第三十五話「シャドウアヌビス・アルバ」改済
◇ ◆ ◇
数ターン後──
結局、いちばん最初に脱落したのは中沢だった。
金太郎の竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉の存在感に翻弄され続けた相手ふたりだったが、しびれを切らした中沢が暴走──
詰み状態を待たずして、将角に王将モンスターを捕縛されてしまい、あっけなく終了。
ダブルスの勝敗について。
相手プレイヤーのふたりを、先に戦闘不能にしたほうのペアが勝利となる。
また先にペアの片割れが戦闘不能になった場合、戦闘不能になったプレイヤーのモンスターはフィールドに残り続け、パートナーが使用することが可能。
ただし戦闘不能となったプレイヤーが捕縛したモンスターは、本人が戦闘に参加できないため基本的に召喚不能となるが、残ったプレイヤーたちがスキルによって引きずり出すことは可能である。
現在は木村がひとりで、金太郎と将角のふたりを相手にしている状態だ。
木村は、苦しそうな表情で弱音を吐いた。
「さすがに、ひとりでふたりを相手にするのは骨が折れますね……」
「だったら、もうギブアップしちまえよ?」
将角に煽られる木村。
その隣で中沢が申し訳なさそうにしている。
「す、すまねえ……木村。俺っちが暴走してなけりゃ…………」
「気にしないでください。相手が思った以上に厄介だったってだけの話ですよ」
木村が中沢をフォローする。
その顔からは、玉砕覚悟の決意が読みとれる。
木村のターン──
木村は角行〈アース・リザード〉のユニットを手にする。
そして将角の歩兵〈威嚇するゴールデン・レトリバー〉の捕縛を狙うが、それは金太郎の王将モンスターによるカウンタースキルに妨害されてしまった。
木村と中沢、そして将角が、一斉に金太郎に注目する。
金太郎の王将モンスター〈ギルガメッシュ〉。
相手が行動宣言したときに、フィールド上のモンスター1体を選択して発動することで、相手モンスターの行動を無効にして、選択したモンスター1体を強制進化させるスキルを持つ。
金太郎が選択したのは、将角の銀将モンスター〈シャドウ・アヌビス〉。
木村の〈アース・リザード〉の行動が無効化され、将角の〈シャドウ・アヌビス〉が進化態勢に突入した。
すでに戦線離脱した中沢が驚きの声を上げる。
「強制進化……だと⁉」
「それも……属性指定の制限がないタイプですね…………」
「おまけに、木村っちの行動まで無効にしやがった……!」
一気に青ざめる木村と中沢。
そして金太郎の想いは将角に託される────。
「いけ────将角!」
将角の顔に不敵な笑みが生まれる。
「……上出来だ、金太郎!」
将角は銀将〈シャドウ・アヌビス〉のユニットを手にとって、召喚詠唱を口にした。
「血塗られた扉。六つの鍵穴。闇と幻影による融合──。黒く染まった夢がもたらす悲劇は、いずれ真実の影となって、その身に宿り実態へと変化する! これで終わりだ────進化召喚! 〈シャドウアヌビス・アルバ〉!」
将角の詠唱終了とともに、中央レイドフィールドにいた銀将〈シャドウアヌビス〉は進化銀将〈シャドウアヌビス・アルバ〉へとその姿を変貌させる。
すかさず〈シャドウアヌビス・アルバ〉のカードを手にとる将角。
「さらに俺は〈シャドウアヌビス・アルバ〉のスキルを発動する!」
「なっ……⁉ 今は僕のターンだぞ……⁉」
思わず、不満を漏らす木村。
自分のターンに、相手がやりたい放題しているのだから無理もない。
だが金太郎たちが不正を行ったわけではない。
金太郎のカウンターが、将角のカウンターを呼び、それが化学反応を起こして変則的なカウンターとなっただけの話だ。
将角は、発動した〈シャドウアヌビス・アルバ〉のスキル効果を口頭で伝える。
「こいつのスキルは相手のターンでしか発動できないが、スキルを発動したそのターンは、強制的に1回だけ行動することが可能になる!」
進化銀将〈シャドウアヌビス・アルバ〉。
将角が所有するランク5のモンスターである。
そのスキルは『相手のターンでしか発動できない』という特殊な制限下にある。
ただし、その特殊性がゆえにスキル効果も唯一無二のものとなっており、その希少価値は計り知れない。
「あ、相手のターンでしか発動できないスキル……⁉ そんなスキルが存在しているとは……」
