第三十三話「共鳴心理」改稿
◇ ◆ ◇
飛鳥たちの偵察を途中で切り上げて、選手控室で次の試合に向けて打ち合わせをしている金太郎と将角。
しばらくすると、控室のスピーカーから第1回戦の前半戦が終了したという旨のアナウンスが流れてきた。
続けて、後半戦に出場する選手たちに準備を促す指示が伝えられる。
「いよいよだな」
「ああ」
アナウンスに意識を集中させる金太郎たち。
控室で待機していた選手たちの視線も、一斉にスピーカーのほうへ向けた。
アナウンスによる概要の説明は数分ほどで終わり、次々と選手たちが控室をあとにしていく。
「……さて。それじゃ、そろそろ俺たちも行くか」
「ああ。まずは初戦だな」
ふたりが控室を出て、試合会場のほうへ通路を歩いていると、目の前から飛鳥を従えて角田が向かってきた。
「……お? 今からっすかあァ、御堂せんぱァい⁉ まァ、負けないように頑張ってきてくださいねェ!」
「……心にもないこと言うなよ!」
「そんなことないっすよォ」
第1回戦を勝利した余韻からか、角田の言動には余裕が見え隠れしている。
今から試合がある金太郎たちにとって、ふてぶてしい態度で絡んでくる角田は、うっとうしいことこのうえない。
「そんなヤツ無視して、さっさと行くぞ! 金太郎」
角田に翻弄され気味の金太郎を、将角が半ば強引に連れていく。
それでも背後から、大声で金太郎を煽り続ける角田。
「せんぱァあああイィ! オレ様たちが観客席から観察しててやっからあァ! せいぜいダセェ負け方はすんなよなァアアア!」
角田の癇にさわる声が、通路の壁に反響して金太郎たちを襲い続ける。
いつまでもまとわりついてくる角田の声に反応して、ついチラリと背後を確認した金太郎。
そこには、まるで恋人同士のように立つ角田と飛鳥の姿があった。
「くそっ……!」
「いちいち見るな……金太郎! 聞き流せ!」
金太郎は、なんとかメンタルを維持しながら、角田の耳障りな声から逃れるように、ひたすら早足で会場を目指す。
しばらくすると、通路の先にわずかな明かりが見えてきた。
「出入口だ」
将角がつぶやいた。
ふたりは光を目指して歩く。
見えてきたのは、大きな観音開きの扉。
将角がその扉を開けると、眩しいほどの光が金太郎たちを包んだ。
同時に、ふたりを出迎えたのは観客たちの大歓声。
プレイヤー視点での光景に感動しながらも、どことなく緊張がにじみ出ている金太郎。
「き、緊張するぜ……」
気後れしている金太郎に気合を入れるため、将角が怒鳴りつける。
「しっかりしろよ! てめぇ、この俺と組んで負けるなんて許さねぇからな⁉」
「わ……わかってるよ」
将角に怒られて、少しムスっとする金太郎。
ふたりは指定のプレイヤー盤の前に到着すると、左に金太郎、右に将角が陣取った。
周囲の様子を確認してから、すぐにプレイヤー盤にモンスターユニットを配置し始める将角。それを見て、金太郎も慌てて将角に続く。
相手側のプレイヤーたちは、じきに準備が完了しそうだ。
各のプレイヤーの状況は監視スタッフが常に確認しているが、それでも各自準備が整った時点で手を挙げるように指示されている。
最初に相手プレイヤーの2人が手を挙げて、続いて将角が手を開けた。
最後に金太郎が手を挙げた時点で、全プレイヤーの準備が整ったことになる。
しばらくすると、試合の開始を示唆するアナウンスとともに、大きな機械音が会場全体に鳴りひびいた。
同時に中央のレイドフィールドと、それぞれの各プレイヤー盤に光が走りはじめる。
そしてレイドフィールド全体が、轟音とともに激しく発光しながら、それぞれのマスのなかにモンスターたちの立体映像が次々と現れはじめた。
そこには将角の〈ダークネス・ドラゴン〉をはじめ、各プレイヤーたちが配置したいろいろなモンスターの姿が確認できる。
プレイヤーたちが配置したすべてのモンスターが出現すると、アナウンサーの口から試合開始の合図が告げられた。
『それでは、第1試合の後半戦! 『御堂金太郎・皇将角ペア』対『中沢孝弘・木村亮ペア』の試合を開始します!』
割れんばかりの歓声が、会場全体を包み込む。
「──まずは俺のターンだ!」
1ターン目は将角。
歩兵〈猛毒のヒュドラ〉を1マス前進させてターンを終えた。
次のターンは中沢だ。
将角と同様にスキルは使わない。通常行動権で歩兵〈ゾンビ犬〉を1マスだけ移動させてターンを終えた。
そして金太郎のターン。
「よし……俺のターンだ!」
