表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第六章 次元干渉篇
85/188

第八十四話「次元構造」

◇ ◆ ◇


「──さて、彼らが戻るまでに、何か聞きておきたいことはありますか?」

 亞比あびが、金太郎きんたろうに語りかけた。


 現在、将角まさかどけい、そして歩夢あゆむの三人は、必要な自分たちのモンスター駒を持ってくるため研究室を離れている。

 たまたまモンスター編成セットを持ち歩いていた金太郎は、研究室に残って三人が戻るのを待っている状態だ。


 三人が取りに戻った必要なモンスター駒というのは、それぞれのドラゴンと王将モンスター。

 王将モンスターは、あくまで自分の分身として必要なだけなので、モンスターランクはあまり気にせずに愛着のあるものを持ってくるように亞比に言われていた。


 三人が戻って来るまで、予測でもあと10分ほどある。

 そこで金太郎は、一点だけ気になっていたことを亞比に質問してみた。


「そういえば……少し因縁のあるヤツがいるんだけど……」

「因縁のあるヤツ?」


 金太郎は、角田かくたとの過去を包み隠さずにすべて亞比に話した。

 その中でも、特に念入りに話したのは王将〈ゴブリン・キング〉の駒のこと──。


 角田が現れる時には、必ずと言っていいほど目の前に姿を現してきた、不吉の象徴とも言える王将〈ゴブリン・キング〉の駒。

 もはや金太郎たちにとっては、トラウマレベルのアイテムだ。


 この王将〈ゴブリン・キング〉について、金太郎はどうしても亞比に確認してみたいことがあったのだ。


「なるほど。今の話を聞く限りでは、間違いなくその子は竜崎りゅうざきの思念に憑りつかれていますね」

「ああ。それは俺も間違いないと思う」


 だが、金太郎が聞きたかったことは別にあった。



 初めて角田に遭遇したあの日──

 金太郎が開けた拡張パックから王将〈ゴブリン・キング〉が出現した理由だ。


 もし、先ほど亞比が説明した拡張パックの原理が事実なのであれば、なぜ金太郎のもとに王将〈ゴブリン・キング〉が現れたのか。



 その件については、亞比が質問を織り交ぜながら答えていく。


「それから、君が初めてその子に出会った日に起こった現象についてですが……」


 ごくりと喉を鳴らし、真剣な様子で亞比の言葉に耳を傾ける金太郎。


「君が開封したパックからその〈ゴブリン・キング〉が出現した時、近くにその子はいましたか?」

「ああ……。俺がヤツの存在に気付いたのは少し経ってからだったけど、多分もうその頃にはいたと思う……」


 亞比は金太郎の回答を聞いてから、落ち着いた様子でその見解を述べた。

「その〈ゴブリン・キング〉を引き寄せたのは、ほぼ間違いなくその子の思念によるものでしょう」

「そうだったのか…………」


 亞比の言葉を聞いてひとまず安心した金太郎だったが、同時に別の疑問が発生していた。

「でもさっきは、開けたヤツに適したモンスターが排出されるって……」


「それは常識的に考えた場合、普通は開封者がもっともパックの近くにいるからです」

「……どういうこと?」

「その彼の思念が、それだけ強かったということですね」


 亞比の話では、その場にいた角田の強力な思念が流れ込んで来て反映してしまったというのだ。

 クロスレイドのパックは、開封者の思考自体を読み取っているわけではなく、その周辺に発生している感情などの情報を参考にしてモンスターを選択するように出来ているらしい。


 あの時、飛鳥が金太郎と楽しそうにしているのを見て、角田の中で渦巻いていた嫉妬心や独占欲などの感情が爆発的に増幅し、その思念が金太郎へと向けられたことによるレアな事象ではないかということだ。

