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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第四章 悪鬼再来篇
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第五十話「桂の闘い」

◇ ◆ ◇


 すめらぎガレージより西側地域の住宅街──


「多分この先、もうちょっと行ったところかな……?」

 けいが一枚の紙切れを手に持って、キョロキョロ辺りを見回しながら道端みちばたを歩いている。


 将角まさかどの話では、当時この周辺で角田かくたの目撃情報が数件あったらしいのだ。

 半年以上も前の話なので、仮に目撃情報が本当だとしても、いま住んでいるかどうかはわからないが……。


 また、この辺りには将角が目星を付けていたマンションやアパートもいくつかある為、まずはその中で一番近いところを目指す桂。


 この辺りは住宅街ではあるが住民は比較的少ない方で、あまり人が歩いている様子はない。

 桂は、人っ子一人いない道を黙々と歩いている。


 すると、道の少し先──

 右手側に見える脇道の奥から、何か聞こえた気がした。


「いま聞こえたのは……誰かの声?」

 今度は耳を澄ませながら注意深く歩いていると、再び前方から聞こえてきたのは人の声。

「……やっぱり人の声だ。誰かいるのかな?」


 桂は、声が聞こえてきた脇道を目指して歩いていく。

 あわよくば、角田について聞いてみようと思ったのだ。

 近づくに従って鮮明になっていく声。どうやら複数人いるようだ。


 声が聞こえてくる脇道のすぐ入り口まで来て、その声に少し不安を感じ躊躇する桂。

 だが使命感が背中を押したのか、恐るおそる路地の奥を覗き込んだ。


 すると、そこには不良のような高校生くらいの男の子たち数人がたむろっていた。

 さらにその奥の方には、中学生くらいの少年がひとり座りこんでいる。


(なんだこれ……? あの子……いじめられている……?)

 桂の心臓がどくんと脈を打った。


 囲まれている少年の制服は汚れており、その一部が破けている。

 手元にはカバンが落ちており、辺りにはノートなどの筆記用具といったものが散乱していた。


 さらに筆記用具などに紛れて、散らばっていたもの────

(あ、あれは……クロスレイド⁉)


 桂は戦慄し、喉をごくりと鳴らす。

 桂の中には、今ある想いが沸き上がっていた。



 誰もが物語のヒーローたちのようになりたいと憧れる。

 自分がヒーローになることに憧れるのだ。


 だが──

 勇気というものは、そう簡単に力を貸してはくれない。


 強盗、痴漢、暴行──

 いじめもそうだ。


 リアルでこういった場面に直面したとき、最も頼りになるのは結局のところ経験なのだ。

 しかし、その原動力の源となるのは勇気に他ならない──。

 初めての一歩を踏み出す勇気。

 それを乗り越えたときに、その振り絞った勇気が経験となり、いずれ新たなる局面での一歩を踏み出せる自信へと繋がっていく。


 そうやって──

 人は強くなっていくのだ。


 桂の顔が強張っていく。

(こ、怖いっ……!)


 後退あとずさりする桂。

 靴が地面に擦れる音で、不良たちの主犯格とみられる少年が桂の存在に気付いた。


「……なんだぁ、てめぇ?」

「ボ、ボクは……」

「ひゃはは! なんだコイツ? 女のくせに汚ったねえつなぎ着てんよお!」


 不良たちの背後へと視線を向ける桂。

 そこには怯えた目をして震えている少年の姿があった。


 不良たちが手にしているクロスレイドの駒やカードは、恐らく少年が脅されて無理やり奪い取られたものだろう。

 大勢の不良に囲まれた少年の目には大粒の涙が溢れている。


(ま、将角…………)

 桂の脳裏に浮かんだのは、かつて自分を助けてくれた将角の背中。


 あれから十年────

 ずっと憧れ続けてきた。


 覚悟を決めた桂の顔が、少しずつ熱を帯びていく。

(将角────! ボクは……やるよ!)


 桂は唾を飲み込み、普段は見せることのない攻撃的な眼光を不良たちに向けて大声で言い放った。


「き、キミたちは──! そんなことして……恥ずかしくないのか!」


 桂の声は震えていた。

 足も──

 震えている。


(こ……怖いよ、将角……!)


