第三十四話「ゴールデンフェニックス・リバイブ」改済
将角のターンから、中沢のターンに変わる。
「俺っちのターン!」
中沢は将角の行動を分析する。
なぜ将角は、自分の進化歩兵〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉をゲームから除外してまで、金太郎の飛車〈黄金の不死鳥〉を木村側の領域へと送り込んだのか──
単純に性能差を重視しただけという可能性もあるが、飛車は単体でも十分相手の領域に入っていける。
わざわざ進化歩兵を除外してまで、それをする意味──
中沢が考える。
(ほかに何か理由があるはずだ……)
まず〈黄金の不死鳥〉が送り込まれたのは木村の領域ということ。
そして木村のまえに金太郎のターンになるということ。
それらを踏まえて考えた場合、強力な飛車モンスターが捕縛のリスクを抱えずに、相手の領域内を暴れまわることができる──。
(きっと、そうに違いない!)
中沢の顔に笑みが生まれた。
その表情は自信に満ちあふれている。
「ふははは! 考えが浅いぜ、小童ども! 木村側に放り込んでおけば、このターン俺っちがそのモンスターに手出しをしないとでも思っているんだろうが──」
中沢は、桂馬モンスター〈バイオ・シャイターン〉のカードを手にとり、高らかに宣言した。
「──そうは問屋が卸さんぞ! 俺っちは〈バイオ・シャイターン〉のスキルを発動だ!」
中沢の桂馬〈バイオ・シャイターン〉のスキルは、フィールド上の桂馬モンスター1体を選択して、その選択したモンスターと〈バイオ・シャイターン〉の位置を入れ替える特殊転移効果のスキルだ。
中沢が選択したのは木村の桂馬モンスター〈ダーク・ホース〉。
中沢が〈バイオ・シャイターン〉のスキル効果を口頭で伝える。
「ふふぅん! 俺っちの華麗なプレイングに腰を抜かすがいい! 俺っちは、木村の〈ダーク・ホース〉と俺っちの〈バイオ・シャイターン〉の位置を入れ替える!」
中沢は、まだ行動権を使用していない。
つまり〈黄金の不死鳥〉を狙らえる状況になったということだ。
「ふぅわはははあっ! どうだぁ! こんなトリッキーな動きは思いもつかなかっただろう⁉ 俺っちは通常の行動権を使って〈バイオ・シャイターン〉で〈黄金の不死鳥〉を捕縛だ!」
だが中沢の思惑どおりにはいかない。
金太郎カウンターを発動する。
「そうはいくか! 俺は〈双頭のワイバーン〉のスキルをカウンターで発動する!」
「なにぃ⁉ カウンターだとぅ……」
金太郎の桂馬モンスター〈双頭のワイバーン〉。
相手の桂馬モンスターが捕縛宣告をしたタイミングでなければ、スキルを発動できないという厳しい条件はあるが、そのぶん効果は折り紙つきだ。
「〈双頭のワイバーン〉のスキル効果によって〈バイオ・シャイターン〉の捕縛は無効化される!」
「ば、バカなぁあああっ……⁉」
捕縛の無効化に関して──
一般的には相手のモンスターのいるマスへ到達することが、捕縛の基本条件となっている。
ただ、遠隔捕縛を可能にするスキルなども存在するため、かならずしも絶対的な条件というわけではない。
だが、それを考慮したうえで言えることは、『捕縛の無効化』は『宣言の無効化』と同意ではないということだ。
つまり捕縛が無効化されたからといって、その宣言までが無効になるわけではない。
捕縛が無効化された場合の処理についても、多種多様なスキルによって例外的な処理が発生する可能性があるため絶対ではないが、基本的には対象モンスターの行動も無効になる場合がほとんどだ。
よって捕縛が無効化された時点で、その行動自体も無効化されるが、消費した行動権やスキル回数などが回復することはない──というのが基本的なルールである。
威勢よく啖呵を切った中沢は、顔を真っ赤にしてターンを終えた。
そして金太郎のターン。
「将角! おまえの意思……たしかに受けとったぜ!」
金太郎は飛車モンスター〈黄金の不死鳥〉のユニットを手に取って、すぐ左にいた木村の歩兵〈青いねずみ〉を捕縛して、そのまま進化召喚を宣言した。
飛車〈黄金の不死鳥〉のユニットを上空にかかげて、召喚詠唱を口にする金太郎。
「朽ち果てた肉塊を包むのは永遠に輝く金色の焔──。遥か南の地にて生命の神秘にその身を委ね、再び七つの紋章のもとに甦れ! 進化召喚──〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉!」
金太郎の詠唱とともに〈黄金の不死鳥〉が天空に向かって雄叫びをあげた。
直後──
飛車〈黄金の不死鳥〉の全身が、さらに強烈な金色の炎に包まれ、その姿を〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉へと変貌させた。
進化した強力な飛車モンスターを前に、悔しがる中沢。
さらに金太郎が〈操術マリオネティック・ゴースト〉のスキルを発動する。
進化銀将モンスター〈操術マリオネティック・ゴースト〉。
銀将モンスター〈マリオネティック・ゴースト〉が進化したモンスターだ。
進化銀将〈操術マリオネティック・ゴースト〉は、スキル発動時にフィールド上のモンスターから1体を選択する必要がある。
金太郎が選択したモンスターは、竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉。
「〈操術マリオネティック・ゴースト〉のスキルは、選択したモンスターを1回だけ操作する権利を得ることができる! 俺は選択した〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉で、金将モンスター〈デーモン・エルフ〉を捕縛するぜ!」