 ともかく、あの王将〈ゴブリン・キング〉を生み出したのが自分ではなかった可能性が高いということに、ホッと胸を撫でおろす金太郎。



 すると、ちょうどそこへ駒を取りに行っていた三人が戻って来た。


「ただいまー!」

 元気よく挨拶をする歩夢の後ろから、将角と桂も研究室へと入ってくる。


「戻ってきましたね。それでは、さっそく準備に取りかかりましょう」

 亞比に先導されて、奥の部屋へと足を踏み入れる四人。


 そこは広めの部屋になっており、左右の壁に頭側を向けるようにしてベッドが五床ずつ、全部で十床置いてあった。

 さらに、それぞれのベッドに備え付けられた何やら怪しげな装置の数々。


「なんか、如何にも──って感じの場所だな」

 将角が皮肉を込めて呟いた。


 だが亞比は将角の言葉を無視して、これからの準備について説明し始めた。

「では……それぞれ好きなベッドを選んで、王将とドラゴンを出してください」


 亞比に言われて、真っ先に一番右奥のベッドへとダイブする金太郎。


「恥ずかしいから辞めろ……」

 そう言いながら将角が金太郎の隣のベッドへと座り、その隣に桂、そしてさらにその隣に歩夢が座った。


 各自が手にしたドラゴンと王将の駒だが──

 金太郎が手にしているのは、金将〈ゴールド・ドラゴン〉と王将〈ギルガメッシュ〉。

 続いて将角は、角行〈ダークネス・ドラゴン〉と王将〈スサノオ〉。

 桂が、桂馬〈カレント・ドラゴン〉と王将〈スルト〉。

 そして歩夢が、歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉と王将〈ロキ〉。


 亞比が説明を続ける。

「──では、ベッドの横にある装置に、ちょうど駒と同じ大きさのくぼみが二つあるのが確認できますか?」


「……ああ。これかな?」

 金太郎が、くぼみを手で触りながら確認する。

 他の三人も確認できたようだ。


「それでは右側に王将、左側にドラゴンの駒を、それぞれセットしてください」

 亞比に言われたように、四人が自分のベッドの装置へと駒をセットした。


 続けて、亞比が口にしたのは次元についての解説だ。

「我々が今いるこの現実は、空間3次元+時間1次元の4次元で構成されていると言われています」


 亞比の説明を、真剣な表情で聞き入る四人。

 これからわけのわからない場所へ行こうというのだ。真剣にもなるだろう。


「我々は4次元の住人なのです。それ以上の次元の存在を認識することは出来ません。ですが──」

 亞比が眼鏡のブリッジを持ち上げながら言った。

「──実は我々人間の脳は、11次元まで認識できる構造になっているとも言われています」


「11次元……⁉」

 驚きの声を上げたのは歩夢。

 もちろん他の三人も、その表情から驚いていることがひと目でわかる。


 4人の反応を見てから話を進める亞比。

「ただ、先ほども言いましたが、脳にその機能があったとしても、人間が生身で4次元以上の存在を認知することは不可能だというのが現実なのです」


「……回りくどいこと言ってねぇで、さっさと結論を言えよ」

 しばらくは大人しく話を聞いていた将角だったが、いよいよ我慢できずに声を荒げた。

 これには桂が対応する。

「ちょっと将角……言葉づかい!」

 桂に注意されて、ムスッとした表情で黙り込む将角。


 すると亞比は将角を立ててか、再び眼鏡のブリッジを持ち上げてから先に結論を述べた。

「つまり──〝我々の認知しているものだけが、この世界のすべてではない〟ということです」



 亞比が伝えたかったのは、この世界を構成している次元の構造そのものの概念。


 人が4次元までしか認識できないのは、生身の肉体を持っているからだという。

 もともと人の身体は、脳に備わっているリミッターによって、4次元以上を認識できないようになっているのだと──


 紅蘭が考案し、後世に残したクロスレイド。

 その真の目的は、人類が認識できない4次元よりも上の次元へと到達すること。



 これから四人は、次元を超えて未知の体験をすることになる。

 亞比は四人が旅立つ前に、最低限の知識を与えておいてやりたいと思っているのだ。


「竜崎がいるのは、例えるならば4.5次元とも言うべきでしょうかね?」

「4.5次元……?」

