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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第三章 黄金竜覚醒篇
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第二十八話「それぞれの想い」改済

◇ ◆ ◇


 あれから半年──

 クロスレイド・タブルス大会の決勝トーナメント当日。


 金太郎きんたろう将角まさかどは予選を勝ち抜き、決勝トーナメント出場への切符を手に入れていた。


 すめらぎ家の前に、1台のワンボックスカーが停車する。

 運転席にいるのは銀子ぎんこ。助手席には金太郎。


 いっしょに戦う将角を迎えに来たのだ。



「ほら、金太郎。呼びに行ってきなさい」


 銀子に指示されて、金太郎は車を降り、皇家の玄関へと向かう。

 インターホンを押す金太郎。


 しばらくすると、玄関から将角が顔を出した。


「よう、金太郎。気持ちの整理はついているか?」

「ああ。やってやろうぜ、将角!」


 ふたりが玄関の外で言葉を交わした直後、家の奥から現れたのはけいだ。

 その姿を確認した金太郎が、手を上げて笑顔で声をかける。


「おはよう、桂!」

「おはよ。金太郎くん」


 そのまま玄関の外へ出てきて、ふたりと合流する桂。

 桂は銀子といっしょに、観客として同行する約束をしていた。

 そのため昨日は、将角の家に泊まっていたのだ。


「ボクは今回、観客席から応援する立場だけど、がんばってね、将角!」

「ああ、任せとけ!」


「金太郎くんも、がんばってね!」

「おう!」


 すると今度は、将角の母が玄関から登場した。

 すれ違いざまに金太郎に挨拶をしてから、銀子のもとへと向かう将角母。

 それに気づいた銀子が、車の窓を開けて挨拶をした。


「ご無沙汰してます。鳥子とりこさん」

「ひさしぶりね、銀子ちゃん。うちの将角のこと、よろしくね。──それから桂くんのことも」

「はい。わたしが責任をもってお預かりします」


 銀子は鳥子に軽く会釈をすると、車の運転席の窓から頭を出して、3人に声をかけた。


「ほら3人とも! 早く車に乗りなさい! 置いていくわよ!」

「えっ⁉ ちょ、待って……銀姉! 今、乗るから──」

「ふたりは、うしろの席に乗ってね」


 銀子に急かされて、慌てて車の助手席へと乗り込む金太郎。

 将角と桂は、銀子の誘導で後ろの席に乗り込んだ。


「銀子さん、久しぶり。今日はよろしく頼むよ」

「お邪魔します!」

「ほんと久しぶりよね、将角くん。桂くんもよろしくね」


 3人の乗車が完了すると、銀子は窓越しに鳥子と挨拶を交わした。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 そして、息子に声をかける鳥子。


