第三十六話「休息の時間」改済
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休憩時間──
第1回戦の全行程は終了。第2回戦が開始するのは1時間後となっている。
選手たちは次の試合まで、それぞれの時間を過ごしていた。
当然だが第1回戦で負けた者に次の試合はないので、その時点で会場をあとにする者は多い。
だが帰り支度は終えても、諦めがつかずに中央のロビーで天を仰いでいる者もいれば、控室で号泣している者もいる。
第1回戦を勝ち上がった選手たちの多くは、第2回戦に備えて食事をしている者が多い。
金太郎と将角はというと、銀子たちと合流してスタジアムの入り口付近にあったカフェに集まっていた。
「一回戦おつかれさま! 上出来だったわよ、ふたりとも」
「だろ? 俺と将角が組めば、角田なんか余裕だぜ!」
「おまえはすぐに調子に乗るんじゃねぇ!」
「あははは! 金太郎くんっていつも将角に怒られてるよね」
4人は、それぞれ好きなドリンクを飲みながら、たわいない会話をしている。
金太郎がコーラ。将角がブラックコーヒー。銀子がシナモンティー。桂がホットミルク。
銀子と桂のふたりは、デザートも食べていた。
銀子はリンゴがごろっと入ったアップルパイ。桂が生クリームたっぷりイチゴのショートケーキだ。
ふたりがデザートを上品に食べている傍らで、金太郎が縮んだストローの紙袋にコーラを落として遊んでいた。
どうやら食事が待ち遠しいらしい。
「ちょっと、金太郎! 汚いから辞めなさい!」
銀子に怒られる金太郎。
将角と桂も、呆れた顔でその様子を見ている。
「銀姉たちは、もう食べてるからそんなことが言えるんだよ!」
「将角くんだって食べてないのに静かにしてるでしょ⁉ 子供みたいなことしてないで大人しく待ってなさい!」
くだらない言い争いが始まろうとしたとき、ウェイターが4人分の昼食をサービスワゴンに乗せて運んできた。
「お待たせしました。こちらトド肉のミートパスタになります」
「ああ。それ俺だ」
将角が手を挙げたのを確認して、ウェイターは将角の前にトド肉のミートパスタを置いた。
続けて次の皿を手に取り、料理名を口にする。
「こちら、マンモス肉カレーの超大盛になります」
「やっときたぜ! それが俺のターンだっ!」
マンモス肉カレーを持つウェイターの手が動くまえに、自らの手で奪いとりにいくスタイルの金太郎。
その奇抜な行動力もそうだが、特に意味が解らない奇怪な返事にウェイターは困惑している。
さらに金太郎は、自分の目の前にマンモス肉カレーをセッティングすると、すぐさま前掛けを装着して、スプーン片手に涎を垂らし始めていた。
その様子を見てドン引きする、金太郎以外の全当事者。
ウェイターは気を取り直して、残りの料理の提供を始める。
「え……えーと、それでは……こちらがシーラカンスのマリネになりますね……」
「あ……それ、わたしです」
銀子のシーラカンスのマリネに続いて、桂が注文したポセイドン風ピザがテーブルへと提供され、最後にウェイターはマニュアルどおりの文言を口にした。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「それではごゆっくりどうぞ。失礼いたします」
そう言ってウェイターは一礼すると、その場からすみやかに去っていった。
金太郎たちは黙々と料理を食べていたが、しばらくして銀子がフォークを置いて言葉を口にする。
「次の試合って2時からだっけ? AとBどっちの会場でやるの?」
マンモス肉カレーを頬張りながら金太郎が答える。
「……ああ。もぐもぐ……2時、スタート……もぐもぐ……で、互いのペア……で、もぐもぐ……持ち時間が2時間ずつ……。もぐもぐ……会場は、もぐもぐ……Aだ!」