「ええ。そうです。先ほど言ったように、本来そこは我々では認識できない空間────」

 少し間をおいて、亞比の口から衝撃的な言葉が飛び出した。

「──そして、我々が言う〝この世〟と〝あの世〟の狭間にある空間とも言えます」


「あの世……」

 金太郎が呟いた。

 唖然とする四人の前で、さらに亞比は言葉を続ける。

「我々は漠然と死んだあとの世界のことを〝あの世〟としていますが、我々の魂が〝肉体という器〟を離れたあとどこに向かうのか────」


 真剣な眼差しで亞比の言葉の続きを待つ四人。

 だが──


「──それこそ神のみぞ知る……と言うべきでしょうね。ただし、少なくとも我々の認識できない次元が存在しており、そこに死んだはずの竜崎の魂が存在していることだけは事実なのです」


 もっと確信めいた答えを期待していた四人は、気が抜けたような表情になっている。

「なんだよ……そのオチ?」

 知りたいという興味が満たされなかった不満と、知らない方が良いかもしれないという気持ちがもたらす安心感──その両方が同居したかのような顔で愚痴をこぼす金太郎。


 それは結果的に、四人にとっては未知の次元へ旅立つ前のリラックスとなったのかもしれない。

 亞比は光が反射する眼鏡の裏側に、少しだけ優しそうな目を隠して言った。

「まあ……人間には知るべきではないこともあるのでしょう。余計なことは詮索しない方が身のためですね」

 その口もとには、微かに笑顔が確認できた。



◇ ◆ ◇


 一方、その頃──


 銀子ぎんこ響香きょうかは、当時に角田が契約していたはずのマンションを目指していた。

 二度目の角田事件の時に、角田の住処だと言われていたマンションだ。


 ただ、あれからすでに二年以上が経過しており、現在でも角田が利用しているのかどうか定かではない。


 道中、響香が道の傍らへとV-MAX(ブイ・マックス)を停車して、タンデムシートに乗っている銀子へと話しかけた。

「……いるでしょうか?」

「わからないけど、行くしかないわ」

「そう、ですね……」


 不安そうな表情を覗かせる響香。

 自身も、かつて角田にトラウマを植えつけられた身ではあるが、何より銀子のことが心配なのだ。


 だが、もし飛鳥あすかが角田のもとにいるのだとしたら──

 そう考えると、一刻も早く飛鳥を発見しなければならないという想いに駆られる。


「どちらにしても……()()が、すべてを物語っているわ……」

 銀子の言葉に緊張感を強める響香。


 そして険しい顔で銀子が呟いた。

「〈ゴブリン・キング〉……!」



 銀子たちが角田のマンションに向かっていた理由──

 それは飛鳥の母である鳥子とりこの証言があったからだった。


 金太郎たちと別れたあと、銀子たちは再びすめらぎ家の門をくぐって鳥子に話を聞いていたのだ。

 その時、鳥子が口にした衝撃的な事実──


 それは〝数か月前に知らない男の子が飛鳥を訪ねて家に来た〟ということだった。


 鳥子が「飛鳥は今ひとりで暮らしている」と伝えると、その男の子は飛鳥の所在を聞いてきたという。

 鳥子は不振に思っていたため最初は教えなかったそうだが、いつの間にか男の子に操られるように世間話が始まり、その中でうっかり話してしまったというのだ。

 だが、その男の子は気づかなかったかのように、鳥子に「飛鳥が戻ってきたら、これを渡して欲しい」と言って()()()を置いていったそうだ。

 それ以降、飛鳥からの連絡は途絶えているらしい。


 その男の子が飛鳥の所在を確認してきた目的は、()()を渡すためだったのではないかと鳥子は考えていたようだった。

 そして鳥子が家の中から持って来て見せてくれた()()は、銀子と響香の背筋を凍りつかせるには十分な代物だったのだ。


 王将〈ゴブリン・キング〉の駒とカード──────。




 道路の脇に停車していたV-MAXを再び路上へと戻す響香。


 タンデムシートの上、険しい顔で銀子が口を開いた。

「鳥子さんに〈ゴブリン・キング〉を渡したのはフェイク……!」


 銀子と響香は、アイコンタクトをとって頷く。


「……急ぎましょう!」

 響香は角田のマンションへと向かう為、再びV-MAXを走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