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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
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第二十三話「赤髪の少年」改済

◇ ◆ ◇


 数分後。

 案の定ともいうべきか、金太郎はなすすべもなく角田に負けてしまった。


「……これで王手っすねェ! もうどこもないっしょ、逃げ道ィ? ねぇ? これはオレの勝ちっしょオ!」

「き、汚ないぞ……角田!」


 金太郎にとって、これは負けられない試合だった。

 だが角田の理不尽な脅迫に屈するしかなかったのだ。

 そうしなければ、取り返しのつかないことになってしまったかもしれない。


 どうしても許せない金太郎は、角田の胸ぐらをつかみ、殴りかかろうとした。

 だが、その時────……



 パァン!



「──っ⁉」


 痛々しい音が、あたりに響きわたった。

 ふたりのあいだに割って入った飛鳥が、金太郎に強烈なビンタを浴びせたのだ。


「御堂くんって最低ね! 負けたら暴力? 人の痛みがわからないの⁉」

「あ……あす、か……?」


 まさか飛鳥にビンタをされるとは思ってもいなかった金太郎は、信じられないといった表情で頬をおさえている。

 飛鳥が金太郎を責めている様子を、角田は横からニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら眺めていた。


 戸惑っている金太郎をよそに、なにやらクロスレイド盤の上を漁り始めた飛鳥。

 すると飛鳥は、フィールドに置かれていた〈ゴールド・ドラゴン〉のユニットとカードを勝手に奪って、角田に手渡してしまったのだ。


「はい! これはもう正男くんのモノ!」

「わあ! ありがとっすゥ! 飛鳥せェんぱァい!」


 楽しそうに笑いあう角田と飛鳥の姿を、ひとり放心状態で傍観している金太郎。


 いくら賭けていたとはいえ、金太郎が納得いかないのは当然だ。

 誰だって卑怯なやり方で、大事なモノを奪われるのはいやだろう。


「え……? ちょ……ちょっと、待ってくれよ……飛鳥」

「なによっ⁉ 賭けていたんだから、もう正男くんのモノでしょ!」


 飛鳥は冷酷な視線を金太郎に向けながら、吐き捨てるように続きを口にした。


「約束すら守れないの────あなた? ちょっとは正男くんのこと見習ったら?」


 金太郎の中にあったいろいろなモノが、つぎつぎと音をたてて崩壊していく。


「うっ……あっ……あぁああああああぁああああああっ……⁉」


 発狂したかのような奇声を上げる金太郎。

 その視線は宙を彷徨い、どこを見ているかもわからない。

 目には涙を浮かべ、その表情には怒りとも悲しみとも違う失墜しっつい感のようなものが漂っていた。


「なァに? また気持ち悪い声だして……」

「ほっときましョ? 飛鳥先輩!」

「そうね」


 飛鳥が軽蔑のまなざしを金太郎に向けながら言う。


「……ね、御堂くん。試合の結果は、あたしから部長に報告しておいてあげるから。もう用がないなら、さっさと帰れば?」

「……え? あ、飛鳥は……?」

「あたしと正男くんは、あとでいっしょに帰るから。いつまでもここにいられると迷惑なのよ」

「め……迷……惑?」

「わかるでしょう……? 邪魔なのよ。あなたの存在自体!」


 飛鳥は金太郎に冷たく言い放ってから、角田の首に手をまわすと、そのままふたりだけの世界に入ってしまった。



 勝負に負けて、ダブルス大会の出場権も奪われ、飛鳥も奪われ、そして〈ゴールド・ドラゴン〉も────

 一瞬にしてすべてを角田に奪われてしまった金太郎。


 さらに飛鳥の最後に放った言葉が、金太郎を絶望の果てへと追い込んだのだ。

 すべてを失った金太郎は、飛鳥の言葉に従うように、ひとりクロスガレージをあとにした。


 無言で去る金太郎の背中は、とても小さく、とても寂しげに見えた。


◇ ◆ ◇


 数日後──


 すでに龍神ヶ峰(りゅうじんがみね)高校クロスレイド部では、いろいろな噂が広がっていた。


 金太郎が角田に負けたこと。半年後のダブルス大会に出場する代表が『金太郎・飛鳥ペア』から『角田・飛鳥ペア』に変更されたこと。さらには金太郎が負けた腹いせに、角田に暴力を振るおうとしたこと。