「食いながら喋んな!」
先ほど銀子に怒られたばかりなのに、今度は将角に怒られる金太郎。
何気に金太郎に世話を焼く将角の姿を、桂が微笑んで眺めていた。
銀子も困ったような表情で笑っている。
すると金太郎は口の中の食べ物をすべて飲み込んでから、ナプキンで口元を拭くと、真面目な顔になって言った。
「……飛鳥たちとは、お互いに決勝戦まで勝ち残らないと当たらない」
空気が変わる。
辺りは和やかなムードから一転して、緊張感に包まれた。
将角たち3人も真面目な顔に代わり、トーナメントの話題について議論が繰り広げられていく。
「決勝戦の話もいいが、まずは次だ。俺たちは絶対に負けられねぇ」
将角も気合いが入っている。
同時に最悪の可能性も含めた現実的な話も口にした。
「それに──仮に俺たちが勝ち残ったって、あっちが2回戦で負けちまったら意味ねぇからな」
「わかってる……。でも、あっちには飛鳥がいるんだ。そう簡単には負けないはずだぜ」
金太郎が言葉を返した。
だが将角は、あくまで現実的に想定できる可能性を考える。
「もしかしたら角田の野郎……賭けを台無しにするために、わざと負ける可能性だってあるかもしれねぇぞ」
途中から銀子たちも参加しつつ、ありとあらゆる事態に対しての解決策を4人で考え、模索していた。
やはり議論が難航したのは、将角が指摘していた『賭けを台無しにするために、わざと角田が負ける可能性』という場合についてだ。
金太郎が言ったように、飛鳥がいればそう簡単には負けないだろうが、わざと負けられては手の出しようがない。
また将角の言うように、途中で角田の気が代わった場合、わざと負ける可能性はどう転んでも否定できないことも事実なのだ。
だが金太郎は、あえて『その可能性はない』と指摘した。
実際に可能性がゼロだと考えているわけではなく、あくまでそこに希望や期待を見出すことで、この戦いに賭ける気持ちの在処を示したかったのだ。
「なぜ、そう言い切れる?」
疑問を口にする将角。
当然の反応だ。
だが金太郎は、落ち着いた様子で答えた。
「たしかにあいつは飛鳥にも執着しているけど、おまえが思っている以上に強欲だ」
「何が言いたい?」
「おまえの〈ダークネス・ドラゴン〉を諦めるはずがないってことさ」
「なるほど……」
ふたりは時間も忘れて議論をしていた。
すると途中で、銀子が口を挟む。
「ちょっと、あんたたち! 試合のことに熱心になるのもいいけど、冷めないうちにさっさと食べちゃいなさい! このあと準決勝戦が控えてるんでしょ?」
銀子に指摘されて黙り込む金太郎と将角。
隣にいた桂が、場の空気を優しく変える。
「どうせ決勝戦は明日なんだし、まずは準決勝に勝って、それからホテルでゆっくり話し合いなよ?」
金太郎と将角は、お互いに顔を見合ってから食事に戻った。
すでに銀子と桂は食事を終えて、2杯目のドリンクを飲んでいる。
しばらく黙々と食事をしていた金太郎たちだったが、途中で将角がフォークをもつ手を止めてひと言だけ口にした。
「どちらにしろ俺たちは勝つしかねぇんだ」
一斉に将角を見る金太郎と銀子、そして桂。
将角を見た金太郎もまた真剣な表情に変わり、頬張ろうとしていたマンモス肉カレーが乗ったスプーンを置いて、その決意をあらわにした。
「角田との決着は明日。決勝の場! 今日……次の試合に勝てば、そこへたどり着ける! 俺たちは……必ず勝ち残る!」
そう言葉にして、遠くへと視線を送る金太郎。
その瞳は、揺るぎない覚悟を宿しているようだった。
そして────
金太郎は、さっき置いたばかりのスプーンを手に取ると、マンモスカレーをもりもりと食べ始めたのだった。




