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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第六章 次元干渉篇
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第八十一話「クロスレイドの起源」

◇ ◆ ◇


 亞比あびの研究室──


 歩夢あゆむを先頭に、金太郎きんたろう将角まさかど、そしてけいが次々と研究所に足を踏み入れていく。

 研究室に入ってきた四人を見る亞比の顔は、どことなく落ち着いていた。


 息を切らしながら金太郎が亞比に報告をする。

「亞比さん、ごめん……。ドラゴン使い全員は連れてこれなかった……」


 金太郎は、これまでの経緯いきさつを亞比に話した。

 あと連れてくる予定だったのは三人いたということ。

 銀子ぎんこ響香きょうか、それに飛鳥あすかのことだ。

 そのうちのひとり──

 つまり飛鳥の行方が分からなかったため、残りのふたりが捜索にあたっており、発見し次第合流するということを伝えた。

 そして、ほかにもドラゴンを持つ人間に心当たりはあったが、探して連れてくる時間がなかったことも──。



 状況を聞いた亞比が答える。

「十分です。そのくらいの事態は想定していました。それに──」

 亞比は四人に背を向け、先ほど手にした『All about CROSS-RAID(クロスレイドのすべて)』と表記されている分厚い書物を手にとって続きを口にした。

「──先ほども言いましたが、もはや猶予はないのです。ふたりだけでも駆けつけてくれたことに感謝しましょう」


 そう言って亞比は、ひとまず四人の前で〝クロスレイドの起源〟について語ることを約束した。

 そしてこの場にいない三人にも、あとから合流したときに責任を持って伝えると──


「さて──。どこから話しましょうかね……」


 亞比は眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら、落ち着いた口調で話し始めた。

 金太郎たちも皆、真剣な顔つきで亞比の話に耳を傾けている。


「……クロスレイドが初めて世に登場した日を知っている者は?」

「確か──。二〇三五年七月五日……とか、だったかな?」

 意味深な切り出しで始まった亞比の講話。いきなりの質問には桂が答えた。


「──そう。二〇三五年七月五日。それが、初めて人類がクロスレイドを認識した日です」


 亞比が続ける。

「ですが、それはクロスレイドが公に発売された日。実際に完成したのはもう少し前です。そして、この計画が始まったのはさらに昔の話──」

「……計画?」

 怪訝な顔で聞き返した将角を無視して、亞比は話を続ける。


「──では一度、質問を変えましょう。クロスレイドを開発したのは……どこかわかりますか?」

「それは……株式会社ナハクだろ?」


 今度の質問には金太郎が答えた。

 だが──


「ナハクは発売元です。私が質問したのは〝いったいどこの誰がクロスレイドを開発したのか?〟ということです」

「……え? な、ナハクじゃないのか? 開発したところ……あまり深く考えたこともなかったけど──」


 金太郎は他の三人に助言を求めるように視線を向けるが、皆が無言で首を横に振っている。

 この場にいる誰もが知らないことを確認したうえで、亞比が続きを口にした。


「そう──これは一般的には世に知られていない事実。開発したのは──」

 少しの沈黙。

 そして、亞比はその視線を桂に向けて言った。



「────早乙女さおとめ財団です」



「な────⁉」

「さ、早乙女……財団、だと……⁉」


 金太郎と将角が驚きの声をあげた。


 それ以上に驚いているのは桂だった。

 まさか、自分の家がクロスレイドの開発に関わっていたなどとは、夢にも思っていなかったのだろう。


「え……? うちが……クロスレイドを開発していた……?」

「ええ。厳密には考案者は違いますが、いま世に出回っているクロスレイド関連商品自体の開発──。それからレイドシステムの開発もすべて早乙女財団の一部の方々に依頼しました」


「一部……? それに〝依頼しました〟って、如何にもアンタが桂のトコに依頼したみたいな言い方だな」


 将角が鋭いツッコミを入れた。

 これに対しても包み隠さずに話していく亞比。


「一部というのは、早乙女財団のなかでも信用できるごく一部の人間だけ──という意味です」

「それは……何かの警戒心からか?」

「クロスレイドの秘密が、外部の人間へ漏洩することを防ぐためです」


 亞比によると、ごく一部の人間というのは桂の父親──つまり早乙女財団のトップ〝早乙女源治(げんじ)〟を筆頭に、幹部クラスの優秀な人材および技術スタッフ数十名のなかから、さらに源治への忠誠心が高く秘密保持能力に優れた者たちを指しているのだという。 

 もちろん開発した品を大量生産する工場も、早乙女財団系列の信頼できるところに依頼しているという話だ。

 そして完成品の販売元として契約したのが、株式会社ナハクということらしい──。


 つまり──

 株式会社ナハクはクロスレイドを販売しているだけで、その詳細については何も知らないというのだ。



 すべては秘密保持のため──。



「源治は私の信頼できる友人のひとりです。そして、これを依頼できるのは彼しかいなかった」

「お、お父さんが……」


 予想外の事実に、桂だけでなく全員が驚きを隠せずにいる。

 そして亞比は、将角の方へ視線を向けて言葉を続けた。


「もうひとつ──。君の質問がありましたね」

「ああ。……あんたいったい何者だ?」

「君の予想どおり、源治に依頼したのはこの私です」

「ってことは、クロスレイドを考案したのはアンタなのか? さっき言っていたよな? 考案者は別にいるって──」

「……いえ。私は源治と信頼できる早乙女財団の方々とともに設計や開発に携わりはしましたが、考案したのはもっと別の人間です」

「────それは誰だ?」


 将角が鋭い眼光を亞比に向けて問いかけた。

 亞比はすぐに答えず、天井を見上げている。


 四人が注目する中、亞比が口にしたその名前────。

「クロスレイドを考案した者の名は──────亞比紅蘭(こうらん)

