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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
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第二十一話「仕組まれた罠」改済

◇ ◆ ◇


 クロスガレージ店内、対戦用スペースの片隅。

 飛鳥あすかが審判兼証人として同席するなか、金太郎きんたろう角田かくたの試合が開始しようとしていた。


「オレのタァアアアン!」


 まず先行をとったのは角田。

 初手では迷うことはなく、軽快な動きを見せる。


「オレは歩兵モンスター〈おどるアカナメ〉を前進させてターンエンドっすゥ!」


 金太郎も角田に合わせて、スキルは使用せずに歩兵モンスターを1マスだけ動かしてターンを終えた。

 それからしばらく、ふたりともスキルを多用しない展開が続いていた。


 序盤は、お互いに様子の探り合い。

 けん制をしながら、陣形を固めていく作戦である。


 数ターンが経過したあたり──

 金太郎が歩兵モンスターの1体を、角田の領域テリトリーに近づけたことが火種となり、本格的なスキルバトルに突入していく。


「俺は〈居眠いねむりダルメシアン〉を1マス前進させるぜ!」

「へっへェ……。やっと来たっすねェ。さあ、早くターンエンドしてくださいよォ? その歩兵モンスターはオレが貰ってやりますからァ」



 当たり前だが、飛車や角行、桂馬、香車など、1マス以上展開できるユニットはともかく、お互いに1マスずつしか進めないユニット同士であれば、先に近づいたほうが捕られる。これは将棋でも同様である。

 お互いの前面に配置されている歩兵モンスターたちは、基本的に1マスずつしか前進できないため、相手の歩兵とのあいだに1マス空いた状態で停滞することは多い。


 今回も当然そういった箇所が点在していたが、ついに金太郎が角田の歩兵モンスターの目の前に、自分の歩兵モンスター1体を移動させたのだ。

 これで何もしなければ、次の角田のターンで捕られるだけなのだが──



「まだだぜ! 俺は〈エルフの歩兵ほへい〉のスキルを発動! フィールド上にいる自軍の歩兵モンスターから1体を選んで、そのモンスターを1マス前進させることができる! 俺は〈居眠りダルメシアン〉を選択!」


 金太郎はスキルを使用したことによって、けん制しあっていた歩兵モンスターを結果的に2マス前進させた。

 それによって、一気に角田の歩兵モンスターを捕縛するところまで進攻することを可能にしたのだ。


「へえェ……。さすがに、ただでは捕らせないんすねェ」

「当たり前だぜ。俺は〈居眠りダルメシアン〉で、おまえの歩兵〈たいまつをつコボルト〉を捕縛する! そして、そのまま進化召喚だ!」



 クロスレイドでは、スキルを使用したターンに王将モンスターを捕縛することはできないというルールがある。

 だが王将以外のモンスターであれば、好き放題できるというわけでもなく、基本的な捕縛の条件として『1モンスターにつき、1ターンに、1回まで』いう制限があるのだ。


 これは連続捕縛を阻止するためのルールではあるが、あくまで基本ルールのひとつであり、なかには連続捕縛を可能にするスキルも存在していると言われている。

 同時にスキルの可能性を証明するひとつの事例でもあるのだ。



「進化召喚により、俺の〈居眠りダルメシアン〉が〈ダルメシアン・パワード〉へと進化するぜ!」

「ひゃははァ! ショボいっすねェ。捕縛したのは、たかが歩兵1体ィ。そして雑魚モンスターが雑魚モンスターに進化しただけじゃないっすかァ!」

「言ってろよ。ターンエンドだ!」


 金太郎のターンに代わり、角田のターン。

 相変わらず、なにを考えているのかわからない表情が不気味だ。


「それじゃオレのターンっすね! オレは桂馬〈潜伏せんぷくするインプ〉で、あんたの〈ダルメシアン・パワード〉を捕縛するっすゥ! 無駄な進化おつかれさ~ん!」


 だが角田の捕縛宣言に合わせて、金太郎がカウンターのスキルを発動した。


「そうはいくか! この瞬間、俺はカウンターで〈ホースヘッド・ナイト〉のスキルを発動する! フィールド上の自軍モンスターのうち、歩兵・桂馬・香車の中から1体を選んで、そのモンスターを2マス後退させることができる! 俺は〈ダルメシアン・パワード〉を選択するぜ!」


 このカウンターによって、金太郎の〈ダルメシアン・パワード〉が2マス後退したことで、角田の〈潜伏するインプ〉の捕縛から逃れた。


「けッ……! セコいプレイしやがってェ! そんな歩兵の進化モンスター1匹ごとき大事に守って楽しいのかよォオオオ……⁉」

「余計なお世話だ! それよりも……もうやることがないなら、さっさとターンエンドしたらどうだ⁉」


 相変わらず金太郎に対して態度の悪い角田だが、どことなく様子が変わってきている印象を受ける。自分の思いどおりの展開になっていないことが原因なのだろう。


 不満そうな表情でターンエンドする角田。


 その瞬間──

 金太郎の表情に、わずかだが不敵な笑みが浮かんだ。 


「……よし。俺のターンだ! 俺は〈ダルメシアン・パワード〉のスキルを発動! 〈ダルメシアン・パワード〉の前後左右2マスの範囲内にいる自軍のモンスター1体を、同範囲内の好きなマスに転移できる──」


