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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第三章 黄金竜覚醒篇
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第三十話「取引成立」改済

「そ、そのドラゴンが手に入いればァ……! オレ様はドラゴン3体持ちィ……! しかも2体は角行と飛車ァアアア……!」


 角田かくたは、将角まさかどの〈ダークネス・ドラゴン〉が自分のモノになったことを想像して、思わず邪悪な笑みを浮かべながら妄想を口にした。

 だがすぐ現実に戻って、誤魔化すように軽く咳払いをする。


 そして角田は、神妙な面持ちで考えるフリをしてから言った。

「ま、まあ……。確かに角行のドラゴンは、そこそこ魅力的っすよねェ……。そのドラゴンを賭けるなら、こっちも〈ゴールド・ドラゴン〉を賭けましょ」


 あくまで自分に有利な条件で──

 それが角田のモットーだ。


 いくら喉から手が出るほど欲しくても、相手に悟られないようにする。角田の得意分野ではあるが、すでに彼は失態を犯してしまった。それは、自分が〈ダークネス・ドラゴン〉に興味があることを、先ほど態度で示してしまったことである。


 なんとか冷静を装って、可能な限り自分に有利な条件へ持ち込もうとする角田。

 だが、将角もそこは引かない。


「ふざけんな! こっちは〈ダークネス・ドラゴン〉を含めた、俺と金太郎きんたろうのモンスターを全部出すって言ってんだ! 〈ゴールド・ドラゴン〉だけじゃ釣り合わねぇだろ⁉」

「はァアアア⁉ 所詮そっちは〈ダークネス・ドラゴン〉だけェ! ほかはゴミしかないだろうがァアアア!」


 あくまで角田は〈ダークネス・ドラゴン〉にしか興味がないという言い分だ。

 それを聞いた将角が、自分のモンスターを角田に見せた。もちろんスキルの漏洩を防ぐため、カードの一部は隠している。

 

 金太郎のモンスターは、すでに角田に見られている。

 だが一部新しいユニットが編成されていたため、同じようにスキルがわからないようにして角田に見せた。


 角田はゴミと言ったものの、金太郎たちのドラゴン以外のモンスターにも当然魅力を感じている。スキルはわからずとも、おそらく強いのだろうという確信めいたものもあった。


 だが、それでも今の角田にとっては『いかにお得に〈ダークネス・ドラゴン〉を手に入れられるか』のほうが重要だったのだ。

 必死で〈ダークネス・ドラゴン〉以外には、極力興味を示さないように努めていた角田。

 しかし角田は、金太郎や将角のモンスターを眺めているうちに、全部自分のモノにしたいという欲求が抑えきれなくなっていた。


「た、たしかに……ほかのユニットもそれなりに悪くはないっすよねェ……? でもオレ様はリスクは負わない主義なんでェ……。ぶっちゃけ〈ダークネス・ドラゴン〉さえ手に入ればいいんすよォ」

