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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第三章 黄金竜覚醒篇
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第二十九話「駆け引き」改済

 ◇ ◆ ◇


 金太郎きんたろう将角まさかどは、選手の控室へ向かう通路を歩いている。目の前に見える壁まで、100メートルはありそうだ。


 つきあたりを右に曲がる。

 すると右手側に選手たちの控室が見えてきた。


 控室に続くドアの前に立つふたり。

 もういちど控室の入り口かを確認する。


 将角が言う。

「ここだな」


 続いて、金太郎が口を開く。

「よ、よし……開けるぞ?」


 金太郎は少し怖気づいている。

 すでに角田かくた飛鳥あすかが、室内にいる可能性があるからだ。


 どんな顔をして会うべきか──

 話しかけるべきか──

 いろいろなことが、金太郎の頭の中を駆け巡っている。


 覚悟を決めてドアを開ける金太郎。

 そこは20畳くらいはありそうな広めの部屋で、室内には細長い木目のテーブルがいくつか並べられていた。


 まずは部屋全体に目をとおして、周囲を確認する金太郎たち。

 各テーブルにはパイプ椅子が複数配置されており、すでに数名の選手たちが座っていた。

 みんな緊張感で、お互いを意識し合っているようだ。

 

 金太郎たちは、一番奥の空いている席に着席した。



 今日、ここで行われるのはクロスレイドのダブルス大会。その決勝トーナメントだ。

 選手は全部で16名。


 すでに控室にいる選手たちを数える将角。

 自分たちを含めて12名。


 ペアでの出場となっているため、あと2組──

 つまり計4名がまだ来ていない状態だ。


 角田と飛鳥の姿も見当たらない。


 将角が言う。

「まだ姉貴は来ていないようだな」


「ああ。でもそろそろ集合の時間だし、じきに現れ──」

 金太郎がそう言いかけた瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「……来やがったか⁉」

 将角の発言を合図に、ふたりの視線が同時にドアのほうへ向く。



 入ってきたのは角田と飛鳥。


 角田は飛鳥の肩に手をおいて、身体を必要以上に密着させている。

 飛鳥は飛鳥で、まったく嫌がっている様子もない。


「あ、飛鳥……」


 金太郎が苦悶の表情を浮かべた。

 なぜなら、これまでの飛鳥からは考えられない趣味の衣装を、彼女が身にまとっていたからだ。しかも角田とペアルック。


 すると鬼のような形相をした将角が、角田に向かって怒鳴りかけた。


「おい! そこのてめぇ!」

「……おほ?」


 将角の声に反応する角田。その視線が金太郎を捉える。

 すると角田はニタリと不気味に笑い、飛鳥の肩においていた手を腰のほうへとすべらせた。

 そして金太郎に見せつけるかのように、飛鳥の身体を自分のほうへ抱き寄せる角田。そのまま金太郎たちのほうへ向かって歩いてくる。


 角田は金太郎たちの前まで来ると、さらに強く飛鳥を抱き寄せながら、嫌味を口にした。


「……なんだァ、御堂みどう先輩じゃねェすかァ? よくエントリー出来ましたねェ? そっちの赤い髪のヤツは、新しいパートナーッすかァ?」

「角田……!」


 金太郎の顔が強張る。


「つーかァ、驚きっすよォ。まさかあの状況からエントリーしてくるなんてェ。しかもォ決勝トーナメントまで勝ち上がってくるとか、思ってもいませんでしたからァ……」


 依然として、白々しい態度をとる角田。

 金太郎は、角田の術中に嵌らないように努めていたが、この半年間に蓄積された怒り、そして変わってしまった飛鳥を目にした焦りから、思わず感情に任せて角田に手を出しそうになった、その時──