 年齢的には桂の方が少し年上だが、不良の集団に向かって一人で立ち向かう行為自体、桂にとっては初めてのことだ。 

 汗が額から頬を伝って流れ落ちる。


「ぶっ…ぎゃははは! だっせぇ! コイツ震えてやんの!」

 不良のひとりが、桂を笑って馬鹿にした。

 それを皮切りに、次々と不良たちが桂に罵倒を浴びせ始める。


「なんだ……おまえ? 俺らにケンカ売ってんの?」

「つーか、よくみたら結構かわいい顔してんじゃん! やっちまおうぜぇ!」

「ひゃはは! おまえって本当に女に見境ねぇな!」


 今度は標的を桂に変えて、集団で罵る不良たち。

 群れを成さなければ何も出来ない、まさに烏合の衆──。


 それでも数という暴力が、桂に体験したことのない恐怖を与える。

 桂は、そんな恐怖へひとりで立ち向かっているのだ。


「ボ、ボクは──男だ! キミたちはっ……! キミたちは……群れないと何も出来ないのかっ……⁉」

「あぁん……⁉」

「自分たちがカッコ悪いって────そう……感じないのか!」


 自分の中にあるすべての勇気をふり絞って、大声を張り上げる桂。

 桂の中には、いま様々な想いが渦巻いているに違いない。


 もしもここで逃げてしまったら、逃げた自分を一生好きになれないだろう。

 そして、かつて憧れた人の背中を追いかけ続けてきた自分が、その人の隣に肩を並べて立つために必要なチャンスでもある。

 これまでの決意と覚悟、そして努力の成果を自信へと昇華するための舞台なのだと────


 ──そう、桂が考えるには十分なシチュエーションだった。


(ボクは────逃げない! ……逃げるわけにはいかないんだ!)

 桂の瞳に揺るぎない光が宿る。


「ぷ……ぎゃははは! だっせぇ! 正義の味方気取りかよ⁉」

「それな! 今どき流行らねぇつーの! マジでだせぇよな⁉」


 下唇をぎゅっと噛みしめる桂。

 イジメられていた少年の前まで小走りで駆け寄って、少年を庇うように両手を広げて不良たちの前に立ちはだかる。


 そして一度大きく息を吸い込んでから、約十年分の想いを込めた言葉を口にした。


「ボクよりダサいキミたちに、ダサいとか────言われたくないんだよ!」


 イジメられていた少年も、見ず知らずの人間が自分を守るように割って入ってきたことに呆然としている。

 すると桂は不良たちを睨んだまま、後ろにいる少年に向けて優しく語りかけた。


「大丈夫っ……! ボクは見捨てない……絶対に────見捨てないから……!」


 少年の目から別の涙が溢れ出てきた。

 その表情には、安心感のようなものが伺える。

 そして少年の瞳には、桂の背中だけが大きく映っていた。



(将角────。ボクはあの時のキミに、いったいどれくらい追いつけただろうか?)



 桂は目を閉じて、いつかの将角の背中を想う。


 そしてゆっくり目を開き、不良たちにゲームで勝負を挑んだ。

 クロスレイドでの勝負だ。

 不良たちが少年からクロスレイドの駒やカードを奪い取っていたことから、彼らもクロスレイドをやっていることは容易に想像できる。


 桂が要求したのは、ダブルスでの勝負。

 桂が少年とペアを組むというのだ。

 最初は乗り気ではない不良たちだったが、次の桂の言葉によって状況は変化した。


「ボクたちが負けたら、ボクの駒とカードを全部あげる! その代わり──ボクたちが勝ったら、この子の駒とカードを返してあげて……!」


 不良たちは少し相談するような素振りをしていたが、すぐに悪そうな笑みを浮かべて桂の言葉を受け入れた。


 勝負の舞台は、最寄りのレイドスポット。

 お互い勝敗によっては、すべてを失う可能性があるリスキーな条件。


「ゲーム代はてめぇが出せよ? カワイ子ちゃん!」

「絶対に約束は守ってよね……!」


 不良たちは皆だらしない笑みを浮かべている。

 その緊張感のないさまは、明らかに何かを企んでいるようだった。


 もちろん桂も馬鹿ではない。

 不良たちが、よからぬことを企んでいることくらい想定している。

 だが少年の駒とカードを取り返す方法が、他に思い浮かばないのだ。


 とにかく今は勝つしかない──

 そう、桂は自分に言い聞かせる。


 こうして桂と少年、そして不良たちは、最寄りのレイドスポットへと足を運ぶこととなった。

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