久しぶりのクロスレイド大会ということもあるが、今回は絶対に負けられない特別な事情があるせいか、やや硬い表情をしている。
闘志を失っているというわけではなさそうだが、やや緊張している様子がうかがえた。
「おい、金太郎! 大丈夫……楽しんでいこうぜ!」
金太郎に気を配る将角。
将角のフォローもあってか、金太郎の顔に笑顔が浮かぶ。
「ああ……わかってる! いくぜ……俺は歩兵の〈ブラッド・スライム〉を1マス前進させてターンエンドだ!」
最後は相手のプレイヤーである木村のターンだ。
木村も前の3人に習って、スキルは使わないようだ。
「僕もスキルは使わずに、歩兵〈三尾のきつね〉を1マス前進させるだけにしておきますよ」
これで試合の当事者である4人が、全員1回ずつプレイしたことになる。
以降は将角のターンに戻って、同じ順番でターンを消化していく。
少なくとも1周目は、全員がスキルを温存して消化したわけだが、次のターンからもスキルを使うプレイヤーは現れず、地味なターンが続いていた。
あるタイミングで、木村と将角が煽り合う。
「……なかなか動きませんね」
「そりゃそっちだっていっしょだろう?」
ここから、さらに数ターン──
お互いに陣形を整えながら、探り合いのターンが続いていた。
それぞれの思惑が陣形となって形成されてきたところで、真っ先に動いたのは将角だった。
「──俺のターン! 俺は〈おしゃれなペルシャ猫〉のスキルを発動するぜ! 自軍の歩兵1体を選んで1マス前進させる! 俺は〈天に吠える狼男〉を選択だ!」
「いよいよ、来ましたか……!」
スキルを発動した将角に、警戒心を強める木村。
将角は〈天に吠える狼男〉のユニットを手にとったあと、フィールドには置かずに、そのまま言葉を続けた。
「──さらに俺は、行動権も使うことで〈天に吠える狼男〉を2マス分前進させるぜ!」
「そう来ましたか!」
「俺は、木村の歩兵〈オオガネコムシ〉を捕縛して進化召喚だ!」
木村の領域内にいた歩兵〈オオガネコムシ〉を捕縛して、将角の歩兵〈天に吠える狼男〉が進化する。
「進化召喚──現れろ! 〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉!」
進化歩兵〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉。
将角が所有するランク3の進化モンスター。
歩兵としては強力なモンスターで、子供のころから将角が愛用していたモンスターでもある。
「……進化歩兵のくせに、なかなか強力そうなモンスターが出てきましたね」
木村の顔が少しだけ歪んだ。
だが将角の攻撃はまだ続く。
「まだいくぜ! 俺は〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉のスキルを発動! このスキルは、フィールド上のモンスター1体を選択して発動できるスキルだ! 俺は金太郎の〈黄金の不死鳥〉を選択して発動する!」
将角は〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉のカードを相手に見せながら、スキル内容を口頭で伝えていく。
「〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉をゲームから除外して、選択した〈黄金の不死鳥〉を〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉が元いたマスへと転移させる!」
結果──
木村の領域内へ侵入した将角の進化歩兵〈ヘブンズリー・ワーウルフ〉はフィールド上から姿を消して、代わりに金太郎の金将モンスター〈黄金の不死鳥〉がそこに姿を現したことになる。
将角が金太郎の目を見つめながら問いかける。
「次のターン……頼めるか?」
「ああ、任せてくれ!」
将角の問いに、ハッキリ答える金太郎。
将角は目を閉じて、少しだけ笑みを浮かべながら言った。
「……俺は、これでターンエンドだ」
将角は自分の戦術の続きを、金太郎に託すつもりで質問したのだ。
その問いに答えた金太郎の表情は、自信に満ちあふれていた。
今の金太郎が、将角自信の頭の中にある戦術的意図を読み取って、言葉を交わさずとも実行できるのか──
将角は、それを確認したのだ。
そして結果的に、将角は金太郎に託した。
空気がざわつく。
そこには不敵な笑みを浮かべて立つ、かつての金太郎の姿があった。