 スキル効果を口頭で説明しながら、手際よくモンスターユニットを展開していく金太郎。

 そして、その眼光が角田を捉えた。


「──さらに! 〈ダルメシアン・パワード〉を相手に献上することで、スキルによる転移後の進化召喚を可能にする!」

「な、なんだとォオオオ……⁉」



 転移後の進化──

 思わず角田が、動揺の声を発した原因がこれだ。


 クロスレイドでは、通常『転移による移動後の進化召喚は不可能』だが、それを可能にするスキルを持つモンスターも存在しているのだ。



「俺は〈ダルメシアン・パワード〉を献上して〈ホースヘッド・ナイト〉を選択する! それによって〈ホースヘッド・ナイト〉が、〈ダルメシアン・パワード〉の2マス前方にいるおまえモンスター──〈潜伏するインプ〉がいるマスへ直接転移──そのまま捕縛するぜ! そして……」

「ぐゥウ……⁉ そ、そんな馬鹿なァ…………!」


 金太郎の〈居眠りダルメシアン〉が角田のスタンバイゾーンへ。角田の〈潜伏するインプ〉が金太郎のスタンバイゾーンへ。それぞれ移動する。


そして金太郎は、角田の領域へと侵入した〈ホースヘッド・ナイト〉のユニットを裏返して配置した。



「──進化召喚する! 現れろ! 〈ホースヘッドナイト・パラディン〉!」



 進化桂馬〈ホースヘッドナイト・パラディン〉。

 金太郎の桂馬モンスター〈ホースヘッド・ナイト〉が進化したランク4のモンスターだ。


 プライドの高い角田にとって、この進化召喚を許してしまったことは、屈辱以外のなにものでもなかった


「ちょ……調子に乗りやがってェエエエエエエ……!」


 先程から金太郎が感じていた角田への違和感。

 それは角田の化けの皮が剥がれてきていることが原因だった。


 これまで角田は、常に優位な立場から他人を操作していた。

 安全圏からの支配。

 その安心感が、角田に余裕をもたらしていたのだ。


 飛鳥あすかの好意を得るため。

 金太郎以外の部員に取り入るため。

 これまで猫を被っていた角田の本性──

 それが金太郎の手によって、徐々にむき出しになっていく。


「クソがァ……! クソがァアアアアアアアアア……⁉」


 これまでの角田は、陰湿極まりない不気味な印象だけだったが、それに加え横柄なイメージが見え隠れしている。


「このまま一気に決着をつけてやるぜ……角田!」



 勢いを味方につけた金太郎が、さらなる攻撃を仕掛けようとした、その時だった。


「──ぐっ⁉」


 突如、金太郎の身体を異変が襲った。

 それを見た角田の顔が、ぐにゃりと醜くゆがむ。


「へ、へへェ……あれェ? どうかしたんすかァ? 御堂みどうせんぱァい」

「ま、まさか……これは……! お、おまえ……の、仕業か……⁉」


 あきらかに金太郎の様子がおかしい。

 おなかを抱えてうずくまっている。


「おなかが痛いんすかァ……? ねえ⁉ トイレ行ってきてもいいんすよォ? 待っててやっからさァ!」

「く、くそ……あのコーラに……なに、か…仕込んだな? ……うか、つだった……ぜ」

「ひゃッはあァアアア! ほらあァ! はやくトイレに行っちまえよォ!」


 凄まじい腹痛が金太郎を襲う。

 その額からは、大量の脂汗が噴き出していた。


「く……そ⁉ ちょっと、待ってろ……!」


 金太郎は、たまらず試合を中断して席を離れる。

 向かったのは、店内のいちばん奥にあるトイレだ。

 

 金太郎がトイレに入るのを確認してから、飛鳥に声をかける角田。


「ねェ。飛鳥せんぱァい……」

「なぁに? 正男まさおくん」

「オレの目ェ、見てごらァん?」

「────っ⁉」

 

 飛鳥の身体が痙攣し、目から徐々に光が失われていく。

 角田は飛鳥の頭を鷲掴みにすると、身体を引き寄せるように近づけ、しばらく見つめ合う。

 飛鳥の腕はだらりとぶら下がり、まるで抵抗する気配はない。


「…………」


 飛鳥が完全に虚ろな目に変わったことを確認すると、鷲掴みにしていた飛鳥の頭を解放する角田。

 だが飛鳥は身動きひとつせず、無表情で角田の前に立っている。


「よォし……! これでもう余計な気を使う必要もなくなったァ……」


 そして角田は、あらためて飛鳥に声をかける。



 ただし──

 今度は、命令口調で呼び捨てた。


「おい──()()()ァ」

「はい」


 なぜか敬語で返事をする飛鳥。

 角田の口もとに、下品な笑みが浮かぶ。


「ほォら。オレ様の隣に座りなさァい」

「はい……正男様」


 角田は、隣に座った飛鳥の肩を撫でながら耳元で囁いた。


「いいかァ……? 教えたとおりにやるんだぞォ……飛鳥ァ」

「かしこまりました」

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