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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第六章 次元干渉篇
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第八十話「覚悟と決断」

◇ ◆ ◇


 横須賀市内某マンション──


 まずはエントランスホールで部屋番号を入力し、飛鳥の呼び出しを試みる金太郎きんたろうたち。

 だが、やはり反応がない。

 もう一度スマホから電話をしてみるが、応答はない。


「くそっ……! やっぱり電話にも出ない!」

「……おい、金太郎。おまえ、姉貴の部屋のスペアキーとか貰ってねぇのかよ?」

「そ、それが──」


 将角まさかどの問いかけに、動揺を示す金太郎。

 実は飛鳥あすかがマンションに入居する際に、金太郎にスペアキーをくれるという話もあったようなのだが、金太郎が断ったそうなのだ。


「なんで、そこで断ってんだよ⁉」

「だって、どうせ飛鳥がいるときしか来ることもないと思っていたし……」

「まあ確かにそうかもしれねぇが……」

「そ、そうだ……! 管理会社の人に事情を話して──」


 そのとき──

 金太郎と将角が口論していると、正面のドアが開いて向こう側から他の入居者が出てきた。


「──⁉」


 すかさずマンション内へと入りこむ将角。

 この瞬間的な判断力には目を見張るものがある。


「お、おい……将角⁉」

「……迷ってる暇はないようだね」


 続いて歩夢あゆむが足を踏み入れ、けいもそれに続く。

 エントランスホールのドアが閉まり始めたところで、最後に金太郎が滑り込んだ。


 無事にマンション内に入った四人は、すぐのところにあるエレベーターへと駆け込む。


「金太郎! 姉貴の部屋はどこだ?」

「二〇二号室!」

「よし、急ぐぜ!」


 将角が二階のボタンを押し、エレベーターが動き出す。

 エレベーター内には緊張感が充満していた。

 エレベーターが二階に到着し、出入り口が開く。

 ほぼ同時に、外へ飛び出す四人。

 金太郎と将角が前を走り、その後ろを歩夢と桂が追従する形で、一直線に飛鳥の住む二〇二号室へと向かう。


「……ここだ!」


 飛鳥の部屋の前──

 緊張した面持ちでインターホンのボタンを押す金太郎。

 将角たち三人も、金太郎の後ろで見守っている。


 だが──

 やはり反応はない。

 そもそも、エントランスホールからの呼び出しに応じない時点で、結果は目に見えていたことでもあるのだ。


「ダメみたいだね……」

「こうなったら、やっぱり管理会社に連絡して開けてもらうか……?」


 金太郎は、あくまで中に飛鳥がいる可能性を優先して考えている。

 だが、将角が別のルートから先にまわる案を口にした。


「いや──。姉貴が電話や呼び出しに応じないと言っても、ここ数十分程度の話だ。例えばカラオケにいれば今みたいな状況にはなる。そんなプライベートもクソもないようなお願いを聞いてもらえるわけねぇだろ」

「だったら、どうするんだよ⁉」


 確かに将角の言うとおり、勝手に飛鳥の部屋に入り込むのはプライベート的な問題も考えて理由が不十分だ。

 かといって、状況的に時間がないのも、飛鳥の行方が心配だというのも事実なのだ。


 そこで将角が考えた提案──

 まずは銀子と響香と合流。その後に、すめらぎ家の実家に向かうという計画だ。

 つまり飛鳥が実家にいるかどうか。そして両親が知っている情報を可能な限り聞きだす目的。

 そこを最初に潰す作戦だ。


 そのあいだに飛鳥に連絡がつけば良し。

 連絡がつかなければ、別の可能性を探す。


 将角の考えでは、マンションの管理会社に連絡をするのは話が大ごとになってしまうため、せめて数日ほど音信不通の事実はあった方がいいだろうということだ。


「なるほど……。確かに、そっちの方が合理的だね」

「うん」

「……そうだな。まずは飛鳥の実家に行ってみよう!」



 三人とも将角の案に賛成し、急いでマンションの外に出た。


 その時──

 マンション前の道路の右手側。遥か地平から猛スピードで走ってきたのは、黒のライダースーツに身を包んだ女性が乗った巨大なバイク。

 そのバイクは、金太郎たちの目の前でドリフト気味に急停止した。


「うっわ……⁉」


 思わず仰け反る金太郎。


 見覚えのある大型バイク──

 心臓に響くような排気音の鼓動──

 オーバーナナハン────Vmax(ブイマックス)