「亞比…………紅蘭……?」

「私の……先祖です」


 亞比は再び天井を仰いで、ゆっくりと昔話を始めた。




 亞比紅蘭──。

 亞比真之助の先祖であり、クロスレイドを考案した創始者。


 八百年ほど前──

 鎌倉時代。

 かつての亞比家は、王家にも匹敵するほどの富豪だった。

 紅蘭は、その亞比家の一人娘だったという。


 何不自由なく育った彼女は、いずれ将棋に没頭するようになった。

 そして、将棋を通して彼女にはライバルが出来た。


 だがそのライバルの男は、紅蘭とは真逆の身分だったのだ。

 富豪どころか、家はなく、両親もいない。

 いわゆる浮浪の身だ。


 それでも、才能があったのだろう。

 将棋の腕は他者の追従をも許さぬほどの強さだったらしい。



 また、紅蘭にも将棋の才があったらしく、凄まじい速さで上達していった。

 そして次第に、その紅蘭と張り合えるのは彼だけになっていったという。


 以降、ずっとふたりで競い合って、互いに高みを目指していた。





 そして、いつしかふたりは恋に落ちたのだ。





 だが──

 そんな恋を許さなかった者たちがいた。


 紅蘭の両親だ。



 ある日、亞比家主催のもと将棋大会が開催された。

 その大会で優勝した者を、紅蘭の婿むことして亞比家に迎え入れるというのだ。


 当然、紅蘭は両親に抗議した。

 だが紅蘭の気持ちは無視され、虚しくも大会は開催されてしまったのだ。



 紅蘭の両親が、この大会を開催した理由──

 それは浮浪の彼が将棋を利用して、紅蘭をたぶらかしているという噂を聞いたからだった。

 両親は、その男と紅蘭を結婚させたくなかったのだ。



 大会の噂を聞きつけた彼も、こっそり大会に出場していた。

 だが大会の出場者の多くは、紅蘭の両親が声をかけた身分の高いものたちばかりだったのだ。


 彼が大会に紛れ込んでいたことを知った紅蘭の両親はひどく激怒したが、もはや時は遅かった。

 証人として招いていた大勢の人間の前で、彼だけを追放するなどという行為を堂々と行うことが出来なかったのだ。



 だから、不正に手を染めた──。



 彼以外の出場者と結託し、彼に対してだけは隙あればイカサマをしても見逃すという大義名分を与えたのだ。


 だが、彼は強かった。

 他の出場者のイカサマを物ともせずに、優勝してしまったのだ。



 その結果を知って喜んだ紅蘭。




 だが──

 ついに紅蘭の両親は一線を越えてしまった。


 優勝した彼にありもしない嘘の罪をなすりつけ、法の名の下に堂々と抹殺したのだ。



 紅蘭が知った時には、すでに彼は亡くなっていた。

 水死──。


 彼女は、何日も何日も泣き明かした。


 そして、ある日──

 彼女の両親の計画を知る者の口から、紅蘭にその真相が伝わってしまったのだ。


 紅蘭は絶望した。

 同時に、両親に対しての憎悪も生まれた。

 だが、紅蘭は両親への愛を失わなかったのだ。

 なぜなら彼女は、両親が自分のことを愛していることもまた知っていたからだ。



 それからしばらく落ち込んでいた彼女の身に奇跡が起きた。

 彼が目の前に姿を現したのだ。


 いや──

 正確には、紅蘭の魂が彼のもとへたどり着いたといった方が正しいだろう。



 だが彼の顔は醜く歪み、怒りや絶望、恨み──

 ありとあらゆる負の感情をすべて背負ったかのような形相をしていたという。


 それから、紅蘭は何度か彼のもとを訪れることが出来たらしいが、結局その方法も理由もはっきりとはわからなかったそうだ。

 そして、会うたびに壊れていく彼の姿──


 わかっていたのは、紅蘭が彼のもとへたどり着けるときは決まって夢の中だったということ。




 そんな中、彼女が手にしたひとつの生きがい。



 それは、いつかの未来──

 彼女の子孫が、彼の魂を救ってくれることを期待して、()()()()へ到達できるツールを開発すること。


 紅蘭がその思想に辿り着いたのは、彼の魂が地上ではないどこかにまだ捉えられているのだと確信したことからだった。

 そして彼女は、その場所から彼が世界へ向けて憎悪のエネルギーを送り続けていることを知った。


 その影響が人類に現れるのが、十年後か、百年後か、もしくは千年後か──

 当時の紅蘭には、わからなかった。


 だが、そう遠くない未来──

 必ず彼の悪意が世界を破滅へと導く。


 それだけは、はっきりと理解できたのだ。


 そんなことはさせてはならない──

 愛していた彼の魂に、そんなことをさせるわけにはいかない。


 そうした彼への想いが彼女に執念を与え、突き動かしたのだ。

 その想いを受け継いだ子が、次の子へと想いを引き継ぐ。


 そうして彼女の構想のもと、何代にもわたって設計、開発されてきたツール────



 ──それがクロスレイド。



 亞比は手に持った分厚い書物を一度閉じて、想いを馳せる。



「──ひとまず、昔話はこんなところです」

「そ、そんな昔から……」


 ここで歩夢が口を挟む。

「っていうかさ。その昔話を話した理由って──」

「ええ。これからクロスレイドの真実についてお話しますが、いまの昔話に出てきた〝彼〟というのが、君たちの戦うべき相手です。その男の名は────」



 空気が静まり返り、四人の視線が亞比へと向けられた。

 金太郎が、ごくりと唾を飲む音が辺りに響く。


 そして亞比は、いつものように眼鏡のブリッジを中指で押し上げてから、その名を口にした。




「────────竜崎りゅうざき……王牙おうが

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