第七十四話「超進化の力」※未
「こ……これは……!」
神王〈ゼロドラゴン・ワールドエンド・ジェネシス〉の迫力を前に、圧倒される金太郎。
「ふふ。驚いたかい? これが進化の究極形態──〝超進化〟さ」
「ああ……。まさか超進化するとは思ってもいなかったぜ……」
「あんたもいずれ到達できるさ。何せすでにその状態になれるんだからね」
歩夢はすでに勝った気になって、金太郎を励ますような言葉を口にしはじめた。
「まあ、あんたはよくやったよ。僕が戦った相手のなかで一番強かったかもね」
「なんだ……もう勝ったつもりでいるのか?」
「逆に──まだ勝てるつもりでいるのかい? ま、僕のワールドエンド・ジェネシスのスキル効果を体験すれば、〝まだ勝てるかもしれない〟なんていう淡い期待は微塵も感じなくなるさ」
「へえ。そりゃ楽しみだ」
超進化を目にしたにも関わらず、さほど怖気づくことのない金太郎に違和感を感じる歩夢。
かといって、この状況下で探り合いをしたところで時間の無駄だと考えている歩夢は、自分の持つ最強モンスターの絶対的な力を信じて行動に移った。
「話は終いだ! 僕はワールドエンド・ジェネシスをゲームから完全に除外して、ワールドエンド・ジェネシスのスキルを発動する!」
「本体の除外がスキルの発動条件か……。珍しいタイプだな」
「へへ。除外じゃなくて〝完全除外〟ね。先に言っておくけど、ワールドエンドのスキルは発動したが最後──無効化できないよ」
歩夢がスキルの発動を宣言をしたことによって、神王〈ゼロドラゴン・ワールドエンド・ジェネシス〉がフィールドからその姿を消す。
「ワールドエンド・ジェネシスの効果によって、お互いの王将を含むレイドフィールドおよびスタンバイゾーンに存在するすべてのモンスターを、耐性を無視してゲームから除外する!」
「な……⁉ 王将まで除外だと──⁉」
「ちなみに──無効化とか無敵化のスキルをカウンターで使っても意味ないよ。わかってると思うけど、スキルの無効化とか無敵化っていうのは言うならば〝絶対効果〟だ。耐性無視も含めて、それぞれのスキルが相手とぶつかった時にパラドックス的矛盾が発生する。その時にどちらの絶対効果が優先されるか──。それは、いくつもの要素によって決定されているのさ」
「ああ、そのくらい俺でも知ってるぜ。単純にカウンターによる逆順処理、そしてモンスターランク、進化の有無だな」
「その通り。さすがだね。その中でもモンスターランクの差っていうのは後出しジャンケンで勝てるくらいの要素を持っている。だけど今回に限っては特に重要な要素は進化の有無だよ。──あんたは超進化というものが、どういう優先権を持っているかわかるかい?」
「……────なるほど。そういうことか」
『スキル発動の無効化』『スキル効果の無効化』『モンスターの無敵化耐性』そして『耐性無視のスキル効果』──。
これらの絶対的効果同士がぶつかり合った際に、必ず発生する矛盾。
つまり、いわゆる最強の矛と盾の話と同様の現象が起こったとき、どちらが優先されるか──という問題だ。
この現象に関して、クロスレイドでは優先順位が設定されている。
まず最初に考えるのは、カウンターによるスキルの連続発生における逆順処理の優先度だ。結論から言うと、あとに発動したスキルの絶対効果の方が優先される。なぜならば、カウンターによるスキルの連続発動は逆順処理されるため、一番最後に発動したスキルが事実上では一番最初に発動するからだ。そのため、仮に最初に絶対的効果のスキルを発動していたとしても、後から発動したスキルがスキルの発動を無効化するスキルであったり、スキルの効果を無効化するスキルだった場合、そっちの効果が先に適用されるため、必然的に最初に発動した方のスキルはそれに従わなければならなくなる。
次にモンスターランクによる優先度の差だが、これはシンプルにランクの高低差がそのまま優先順位に反映されることを意味している。