 リアシートに乗っているもうひとり女性のヘルメットの裾からは、銀色に輝く美しい髪が風になびいていた。


「ぎ、銀姉──っ!」


 そう──

 大型バイクで現れたのは、銀子ぎんこ響香きょうかだ。

 フルフェイスのシールドを上げて、銀子が金太郎に尋ねた。


「金太郎! ──飛鳥ちゃんは?」


 金太郎が、これまでの状況とこれからの予定を銀子と響香に話す。

 銀子たちも理解を示し、ひとまず全員で皇家の実家へ向かうことになった。


 金太郎、桂、歩夢は将角の車に乗り込み、銀子は響香のVmaxで向かう。


◇ ◆ ◇


 皇家前──


 金太郎たち六人は皇家の前に到着すると、まずは将角が家に入り母親の鳥子とりこを呼び出した。

 鳥子は家の中でゆっくり話すように勧めてきたが、将角が断って玄関での会話に発展する。


「ゆっくりしていけばいいのに……」

「それどころじゃねぇんだよ! つーか、親父は⁉」

「お父さんは仕事に決まってるでしょ?」


 どうやら鳥子は、まだ世界中がパニックになりかけていることに気づいていないようだ。

 将角は、父親が帰ってきたら家に籠って外に出ないように鳥子に念を押す。


「どうしてよ?」

「どうしても何も……今詳しく話してる余裕はねぇんだ! とにかく、ニュース見ろよ」


 ひとまず両親の安全を可能な限り確保してから、将角は最近の飛鳥について知っていることを聞いてみた。


 だが──

 結果は、金太郎たちの不安をさらに助長するようなものだった。


 ここ数ヵ月ものあいだ、飛鳥から両親に連絡はなかったというのだ。

 それまでは毎日のようにメールをしていたのにもかかわらず──。


 鳥子は、飛鳥が仕事で忙しいのだと思っていたらしい。

 両親に余計な心配をさせないように将角は一部を伏せて話したが、もはや質問の内容からも少なからず不安を感じてしまっていることは事実だ。

 また、これまでの金太郎たちの表情や態度から鳥子は何かを感じ取っていた。


「あ、飛鳥に何かあったの……?」


 心配するように問いかける鳥子。

 だが、それを将角が否定し、金太郎たちも将角に同意する形で、何とか鳥子が事実を知ることを阻止した。


 将角の後ろで金太郎たちが鳥子にお礼を言って、最後に将角が挨拶を交わす。


「──急に押しかけて悪かったな、おふくろ。とにかく姉貴は大丈夫だから……。それから、親父が帰ってきたら出来るだけ外をうろつかないように言ってくれよ?」

「わかってるよ。将角──気をつけてね」

「…………ああ。おふくろも、な」


 鳥子は家の中に戻り、金太郎たち六人は皇家の正門の前に集まっていた。

 次の行動について、どうするか考えているのだ。


 金太郎はマンションに戻って管理会社に連絡しようと言い出したが、それを止めたは銀子だった。


「──金太郎。あなたたちは亞比あびさんって人のところへ先に向かってなさい」

「は……? でも──」

「でもじゃないの! まだ真相をすべて聞いたわけじゃないけど、あなたの話が事実ならもう時間はないんでしょ⁉」


 銀子は響香と一緒に飛鳥を見つけ出し、あとから合流するというのだ。

 だから、金太郎たち四人は先に亞比のもとへ向かい、やるべきことをやるのだと──。


「歩夢くんに場所を教えてもらっておけば、亞比さんって人の研究所には辿りつける。わたしたちも必ず飛鳥ちゃんを見つけて、すぐにあとを追うから──」


 銀子の言葉に不安な表情を向ける金太郎。

 どうしていいのか──決断が出来ないのだ。


 亞比にはドラゴン使いを全員連れてくるように言われていたこともあるが、それよりも金太郎が気になっているのは飛鳥のことだった。

 不安そうな顔をしている金太郎に向けて、強く言葉を放つ銀子。

 その表情は、普段の銀子からは見られないほど真剣なものだった。



「────行きなさい!」



 まっすぐに金太郎を見つめる銀子の視線。

 躊躇している金太郎の肩を、将角の力強い手が触れる。


「いくぞ──金太郎!」


 銀子と将角の言動から、その気持ちを汲んで先に車の後部座席へと乗り込む桂と歩夢。

 だが、金太郎は何かを考えるように下を向いたまま動かない。


「金太郎っ……!」


 将角がもう一度呼びかけた。

 すると金太郎は顔を上げ、覚悟を宿した瞳を銀子へと向けて言った。



「────頼んだぜ……銀姉っ!」


 そう言葉を残して、車の助手席へと乗り込んだ。

 金太郎に続くように将角が運転席へと乗り込む。


「それじゃ、先に行って待ってるぜ────銀子さん、響香さん!」

「ええ。金太郎をよろしくね」


 将角は銀子たちに親指を立ててから、亞比の研究所のある横須賀商店街近くの駐車場へ向けて車を走らせた。

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