 先に動いたのは将角だった。

 角田の胸ぐらをつかみ、その顔面スレスレまで顔を近づける将角。


「──おい! てめぇが角田か? うちの姉貴に手ェ出してタダで済むと思うなよ⁉」


 将角の鋭い視線が角田を直視している。

 角田は、その迫力に圧倒されて一歩退いた。


「あ、姉貴ィ……? なにィ、アンタぁ……飛鳥の弟ォ?」

「んなこと、てめぇの知ったことか! それより覚悟は出来てんだろうなァ……あぁんっ⁉」

「うひィ……⁉ な、何この危ねえヤツゥ……⁉」


 自分が将角に対して恐怖したことを悟られないように、平静を装っているつもりの角田。

 だが怯えている本心は隠しきれておらず、それはヘラヘラとした気持ち悪い笑みとなって、角田の顔に現れていた。


 続けて、金太郎が角田に怒鳴る。

「なんでおまえが飛鳥を呼び捨てにしてるんだよ⁉ 先輩に向かって失礼だろ……!」

「はあァ? オレ様と飛鳥はパートナーなんだから、呼び捨てなんて当然ッしょオ?」

 金太郎を小馬鹿にするようにあしらう角田。


 ふたりが角田に殺意にも似た視線を向けていると、そこに飛鳥が割り込んできて言った。

「ちょっと、ふたりともやめて! 正男まさおをイジメないでよ⁉」

「あ、飛鳥ァ……。アイツら怖いよォオオオ……」


 飛鳥は角田を庇うように両手を広げて、金太郎たちの前に立ちはだかる。


 そして飛鳥の背後に隠れて、身体を震わせる角田。しかし角田の表情には、行動とかみ合っていない得体のしれない笑みが浮かんでいた。


 その様子に困惑して後退りする金太郎に対して、将角が一歩前に出て飛鳥に言いかえす。

「なに言ってんだ……姉貴! どう考えても被害者は金太郎のほうだぞ⁉ 頭イカれちまったのかよ!?」

「頭おかしいのは、あんたたちでしょ! ふたりで正男を脅迫して……どういうつもりなの⁉」

「ちっ……! やっぱ聞く耳持たねぇか。面倒くせぇことになったぜ」


 今ここで飛鳥を説得するのは不可能だと踏んだ将角は、飛鳥を払いのけて、ふたたび角田の胸ぐらをつかむ。

 そして、ひとつの提案を口にした。


「おい……角田! 俺たちと賭けをしろ! もし俺たちが勝ったら金太郎の〈ゴールド・ドラゴン〉を返してもらう! それから、てめぇが奪い取った姉貴のモンスターも全部まとめて、姉貴ごと返してもらうからな!」


 まず一方的な要望を口にする将角。交渉における作戦のひとつである。

 当然、角田は反論する。


「うひぃイ……⁉ 暴力は良くないっすよォ! それに……こっちだけリスクある賭けって、おかしいっしょオ? だったらさァ……それに見合うモノを、そっちも賭けてくれるんすよねェ?」


 角田の言い分はもっともだ。

 だが将角も、それは計算している。


 お互いの思惑が交錯し合い、駆け引きが始まった。


 少し考えるような素振りをする将角。

 故意的に絶妙な沈黙を作ってから、賭けの条件を修正して提示する。

「だったら、こっちが負けた場合、俺が持ってる最強のユニットセットをまるごとくれてやるよ。それでどうだ?」

「はァ? あんたのユニットセットォ……? そんなもんいらねぇっすよォ!」


 さすがに角田も、この誘いには乗らない。

 角田にとっては、将角のユニットセットの内容がわからないのだから当然だろう。


 続けて金太郎が言う。

「だったら俺のユニットセットも全部つけるぜ……!」


 だが、これにも角田は乗り気ではない。


「もう〈ゴールド・ドラゴン〉が入ってないそんなゴミセット、いるわけないっしょオ!」


 全国大会の決勝トーナメントに勝ち上がってきた実力者が持つユニットセットといえば、間違いなく強いモンスターが多いため、一定以上の魅力や価値はある。


 だが角田にとってのそれは、すでに奪い取った〈ゴールド・ドラゴン〉および飛鳥、さらには飛鳥の持っていたモンスターと比べたら、とるに足らない魅力だということだ。


「確かに〈ゴールド・ドラゴン〉は、もうおまえに奪われちまったが、それでも俺が使っているセットのモンスター全部だぞ⁉」

 金太郎が声を大にして訴えた。これに将角も続く。

「ついでに俺のモンスターも全部出すっつってんだろ。なにが不満なんだ、てめぇ?」


 だが角田は、あくまで自分のほうが優位な立場にいるのだとアピールする。


「笑わせないでくれますゥ? ()()()()〈ゴールド・ドラゴン〉に張りあえるモンスターなんて持ってねえっしょ……あんたらァ?」


 つまり角田は、金太郎たちの全モンスターなど〈ゴールド・ドラゴン〉1体だけにすら釣り合わないと言いたいのだ。

 それに加え、金太郎たちが要求しているのは、飛鳥が持っていたモンスターすべてと、彼女自身の返還。

 角田が従うわけがない。


 すべてを賭けると言ったにも拘わらず、ピクリとも反応しない角田に焦る金太郎。


「角田、おまっ……!」

「──待て、金太郎!」


 だが──

 金太郎の言葉にかぶせて、将角が止める。


「将角……?」

「てめぇは少し黙ってろ……」


 しばらく無言のプレッシャーを角田に向ける将角。


 そして将角は、自らのセットボックスの中から『あるモンスター』のユニットとカードを取りだして角田に見せつけた。


 それを目にした角田の表情から、みるみる余裕が消えていく。


「そ……そのモンスターはァアアア⁉」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる将角。

 右手に持ったそのモンスターのカードを、角田にチラつかせながら言葉を口にした。



「欲しくねぇか? ────俺の〈ダークネス・ドラゴン〉」



 将角は、ここまで計算していたのだ。


 おそらく角田は、単純な揺さぶりには引っかからない。

 だから最初のやりとりは、すべてフェイク。


 その直後に『角行のドラゴン』という魅惑的なエサを提示することが、将角の作戦だった。


「はァああッ……⁉ あッ……あッ……あッ……⁉ そ……それはァ…………まさか……か、角行の……ドラゴン……⁉」


 一般の将棋でも、やはり魅力的な駒というのは飛車と角行だろう。

 クロスレイドにおいては、スキルの能力のほうが重要なことも多いが、それでも飛車と角行が人気のユニットであることに変わりはない。


 一転して角田の表情は、卑しい笑みに変わる。

 そして、まるで興奮した獣のような体勢になって、将角がぶら下げたエサに食いついてきたのだ。


「あ、あんたァ角行のドラゴンなんて持ってるんすかァ……⁉」

「悪くねぇ条件だろ? いいな? おまえが負けたら、姉貴と姉貴のユニット全部、それから金太郎の〈ゴールド・ドラゴン〉を返してもらう!」




 駆け引きの主導権が、金太郎たちに傾き始めた。

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