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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第一章 英雄の器篇
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第六話「チュートリアルⅡ」改済

 歩兵が2マス先まで到達することを可能にするルール──

 スキル。

 その存在を智樹ともきに教える金太郎きんたろう


 先ほどまでは、ただモンスターを交互に動かしていたにすぎなかった。

 だがついに、あの時テレビ越しに見た凄まじいモンスターたちの戦いを、自らの手で再現できることに智樹の胸は高鳴っていた。


「スキル! 早くやりたい!」

「よし。それじゃ、まずはスキルを使うための基礎知識から覚えようか」

「うん!」


 金太郎は、智樹にスキルに関係するルールやアイテムの数々を丁寧に教えていく。


 まずプレイヤー盤の外部手前側のスペースに置かれたカード群。これらのカードは自分が扱う各モンスターに対応しており、全部で計20箇所、10枚ずつ2列に規則正しく並べられている。


 これは将棋の駒が20枚ずつ使用されるのと同じ理由だ。

 王将、飛車、角行が各1枚ずつ。

 金将、銀将、桂馬、香車が各2枚ずつ。

 そして歩兵が9枚。これで全部で20枚。


 クロスレイドの初期配置も将棋と同様だ。

 つまり、それぞれのモンスターユニットに対応したカードを用意するということは、必然的に配置されるカードも20箇所ということになる。



 金太郎は、智樹に歩兵〈ホット・ドッグ〉に対応するカードを手に取るように指示した。



 クロスレイドのカードは、いくつかの情報によって構成されている。

 モンスター名。属性。ランク。レアリティ。イラスト。そしてスキルの説明。


 モンスター名とイラストについては言うまでもないだろう。

 属性は王将や歩兵などの将棋でいう駒の種類のことだ。

 ランクはモンスターの強さを表した数値のことである。一般的にはスキルの強さが関係している場合が多い。

 レアリティはそのモンスターの希少性や価値を示す項目だが、この要素については実際に視覚化されているわけではない。

 そして、なかでも一番重要な情報がスキルの説明である。そこには各モンスターが持つ固有スキルの効果が記載されているのだ。



 智樹の歩兵モンスター〈ホット・ドッグ〉のカードには、次のようなスキル説明が記載されていた。

『〈ホット・ドッグ〉自身を1マス前進させる』

 これが〈ホット・ドッグ〉のスキル効果である。



「そのスキル効果と通常の行動を組み合わせれば、2マス前進できるだろ?」

「そうか! そうすればお姉ちゃんのモンスターのところまでとどくね!」


「物覚えがいいぞ、智樹! そのスキルを発動するためには、そのモンスターカードが置かれていた箇所のすぐ下に設置されてるボタンを押すんだ」

「これかな?」



 智樹が指が向けた先には、小さなボタンがひとつ。さらにその脇には、赤いランプが5つ見受けられる。

 このランプは、モンスターのスキル回数を視覚的に認識するためのものだ。

 現在〈ホット・ドッグ〉のカードが置いてあった箇所のランプは、点灯しているものが2つ。消灯しているものが3つ。つまり〈ホット・ドッグ〉は、あと2回スキルを発動することができるということだ。

 このボタンとランプは、それぞれ各カードに対応したものが個別についている。



「そうそう。それだよ」

「押していい?」

「いいけど、押すのと同時に声でスキルの発動を相手に示すことができれば完璧だ。やってみるか?」


 これまでと同様、最初に金太郎が見本を見せて、それを智樹がトレースする。


「僕は〈ホット・ドッグ〉のスキルを発動! 自身を1マス前進させる!」


 智樹は口頭でスキルの内容を説明しながら〈ホット・ドッグ〉のユニットを1マス前進させた。

 それにシンクロするように、レイドフィールド上にいる〈ホット・ドッグ〉が同じ動きをする。


「どう? お兄ちゃん!」

「上出来だぞ、智樹! あとは残っている通常の行動権で、お姉さんのモンスターを捕縛してやれ!」

「わかった!」


 智樹は通常の行動権によって、さらに〈ホット・ドッグ〉を1マス前進させ、その先のマスにいた飛鳥の歩兵モンスター〈キューティ・ビー〉を捕縛した。


「やった! 僕がモンスターを捕縛したよ!」

「すごいぞ、智樹!」



 捕縛された飛鳥あすかの歩兵〈キューティ・ビー〉の所在だが──

 実物ユニットは飛鳥側のプレイヤー盤の外部右下のスペースに移動している。

 ここが相手に捕縛された自分のモンスターユニットを置いておくためのスペースである。


 一般のクロスレイド盤でプレイヤー同士が顔を合わせて対戦する場合は、将棋同様に相手にユニットを手渡せば済む。

 だが大会などにおける巨大なレイドフィールドを利用して対戦する場合は、相手にユニットを渡すのが困難なのだ。捕縛のたびに何十メートルも遠くにいる相手に、ユニットを渡しに行くのは非効率的でしかない。


