第六十九話「ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド」
歩夢は、すぐさま目の前のカードを手にすると、迷うことなくスキルを発動した。
「僕は〈勇敢なチャウチャウ〉のスキルを発動! フィールド上の歩兵モンスターを1体選択して、そのモンスターを1マス前進させる! 僕は〈ゼロ・ドラゴン〉を選択する!」
歩夢は歩兵〈勇敢なチャウチャウ〉のスキル効果によって歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉を1マス前進させると、今度は別のカードを手に取りまたスキルの発動を宣言した。
「さらに僕は歩兵モンスター〈寡黙なドーベルマン〉のスキルを発動する! フィールド上の歩兵モンスターを1体選択して、そのモンスターを1マス前進させる!」
開始早々、金太郎が気付いた歩夢の不自然な動き。
「まさか──⁉」
「……僕が選択するのは〈ゼロ・ドラゴン〉だ!」
スキルの連続発動と、類似したスキル効果。
そしてスキルの対象先がすべて歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉に集中するという奇策が意味する数手先の未来────
歩夢の思い描く未来の形を想像して、険しい表情を見せる金太郎。
案の定、金太郎が想像したとおりの未来が展開されていく。
歩夢は歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉を1マス前進させると、さらに歩兵〈オーラを纏う柴犬〉のスキルを発動。
その効果は、やはり前のモンスター2体と同様『歩兵モンスター1体を選択して1マス前進させる』というものだった。
そして当然のように歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉を選択。
これで歩夢の歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉は、初ターンでいきなり金太郎の歩兵モンスターの目の前まで前進したことになる。
さらにスキルを発動させる挙動をする歩夢に、金太郎が声をかけた。
「スキルを多用して1ターン目から歩兵モンスターで特攻してくる戦法っていうのは、それほど珍しくないが……問題は相手の領域に侵入するタイミングから先だぜ?」
「言われなくてもわかってるさ。それよりも、たった3体しかスキル持ちモンスターを編成しなかった自分の心配でもしたら……?」
歩夢は金太郎の忠告を流して、逆に挑発する。
「そんなので僕の〈ゼロ・ドラゴン〉を止められるとでも思ってるのかい?」
初手からの独特な戦法に不安がないのは、歩夢が歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉を信頼している証だ。
そして、歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉とともに何度も実戦を繰り返してきた経験──
それが、ゆるぎない自信につながっているのだ。
歩夢は次のカードを手に取ると、その顔に笑みを浮かべながら金太郎に言った。
「さて──それじゃ、竜王タイトル持ちのプロ棋士兼クロスレイドのダブルス大会優勝者のお手並みを拝見させてもらおうかな?」
歩夢が手に取ったカードは歩兵〈シカトするセント・バーナード〉のカード。
「僕は〈シカトするセント・バーナード〉のスキルを発動! こいつのスキルも『フィールド上の歩兵モンスターを1体選択して、そのモンスターを1マス前進させる』って効果だ! もう言うまでもないけど────僕は〈ゼロ・ドラゴン〉を選択する!」
金太郎に動きはない。
歩夢は瞬間的にそれを確認してから次の行動へ移った。
「ガッカリさせるなよ────竜王! 僕は〈ゼロ・ドラゴン〉で、あんたの歩兵モンスター〈ピンクノカマキリ〉を捕縛して領域に侵入! 〈ゼロ・ドラゴン〉を進化召喚させる!」
「いよいよくるか──!」
金太郎が身構える。
歩夢は歩兵〈ゼロ・ドラゴン〉のカードを持つ手を前方へと伸ばし、金太郎へ向けながら召喚口上を唱え始めた。
「世界の終わりは再生への始まり──! 繰り返される悲劇を胸に刻み、悲しみと共にその希望の力で世界を再生へと導け! 輪廻転生──〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉!」
金太郎の領域に突入した歩夢の〈ゼロ・ドラゴン〉が光の球体に包まれ、その光が弾けた中から八枚の翼を持つ巨大な白いドラゴンが出現した。
歩夢の〈ゼロ・ドラゴン〉が進化した姿だ。
それを見た金太郎の瞳が大きく見開かれる。
そして、無意識に歩夢のドラゴンの名を金太郎が口にした。
「ゼロ・ドラゴン──────ワールド・エンド……!」
それは全身が真っ白のドラゴン。
生物としては珍しい形状をしており、ツルツルとした質感の肌が特徴的で、まるでパーツを組み合わせたかのようなスジが身体中の至るところに確認できる。
そのスジの部分は遠目からでは黒のラインに見えるが、よく見ると肉感的であり〝黒いドラゴンが白いパーツを身にまとっている〟と考える方が正しいのかもしれない。
極限まで無駄を省いたようなシンプルなデザインが、この世のものとは思えない美しさを醸し出している。
進化歩兵〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉──。
先ほどまで小さくて可愛らしいドラゴンだったとは思えないほどの迫力で、空に向かって咆哮している。
「どうだい? 僕のドラゴンをみた感想は?」
しばらく進化歩兵〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉の姿に見とれていた金太郎が、ふとその簡易ステータスウィンドウを見て驚愕した。
「ランク……6だと⁉ 進化前はランク1だったはず…………」
「へへ……驚いたかい?」
「ああ。普通は進化によって上昇するランクはひとつか、せいぜい多くてもふたつだ。進化してもランクが変動しないモンスターもいる。だが────」
金太郎は進化歩兵〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉から歩夢へと視線を移してから続きを口にした。
「──進化することで、ランクが一気に五つも上昇するモンスターは初めて見たぜ。……というよりも、三つ上昇するモンスターすら見たことなかったからな。かなり驚いた」
歩夢は金太郎の反応に満足そうな笑みを浮かべると、今度は進化歩兵〈ゼロ・ドラゴン・ワールドエンド〉のカードを手にとって言った。
「さて……。それじゃあ今度はワールド・エンドの能力を披露してやるよ。戦意損失しないでくれよ?」
身構える金太郎の額に汗が滲む。
「これは……少し想定が甘かったか…………?」




