだろォ……? タトゥーだよォオオオ! タトゥウウウウウウウ!」

 卑しい笑みを浮かべ、タトゥーが施された飛鳥の左肩をペロリと舐める角田。


 身体を震わせながら、銀子が言葉を口にした。

「あ、あ……あなた……飛鳥ちゃんになんてことを…………」



 さらに角田はタトゥーの形について自ら語り始めた。

「ちなみにィ……。このタトゥーマークは、オレ様の名前を模してデザインしてあるんだよォ」

 よく見ると、飛鳥の肩に施されたタトゥーは『角田正男(まさお)』という文字にも見てとれる。


 愕然とする銀子と響香の前で、角田は飛鳥の左腕を掴み、その腕に施されたタトゥーに舌を這わせるようにして大きくベロ~っと舐めた。

 だが、それでも飛鳥はまったく抵抗する気はなく、角田にされるがまま突っ立っている。


 それを傍観していた響香が、再びごくりと唾を飲んだ。

「おォん……? なんだァ……響香ァ? いま唾ァ飲んだなァ……?」

「え……?」

「飛鳥が羨ましいんだろォ……? おまえも、こういう風にして欲しいのかァ?」


「ち……違います!」

 慌てて否定する響香。

 顔を赤らめ、全力で首を横に振りながら動揺している。



「違わないだろォ? ほらァ! またオレ様のモンにしてやっからァアアアアアア!」

 そう言いながら角田は響香に近づき、頭を両手で鷲掴みにした。


「あっ……⁉」

 目を大きく開いた響香の顔は、焦燥感に満ちている。

「ほォらァアアア……響香ァアアア! もっとオレ様の目を見つめなさァいィイイイイイイ!」

「あ……ああァ……あァア……ア……⁉」


 響香の身体が一回ビクンと大きく痙攣してから、小刻みに震え始めた。

 なぜかあまり抵抗を示さず、言われたとおりに角田の目を見つめる響香。


「ほらァ……ほゥらァアアア!」

「あ……あ……」

 響香は腕をだらんとぶら下げて、涎を垂らしながら虚ろな目で角田の目を見つめている。

「ひやッはァアアアアアア! もうこれで洗脳完了だァアアア……響香ァアアアアアア!」



 その時だった。



「ぶへァアアアアアア……⁉」


 角田の身体が宙に浮き、玄関ドアまで吹き飛んだ。


「て……てめェエエエ! 何すんだよォ……銀子ォオオオオオオオ⁉」

 蹴られたわき腹を抱えながら、地面に座り込んだまま大声でわめき散らす角田。



 銀子の右上段蹴りが角田を捉えたのだ。

 右足を曲げた状態で、静かに言葉を口にする銀子。



「角田くん、君────────」



 銀子の左目の奥にから銀色の炎エフェクトがあふれ出す。



「──わたしの響香に手を出したら……殺すわよ?」

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