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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
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第十九話「隠された本性」改済

 ◇ ◆ ◇


 クロスガレージ──


 今、金太郎きんたろう飛鳥あすか、そして角田かくたの3人は、クロスガレージに来ている。


 結局、部長の一存で金太郎きんたろうのダブルス大会出場権は無効にされ、その出場権を賭けて金太郎と角田かくたで対決することになってしまったのだ。

 勝ったほうが飛鳥あすかの正式パートナーおよび、半年後のダブルス大会に出場する権利を獲得することができるということになった。


 金太郎からしたら、こんな理不尽な話はないだろう。

 すでに正式な勝負で勝ちとったはずの権利なのだから──。



 事の始まりは角田の提案だった。

 だが、その話を採用した張本人は部長である。

 部長的には、角田の言い分も理解できるから──という理由だ。


 だからといって、今さら全部員を巻き込んで、最初から仕切り直している時間もなければ、一度決定した結果をすべてなかったことにするわけにはいかないのも事実だった。

 そこで金太郎と飛鳥、そして角田の3人でバトルロイヤルをして、代表2名を決定するのはどうだろうかと部長が提案したのだ。


 だが、この話に反発したのは金太郎だけではなかった。

 角田と飛鳥も同様に反発したのだ。


 金太郎の理由はわかる。

 当然だが、せっかく勝ちとった権利を奪われたくないというものだ。


 だが代表の座が欲しいはずの角田も、部長の案には不満をあらわにした。

 それは『飛鳥まで巻き込む必要はない』という、一見もっともらしい理由だった。

 あくまで角田が欲しいのは、金太郎が持つ出場権だと主張したのだ。


 そして──

 もっとも問題になったのは、飛鳥の発言だった。

 角田はともかく、本来であれば飛鳥も金太郎と同様の理由で拒絶するのが普通である。

 だが飛鳥はこの部長の提案に対して、次のような言葉を口にしたのだ。



『それだと御堂くんが代表になっちゃうかもしれじゃない……』



 この発言のあと、場の空気が凍りついたように静まり返ったのは言うまでもない。

 周囲の反応を見て、飛鳥は慌てて言葉を訂正したが、もはやあとの祭りである。

 すでにその場にいた全員が、飛鳥の言葉から想像できる彼女の本心に気づいてしまった。

 

 金太郎を代表から追い出して、角田とペアを組みたい──

 飛鳥の中にそういう下心があるのだと、全員が感じ取ってしまったのだ。


 だが飛鳥の発言の意図は、誰にもわからなかった。

 なにを思って、あのような台詞を口にしたのか。


 3人でふたつの枠を奪いあうバトルロイヤルになったからといって、金太郎が有利になるわけでもなければ、角田が不利になるわけでもない。


 そもそも角田と金太郎がひとつの枠を奪いあった場合だって、金太郎が代表になる可能性は十分にあるのだ。

 なのに、あの台詞は────


 飛鳥がなにかの意図を持って発言したのかどうかは不明だが、それでもあの発言自体が金太郎にショックを与えたのは事実だ。


 角田と飛鳥は、ふたりで金太郎を代表枠から追い出したがっている──


 そう、金太郎が感じて当然の発言だった。

 もちろん、その場にいた部員の多くがそう感じただろう。


 そして同時に、それが金太郎の口から『角田とのタイマン』という言葉を切りだすきっかけとなってしまったのだ。

 プライドの問題もあったが、それ以上に飛鳥の心が自分から離れていく不安、そして角田に対しての怒りが原因だった。


 その後、角田が『大勢の仲間に囲まれていると、プレッシャーで実力が出せない』という理由を口にしたことから、部長が『2人でクロスガレージに行って勝負して来い』と命令をしたのだ。


