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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第五章 始祖竜降臨篇
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第七十五話「逆転の方程式」※未

 歩夢あゆむは、金太郎きんたろうの歩兵モンスターが召喚されたことを状況的に確認すると、さらに神王〈ゼロドラゴン・ワールドエンド・ジェネシス〉の驚くべきスキル内容の続きを口にした。


「ちなみに──。僕のワールドエンド・ジェネシスのスキルはかなり異質でね。スキルの発動が確定した時点で、クロスレイドのルール自体が変更されるからよろしく!」

「ルールの変更……? トリッキーすぎだろ、おまえのドラゴン……」


 先ほど歩兵モンスター計十体がフィールドに降り注いだ衝撃で発生した大量の砂埃エフェクトが引かず、まだお互いの姿どころか、モンスターたちの姿すら確認できない状態だ。

 お互いの存在を確認する方法は声だけ。歩夢は砂埃だらけのフィールドに向かって言葉を続ける。


「たった今から、このゲームのルールは終了時まで次のように変更される。──以降、フィールドを離れたモンスターはすべてゲームから除外される。そして如何なる方法を以てしてもモンスターを召喚することは出来ない。つまり──。今フィールド上に存在するモンスターたちだけで戦うラストバトルさ! 勝敗はお互いどちらかのモンスターを全滅させるか、もしくは相手の領域の最深部──つまり一番奥の段だね。そこへ先にモンスターを到達させた方が勝ちだ。お互いの戦力は5体ずつの歩兵モンスターのみ。公平だろ?」

「思ったよりシンプルだな」

「当たり前だよ。これは言わばハルマゲドン──。世界の終末における最終決戦の地の再現なのさ!」


 そして歩夢は、勝ち誇った表情で金太郎に問いかけた。

「なんで僕がこのワールドエンド・ジェネシスの効果を切り札にしているかわかるかい?」

「さぁな。みたところ肝心のワールドエンド・ジェネシス自身はもう使えなくなるんだろ?」

「そうだね。このスキルを使ったら、もうワールドエンド・ジェネシスは二度とフィールドへ戻ってこれない。──けど、別に〈ゼロ・ドラゴン〉だけが僕のすべてじゃないってことさ!」

「なるほどな。おまえはこの奥の手を使うことを考慮して、歩兵モンスターを組んでいるってわけだな」

「ご名答。さっき公平とか言っちゃったけど、実際は公平じゃないよね。なぜなら僕はこの未来が起こりうる可能性を知っていたから。準備もして来てるしね。でも、あんたは〈ゼロ・ドラゴン〉を初体験だ。想像なんてする余地もなかっただろ? ルール上は公平だけど、状況的には全然公平じゃない。──社会の構造と同じ原理さ。実際は平等と見せかけて、実は不平等に出来てるんだよ。人の社会を冷静に観察すれば、そういうのが至るところに転がっている。──そんなもんさ、人生なんて」

「おまえ……過去に何かあったのか?」

「さぁね。そんなことより自分の心配でもしなよ。あんたは今、スキルなしモンスターしかいないんだからね。最初っから〝いざとなればワールドエンド・ジェネシスのスキルで絶対に勝てる〟ってわかってた試合なんだよ、これは。ま……言うならカモだね、カ・モ!」


 砂埃のエフェクトでお互いの姿が見えない中、金太郎に挑発するような言動を浴びせる歩夢。金太郎の返答はない。

 姿が見えないため、金太郎が悔しがっているのかどうかもわからない。


(てっきりムキになって反撃してくると思ったけど、だんまりか。おちょくられて怒ったかな?)


 いまだに砂埃エフェクトの影響で視界は閉ざされたままだが、少しずつエフェクトが薄くなってきており、ぼんやりとモンスターたちの姿が見え始めている。

 歩夢は砂埃のエフェクトが引くのを待つことなく、攻撃を開始することにした。


「さて。それじゃいきますか! まだ僕のターンは続いているからね」

 歩夢は手元にある5枚のカードをまとめて手に取ると、そのうち4枚を左手に持ち、残りの1枚を右手で前に突き出しながらスキルの発動を高らかに宣言した。


「僕は〈リュウグウノツカイ〉のスキルを発動する! 〈リュウグウノツカイ〉自身を除外して、自軍の全歩兵モンスターを強制進化させることができる!」


 これが歩夢の奥の手──。

 神王〈ゼロドラゴン・ワールドエンド・ジェネシス〉のスキルを使って、お互いに歩兵モンスター5体ずつのハルマゲドンに突入。そして歩兵〈リュウグウノツカイ〉のスキルにより、自分の全歩兵モンスターだけ強制的に進化させるというもの。