 よってレイドフィールドを利用したクロスレイド対決においては、実物のユニット自体は所持プレイヤー本人が管理して、相手の宣言に従って操作することになっているのだ。

 もし相手の宣言に従わなかったり、不正をしようとしたりすれば、即座にレイドシステムに搭載されているAIが反応して、ファールもしくは反則負けを言い渡される仕組みになっている。


 次にプレイヤー盤の外部右上のスペース──

 このスペースには専用の立体映像投影装置が搭載されており、捕縛した相手のユニットが立体映像として映しだされる仕組みになっている。

 これは自分の捕縛した相手モンスターを肉眼で確認するための機能でもある。

 また、このスペースはプレイヤー盤と同じタッチパネル式になっており、捕縛したモンスターユニットを再利用する際のアクションを起こすために必要なスペースでもあるのだ。


 これら将棋でいう『駒台』の役割を果たすスペースのことを、クロスレイドでは総称して『スタンバイゾーン』と呼んでいる。



 ご機嫌でターンを終了する智樹。

 それからは、またお互いにけん制しあう形が続いていた。基本的には通常行動権による行動と捕縛。主に将棋における駆け引きと同じような感覚だ。


 しばらくして飛鳥が意味深な行動をしたことで、再び智樹にチャンスが巡ってきた。もちろんこれは智樹に新たな行動を覚えさせるために、わざと飛鳥が作ったシチュエーションである。

 金太郎もそれに気づいていた。


「さすが飛鳥だな。よし……智樹! お姉さんの陣地の中に一か所だけ死角があるんだけど、どこかわかる?」

「う~ん……ここかな?」


 智樹の人差し指が示したマス──

 そこは智樹が捕縛した歩兵ユニットを置けば、飛鳥は角行か銀将どちらかを失うことになる急所だった。もちろんスキルによって回避が可能な場合もあるが、スキルがない将棋ではもはや回避手段のない一手になりうる致命的な位置だ。


 金太郎は『歩兵を打つ』という条件を口にしなかったが、直感的にそれを言い当てた智樹。金太郎も少し驚いたような顔をしている。


「おお……。よくわかったな」

「えっへん!」

「それじゃ、そこに歩兵モンスターを打とうか。さっきお姉さんから捕縛した〈キューティ・ビー〉だ」

「どうやるの?」

「プレイヤー盤の外部右上に〈キューティ・ビー〉のユニットがあるだろ? それは立体映像だから触れないけど、そこはタッチパネルになってる。ユニットが表示されているところをタップしてごらん?」

「こう?」


 智樹が〈キューティ・ビー〉の立体映像直下の面をタップすると〈キューティ・ビー〉の立体映像ユニットの周囲が赤く光った。


「うわ⁉ 光った!」

「その状態のまま〈キューティ・ビー〉を配置したいプレイヤー盤のマスをタップしてごらん?」

「こう……?」


 するとプレイヤー盤の外部右上スペースにあった〈キューティ・ビー〉の立体映像ユニットが消失し、智樹がタップしたプレイヤー盤のマスに〈キューティ・ビー〉の立体映像ユニットが出現したのだ。


 実はこの時、飛鳥側のプレイヤールームでもアクションが起こっていた。

 智樹がタップしたプレイヤー盤のマスと同じマスが、飛鳥側のプレイヤー盤でも赤く発光していたのだ。

 さらにシステム音声で『〈キューティ・ビー〉ユニットを相手のモンスターとして配置してください』というアナウンスが流れていた。これは飛鳥側のプレイヤールーム内にだけ聞こえる仕組みになっている。

 これによって、飛鳥自身が外部右下のスペースに置いた〈キューティ・ビー〉の物理的なユニットを、智樹側のモンスターの向きで指定されたマスへと配置していた。


 こうして数十メートル離れた位置から、お互いのプレイヤー盤上のモンスターユニットの配置を作為的にシンクロさせていたのだ。



 飛鳥と智樹。お互いのプレイヤー盤の同じマス内に、智樹側のモンスターとして〈キューティ・ビー〉が配置されたことをレイドシステムが認識して、その行動に不正がないことをAIが判断した時点で中央のレイドフィールド上に〈キューティ・ビー〉の巨大立体映像が姿を現す。



 クロスレイドでは捕縛したモンスターを自分のモンスターとして利用することを『召喚しょうかん』と呼んでいる。

 金太郎に教えられたとおりに、台詞を口にする智樹。

「僕は〈キューティ・ビー〉を召喚だ!」

 

 智樹の顔が徐々に戦士の表情に変わっていく──。

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