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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第一章 英雄の器篇
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第二話「ルミナスドラゴン・リュミエール」改済

「いくぜ、飛鳥あすか! 俺のターン!」


 金太郎きんたろうは手始めに、角行の右斜め前にある歩兵モンスター〈ブラッド・スライム〉のユニットを手にとった。


「俺は〈ブラッド・スライム〉を1マス前進させてターンエンドだ!」


 金太郎の狙いは、序盤でお互いの角行モンスターを交換しあって、スタンバイユニットとして使えるようにしようという初歩的な暗黙の了解における提案だ。だが、それに応じるかどうかは相手次第である。

 ちなみにクロスレイドでは、将棋で言うところの持ち駒のことを『スタンバイユニット』と呼んでいる。


「なぁに? 角行交換したいの? イヤよ? あたし金ちゃんが使っている角行モンスターのスキル効果覚えていないもの」

 そう言って飛鳥は、飛車の前にある歩兵モンスター〈ハッピー・ラビット〉を前進させてターンを終えた。


 開始まもなく角行を交換する行為は、将棋でも『角換かくがわり』と呼ばれ多用されている技だ。

 だがクロスレイドの場合、同属性モンスターでもスキルによる能力差が存在するため、交換を拒否されることのほうが多い。


 もちろん角行モンスターをスタンバイユニットにできるメリットはあるため、必ずしも拒絶されるわけではないが、ほかのモンスターとのスキルシナジーや自分の角行モンスターの重要性を考慮したうえで、交換が有効だと判断された場合のみ成立することが多いようだ。

 たとえばスキルなしの角行モンスターを使用しているプレイヤーにとっては、交換は何のデメリットにもならない。

 よってクロスレイドにおける角行の交換は、交換を要求される側が相手の角行モンスターのスキルを知っているか、お互いに相手のスキルの内容を対戦中に確認し合える状況でプレイしている場合に限って、初めて検討される戦術とも言える。

 

 特に公式大会などのレイド・フィールドを使用した本格的なバトルにおいては、プレイ中に相手モンスターのスキル内容を相手に確認することは禁じられている。

 つまり例外を除いて、ゲーム開始時に相手モンスターのスキル内容を知らない時点で、角行モンスターを交換するメリットはあまりないのだ。


 もちろん相手の角行モンスターのスキルが厄介だと判明していれば交換したいと感じるだろうが、その場合は相手が応じてくれないだろう。

 また、自分が相手の角行モンスターのスキルを知らない場合、交換を行えば『相手だけが自分の角行モンスターのスキルを知っている可能性』というリスクだけが少なからず生じるため、結果的にスキルなしのモンスターを使用しているなどの特殊な状況でない限り、角行モンスターの交換は百害あって一利なしということになるのだ。

 これがクロスレイドで角行交換があまり行われない主な理由である。



 飛鳥が角行交換に応じなかったことに不満を感じた金太郎が愚痴を口にする。

「なんで俺の角行モンスターのスキル効果を覚えてないんだよ⁉ 毎日のように対戦しているのに!」


 だが、この金太郎の言葉が飛鳥の逆鱗に触れてしまった。

 まるでいたずらをした子供が親に叱られるがごとく、飛鳥から説教を受ける金太郎。

「そういうの、よくないよ? 金ちゃん」

「……な、なにが?」

「だって大会とかだと知らない人と対戦することになるでしょ? 相手のモンスターのスキルなんてわからないのが普通じゃない」

「うっ……」

「あたしが覚えてるとか覚えてないとか、そういうの以前に気持ちがたるんでる証拠よ」

「ううっ……」

「普段から本番を意識してプレイしていないと、大会で優勝なんてできないんだから!」

「うううっ……」


 飛鳥の正論によって論破された金太郎は、完全に沈黙してしまった。

 さらにトドメと言わんばかりに、早く続きをやるよう急かされる金太郎。


「わかってるよ……くそっ!」


 完全に飛鳥にペースを持っていかれた金太郎が、ふてくされたような表情でゲームを再開させる。

 それから、しばらくは地味な展開が続いた。

 ときにはスキルを利用したり、ときにはスキルを温存したり、それぞれがそれぞれの陣地を確保しながら、お互いに少しずつ相手の領域へと迫っていく。

 けん制し合いながら、相手の隙をうかがっているのだ。


 そして金太郎と飛鳥の駆け引きは、終盤に差しかかったあたりで急激に変化をみせることになる。


「あたしのターン! あたしは〈ルミナス・ドラゴン〉のスキルを発動する! スキルを発動したターン〈ルミナス・ドラゴン〉に角行の行動範囲が付加されるわ!」



 飛車〈ルミナス・ドラゴン〉──

 飛鳥の持つエースモンスター。


 通常の行動範囲は将棋の飛車と同様で、縦か横であれば何マスでも進むことが可能となっている。一方で角行の行動範囲といえば、斜め方向に何マスも進むことが可能というものだ。