今回、金太郎は〈操術マリオネティック・ゴースト〉のスキルにおける選択モンスターに、自軍の〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉を選択した。
だが、この〈操術マリオネティック・ゴースト〉のスキル──
いっけん、ただの限定行動権を付与するだけのスキルにも見えるが、実は自軍モンスターだけでなく、敵軍モンスターも選択できるのだ。
つまりスキルを発動した際に、相手のモンスターを選択すれば、たとえ相手のモンスターだろうと操作することが可能ということである。
その時、中沢の顔に笑みが浮かんだ。
「ふは……ふぁははは! マヌケめぇ! 調子に乗って考えもなしに単独で突っ込んでくるから、そういうことになるんだぁ!」
先ほどの行動で、中沢の金将〈デーモン・エルフ〉を捕縛することに成功した金太郎。
だがその行動によって、同時に相手の銀将モンスターと王将モンスターに挟まれた状態になってしまったのだ。
あざ笑う中沢の言葉を無視して、ターンを終える金太郎。
その表情は落ち着いていて、焦りは微塵も感じられい。
「くはははぁ! やっぱり、やっちまったようだなぁ⁉ ご丁寧に奪われに来てくれたその竜王モンスターを捕縛してやれいっ……木村ぁ!」
「……ええ。あなたに言われずとも」
木村のターン。
王将〈ディアン・ケヒト〉で、金太郎の竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉の捕縛を宣言した木村。
だが──
「それを待っていたぜ! 俺は〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉のスキルを発動!」
「……またカウンターですか」
うんざりした様子の木村。
だが金太郎はスキルを発動したにも関わらず、アクションを起こす様子がない。
「どうしました? 何かするんじゃないんですか?」
「いや、何もしないぜ」
「……?」
木村が怪訝な表情を浮かべた。当然の反応だろう。
スキルを発動したのに何もしない。
警戒するなというほうが無理である。
人は体験したことがない事象に直面すると、必要以上の恐怖を感じるのだ。
「意味が……わからないのですが?」
「だろうな」
自信に満ちあふれた笑みを浮かべる金太郎。
その瞳は、まっすぐに木村を捉えている。
一方の木村は、懐疑的な視線を静かに金太郎に向けていた。
「何を企んでいるのか知りませんが……」
木村は警戒しながらも、先ほど宣言した王将〈ディアン・ケヒト〉による〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉の捕縛処理を始めた。
だが特に何が起こるわけでもなく、捕縛は成功──
竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉は、あっけなく木村のスタンバイゾーンへと移動したのだ。
「……何がしたかったんですか、あなた……?」
意味が解らない金太郎の行動が、木村に得体の知れない恐怖を与える。
だが、このまま睨みあっていても何が変わるというわけでもない。
木村がターンエンドを宣言した、その時──
「ばっ、ばかなっ……⁉」
木村が、まるで夢でも見ているかのような表情に変わった。
中央レイドフィールド──
金太郎の領域内。
そこに突如として出現したのは、黄金の炎を身にまとう鳥獣系モンスター竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉。
動揺している木村を見て、金太郎が口を開いた。
「これこそが、俺の〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉のスキル効果だ」
「ど、どういうことだ……?」
混乱する木村に、金太郎が〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉のスキル効果の詳細を説明した。
竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉。
金太郎の持つ飛車〈黄金の不死鳥〉の進化形態であるランク6の最上級モンスター。
そのスキルは『竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉がスキルを発動した状態で捕縛された場合、そのターンのエンド時に相手のスタンバイゾーンから自軍領域内の任意のマスに、進化状態のまま強制的に蘇生召喚する』というものだ。
「そ、蘇生……召喚だと……⁉」
驚きを隠せない木村は、のけ反らせた身体を震わせている。
「まあ『スキル発動後に捕縛されること』が条件だから、相手の捕縛宣言に合わせてカウンターで使わないとあまり意味ないけどな」
「なるほど……。それで僕の捕縛宣言を待っていたというわけですか……」
さらに金太郎の口から竜王〈ゴールデンフェニックス・リバイブ〉の詳細が明かされた。
1回のスキル発動に対して、蘇生できるのは1回まで──
それを聞いた木村に、わずかな期待が生まれた。
「それならば……あと1回使わせるか、条件次第ではスキルを無効化してしまえば──」
そう木村が発言した時だった。
「ちなみに──」
木村の発言にかぶせて、金太郎が驚愕の事実を口にした。
「──スキルの上限回数は……7回だ」
「な…………7回、だと……⁉」
木村を絶望という名の感情が襲う。
金太郎の顔には、勝利を確信したかのような不敵な笑みが生まれる。
そして──
金太郎の隣で将角がぽつりとつぶやいた。
「勝ったな」




