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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第六章 次元干渉篇
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第七十九話「変質する世界」

◇ ◆ ◇


 亞比あびの指示で、いったん研究室をあとにした金太郎きんたろう歩夢あゆむ

 ふたりは、その足で将角まさかどの自動車整備工場へと向かうことにした。


 その道中──


「それにしても……なんだか今日はパトカーや救急車が騒がしいね……」

「そういや、そうだなぁ。たまに多いと感じる日もあるにはあるが……今日はやけに多いな」


 先ほどから、ふたりの前を何台かのパトカーや救急車が通過しており、さらに様々な方向の様々な距離からもサイレンの音がこだましていた。

 金太郎と歩夢は、あたりをキョロキョロと見回しながら歩いている。


 将角の整備工場を拠点に選んだわけは、亞比の研究所から比較的近い場所にあったことと、どちらにせよ将角と桂にも話をしないといけなかったからだ。

 ふたりが異常なサイレン音を気にしながら歩いていると、いよいよ目の前に将角が経営する自動車整備工場『すめらぎガレージ』が見えてきた。


 金太郎は、すめらぎガレージを指さして歩夢に教えている。


「お。見えてきたぞ、歩夢! ほら──あそこだ、あそこ」

「へぇ……。思ってたより大きいんだね」

「ふふんっ……だろ?」

「……なんで師匠が得意気なのさ?」


 研究室から外に出て気が抜けたのか、緊張感のない金太郎の姿を歩夢が呆れた表情で見ている。

 まもなく、すめらぎガレージの前に到着したふたり。


「ちょっと待っててくれ、歩夢。俺が先に……」


 金太郎がそう言いかけたとき──

 事務所から将角が血相を変えて走ってきた。


「……って、うっわ! ま、将角⁉」


 歩夢に話しかけていたことで、意表をつかれる形になった金太郎が慌てて仰け反る。

 それを見た歩夢は、手で口元をおさえて笑うのを我慢していた。


 だが──

 ふたりが作りだした漫才的な空気を、一変させたのは将角の言葉だった。


「おい大丈夫か──金太郎⁉」

「……は? だ、大丈夫かって、いったい何……?」


 いきなりの問いかけに混乱する金太郎。

 そんな金太郎の様子を見て、将角も少し困惑している。


「え? おまえ、まさか今の状況を知らねぇのか……?」

「だから……いったい何の話だよ⁉」

「本当に知らねぇようだな……。少し顔貸せよ。事務所で話すぞ。そっちの小僧も一緒に来いよ」


◇ ◆ ◇


 すめらぎガレージ事務所内──


 金太郎と歩夢は、将角に案内されて事務所のソファーに腰かけている。


「は~。やっぱ将角のとこは落ち着くわ~」

「……師匠、くつろぎ過ぎでしょ」


 金太郎たちが他愛無い雑談をしていると、将角と桂がコーヒーを両手にやってきた。



 テーブルの上に置かれた四つのコーヒー。

 向かい合わせのソファーにふたりずつ──

 金太郎と歩夢、将角とけいという構図で座っている。


 まずは金太郎が、歩夢と将角たちの仲介役となり、その関係を構築するところから始まった。

 だが、悠長に雑談をして仲を深めている場合ではないのだ。

 取り急ぎ、将角が〝今の状況〟について話し始めた。


 将角によると、異変を感じたのは数日前ほどだったという。

 それが数時間前、世界各地で一斉に凶悪犯罪が発生したらしいのだ。

 その発生件数は異常で、さっきまでニュースの緊急速報として報道されていたという話だった。


「もうじき警報でも鳴るんじゃねぇか……?」


 将角が、そう言葉にした瞬間──

 緊張感を催すサイレンの音が、辺り一面に鳴り響いた。


「──ほらな」


 再び話の続きに戻る将角。

 金太郎と将角は、例の将棋棋士の狂暴化に関する事件を追っていた為、年々その事例が増加していること自体は把握していた。だが自分たちが気づかないうちに、その発生件数は放物線グラフを描くように急激に増加していたのだ。