 つまり飛車のモンスターである〈ルミナス・ドラゴン〉に、角行の行動範囲が付加されるということは、全方向に何マスでも展開できるということに等しい。



「まずい!」

 思わず金太郎が叫んだ。


「もう遅いわ!」

 スキルにより万能な行動範囲を手に入れた〈ルミナス・ドラゴン〉のユニットを手に取る飛鳥。


 金太郎は小さい頃からずっと飛鳥とクロスレイドをプレイしてきた。そのため飛鳥が切り札としているエースモンスター〈ルミナス・ドラゴン〉のスキル内容については、何度も見て知っていたはずなのだ。

 それなのに反応が遅れた。飛鳥のモンスターの中で、もっとも厄介なモンスターだと警戒していたにも関わらずだ。


 金太郎は悔しそうな表情を浮かべた。

 金太郎の反応が遅れた背景には、やはりスキルというクロスレイドの特性が少なからず影響しているのは間違いない。

 自分および相手のモンスターの位置関係。そして各モンスターのスキル効果と発動タイミング。

 頭でわかってはいても、長時間それらすべてを認識しつづけることは思いのほか困難なのだ。


 盤面は毎ターン変動する。

 常に盤上の変化に合わせて戦局を把握しつづけ、スキルによる変化も可能な限り予測したうえで、最悪の展開を想定しながら盤面の流れを読む。


 金太郎は飛鳥の〈ルミナス・ドラゴン〉に対して、飛車の行動範囲だけではなく、角行の行動範囲も想定したうえで考えていたはずなのだ。


 ほんの一瞬──

 角行の行動範囲への警戒が、わずかに緩んでしまったのだろう。一カ所だけ〈ルミナス・ドラゴン〉から斜めに向かう道筋に、小さな隙が生じていたのだ。

 それを飛鳥は見逃さなかった。


 モンスターたちの防衛線のすき間をくぐって、飛鳥の〈ルミナス・ドラゴン〉が金太郎の領域テリトリーへと到達した。



 『領域テリトリー』というのは、自分側と相手側のそれぞれ三段分。つまり、ゲーム開始時にユニットが配置されている範囲のことだ。

 クロスレイドでは、相手側の領域に侵入することで将棋の『り』と同様にモンスターを『進化しんか』させことができるのだ。



「あたしは〈ルミナス・ドラゴン〉を進化させるわ!」


 飛鳥は金太郎の銀将モンスター〈ベビー・サイクロプス〉を捕縛しつつ、金太郎の領域内に侵入。そのまま〈ルミナス・ドラゴン〉のユニットを手に持ったまま進化詠唱を口にした。



ひかり女神めがみがもたらすのは、燦爛さんらんたる六合りくごうきらめき。森羅万象しんらばんしょうのもとにあつまり、万物ばんぶつひかりとなって世界せかいにそのあいしめせ! 上下天光しょうかてんこう! 〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉!」



 飛鳥は詠唱を終えると〈ルミナス・ドラゴン〉のユニットを裏向きにして、もともと金太郎の〈ベビー・サイクロプス〉がいたマスへと指した。


 すると、これまでクロスレイド盤の上に投影されていた〈ルミナス・ドラゴン〉の立体映像が、その姿を〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉へと変貌させたのだ。


 飛鳥のエースモンスター〈ルミナス・ドラゴン〉が進化した姿──竜王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉。

 ホワイトを基調とした美しいドラゴン。全身のいたるところに控えめに入っているゴールドのラインが気品さをより際立たせている。エメラルドの瞳と金色の装飾が特徴的なドラゴンだ。

 将棋で飛車の駒が成ると竜王の駒に変化するように、飛車のモンスターである〈ルミナス・ドラゴン〉が進化した〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉の属性は竜王となる。



「くそ……! おまえの〈ルミナス・ドラゴン〉だけは進化させないように注意していたのに……」

 頭を抱えこんで後悔する金太郎。

 飛鳥は挑発的な笑みを浮かべて、強気な発言を口にした。

「悪いけど一気に決めさせてもらうから──!」

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