 そして──

 飛鳥が正式に角田の彼女となったことは、学校中にまで広まっていた。



 金太郎は、近所の公園のベンチで空を眺めている。

 学校にも行かず、朝から晩まで毎日ここで過ごしていたのだ。

 あの日から、ずっと──。


 金太郎の顔からは、微塵も感情が感じられない。

 生気も感じられない。

 まるで生きた屍のようになっている。


 ぼーっと空だけを眺め、暗くなったら帰る。

 そんな毎日を繰り返していた。



 熱い日差しによって照らされる午後の公園。

 いつものようにベンチに佇む金太郎の前を、ふたりの子供が横切っていく。


「きょうもおまえんちで、くろすれいどやろうぜ!」

「たまには、かねちかんちにしろよ!」


 幼稚園児か、せいぜい小学1年生か2年生くらいだろう。

 なんの悩みもなさそうに無邪気にはしゃぐ幼い子供たちの口から、不意に飛びだしたワード──


──クロスレイド。


 その響きが金太郎の感情を刺激したのか、これまで無表情に空だけ眺めていた金太郎の瞳から、とめどなく涙があふれだしていた。


 金太郎の脳内によみがえる過去の思い出。

 良いことも、悪いことも──


 そのすべてを失った。


 飛鳥とクロスレイド、そして金将〈ゴールド・ドラゴン〉。

 金太郎が幼いころから人生の大半をともにしてきた、かけがえのないものである。

 それらを失うということは、金太郎にとって自分自身を失うのと同じくらい、辛いことだったのだ。


 まるで悪夢のような失墜感が、連鎖的に金太郎に襲いかかる。

 涙は重力に従うように、静かに金太郎の頬を伝って流れおちていた。


◇ ◆ ◇


 やがて陽が沈み、あたりはすっかり夕焼け色に染まってきている。

 空ではカラスも鳴き始めていた。


 カラスの鳴き声を合図に、ゆっくりと立ち上がる金太郎。

 いつも帰る時間の目安にしていたのだ。


 焦点も定まらないままに、無言で歩き始める金太郎の足元は、ふらついていて心もとない。

 その弱々しくなった背中が、何とも言えない哀愁を漂わせていた。



 公園の出入り口へと向かう金太郎。

 遊具やトイレの横を通過し、砂場のあたりを通りかかった、その時だった────



「────ぐはっ⁉」


 突然、金太郎の背中に強烈な衝撃が走る。

 気づいた時には、数メートル先まで吹き飛ばされていた。


 何者かに背中から強く蹴り飛ばされたのだ。



「いっ……てぇなあ! ……誰だよ!?」


 思わず口からでた喧嘩腰の言葉とともに、うしろを振り向く金太郎。

 するとそこには、派手な身なりをした少年がひとり立っていた。



 ──赤い髪をした少年。



 まるでロックミュージシャンのような真っ赤な長めの髪で、顔の右半分を隠している。見えている左側の耳たぶには、大きな十字架のピアスがぶら下がっていた。

 無言で金太郎を見下ろす少年。


 そしてこの赤髪の少年は、吐き捨てるように言葉を口にした。



「──────何をやっている。金太郎?」



 赤髪の少年の眼光が、夕日に照らされ不気味に光る。

 まるで金太郎を知っているかのような口ぶりだ。


「お、おまえは…………⁉」


 そして金太郎もまた知っていたのだ。

 この赤髪の少年のことを──。




「……ま、将角まさかど!」

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