 だが、そうは言っても審判や証人は必要である。

 そこで部長は、どちらかのパートナーとなることが確定している飛鳥に、その役を与えたのだ。


◇ ◆ ◇


 最初にクロスガレージに入った金太郎が、対戦スペースの一角を確保した。

 うしろからノロノロと並んでついてくる角田と飛鳥。


 金太郎がテーブルにクロスレイド盤を設置して対戦の準備をしていると、背後からふたりの会話が聞こえてきた。


「あっすか先輩ィ~! オレェ~、ジュース買ってきますけどォ、なにが飲みたいっすかァ~?」

「買ってきてくれるの? それじゃ、あたしオレンジジュースがいいな」

「えへへェ……。任せてくださいよォ。ちゃ~んとオレが美味しいオレンジジュースを買ってきてあげるからね~」

「うふふ。ありがと、正男まさおくん。待ってるね」


 わざと大きめの声で喋りながら、金太郎のほうをチラチラ確認している角田。

 その顔には相変わらず不気味な笑みが浮かんでいる。


「紙コップのでいいっすよねェ……?」

「ん? 別にいいけど……あたしできればペットボトルか缶のほうがいいな」

「絶対に紙コップのが美味いっすからァ! ね? オレを信じてごらァん!」


 いちいち気に食わない会話の内容が、金太郎の苛立ちを増幅させていく。

 そして思わず金太郎は、角田に怒鳴りつけながら命令を下してしまった。

 知らない人間が見たら、一見イジメと勘違いされそうな光景である。


「……おい、おまえ! 俺のも買ってこい!」


 その瞬間──

 角田の口もとに、より不気味な笑みが浮かんだ。


「すんませんねェ……。オレェ、手ェふたつしかないんでェ。持てないんすよォ……?」

「片手にふたつ持てばいいだろ! それかポケットにでも入れてこいよ!」

()()()()()()()()っしょオ……?」


 まるで計算していたかのように、つぎつぎと金太郎の発言を否定していく角田。

 無駄に長引く不毛なやりとりに、金太郎の苛立ちは徐々に怒りへと変わっていく。


「ぐっ……! つーか、紙コップにしなけりゃいいだろ!」

「紙コップがいいんすよォ。オレもォ……飛鳥先輩もォ!」

「だったら、俺のヤツだけ缶かペットボトルにして、ポケットに入れてくりゃいいだろ⁉ ああ言ったら、こう言いやがって……!」


 金太郎が怒りにまかせて怒鳴り散らしていると、タイミングを見計らっていたのかのように、急に弱々しい態度に変わる角田。


「……怖いっ……怖いっすゥ!」


 すると今度は飛鳥が割り込んできて、金太郎を責め始めた。


「ちょっと……! 正男くんが可哀想でしょ⁉」

「あ、飛鳥……!? え……? だ……だって、こいつが……」

「それが人にものを頼む態度なの⁉ 最低ね、あなた……」


 あきらかに角田を贔屓しているとしか思えない飛鳥の発言。

 金太郎の立場など考えてすらいない。


 金太郎は飛鳥と仲直りがしたいだけなのだ。

 もちろん関係を悪化させるつもりなど毛頭ない。


 だが金太郎が角田と口論になると、かならず飛鳥は角田の味方につき、金太郎が責められる。

 結果的に角田の言うことを否定すればするほど、飛鳥に嫌われるのだ。

 つまり飛鳥に嫌われたくなければ、角田の言うことをすべて肯定しなければならないという理不尽な立場。

 金太郎は今そういう状況にいる。


「なんだよ……? お、おまえだって、こいつに買いに行かせるんだろ⁉ だったら……俺だけ自分で買いに行けってことかよっ……⁉」


 金太郎は必死に自分の立場を訴える。

 だが──

 やはり飛鳥の心には届かない。


「……だったらいいわよ! あたしが買いに行ってくればいいんでしょ⁉」

「ど、どうしてそうなるんだよ……⁉」


 まったく気持ちが伝わらないことに焦る金太郎。

 その時──

 またもや角田が、金太郎の不安を煽るような行動にでたのだ。


「いや……オレが犠牲になればいいんす……。それだけのことっすゥ……」

「正男くん……」


 まるでメロドラマのような展開が、金太郎の前で繰り広げられる。

 誰がドリンクを買いに行くか──という話から、なぜこんな状況に発展しているのか?


 そのとき放心状態で眺めていた金太郎の脳裏をよぎった違和感。ひとつの予測。


 なぜ飛鳥は、このわざとらしい茶番劇の相手をしているのか?

 角田と悲劇のカップルを演じることに心酔している?


 ──違う。


 おそらく、これが角田の怖さの原因。

 話のすり替え。意識の操作。そして価値観の改ざん。

 これらを巧みに利用し、自分に都合の良い方向へ誘導──支配する。


 金太郎の中の不安が一気に膨らむ。



 もう飛鳥は、()()()()()()()()()になっている。

 つまり──

 金太郎にとって、この場はアウェイな状態。


 角田とのタイマン。

 審判は角田のいいなりと化してしまった飛鳥。

 証人も飛鳥だけ──。


 この時になって初めて金太郎は感じたのだ。

 この対決の先にある結末への不安を──。

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