「俺の進化銀将〈シャドウアヌビス・アルバ〉は、スキルを発動した相手のターン中に限り、1回分の限定行動権を得るのさ」
相手のターンに行動権を持つ──
そのことが意味する重大な危険性。
木村の顔から血の気が引いていく。
「相手のターンに行動できるスキル……。そ、そんなスキルが許されるわけ…………」
クロスレイドには『スキルを使用したターン、王将を捕縛することができない』というルールが存在している。
だが相手のターンにスキルを発動して行動できるということは、次の自分のターンには王将の捕縛権利が回復しているということになるのだ。
つまり──
所有スキルの状況などによっては、理不尽な王将モンスターの捕縛すらも可能にしてしまうことを意味している。
「くっ……! もはやチートじゃないか!」
ひとり愚痴る木村をよそに、将角は〈シャドウアヌビス・アルバ〉を右斜め前方へと移動させた。
今の状況を考えると、木村にとっては最悪な状況だろう。
木村のターンに将角が行動し、次も将角のターン。
さらには相方の中沢は離脱しているため、その次も金太郎のターン。
かなり分が悪いのは確かだ。
意気消沈して動かない木村へ、将角が声をかける。
「それで──まだ何かやるのか?」
「い、いえ……。僕は、これでターンエンドです…………」
天を仰ぐ木村の顔には、くやしさが滲んでいた。
中沢も、両手で顔を覆っている。
代わって、将角のターン。
将角は桂馬〈デス・キャンサー〉で木村の歩兵〈ホワイト・シャーク〉を捕縛した。相手の領域に突入はしたが、進化はしない。
さらに、その桂馬〈デス・キャンサー〉の傍らには、先ほど木村のターンに暴れまわっていた進化銀将〈シャドウ・アヌビス・アルバ〉もいる。
木村にとっては非常にいやな陣形だ。
将角のターンエンド後、本来であれば中沢のターンとなる。
だが中沢はすでに戦線離脱しているため、飛ばして金太郎のターンへと移行した。
「よし、俺のターンだ! 俺はスタンバイゾーンから〈ライト・タイタン〉を召喚して王手だ!」
桂馬モンスター〈ライト・タイタン〉。
木村の所有モンスターで、試合中に金太郎が捕縛していたモンスターである。
最後の悪あがきをする木村。
「くっ……! だったら、僕は王将〈アポロン〉のスキルをカウンターで発動します! このスキルは──」
だが木村がスキル内容を口にするまえに、将角がさらなるカウンターのスキルを発動した。
「残念だったな! 俺は王将〈スサノオ〉のスキルを、さらにカウンターで発動する! おまえの王将〈アポロン〉のカウンタースキル発動を無効にするぜ!」
「な……に⁉ さらに……カウンターだと…………⁉」
将角は王将〈スサノオ〉のカードを見せつけながら、スキルの詳細を説明する。
すでに虫の息となっている木村。
「本来なら、俺の〈スサノオ〉のスキルは『相手が発動したスキルを無効化して強制捕縛する効果』なんだが、王将モンスターは捕縛できないルールだからな。スキルの無効化だけが適応されるぜ!」
木村、万事休す。
中沢を失い、たったひとりで金太郎たちを相手にしてきた木村。
起死回生のつもりで放った王将〈アポロン〉のカウンタースキルも無効にされ、もはや打つ手なし。
くやしそうに唇をかみしめる。
そんな木村の様子を見つめながら、金太郎が静かにターンエンドを宣言した。
そして木村のターン。
もはや何もできない木村。
逃げ道はどこにもない。
自身のモンスターである桂馬〈ライト・タイタン〉に王手をされている木村。
たとえ逃げても、その先には将角の桂馬〈デス・キャンサー〉と、進化銀将〈シャドウ・アヌビス・アルバ〉が待ち構えている。
さらに反対側へ逃げようとしても、金太郎の金将〈ズラトロク・ノヴァ〉と、竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉が身を潜めていた。
「……僕の負けです」
木村は、先ほどまでの苦痛に満ちた表情が嘘のように、清々しい表情に変わって言った。
木村の敗北宣言を受けて、アナウンサーの声が会場中に響く。
『ここで決着です! 勝ったのは、御堂金太郎・皇将角ペア! 見事に準決勝への切符を手に入れました!』
一息ついたあと、将角が金太郎に声をかける。
「やったな。金太郎」
「ああ!」
笑顔で笑い合う金太郎と将角。
ふたりを祝福するかのように、割れんばかりの歓声が会場中に響きわたっていた。