「そんな、てめぇに都合の良い話は却下だ。俺は全賭けじゃなきゃ〈ダークネス・ドラゴン〉は出さねぇからな」


 将角も引く気はない。

 意地でも〈ダークネス・ドラゴン〉が欲しい角田は、なかなか思い通りにならない状況に、その醜い顔を歪めた。


 将角が一気に畳みかける。

「てめぇがいくら駄々をこねようが、こっちの意思は変わらねぇ! この〈ダークネス・ドラゴン〉が欲しけりゃ、お互いに全賭けだ!」

「全賭けっつってもォ……。そっちはドラゴン1体、こっちは2体。そもそも釣り合ってないっしょオ?」


 角田の言い分は正しい。

 クロスレイドにおけるドラゴンは、強さにおいても、希少性においても、ほかのモンスターと比較にならないほどの価値がある。

 いくら金太郎たちのモンスターを大量に積もうが、ドラゴンが1体少ない時点で張りあうのは難しい。

 しかもそれに加えて、金太郎たちは飛鳥と彼女から奪ったユニットも、角田に要求しているのだ。


 仮に、将角の希望している全賭けを比較した場合、角田のセットと飛鳥のセットが、ほぼ同等の価値だとして──

 残りの〈ゴールド・ドラゴン〉と飛鳥を、金太郎のセットだけで要求していることになる。

 それでも譲ろうとしない将角に、イラつく角田。


「言っときますけどォ……。オレ様は別に賭けなんてしなくてもいいんすよォ? 立場わかってますゥ……アンタら?」


 角田は手法を変えて、飛鳥を盾にしてきたのだ。飛鳥に気づかれないように、死角から彼女へ視線を向けて、金太郎たちに話しかける。

「でもアンタらは、そうじゃないっすよねェ? ……ねェ⁉ オレ様に賭けに承諾してもらわないと困るんでしョ……? ねェエエエ⁉」


 確かに金太郎たちのセットだけでは、いくら全部出そうとも、要求するすべてと釣り合うほどの価値はない。

 だが──

 飛鳥も、彼女のユニットセットも、金将〈ゴールド・ドラゴン〉も、何もかもすべて理不尽に奪われたモノなのだ。


 それを、元から自分のモノかのように口にして、さらに強欲な要求をする角田。

 ついに我慢の限界に達した金太郎は、角田の胸ぐらをつかんで大声で怒鳴りつけつた。

「角田ぁああああああっ! おまえはっ……! おまえはぁああああああっ!」


 そして金太郎が角田を殴ろうとした、その時──


「相変わらず、暴力に訴えるのが好きなのね、御堂くん! ──最っ低!」


 飛鳥が両手を広げて、角田を護るように乱入してきた。


 かつてのトラウマが金太郎を襲う。

 心の整理をつけてきたつもりだったが、さすがにつらそうな金太郎。


 すると今度は、将角が金太郎を庇うように立ちはだかり、飛鳥を非難した。


「話がややこしくなるから、姉貴は出てくんな!」

「なによ!? 話をややこしくしてるのは、あんたたちのほうでしょ⁉」


 とうとう始まった姉弟喧嘩。

 金太郎は将角の後方で、困ったような顔をしてオロオロしている。

 一方、角田は飛鳥の背後で、気持ち悪い笑みを浮かべていた。


 飛鳥が怒鳴る。

「……だいたいね! あたしを賭けるとか、あたしを助けるとか、意味わからないいんだけど……⁉」

「うるっせぇ! 姉貴は黙ってろ!」

「なによっ⁉ あたしは正男まさおといっしょにいたいだけなの! 邪魔しないでよ!」



 将角と飛鳥が姉妹喧嘩しているあいだ、何かを考え込んでいた金太郎が大声を張り上げた。


「──角田ぁ!」


 将角たちの喧嘩が止まる。

 そして覚悟を口にする金太郎。


「もし俺たちが負けたら──。俺は……もう今後おまえに近づかない。なにも言わない。もちろん飛鳥のことも────」

 さらに金太郎の言葉は続く。

「──だけど俺たちが勝ったら! そしたら飛鳥も……飛鳥のモンスターも……ぜんぶ返してもらう! その上うえで飛鳥自身が、おまえといることを望んだら、俺はもう止めない……! 何も言わない! ……それだったらどうだ⁉」


 飛鳥の背後で、角田が不気味に笑う。


「それならオッケーっすよォ! ただしィ……おまえらが負けたら、そこの赤髪のヤツも今後いっさい飛鳥に近づくことを禁ずるゥ!」


 この角田が追加した条件を、すぐに受け入れる将角。

「……ああ。それでいいぜ。もし俺たちが負けたら、俺も金輪際てめえが姉貴にちょっかい出すことに口出しはしねぇ」


 金太郎サイドが賭けるのは、ふたりが所持するモンスターすべて。そして、飛鳥への接触禁止。

 角田サイドが賭けるのは、飛鳥から奪い取ったモンスターすべてと〈ゴールド・ドラゴン〉。そして──


「──飛鳥の条件、絶対に約束は守ってもらいますからねェ……⁉」

「わかった。約束する」

「俺もだ」


 しつこく釘をさしてくる角田の言葉に、素直に答える金太郎たち。

 余計なことを口にして、せっかくのチャンスをふいにするわけにはいかなかったのだ


 そして取引は成立。



 ちょうど金太郎たちの交渉がひと段落したところで、まるで図ったかのように壁に設置されているスピーカーからアナウンスが聞こえてきた。


『おまたせしました。これよりトーナメントのリストを発表します。控室にあるモニターに映しだされますので、おそれいりますが各自でご覧ください』


 アナウンスを聞いた選手たちが、わらわらとモニター前に集合する。


『第1回戦、前半の部は午前10時からとなっております。時間に遅れた場合は失格となりますので、前半の部に試合がある選手は遅刻厳禁でお願いいたします』


 直後、モニターにトーナメント戦のリストが映しだされた。


『第1回戦の持ち時間は、各試合、ペアで計1時間30分ずつ。また、第1回戦は2つの会場を使用しますので、会場を間違えないようにお願いいたします』


 各選手たちはモニターに映しだされたトーナメント表をみて、それぞれの会場と対戦相手を確認している。


『なお第1回戦は、それぞれの会場で2回に分けて行われます。第2ブロックと第4ブロックに割り当てられた選手たちは、後半の部となりますので時間になるまで待機していてください』



 それからも注意事項などを含めたアナウンスが続いていたが、第1ブロックと第3ブロックの選手たち8名は、間もなく試合が開始するため、途中で控室をあとにしていた。

 一方、第2ブロックと第4ブロックに割り当てられた選手たちは、気が抜けたような笑顔になって呑気に控室で雑談を始めている。



 金太郎たちは第4ブロックで、角田たちが第1ブロック。

 

 角田は控室を出るまえ、金太郎たちに宣戦布告をする。

「どうやらオレらとアンタらがあたるのは決勝戦みたいっすねェ。途中で脱落したら賭けの話はナシにするんでェ、せいぜいがんばって勝ち上がってきてくださいねェ! ……御堂せんぱァい」


 まるで金太郎たちを煽るように挑発してから、飛鳥に声をかける角田。

「よォし……いくぞォ、飛鳥ァ!」


 まるで飛鳥を従えているかのような命令口調。

 角田は飛鳥の肩を抱きながら、悠然と控室をあとにする。


 その様子を見送る金太郎たちの顔は、怒りに満ちあふれていた。


「あれが例の角田か。マジでムカつくやろうだな」

「ああ。絶対に負けられないぜ!」



 第4ブロックになった金太郎たちは、しばらく待機である。


 角田たちが控室を出ていったあと、金太郎が申し訳なさそうな顔をしながら言葉を口にした。


「……将角。最後、勝手に決めちゃって悪かったな」

「いや……。どうせもうあとがなかったんだ。しょうがねぇさ」


 なんとか賭けさせるところまでは持ち込んだが、安心できる状況ではなかった。


 角田が約束を破る可能性。

 そして──

 仮に勝ったとしても、飛鳥が正気に戻らなければ意味がないこと。


 ほかにも問題は山積みだ。


 将角が言う。

「とりあえず、今はヤツに約束させただけで上々だ」

「……そうだな」

「ヤツの試合、観にいくか?」

「ああ。行こう」


 金太郎たちは角田を偵察するため、観客席へ足を向けた。

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