 将角が、この数日のあいだに異変を感じ始めた理由は、恐らくそのせいだと──。


 そして数時間前に、ようやく世界がその異変を深刻に捉え始めたということだ。



 先ほどのニュースの時点では、被害者以外でも一部の人間が気づいて買い占めに走っている様子が報道されていたという。

 将角の話では、恐らくあと数時間で世界中のすべてがパニックに陥るだろう、と────


 さらに金太郎を驚愕させたのは、将棋棋士とは関係のない人間までもが狂暴化し始めている可能性の話だ。その違和感は、将角自身がこの数日間で感じていた事実だという。

 将角が考えているのは、角田以外の狂暴化した棋士たちも他人を操るような能力を持っている者が存在し、その二次的被害によって拡大しているのではないかというのだ。


 まるでゾンビのように伝染する人格の狂暴化────


 推論の域をでない話ではあるが、的は得ている。

 ひと通り話を終えた将角が、コーヒーをすすりながら呟いた。


「てっきり俺は、その件でおまえが訪ねて来たのかと思ったんだが……」

「いや……確かに関係ない話じゃないんだけど……。まさか世界がそんなことになっていたとは知らなかった……」


 金太郎は、すっかり深刻な表情に変わっている。

 あまりの現実離れした話に、隣にいる歩夢もコーヒー片手に固まっていた。



 何とも言えない沈黙が空間を支配する。

 しばらくして、今度は桂から金太郎たちに質問が投げかけられた。


「──ところでキミたちは、何か話があってここに来たんでしょ?」

「ああ……。そうそう! こっちも色々と大変だったんだよ!」


 今度は金太郎が、将角と桂に事情を説明し始めた。

 途中、歩夢の補助も得ながら、亞比の研究所であった一部始終を包み隠さずに話す。


「────ってことなんだけど」

「な……なんだと⁉ その亞比ってやろう……この異変の真相をすべて知ってるっていうのか⁉」

「博士のことを〝やろう〟とか言うなよ!」


 将角の口の悪さに、思わずソファーから立ち上がり、声を荒立てる歩夢。

 歩夢にとっては育ての親と言っても過言ではない人物のことであるため、当然と言えば当然かもしれない。

 将角は、急に噛みついてきた歩夢に驚きはしたが、そこに十分な理由があることも承知していたし、その気持ちの在処も理解できた。だから、特に反論する気もなく素直に謝った。


「わりぃな……もともとこういう性格なんだ。気を悪くしたのなら謝る」

「ま、まあ……わかればいいよ、別に──」


 見た目とは裏腹に案外素直な将角に、少し困惑気味の表情を見せる歩夢。

 三人の注目が歩夢に集まるなか、無言でソファーに腰を下ろし冷めたコーヒーをすすり始めた。


 歩夢の反応で少しだけ周りが和んだところで、金太郎が気を取り直して本題に戻る。


「とにかく、おまえたちにも一緒に来て欲しいんだ! 亞比さんは、その時にすべてを話すって──」

「もしそれが事実なら、行く以外に道はないな……」


 サイレンの鳴り響く中、将角は窓越しに外を眺めながらそう口にした。


 将角の言葉どおり、もう選択肢は残されてなどいない。

 猶予も──残されていない。


 この数時間で飛躍的に世界が混乱へと導かれた今、これから先どうなるかなど想像は容易いことだ。


 そして、その原因を知っている人物がわかっているのなら──

 もはやその人物を頼る以外に道などないのだ。


 ふと、金太郎が思い出したかのように口を開いた。


「そういえば……。他のみんなは大丈夫なのか⁉」

「わからん。俺と桂もさっきテレビで知ったばかりで、そこにおまえが訪ねてきたんだ」

「亞比さんは、俺の知ってるドラゴン使いを全員集めて欲しいって……」

「それなら、早く連絡しよう」

「ああ、そうだな」


 金太郎が、最初に電話をかけたのは銀子ぎんこ


「──あっ! もしもし銀姉ぎんねえ⁉ 無事か……⁉」

「金太郎? ちょうどよかったわ。あたしも今かけようと思っていたのよ」


 銀子の話では、すでに状況は理解しているようだった。

 ちょうど響香きょうかが遊びに来ていたらしく、銀子は響香のバイクで今からすめらぎガレージに向かうと言って電話を切った。



 続けて、飛鳥あすかに電話をかける金太郎。


 だが──

 いくらかけても飛鳥が電話に出ない。


「くそっ……! なんで、なんで出ないんだよ……飛鳥!」

「落ちつけ、金太郎。銀子さんたちが来るまで、まだ少し時間がある。まずは姉貴のマンションに行ってみよう」


 現在、飛鳥は家を離れて一人暮らしをしている。

 ここ最近は、それぞれの生活が忙しかったことなどで、昔のように顔を合わせる機会が減っていたのだ。


 金太郎は、再び銀子に電話をして事情を説明する。

 結果──

 急きょ予定は変更。


 飛鳥のマンションで合流する手筈てはずとなった。


「よし、おまえら。そこの車に乗れ!」


 将角の言葉で、次々と車に乗り込む金太郎たち。

 最後に将角が運転席に乗り込み、エンジンをかける。


「それじゃ、出すぜ」


 将角が車を発進させ、四人はすめらぎガレージをあとにした。



「飛鳥……! 無事でいてくれよ」



 空に祈る金太郎の顔には、不安の色が浮かんでいた。

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