「将角。頑張ってらっしゃい」

「ああ。サンキュ、おふくろ」


 鳥子が車から離れると、銀子は窓を閉め、車を発進させた。

 手を振りながら、見送る鳥子。


 こうして金太郎は、将角たちと合流し、銀子の運転で会場へと向かうのだった。


◇ ◆ ◇


 クロスレイド・ダブルス大会の会場へ向かう道中──


 車内では、この半年間で起こった出来事について、会話が繰り広げられていた。


「それにしても……飛鳥あすかちゃん。本当に来るのかしら? 学校にもあまり来なくなってたんでしょ?」

 銀子が心配そうに話した。


 返事したのは金太郎。

「ああ……! あいつは絶対に来るはずだ。角田かくたのヤツは、そのために俺から出場権も奪い取ったんだぜ?」

 金太郎は眉間にしわを寄せ、闘志をむき出しにしている。


 桂と将角も、深刻な表情を浮かべている。

「心配だよね……飛鳥ちゃん」

「……姉貴のやつ。そうは言っても最初のころは、3日に1回くらい家に帰って来ていたんだが──」


 金太郎とクロスレイドで勝負したあと、実家に帰って過ごしていたという将角。

 飛鳥がおかしくなってしまったことから、両親のことを心配して『姉の代わりに、せめて自分が元気な姿を』と考えて、いったん実家に戻ったらしい。

 ずいぶんと家を出ていたため、両親は喜んでいたようだ。


 この半年間、家にも学校にも、あまり顔を出していなかったという飛鳥。

 だがクロスレイド部にだけは、たまに出席していたらしい。


 これらの多くは、実家に戻っていた将角が証明している。

 また、飛鳥があまり学校に来ていなかったことは、同じクラスだった金太郎も把握していた。


 まだクロスレイド部員たちの誤解が解けないため、金太郎は部活に参加していなかったが、学校には顔を出すようになっていたのだ。

 ただ、あれからの金太郎は学校で友達と話すことはなくなっていた。

 もっともクロスレイド部員のクラスメートもいるため、学校に行くこと自体が億劫だったようだが──。


 ただ、ハッキリわかっていなかったのが、クロスレイド部における飛鳥の動向である。

 学校の出席が足りないことなどは、学校から両親のほうへ連絡が来たりしたようだが、そういった連絡が来ることがない部活の出欠席は、将角どころか両親ですら把握できていない状態だったのだ。


 桂の友人であるクロスレイド部員の田中。

 彼の情報だけが頼りだったのだが、桂が聞いた話によれば『飛鳥はクロスレイド部には定期的に参加していた』らしいのだ。


 つまり学校の授業には出席せず、部活にだけ参加していた──ということになる。



 将角の話──

 最初こそ数日おきに家に帰ってきていたが、少しずつ帰ってくる頻度は減っていったという飛鳥。ある日『もう帰らないから』と言って出ていったきり、一度も家には帰ってこなかったそうだ。