モンスターランクは、その名のとおりモンスター駒に設定された星の数で視覚化された強さのことだが、その他に属性と呼ばれている将棋の駒の種類の優先度も影響する場合がある。王将が一番強く、歩兵が一番弱いというような順番のことだ。
カウンターによってスキルが連続で発動した場合、基本的には逆順処理によって優先度が決定されるのが一般的である。
だが例えば、すでにスキル効果で無敵化しているモンスターに対して、無効化できないスキルで攻撃された場合など、スキルの発動順位が存在しない絶対的なスキル効果同士のぶつかり合いはどうなるのか? そのような状況が発生した際に、モンスターランクなどの優劣による優先度が決定されるのだ。この場合は同列になることもあり、優劣の選定が困難な場合に限っては〝スキル効果の相殺〟という現象が発生することもある。
そして最後に、進化の有無についてだが──
基本的にはモンスターランクの場合と同様に、スキルの発動順位が存在しない場合に限って適用される判別項目で、当然だが進化前よりも進化後の方が有利である。優先順位的にはモンスターランクや属性よりも下で、モンスターランクや属性による優劣の選定が困難な場合に限って、ようやく進化の有無による判別が適用されるのだ。
だが────
ひとつだけ例外が存在している。
それが〝超進化〟だ。
超進化に限っては、すべての優先順位を無視して、スキル効果が優先的に適用されるのだ
たとえカウンターによる逆順処理によって、先に相手の無効化や無敵化などの絶対効果が有効になっていようとも、超進化したモンスターには関係ないのだ。
「さあ──絶望しなよ! 世界の終わりに!」
歩夢の合図で、レイドフィールド上とスタンバイゾーンにいたすべてのモンスターたちが、次々とゲームから除外されていく。スキルが確実に発動したことを確認した歩夢の表情には、勝利を確信した笑みが無意識に生まれていた。
そして仕上げとばかりに、スキル効果の続きを口にする歩夢。
「ワールドエンド・ジェネシスの効果は、まだこれで終わりじゃないよ。さらに、お互いに除外されたモンスターの中から歩兵モンスターを五体ずつ選択して、自軍の領域内の任意のマスに強制召喚する! 僕は〈オーラを纏う柴犬〉、〈勇敢なチャウチャウ〉、〈寡黙なドーベルマン〉、〈シカトするセント・バーナード〉、そして〈リュウグウノツカイ〉の五体を選択!」
すると歩夢の領域内に上空から五本の光の柱が降り注ぎ、次の瞬間、ドスンドスンと巨大なものがフィールド上へと落ちてくる──。そんな音が五つ聞こえた。
想像以上の衝撃が発生し、あたり一帯が砂埃に包まれる。
プレイヤーたちはともかく、観客ですら息を呑むほどの衝撃。この衝撃の正体はレイド・システムに搭載されている機能によるもので、よりリアルな体験を提供するために状況に適した振動が発生する仕組みになっているのだ。くわえて音による聴覚へのアプローチがさらなるリアリティを生み出している。
また、砂埃は立体映像投影装置によるエフェクト効果で表現されたものだが、そのあまりにリアルな映像は、見ている者たちにホログラムだということを忘れさせるほどの迫力がある。
「ほら。あんたも歩兵モンスターから五体選びなよ!」
大量の砂埃エフェクトの影響で、お互いの姿やモンスターたちは確認できないが、声だけは聞こえる状態だ。
歩夢の発した声は金太郎まで無事に届き、金太郎は歩夢の指示に従って歩兵モンスターから五体を選択した。
「だったら俺は〈ピンクノカマキリ〉、〈サイレント・インコ〉、〈黒ダチョウ〉、〈コールド・ドッグ〉、〈ひとつ目マウス〉の五体を選択するぜ」
すると歩夢のときと同様に、金太郎の領域内にも上空から五本の光の柱が降り注いだ。それは五つの大きな音と衝撃を生み出し、さらに広範囲まで砂埃のエフェクトを拡張させる結果となった。
「へへ。召喚したね。これでもう後には引き返せない」
歩夢が不敵に笑う。
「さあ──。ショータイムの始まりだよ!」