 歩兵モンスターの数は1体少なくなるが、進化後に爆発的に強化される歩兵モンスターで構成することにより、結果的に圧倒的有利な状況を作り出しているのだ。


「〈オーラをまと柴犬しばいぬ〉は〈シヴァ・ドッグ〉、〈勇敢ゆうかんなチャウチャウ〉は〈チャウチャウ・チャウ〉、〈寡黙かもくなドーベルマン〉は〈ドーベル・マジシャン〉、〈シカトするセント・バーナード〉は〈セント・バーナード・ドラグーン〉に、それぞれ強制進化させる!」


 まだフィールド全体の様子はよく見えないが、明らかに金太郎の歩兵モンスターたちとは別次元の力が、歩夢側のフィールドから感じられる。

 だが、この状況を前にしても、まったく反応を示さない金太郎。

 砂埃エフェクトが薄くなってきているとはいえ、歩夢の立ち位置から何十メートルも先にいる金太郎の姿を、肉眼で確認することは困難な状況だ。


 さっきの挑発でふてくされているのだろうか──などと考えながら、頭を傾げる歩夢。

(なんだ? まったく反応がないな。もっと慌てふためくかと思っていたのに……。よぉし! だったら──〉

「──圧倒的な戦力差を見せつけて、戦意損失させてやろうじゃないか!」



 思い返せば、このとき本当に焦っていたのは歩夢の方だったのかもしれない──。



「僕は〈ドーベル・マジシャン〉のスキルを発動! こいつのスキルは、同じ筋上の────……」











 ──自分が優位に立っていると思い込み、相手を見下すことほど危ういことはない。──











「……────なんだ? 僕の〈ドーベル・マジシャン〉が…………いない⁉」

 歩夢は、いつのまにか進化歩兵〈ドーベル・マジシャン〉がフィールドからいなくなっていることに気づく。

「ど、どうなっている……僕は何もしていないぞ⁉」


 フィールドの向こう側で金太郎が何かを呟いているようだったが、自分に夢中になっていた歩夢はその内容をはっきり聞き取っていなかった。

 それもそのはずで、今フィールド上にいる金太郎のモンスターは、スキルなしの歩兵モンスターが5体いるだけの()()なのだ。

 少なくとも歩夢の脳内には、それが事実として刻み込まれていた。


 もはや金太郎は無力であると──。

 もはや自分の勝ちは揺るがないのだと──。




 その過信が──

 その傲慢が──




 判断を鈍らせる枷となり、牙となって自らに襲いかかる。


「く、くっそ……! バグ……? 機械の故障か⁉ いいさ……それだったら! ぼ、僕は〈シヴァ・ドッグ〉のスキルを発動する! このターン〈シヴァ・ドッグ〉の行動範囲は香車と同様にな────……」

(……────まただ⁉ 一瞬……目を離した隙に……消え、た……?)


 顔面蒼白になる歩夢。

 なにが起こっているのか理解できずにいるようだ。

 意味が解らないまま自分のモンスターが残り2体になってしまった事実を、受け入れることが出来ずに困惑している。


「ど、どういうことだ? これは……バグじゃない」


 ここでようやく〝金太郎が何かをしたかもしれない〟という可能性が、歩夢の脳裏をよぎった。

 反射的に金太郎の方へ目を向ける歩夢。

 先ほどまでフィールドを覆っていた砂埃のエフェクトはだいぶ緩和して、数十メートル先にいる相手プレイヤーの姿まで、何とか肉眼で確認できるくらいにはなっていた。


「1……2……3……4……5……────ろ、6⁉」

 金太郎のフィールドのモンスターを数える歩夢の指が震える。


 消えかけた砂埃エフェクトのモヤの奥で輝く黄金の光。

 覚醒した金太郎の瞳が発している光だ。

 先ほどまでの金太郎の瞳よりも、はるかに強い光を放っているようにみえる。


「……────っ!」


 歩夢は何かを言おうとするが声にならない。

 自分のフィールドのモンスターが残り2体になってしまったことを再確認し、金太郎のフィールドにモンスターが六体いる事実との格差を改めて思い知る。

 いや……モンスターの数の格差など、歩夢にとっては大した問題ではないはずなのだ。


 正直──

 金太郎のモンスターのうち5体は恐らく無力。それは事実。

 たとえ2体しかいなくとも、進化した歩夢の強力な歩兵モンスターを前に、所詮スキルなしのモンスターなどいくら数を揃えようが無意味だということは、歩夢本人が一番よくわかっている。


 だが、問題はそこではないのだ。

 六体目のモンスター。

 その存在が歩夢に焦燥感を与え、結果的に〝無意味なはずの数の格差に焦りを感じさせる錯覚〟を生み出している原因。

 歩夢の目にハッキリ映りこんできた()()は、明らかに他の5体のモンスターと異なるオーラをまとっていた。



「……────き、金色の……ドラゴン」



 大きく見開かれた歩夢の瞳からは、絶望という名の感情があふれ出しているようだった。

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