 将角が何度か説得を試みたが、まるで聞く耳を持たなかったらしい。



 将角が言う。

「……金太郎。あの姉貴の豹変っぷりは、あきらかにおかしいぜ」

「ああ。俺もそう思う。最初は俺が、なにか勘にさわること言ったせいかと思っていたんだけどな……」


 そこに桂が加わる。

「脅されているって感じでもなかったんでしょ?」

「ああ……。角田のやつ、飛鳥のいろいろな画像を見せて俺を脅してはきたけど、飛鳥自信が脅されているっていうわけでもなかったように思う……」


 当時の様子を思い出して、苦い表情に変わる金太郎。


 続いて将角が口を開いた。

「考えられるのは────」



 ──と、ここで銀子が将角の言葉を遮って、みんなに声をかけた。

「着いたわよ! ほら! 降りて、降りて!」


 車から降りた4人の視界に、野球スタジアム級の巨大な施設が映しだされる。

 埼玉県の南東部──

 さいたま市内にある『埼玉レイドスタジアム』だ


「ここが今年のダブルス大会の会場か……」

 銀子が会場を見上げながら、何かに浸るように独り言をつぶやいた。


 ダブルスのバトルが可能なスタジアムは限られており、この埼玉レイドスタジアムはそのひとつなのだ。

 銀子は、この会場で何度か試合をしたことがあったが、金太郎たち3人にとっては初めての会場である。


 4人は雑談をしながら、会場への入り口を目指して歩く。


「懐かしいわねぇ……。わたし、しばらくダブルスしていないから、ここに来るのもひさしぶりだわ」

 物思いにふける銀子。


 この銀子の言葉に疑問を感じた将角が質問した。

「銀子さん。今〝しばらくダブルスしていない〟って言ったけど、響香きょうかさんはどうしたんだ?」

「……ん? 響香? そうねぇ……。響香は────もうクロスレイドやってないみたいよ?」


 銀子は、笑顔でそう答えた。

 だが──

 その笑顔には、どこか陰りがあるようでもあった。


 ふたりの会話を横で聞いていた桂が、少し不機嫌そうな表情でつぶやいた。

「いいな、みんな……。ボクばっかり蚊帳の外で何かさびしいよ。みんなボクの知らない共通の話題がたくさんあるんだもの……」


 落ち込む桂を見て、慌てて将角がフォローをする。

「ご、ごめんな……桂! 俺、気がつかなくて……」


 するとそれを見ていた銀子が、桂の首に手をまわして、含み笑いをしながら耳元で囁いた。


「なぁに? 君ぃ……。将角くんにめっちゃ好かれてんじゃん。こんなにオロオロした将角くん見たの、お姉さん初めてよぉ?」

「え……? あ、あの、その……ボク……」


 桂は顔を真っ赤にして、縮こまってしまった。

 そんな桂の姿を目にして、暴走する銀子。


「やだぁ! なに、この子っ⁉ 超かわいい……! わたし……欲しいっ!」


 目がイッちゃってる銀子を見て、青ざめた顔をした桂が将角に抱きついた。

 将角は少しドン引きして、言葉を失っている。


 さらに、その一部始終を見ていた金太郎が、あわてて銀子を止めに入った。


「お、おい、銀姉っ……! やめとけって! 将角にぶっ殺されるぞ⁉」

「なんだと⁉ てめぇ! 人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ!」

「え? わたし、なにか将角くんに殺されるようなこと言ったかしら?」


「…………」

「…………」


「…………」



「……ぷっ! あはははっ!」

 収集がつかなくなって訪れた無言のひとときに、とうとう笑いを堪えきれなくなった桂が噴きだした。

 それを見た金太郎と将角も、お互いに目を向けあって安堵の笑みをこぼしている。


 すると銀子が優しい目をして、桂の頭をなでながら言った。

「ね……桂くん。わたしたちは、いっしょに観客席からふたりを応援しに来たんだから、まずわたしと仲良しになりましょ? ……ね?」

「ぎ、銀子さん……」


 銀子の言葉に感動して涙ぐむ桂。

 隣にいた将角も、桂の相棒として銀子に頭を下げた。


「銀子さん。桂のこと……よろしくお願いします」


「任せて。将角くん──」

 まるで菩薩のような瞳を将角へと向ける銀子。


 そして、続けて銀子はこう言った──

「もしかしたらぁ……。試合が終わるころには将角くんよりも、わたしのほうが桂くんと親密になっちゃってるかもしれないけどぉ……! そしたら、ごめんねぇ! 将角くぅん」


「──っ⁉」

 将角を得体の知れない不安が襲う。


 3人のコントのようなやりとりに、頭を抱えて沈黙する金太郎。


 将角は柄にもなく、とり乱している。

 あまり見ることのできない貴重な将角の表情。


「相変わらず、つかめない人だな……銀子さん……」

 そうつぶやく将角の肩を、金太郎の手がポンポンっと2度叩いた。そして、将角に語りかける。

「あんな感じだけど大丈夫だよ──銀姉は」


 将角も落ち着いた表情に変わって、金太郎に言葉を返す。

「そんなことくらい俺だってわかってるさ。さて──それじゃ、そろそろいくか? 金太郎」

「ああ。かならず飛鳥と〈ゴールド・ドラゴン〉を取り返してみせるぜ!」

 改めて決意を口にする金太郎。


 そうこうしているうちに、埼玉レイドスタジアムの前に到着した4人。

 金太郎と将角、銀子と桂。2人ずつのペアに分かれて向き合っている。



 最初に言葉を口にしたのは金太郎。

「それじゃ行ってくるぜ! 銀姉! 桂!」


 次に銀子が続く。

「がんばるのよ、金太郎。ちゃんと飛鳥ちゃんを取り返してきなさい」


 そして桂。

「将角。絶対に優勝してね。ボク一生懸命応援するから」


 最後に将角が言う。

「ああ。見ててくれ、桂。……よし! いくか──金太郎!」

「おう!」



 金太郎と将角は銀子たちに手を振ってから、一足先にスタジアムに入る。

 そして選手専用の通路に入っていった。


 一方、銀子と桂は、ふたりを見送ってから観客席へと足を運んだ。

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